ぶらり異世界超芸術トマソンの旅~廃都の結末と~
何か異世界物を書きたいと思って設定を練って・・・プロットが練れず頓挫した何か。
長編は無理なら、無理やり短編に・・・と思って書いた結果が何がしたいのか分からない有様に。
投稿テストand習作となります。お目汚し失礼・・・。
ふら~りふらりと、人間の生存圏を離れて草臥れた灰色のコートの襟を立て、鍔広のトラベラーズハットを目深にかぶり、旅の荷を詰めた鞄を背負った旅人が、かつて有った街道の名残、今は雨風に削られ草に侵食された埋もれた石畳をなぞって歩く。
この先に有る物を知る人々がこの姿を認めたなら、誰もが眉をしかめるか、顔を青くして旅人を止めただろう。
しかし、この先に有る物を知る人は、まず旅人が歩くこの場所に近寄りはしない。
そして、人気の無い、見捨てられた場所と言うのは殺し奪いを生業とする凶族の類に取っても旨味の無い場所であり、旅人がこの様な場所に居る事を知る者は、誰も居なかった。
人の手が加えられたのは、如何程の月日の前かは定かでは無いが、1世代どころでは無く、一昔前であろうこの場所に、自然に奪い返されたこの場所に、しかして、獣も鳥も、虫さえも。その気配はまるで無く。
同族同種で無かろうとも、一切の自分以外の生きる物の気配が無いと言うのは不自然で有り違和感で有り、ある種の気配で有り、恐怖を煽るもので有り。
危険で有り。
ザッ、ザッ、ザッ。靴底が、石畳の上に積もった土を踏みしめる音が響く。
否、その音だけしかしない。
何時しか旅人は生きる物の気配の無い街道跡抜け、灰色の巨大な都市へ辿り着いていた。
外から何かしらの強い力を加えられ、ひしゃげ砕け散らばった門と城壁を乗り越えて、所々は散々に崩れ落ち、形は保てども朽ちる寸前の建物が並ぶ石造りの街並みをゆっくり眺めながら歩いて行く。
『廃都ヨテリ』数百年も昔に栄え、一夜にして滅びたと言われる城塞都市。天災説、戦争説、疫病説、様々な説が唱えられるが、滅びた原因は未だ謎のまま。
その真偽を確かめるためにここへ訪れる者は誰もおらず、その真相が解き明かされる事は無いだろうと言われている。
何故なら、この都跡はどんな命知らずであろうと、どれだけお金を積まれようとも、決して近づこうとは思わない、触れてはならぬ場所。魔所であると言われているからだ。
そう、凶族は愚か、魔物・・・狂える殺戮者と呼ばれる者達でさえ近づかないこの場所を、無防備に歩く旅人は、命知らずなどと呼べるほどの者では無い。自殺志願者か、或いは既に死者か・・・
朽ちた門から真っ直ぐに伸びる、大通りの跡を行く彼の人の背後に、ソッと。しかし、通りを埋め尽くすように、ソレ等は旅人の背後を、何の気配も無く、薄ぼんやりと、しかし押し寄せる様に・・・。
そして、旅人が大通りから視界が開ける、都市の中心に十字に走る大通りの交差点に有る、広場に足を踏み入れた時、何処から現れたのか、広場には埋め尽くすほどの、日の光がそこだけ届かない様に仄暗く、人の形をした影達が、無い筈の双眸を旅人に向けて佇んでおり、ハッとした旅人が、慌てて来た道を振り返れば、そこは既に影達に埋め尽くされ、何処にも逃げ場など無いのだと、余りにも遅すぎる理解をする。
『ゴースト』 不死者の一種と数えられるが、ゾンビやスケルトン、レブナントやブラッドサッカー等々とは根本的に違う存在とされ、物理的な脅威は一切存在せず、害意も基本的には存在せず、多少悪意が有っても生者に影響を与えられる力は無に近く、基本的に危険視はされないのだが、数が集まると、生者への影響力は無視できない者となり、その気・・・怨念に中てられた者を死に誘うとされる。
そう、廃都はそのゴーストの都であり、この都市の総人口で有ったとされる50万人(規模から推測、実際は不明)程の怨念が渦巻くこの地は、あらゆる生命の存在を許さない、まさしく魔所であり、そんな中へのこのこ足を踏み入れた生者、旅人は群がる様に集まったゴースト達の怨念を、その身一つで浴びる事になり・・・
================== Now Loading ==================
『いや~、驚かせてしまった様で申し訳ありません。』
「いえいえ、余所者を警戒したりするのは普通の事ですし、慣れてますんでお気になさらず。」
『出来れば、外から来た人は暖かく迎えて、お互い気分良く接したい所なんですがねぇ。』
「まぁ、しょうがないですなぁ。旅の恥は掻き捨てと勘違いしてるヤツが、ちょっと騒ぎを起こしたらさっさと旅に出てしまえば逃れられると好き勝手する様なケースが、無い訳じゃないですからねぇ。」
『そんな気分の悪くなる話はこれまでにして、製錬都市ヨテリへようこそ旅人さん。』
「やぁ、どうもどうも、お邪魔します。」
少し夕闇が近づいて来た仄暗い廃都で、大勢のゴーストに囲まれて、旅人は久方ぶりの客人だと歓迎されていた。正直、ゴーストと化した人々は、人の形をした影・・・程度の見た目故に、大きさの違いと声以外で見分けが付かないので、旅人は話しながら話しかけてる人を探していた。
『さて、旅人さんはどの様な用件でこの街に?』
広場に集まってたゴーストの一体、背は高く何か横幅も広そうな影が手を広げるような仕草をしたのでこの人(?)が話しかけてるっぽいと、そちらに向き直りつつ。
「いや、端的に言ってしまえば観光です。ただ、自分で言うのも何ですが、見たい物は変わってるんですけどね。」
『ほう、観光。今の都市だと廃墟ツアーと言ったところですかね。が、貴方の目的はそう言うのとは違うのですかね?変わった物が見たい・・・と?』
「ええ、廃墟は廃墟で見たいんですけどね。主目的は別で、【無意味】や【謎】な物が見たいんですね。」
そう言うと、旅人は両手の人差し指と親指を伸ばしてL字を作り、組んで四角い覗き窓ど作るとそれを通して朽ちた街を軽く眺めます。
『おや?もしかして旅人さんは、画家さんですか?』
「えぇ、風俗画を少々。と、言っても、職と言うよりは趣味ですが。」
『なるほど。良い被写体を求めての旅と言ったところですか。羨ましいと思ってしまうのは隣の芝生でしょうかね。』
「ははは、何の責任も持たずにふらふらしてるようなものですからね。実際、極楽とんぼかも知れません。」
凶族や魔物、攻撃的な野生動物や時には自然が牙を剥く、人が慣らした生存圏を出て旅をするのは、決して楽な事では無いけれど。それでも気楽だと、旅人は笑います。
『さて、すっかり引き留めてしまいましたが、じきに日が沈みます。旅人さんは食事や寝床の宛はおありですかな?』
「ああ、食料は来る途中、街道沿いの森で人面樹さんから果物頂きまして。何か、根元に死体が埋まってて木を介して色々出来るとか。」
そう言って旅人は何か『ほぎゃぁぁぁぁ!』と悲鳴を上げる真っ赤な木の実を取り出しました。毒は無いそうです。
それを聞いて、周囲のゴースト達の一人が声を上げました。
『おぉ!それはもしかして猟師のトマスじゃねぇか?アイツだけずっと行方不明だったんだが、そうか、森に居たのかよ。』
『嬉しい報せだね。ニーナに知らせてやんなよ。240年ぶりに親子の再開できそうだね。』
人面樹さんはこの街の住人だった様です。
『食料は大丈夫、となれば次は寝床だが。どうだい旅人さん?良い報せを持って来てくれた礼だ、俺の工房の屋根を借りねぇかい?ほぼ朽ちずに建物が残ってるぜ?』
『ああ、ゼドル爺さんの工房か。確かにあそこは何処も崩れずに残ってたね。鉄火場だからって設計から気合入れて建てたって自慢してたからねぇ。』
「ああ、それはありがたいお誘いです。是非お願いします。」
こうして夜の帳降りる前に、旅人は広場から西門に向かう大通りに有ると言う、鍛冶師ゼドルさんの工房へ今晩のお宿を借りるためにお邪魔する事になりました。今日は移動して住人と話をしたら日が落ちてしまったので、早く寝て明日から街を探索しようと、
『よっしゃ!!久しぶりの客人と、トマスの無事を祝して、今夜は無礼講と行くぜぇぇ!!』
『『『『うぉぉぉぉぉぉっ!!』』』』
寝かせて貰えない様です。
エアジョッキでエアエールを楽しそうに呑むゴースト達はあっという間に酔っぱらいました。楽しければそれで良いんでしょうか。後、叫ぶ木の実は普通に美味しかったです。柑橘系。
「おはようございます。」
『おはようございます。申し訳ありませんね、眠れなかったでしょう?』
「いやぁ、割と金縛りとラップ音響く中で寝るのは慣れてますので、グッスリでした。」
『ははは、動じない方ですね。さて、本日は観光でしたか?何か、無意味で謎な物を見たいとか・・・?』
朝日が灰色の街に差し込ん来る中、日の光に当たって溶ける様に消えて行くゴースト達を横目に見ながら、旅人は昨日の縦横にデカイゴーストさんと朝の挨拶をします。
「はいはい、具体的に言うとですね、街中に有る、用途不明な建築物とか、由来の分からない物が見たいんですね。何の為に有るの?なんだこれ?みたいな感じの。」
『ふむ・・・それは、例えば金持ちが趣味で建てた、本人や関係者以外立ち入りを禁止してる建物とか?』
「やー、そう言うのとは少し違いまして。そうですね、例えば二階建ての建物の、二階部分に何故か外へ出る為の扉が付いてるとか、城壁に、上まで届いて無い中途半端な階段が付いてるとか。」
投稿写真とかで偶に見られる、街の風景に溶け込んでる謎みたいなヤツです。
『んん・・・そう言うのは私には思い当たりませんね。他の者に心当たりが無いか聞いて見ましょうか?』
「いや、尋ねてみるのも一つの楽しみです。街をふらつきながら、その時その時でお話しを聞いて見ますよ。」
『なるほど、そうおっしゃるのでしたら余計な事は致しません。どうぞ、良い一日を。』
さぁ、ゴーストタウンで不思議発見。特に宛も無く廃墟の街を歩きだします。すると直ぐに第一街人発見。薄暗い路地裏を飛び回る小さな影が!
『タッ君待ってよ~!』
『なんだよ、レヴィは相変わらずのろまだな。』
『そんな事言ったって、最近やっと憑依出来る様になったばかりなのに・・・』
『240年も経つのにやっととか言ってるからのろまなんだよ。』
『うぅぅ・・・』
子供が遊んでるらしいです。壁に取り憑いて壁面内を高速移動しては飛び出し、反対側の壁にまた取り憑くとか言う変態軌道で遊んでる様です。怖い。見なかったことにして次に行きましょう。
『あ、昨日の旅人さんだ。』
『何!?マジだ!行くぞレヴィ!捕まえるぞ!』
『えっ?何で?!』
『逃げようとしてるからだ!』
「君は肉食獣か何かかい?」
捕獲されました。子供ゴーストが背中でトーテムポールしてます。
『で、何してんだお前。』
『ちょ・・・ダメだよタッ君、初対面の人にそんな失礼な。』
「あー、ええよええよ。子供は元気が一番だからねぇ。んで、自分は街の中を見て回ってるんだよ。」
『あぁ?なんでそんな事してんだ?』
「知らない場所を探検するのは楽しいじゃん?」
『あんた、思ったよりガキなんだな。』
『タッ君!!』
「あははは、いやいや、自分でもそう思うよ。悪い見本ですなぁ。」
その日暮らしの風来坊。まともとは言えないなと旅人は思いました。そのまま少し、子供たちと遊んで街の面白い場所を教えて貰いました。二人と別れて早速向かいます。
『おや、旅の人、こんなところに何様で?』
「こんにちは。ここの用水路の蓋が、何故か孤児院の建物にめり込んで開かなくなってるって聞きましてね。どんなもんかと見物に。」
『はぁ?いや、随分と変な事に興味を持たれる人だね。』
「ははは、こう言う、どうしてこうなったんだろう?って想像を膨らませてくれる、ちょっとした違和感を見るのが好きでしてね。」
『変わり者だね。ま、ゆっくり見て行きな。』
と言う訳で、表面を綺麗に磨いた木の板と、細長い芯を抜いた木炭を取り出して、孤児院にめり込んだ用水路の蓋の風景をサッサッとスケッチして行きます。横からそれを覗いていたゴーストさんは、
『ほほぉ・・・上手いもんだねぇ。俺なんか文字ですら汚いってヨメさんにバカにされるんだが。』
「まぁ、こういうのは描いた線の多さが物を言う・・・と言いますかね。どんな作業でも、こなれると何だか職人技に見えるようなもんじゃないですかね。」
『そんなもんかねぇ。』
「そんなもんですよ。まぁ、本物の手に職を持ってる人には叱られるかも知れませんが。」
そう言って笑った後、ゴーストさんから奥さんに尻に敷かれてる事に関して散々愚痴を聞かされ、別れ際にまた別の面白そうな場所を教えてもらい、街を巡ります。そんなこんなで街の人と語り合い、おかしな物を見つけたらスケッチして、日が暮れ始めたら工房へ帰り、朝になればまた街を巡る。
旅人はおよそ1週間かけて都市の歩ける範囲を全て周り、多くのゴースト達と言葉を交わしました。
そして旅人は、最後に今日までに描き上げた6枚のスケッチを並べて見比べながら、難しい顔をしています。
「良く分からない建築が24ヵ所。街の人は誰も何時からそうなのか、何の為にそうなのかを知らない。これぞミステリー。」
満足気に頷くと、旅支度を始めます。
そして、朽ちた門の前まで見送りに来てくれたゴースト達に別れを告げながら、来た時とは別の国へ続く街道跡を歩いて行きます。
こちらの街道もやはり何の生き物の気配も無い、とても寂しい場所でしたが、廃都が見えなくなった頃、旅人はふと立ち止まりました。
「あの人達、たぶん自分たちが死んでるって理解出来てないっぽいねぇ。死んだ瞬間を誰も知らないっぽい。日常の延長で、ふと、瞬きをする間に、生と死が入れ替わったような。」
「そうですか。だとすると、あれだけの規模の都市一つの住人丸ごと、死体すら残らず一瞬で・・・と。」
「だろうねぇ・・・。街中色々見て回ったけど、骨とか血痕とか、そう言うの一切無かったからねぇ。ゴーストにそう言うのを処理は出来ないだろうし。」
「と、なると、間違い無く外法の類が係ってるでしょうねぇ・・・。はぁ・・・タダでさえ、死んだ自覚の無い霊体は送るのが面倒だと言うのに・・・。」
「ははは~、外法の種類を特定しないと、霊体を地縛から解けないもんねぇ。」
「クッ、他人事だと思って・・・。」
「自分の仕事は調査までだからねぇ。まぁ、頑張ってちょ。あ、これ多分、外法のヒントになるよ。魔法陣が描けるように細工された建物があちこちに。」
誰も居ない場所で、誰かと親し気に会話する旅人は、街で描いた24枚のスケッチを地面に落とします。
すると、地面から24本の青白い手が土をかき分けて持ち上がり、24枚の板を地面に引きずり込んでいきます。
「ふんふんふん・・・なるほど、年代と陣がわかれば特定容易です。感謝します、トゥルダグ。」
そう言うと、地面からまた青白い手が土をかき分けて持ち上がり、地面に袋を置いて引っ込みました。
旅人はその袋を持ち上げ、中身を確認すると。
「毎度あり。またのご利用お待ちしてますよ、クリシュナさん。」
ひらひらと手を振って、袋を懐にしまうと何事も無かったかの様に歩き出します。
さて、仕事は終わったし次はホントに無意味で無駄な良く分からない物を探しに行こう。路銀は有るし最近、成長著しいと噂の交易都市なんか良いかもしれない。あ、でもあの近くカタコンベ有ったな。また呼ばれなきゃいいけど。
そんな事を考えながら、旅人は歩いて行きます。
旅人が立ち去ってから数ヶ月後、廃都から無数の光が空に昇って行ったとか、冥界の神の使途が廃都近くの国に降臨して宮廷魔術師が連れ去られたとか、そんな噂が流れたが、特に旅人の耳に入る事は無かった。