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幼馴染のその笑顔

作者: ひーさん



私、一宮いちのみや 春はるには幼馴染がいる。


それも幼稚園の頃からの腐れ縁。

相川あいかわ 悠太ゆうた。

互いの母の仲が良くて家も直ぐそこ。

歳も同じで、当然、近くの公園で遊んでいたところから仲良くなった。


小学に入学した。

以前迄は公園で出逢ったときに遊ぶ程度だったけど、小学には入ったときの唯一の知り合いだった訳で、よく遊ぶ様になった。低学年の頃は、私が泣いているときは優しくギュってしてくれた。


中学になった頃。

悠太は170センチに届くかという程に背が伸び、顔も男らしくなった。

学校でもかなりのイケメンと評判だ。

そんな中学二年生の頃の、休日のとある一日、悠太は何時ものごとく、私の家に来てご飯を食べている。

お互いの両親は土日の日中は仕事に出ていて、昼ご飯を作れない。

其処で、ほぼ毎日お母さんの家事を手伝っている私は料理も出来るわけで、其れにお母さんは料理人で、私も将来は料理人志望。

お母さん曰く、


「今迄は、私が作り置きしてたけど、料理人志望なら自分で作りなさい。食べてくれる人が居ると、参考になるから、丁度いいし奏多君にも作ってあげなさい。」


との事で、中一の頃から土日は、悠太が家に昼飯、日によっては晩飯を食べに来る。

悠太の家のお母さんは面倒臭がりで、平日も休日も夜飯を食べに来たりする。



「おかわり!やっぱ春の飯は美味しいね!!」


「美味いだけじゃわからないんだけど。具体的に言ってくれないと参考にならないよ。」


「分かったよ。炒飯はこのパラパラな感じとか、お店の見たいだし、スープもしつこくなくて良い!もう、お嫁に欲しいくらいだよ。」


「えっ!・・・ばっ!バカ!おおお、お嫁って!」


最後の言葉にピクッと反応してしまい、顔を真っ赤にしながら反応してしまう。


「ハハハハ。冗談冗談。でもこの炒飯マジで美味しいね!」


悠太はいつもこうだ。

この屈託の無い笑顔。

私は何時も、悠太に振り回される。

認めたくないけど、気づいてる。

私は悠太が好きだ。

其れも、小学三、四年生の頃から数年間。

生意気で、ヤンチャで、悪戯もされたりする。

でも、格好良くて、素直に褒めてくれて、偶に優しくて、極め付けはこの純粋な笑顔。

この笑顔を向けられてしまうと、何時も、何だって許してしまう。

あぁ、好きだ。

悠太が大好き。


「えっ。まじ!?」


しまった。

声に出てた。


「ど、どの辺から声に出てた?」


「あぁ、好きだ。から。てか何言ってんの、無理無理、春は女兄妹見たいなもんだよ。冗談言ったからって、そのキモい冗談はないわぁー。」


しかも振られた。

馬鹿なの?本当に馬鹿なの?私。

しかも、告白に対しての返答がキモいだと?

なんの計画もなしに声に出してしまうとか。

あぁ、しかも女兄弟って。

その辺の女子よりも圏外じゃないか。

ぐっばい、私の初恋。

そして、悠太は何も気にして無い様子で、炒飯をかきこんで、「おかわり!」なんて言っている。

なんて一瞬。

さらに相手の心に風一つ吹かせることもままならない。

なんと虚しいことだ。

私は胸の痛みと涙腺が緩むのを必死に堪えて、「だよねー・・。」と気にしない風な様子を装って炒飯のおかわりをお皿に盛り、その場から逃げ出して、自室のベッドに飛び込む。


「あーあ。そっかー・・。私、ダメだったのかぁー・・・。」


途端、涙が溢れる。

布団を握る拳に力が入る。

リビングで炒飯を食べている悠太に勘付かれないように声を押し殺そうとするが、漏れ出る嗚咽の音が、春の感情を如実に表す。


「うっ・・うぅっ・・。う・・ああっ。あああああ!悠太ぁ・・悠太ぁあ!」




一年の時が経った。

相変わらず、悠太は気にした様子もなく、私の家にご飯を食べに来る。

こっちの気も知らないで。

でも、変化があった。

悠太の野郎に彼女が出来た。

二年生の後輩らしくて、凄く可愛くて、私とは全然違うタイプの子だった。

受験生なのに、何を考えているんだと思う。

これはただの嫉妬でしかないのは、わかっているんだけど。

だから、せめてもの反抗として、


「明日から、もうご飯作ってあげないから。」


「ええっ!?なんでよ!」


「彼女につくってもらいなよ。出来たんでしょ?」


「そんなの気にしなくてもいいのに。」


「私が悠太の彼女に恨まれるでしょ。私が困る。」


「彼女そんなこと気にしないって。」


「兎に角、もう作らないから。」


悠太の顔は絶望一色だ。

してやったり。

失恋の恨みは深いのだよ。

私があの日、どれだけ泣いたかもわかってないくせにのこのこと食いにきやがって。

今迄は作らない理由がなくて、胸が痛んでも、我慢して作っていたけど、彼女が出来たならと皮肉ながらに解放された。

其れからと言うもの、私は悠太の事を忘れようと避けるようにした。

土日には、悠太が家に押し掛けてくるが、帰れと押し返した。


「ま、まじで作ってくれねぇのかよ…。」


私はズキンッと痛む胸を抑えながらも、頭を振り、其れを消す。

お母さんに悠太のお母さんから伝わったのか、「悠太君になんでお昼作ってあげないの。」と問いただされた。

私の想いはお母さんにバレているので、正直に事の顛末を話した。

すると、「辛かったね。」と其れだけいって、きつく抱き締めてくれた。

胸にググッと色々込み上げて来て、ぶわっと盛大に泣いた。

その間も何も言わずに抱き締めながら背中や頭を撫でてくれた。

一頻り泣いた後、私は、もう悠太の事は忘れると決意して、悠太と同じの近所の高校でなく、三駅離れた少し遠い高校を志望校に変えた。

其れを、担任に話すと、曰く、


「頑張れ、お前の成績なら行けないことはない。」


との事で、私は受験勉強も理由にして、話し掛けてくる悠太をあしらい、避ける。

放課後や休日はたまに息抜きで、友達と遊んだり、後の大半は図書館で勉強して過ごした。


夏休み。

図書館にいつもの如く、勉強道具の入ったカバンを持っていつもの一角の机に座る。

担任曰く、もう安心だ、この実力なら落とさなければ、確実に合格圏だそうなので、最近は以前のように気を張り詰めて、夜中までみっちりやることもなく、一日に二、三時間程度に留めている。

ふと、一区切りついて、シャーペンを置き、周りを見渡すと斜め奥に、悠太がいた。

なっ、なんで。

あぁ、偶然か、まぁ流石に悠太でも受験生だしな、偶には図書館でも勉強するか。

そういう事にして、今日は勉強を終えて帰宅した。

然し、次の日も、その次の日も、図書館で勉強する悠太がいる。

その顔はだるそうに勉強している訳ではなく、真剣そのものだ。

焦っているようにも見える。

だ、大丈夫なのかな悠太、近所の高校って底辺なのに、そんなに勉強やばいのかな。

教えて、、いやいや、私はもう悠太の事は忘れるんだ、何の為に勉強してると思っているんだ。

胸がチクッと痛む。

其れを振り切り、春は自分の勉強に専念した。


帰り道。

今日の夕飯は何にしようかな、何て考えながら歩みを進める。

突然、肩を掴まれた。

薄暗くなる時間帯だったので、変質者の類かと思い、驚きながらも、身構えながら振り向くと、其奴は、悠太だった。


「・・・な、なに。」


「・・・いや、春、お前、志望校、地元じゃ無いって。・・・なんでだよ。」


「・・いや、何でって、悠太には関係ないじゃん。そんな事より、焦ってるみたいだけど、塾行ったほうがいいんじゃないの?」


「・・・あ、あぁ・・。」


そう言って、早足で帰路に着く。

何なんだ、悠太は。

もう悠太とは、ほとんど話していない。

私から避けているのだから当然だ。

其れにしても、どうして悠太が私の事なんかきにするんだ。

どうでもいいか。

地元の高校に手こずるようじゃあ何方にしろ関係ないし。


十一月。そろそろ秋も終わりに近づき、冬を迎える。そして二学期も終盤、私は担任からもっと上の学校も全然いけると太鼓判を押される位に学力が伸びていた。

このままキープすれば、殆ど三駅離れの学校ではトップレベルだと。

でも、私の家は一般家庭で高い交通量はキツかったのもあるし、何より私自身、長時間の通学は嫌だったので遠慮しますと言っておいた。

そして私の友人、茜あかねも私と同じような口で、でも秀才型ではなくて、天才型。

ただ、上昇志向がなくて、勉強そこそこ、あとは遊び中心と言った感じ。

それでも地域の模試では一位なんだからびっくりというもの。

閑話休題。

休日、私は親友であるその茜と遊び、少し休憩しようと、私のお気に入りの喫茶店で、休憩していた。


「良いでしょ、ここの喫茶店。」


「うん。いいね、ここ。コーヒーだけじゃなくて、紅茶とか、抹茶とか、すっごい色々種類があってびっくりした。」


「うんうん、私のオススメは、デザートだけど、この、抹茶パフェ。他の店の抹茶パフェとは格が違うの。」


「へぇー。じゃあそれにしようかなぁ。料理人志望の春のオススメは侮れないからね。」


「私はもう一つの、オススメの、抹茶カステラ頼むから、割り勘して2人で食べない?」


「いいね、それ、乗った。」


「飲み物はどうする?」


「そこは春に任せる。」


「茜が好きそうなのは・・・これかなー。これで。」


店員に声を掛けて注文する。

因みに頼んだのは、アメリカンコーヒー。

抹茶とか紅茶が充実しているのに何故アメリカンコーヒーなのか。

と思うかも知れないが、春もびっくりするほど酸味がなくてスッキリしたコーヒーだった。

スイーツと食べるには最適だと思ってこれをチョイス。


「へぇー。確かに、これは美味しいや。」


「でしょ。」


お互いにスイーツを食べては感想を言い合う。

そう、私達が仲が良くなった共通の話題は、食だ。

一応茜はケーキが好きで、わたしが料理人を目指していることに感化されて、パティシエになりたいと思っているらしい。

まぁそれはさておき。


「・・・私達余裕だよねー。あと四ヶ月もすれば入試だってのに、遊んでて。」


「・・・まぁ、良いでしょ。茜は上昇志向ないし、私はちょっと頑張りすぎて疲れちゃったよ。」


「そだねー。私は、地元の高校は流石にやばいから隣町のとこにしたけど、別に賢くなりたいわけでもないしねー。パティシエに学力はあんまり必要ないし。留学するにしても外国語だけできれば良いし、私、既に何ヶ国後かいけるし。まぁ、楽しいのが一番だよー。春ももっと気楽にね。」


「うん。そうするね。ありがと。」


気があう友達といると、やはり癒される。

ここ最近、悠太の事と、受験勉強で、気が立っていて、落ち着くこともなかったと思い出した。

茜と一緒の学校で良かったな。

なんてしみじみと思った。







そして来たる、受験日。

流石にラストスパートである一月前からは受験生らしく毎日数時間みっちり勉強した。

担任からも、なんの心配もないと太鼓判を押してもらい、お母さんも、気楽にね。あんたなら大丈夫だから。と言ってくれた。

待ち合わせの五分前、駅について待っていた。

ふと周りを見渡す。

其処には、いるはずの無い人物が駅のホームに向かって歩いていた。

悠太だ。

何で?何がどうなってるの?

彼奴、地元の高校じゃ無かったの?

茜もついて、その事を話す。


「ええっ!それはびっくりだね。でも他の高校かもよ?遠くにはべつに隣町の所よりもレベル低めな学校なんていくらでもあるし。」


「あぁ!そういうことか・・。驚いて損した。」


「はは・・。」


そして駅のホームを過ぎて、電車を待つ。

悠太も同じ方面の電車の様だ。

うわ、毎日電車で顔見ることになるじゃん。

いや、遠い所であれば、少し早い時間に電車にのるか。

電車にのり三駅目、私と茜は降車する。

同時に、悠太も降車した。


「「えっ。まじ?」」


私と茜の声がハモる。

ここの駅には高校は一つしか無い。

そして公立高校の受験日は一斉であるから、もう、悠太は同じ高校を受けるという事がほぼ確定した。

なんてことだ。

唖然とする私に、茜も苦笑する。


「ま、まぁ気を取り直して、春、受験はちゃんとしなきゃね。落ちたりなんかしたら許さないから。」


「そ、そだね、はは、う、うん。」


私の気持ちは複雑だ。

悠太から離れることが出来ると思っていたのに同じ高校で、何で、と。

でも不思議と嫌な気はしなかった。

そんな事を思っていた私に、悠太が近寄ってきて、


「よ、久しぶり、頑張ろうな。」


「え、あぁ、うん。」


突然声をかけられてびっくりした。

心臓が跳ねる。

なんだって言うんだ。

高校に行ったって彼女作って私の想いなんてどうせ届かないって分かってるのに。

まだ、私の心はあいつに反応する。


受験する教室は奴とは違って、茜とは一緒だった。

心底ホッとした。

寒かったけど、茜が、


「頑張ろうね。」


と言って、ギュって手を握られて、落ち着いた。


「うん。頑張ろう。」


試験は絶好調だった。

茜も良い感じだったと言っていた。

チラッと見えた悠太は青い顔をしていて、あぁ、と悟った。

家に帰ってから自己採点をするも、間違えた所は思い当たらない。

満足しながら合格発表の日。

もう一度高校に赴き、自分の受験番号を照らし合わせながら探す。

あった!何度か交互に見て、間違いは無いか、大丈夫か、と確認する。

合格だ。

隣の茜も受かった様で、両手の平を上げてハイタッチを求めてくる。


「やったね!」


「うん!!」


喜びを踏みしめながら、上機嫌で帰路に着いた。







そして来たる入学式。

桜が満開し、風が吹き乱れ、花弁を辺りに散らし、新入生を歓迎する。

茜とクラス分けを見ながら、同じクラスだった事に歓喜し、互いに喜び合った。

然し、悠太の名前を発見し、受かった事に驚かされたが、他クラス出会った事に安堵する。


悠太の奴はこの高校でもイケメンで有名になった。

本当に他クラスで良かったよ。

私と茜は中学の頃は帰宅部だったので、一緒に何処か部活に入る事にした。


「うーん・・やっぱ、料理部かなー。」


「いや、でも見た感じ、お遊びって感じで、本気の私達には合わないと思うよ。」


「そっかー・・・。」


「あ、これとかどう?ブラスバンド部。食事には音楽は付き物だし、ちょっとくらい知ってても良いと思うし、雰囲気も気楽にやれそう。」


「いいね。乗った。」


画して、私達はブラスバンド部へ。

なんと、新入生は私達だけで、三年生は受験で辞めていって二年生が三人いるだけだった。

二年生の三人はトランペット、トロンボーン、アルトサックスで、リズムと低音が居なかったのでとても歓迎された。

私はベースを始める事になって、茜はドラムだ。

なんでも先輩方が残していった楽器があるそうで、借りる事ができた。

fenderって言う、一番ベースで有名ないい楽器だそうで、最初からこれ使えるなんて幸せ者だよーと言われた。


最初の頃は、全然上手く弾けなかったんだけど、お父さんが昔、ベースをやっていたらしくて、教えて貰えた事で、文化祭の数週間前には、ある程度簡単なものは弾ける様になった。

茜の方も、顧問の先生がドラムをやってたそうである程度エイトビートと簡単なフィルインをマスターしていす


「よし、文化祭に向けて、リハ増やして行きますから、本番を意識しましょう!」


部長さんの掛け声で士気が高まる。

そろそろ文化祭で発表だ。

部長さんが、本番は好きな衣装を用意してねー、と言っていたので、今日は茜と衣装探しに来ていた。


「あ、それいいね。」


「茜もそれ良いじゃん。」


「でしょ。」


衣装も決めて、本番に臨む。

因みに、私が買ったのは白のワンピースに淡めのブラウンのジャケット、それとハット。

いや、それ衣装と言うか、ただの私服じゃない。

と思うでしょうけど、我らがブラバン部はjazzバンドなので。

落ち着いた格好であれば問題無いそうだ。

さすがにタキシードはちょっと。

ってことだったのでそういう事にした。

閑話休題。

私達の出番は一番目だ。

落ち着いたものから始めるのが良いだろう。

との事で、jazzバンドであるブラバン部が、雰囲気を出してからどんどん盛り上げて行くと決まったそうな。


本番。ステージに立つ。

部長のいつもの落ち着いたACで、部員も私も落ち着きを取り戻し、演奏に集中できた。

演奏が終了した後、かなり、良い反応が貰えて、大いに喜んだ。

高校生だからJAZZでも行けるのであろう。

中学だとjazzバンドなんかしても皆んな頭にハテナマークなんでは無いであろうか。


「よぉ!春!久し振りだな。」


悠太が話しかけてきた。


「な、何?」


有名人の悠太が話しかけてくるから周囲の注目が春達に向く。

まぁ当人らは気づいてない様であるが。


「何って、そう。話があるから、ちょっと来て。」


「は、話って、突然なに。」


「いいから。」


そう言って、悠太は私のてを掴んで引っ張っていく。

不覚にも悠太の手に心臓が跳ねる。

春は自分を誤魔化す様にかぶりをふる。


今は、文化部が発表しているので、ほぼ全生徒が体育館に集まっているため、露天と一部の教室以外にひとは居なく、中庭には誰もいない。

何の用だ。

私は身構える。


「ま、まずはいきなりごめん。で、でも、これは言わなくちゃとおもって。あの、さっきの発表みて。」


な、なにそれ。

私の演奏がひどかったって笑うためにこんなことをしたのか。


「良いよ、私の演奏がひどかったことなんて分かりきってるわよ。そんなこと言うために、連れ出して。何でそんな嫌がらせ・・。」


「ちっ、違う違う!かっこ良かったって思ったから!」


「へっ?」


「うん、かっこ良かった。春の服も似合ってて、可愛くて・・・。」


「かっかかっかわいいいい!?!


なっ!なななっ!?なに言ってるの悠太。

私の心臓の鼓動が早まる。

対する悠太も顔が紅潮している。

どっ、どういう事!?

春は少し思考が止まりかけている。


「俺さ、元々は地元校志望だったんだ。でも春が違う学校だって、母さんから聞いた時、すっごい胸が苦しくなったんだ。元々その時に春とも疎遠になってて、ほとんど話す事もなくなってて、毎日が楽しくなかった。彼女といても、全然楽しくなくて、すぐに別れた。それで俺、気付いたんだ、春がいないと楽しく無いって。それで俺、春を追っかけてこの学校に来たんだ。」


「な、何、何それ・・っ!!」


私は顔が涙でぐしゃぐしゃになった。

嬉しいのに、私は悠太が大好きな気持ちは変わってなくて嬉しいのに涙が止まらない。

訳が分からなくなって、その場から走り出す。

体育館にいるであろう茜に助けを求めて体育館に走り出す。

茜なら私を正気に戻してくれるんじゃ無いかと思って涙でぐしゃぐしゃの顔を見られる事も気にせずに、全速で走る。


「ま、まって!春!!はるーー!!!」


対する悠太も真剣に追いかける。

周囲の人は泣きながら走る女生徒に、名前を呼びながら追い掛ける男子生徒に唖然としながらも興味のある視線を向ける。

やがて体育館に差し掛かる。

見つけた!茜だ!茜!


「ううっ。茜ーー!」


春は茜に飛び込む。


「ど、どどどうしたの!?」


茜は壮絶な様子の春に驚き、後ろの悠太を見て悟る。


「おい、早川悠太、私の春に何をした。」


茜は、ぞっとする様な冷徹な目で悠太をみる。


「俺はっ、春に伝えたい事をつたえようとしただけだ!春の事が好きだって。」


「へっ?」


茜の胸の春が、この場の雰囲気に似合わない素っ頓狂な声を上げる。


「な、何を言ってるの、悠太、だって悠太は、私の事なんて、嫌いで!どうでも良くて!あの時だって!私の事振ったじゃない!」


「ご、ごめん。あの時は、春の事、そんな風に見てなかった。でも春がいなくなると思ったら目の前が真っ暗になって、でも、春を追っかけて頑張れた。ギリギリだったけど、此処にも合格できた。」


何言ってるの、馬鹿じゃないの。


「でも、俺、この学校じゃ、底辺の中の底辺だし、そんなんじゃ、ダメだと思って認められる様に頑張った。毎日必死に勉強して中間程度の成績は取れる様になってきて、それでも頑張って。春に追いつきたいから。またあの頃みたいに、いや、それ以上に対等になりたくて。」


何を。


「うっ・・・うぅ。ばかぁ。」


「でもさっきの演奏みて、春の事が好きな気持ちを抑えきれなくなって、好きだって伝えたくなった。春。俺は、春が好きです。付き合ってもらえませんか。」


何を言ってるの。


「ぅっ。ばっばがばがはがー。ぞんなの、良いに決まってるじゃんかー!!」


涙が溢れて、まともに会話もままならない。


「本当に?俺で良いの?こんな中途半端な俺で。」


「だっで、前のままの悠太でも大好きだったんだよ。こんなに私のために頑張ってくれるなんて。」


もうひどい顔であろう。いや、もともと私達には、ロマンティックな告白なんて合わない。こーゆー告白があってる。泥臭くて、正直で、真っ直ぐで。こんなのがあってる。いや、こんなのが良いんだ。


「本当に?付き合ってくれるの?」


何を言ってるの、そんなのーーーー


「良いに決まってるじゃない!!!!」


春満面の笑みでそう答えた。

茜はやっとか、とでも思ってそうに溜息を吐く、

悠太は感極まってバッと春を抱き締める。

春はびっくりしながらも悠太の背中に手を這わせた。


ーー瞬間、ワッと歓声が起きる。


ああっ!ここ体育館だった!

全国生徒からの歓声。

「リア充爆発しやがれー」なんて古い台詞から、「おめでとうー!」と祝ってくれる声も聞こえる。

そして大きな拍手。

丁度舞台にはどの部活も発表していなかったらしく邪魔はしていなかった様だ。

其処には安堵するが、学校一有名な、全生徒公認カップルとなると頭が痛くなる。

でも、悠太は、


「春は!一宮 春は俺のだからな!誰にもわたさねぇかんなーーー!」


なんて叫び出す。

半分ブーイング、半分歓声でまたまた騒然となる。


頑な私でもそろそろ、私も実感する。


あぁ、そうかーーーーー



ーーーーー私、悠太とーーまた、




ーーーあの、何時もが楽しかった、あの時はみたいに、



ーーー私が料理を作ってあげると見せてくれる悠太のあの笑顔。



ーーー大好きなあの笑顔を、また、あの笑顔が、見れるんだ。


想いが溢れて、抑えきれなくなって、爆発する。


ーーーー「悠太ーーーー!!!!」


私は叫ぶ。


ーーーーー「私、悠太が大好き!!!」


悠太もあの頃の、あの笑顔で、


ーーーー「あぁ、俺も好きだ!春!」


ーーーーー「私!!!悠太のその笑顔が大好き!!」

幼馴染って絶対何処かで、ぶつかっちゃいますよね。

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