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LOST MOMENT  作者: 梟の尻尾
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夢の続き

夢というものは続きを見れないわけじゃないと聞く。

 でも、これはそんなものじゃない。

 もしも夢の続きなら夢の中の住人である僕は驚くことなく、今朝恵美に起こされる前まで取っていた行動の続きをしていたことだろう。

 それはすなわちチャムに伸ばしていた手を伸ばしきり触れて真実を確認すること。

 だけどいま僕はそうはしなかった。

 今の状況に驚いてしまったことが何よりの証拠だ。

 つまりこれは夢じゃなく現実。

 正確には現実の世界とは異なるのかもしれないけど間違いなくここも現実(いま)なのだろう。

 どういう理由で何をきっかけにここに迷い込んだのかはわからない。

 寝るとこうなるのか。

 それとも何かの催眠状態に陥っているのか。

 いずれにせよどうにかして現実世界に戻らなければならない。

 そのためにもまずは行動しなければ始まらないだろう。

 それにしても何で僕はさっきまでここでのことを気にもしていなかったんだろうか。

 覚えていないというよりかは記憶になかったかのような自然な感じ。

 もしかしたらこっちでの記憶は、現実の世界では共有出来ないのかもしれない。

 こちらの世界での行動がどれだけ現実の世界に影響するのか分からない上に、僕自身が覚えていられないとなると、目の前にいるチャムのことは気になるが触れないほうがいいのだろう。

 ここが現実である可能性が高くなってしまった以上、触れることで受け入れがたい事実も認識しなくてはならなくなることだし。

 半分混乱状態にある僕にとってそれはあまりにも辛く耐え難い。最悪このあと動けなくなってしまうことにもなりかねない。

 認めたくない現実に目を背けることで理性を保ち僕はその場から離れた。

 二階にある自分の部屋。

 調べてみるならまずはそこからだろうと階段を上がる。

 相変わらず不気味なほど何も音が聞こえてこない。

 階段を上がりきると自分の部屋も含めて全部のドアが閉まっている。

 全員がいるのかどうかはわからない。

 開けて確認すればいいのだろうけどチャムのこともあるので怖くてそれもできない。

 映画やドラマなんかだと怪しいところを躊躇なく開けるけど、そんなの普通出来るわけがない。

 何が飛び出して来るかもわからないところを開けるなんて無理だ。

 無理なのだが・・・肝心の僕の部屋も閉まっている。

 思えば恵美に起こされる前に部屋を出てきっちり閉めてから一階に下りたんだっけ。

 後悔先に立たずとはまさにこのことだ。

 開けるかどうか迷いに迷う。

 開けなければ中には入れないし開けた瞬間に何かが起こるかもしれない。

 そんな問答を十数回繰り返してようやく決意が固まった。

 ドアノブを静かに握り、この上ないほどゆっくりと廻していく。

 これ以上廻らないところまでいくとドアは何の音もたてずに僕を導くようにして開いた。

 最初に顔を半分ほど覗かせて中の様子を確認する。

 動くものの気配はない。

 冷たい空気だけが外に溢れ出してくる。

 心を決めて中に入るとそこは紛れもない僕の部屋だった。

 今朝確認した時計は今も変わらず十二時十八分を指している。

 ベッドの上の布団も朝抜け出したままの状態だしクローゼットの中の服やら本なんかもいつもと何ら変わりはない。

 なにもかもがいつも通りにそこにある。

 唯一違う点としてやはり音が聞こえない。

 時計も止まっているため秒針の動く音もしなければ外で鳥たちが鳴く声も聞こえない。

 道路には車すら走っていない状態だからエンジン音なんかも聞こえてはこない。

 完全な孤立無縁状態。というわけではないらしく、外には人影が見える。

 ただ、かなり距離があるためその人たちがどういった状態なのかはわからない。言えることはその人たちが動いていないように見えるということくらいだろうか。

 外に出てみないと今の事態を把握することは難しそうに感じ始めた頃、新しい違和感も同時に覚え始めていた。

 停電のために使えなくなったと思っていた電気機器だけど、よく見てみれば電池で稼働しているリモコンのデジタル表示も消えている。

 部屋にあるデジタル腕時計はもちろん携帯出来るタイプの音楽プレーヤーも動作しない。

 どうやらデジタル機器は全て動かない上に表示すら消えているようだ。

 腕時計といえば不思議なものを見つけた。

 もともと時計好きだった僕の部屋には様々な時計がある。壁掛けや置時計、腕時計なんかはソーラータイプに電波タイプ、手動巻きからカメラ付までラインナップは豊富に揃えてある。

 だけど、アナログタイプの時計に限ってだが、なぜか全て同じ時間で止まってしまっている。

 秒針が付いているものは秒針まで寸分の狂いもなくピッタリと同じところで止まっているのだ。

 十二時十八分六秒。

 この時間に何かがあったんだろうか。

 仮にこの世界が現実だとしてさっきまでの日常風景が夢だとするとどうだろうか。

僕は昨夜眠る瞬間に奇妙な静けさに包まれていくのを覚えている。

 あの時何かが起こって目が覚めたら世界が一変していた。

 デジタル機器がその機能を完全停止させアナログ時計は同じ時間で止まっている。

 もしかしたら強力な電磁波に世界中が包まれたとか?

 いや、そんなことになれば世界中がパニックに陥って大騒ぎになっていることだろう。

 こんな無音の世界なんてことにはならないはずだ。

 だったら、ここはいったい———————どこなんだ。

 夢にしては現実感がありすぎるし現実にしては嘘みたいな世界。

 いくら考えてみても理解の範疇を超えている問題の答えは出てきそうにない。

疑問は多々あるけど、これ以上部屋の中だけを探してみても何も目新しいものは発見出来そうにもない。

 こうなったら思い切って外を歩いてみようかと考え階下へと下りていく。

 リズムよく下りていく足とは裏腹に音は聞こえない。

 起きた時からずっと何の音も聞こえないけど、もしかしたら僕の耳は聞こえなくなってしまっているのだろうか。

 誰かに確認したくても肝心のその誰かがいない。

 音もなく玄関まで辿り着き一度生唾を飲み込んで心を落ち着かせる。

 出来る限りゆっくりと玄関のドアを押し開けていく。

 次第に外の光景が目に入ってきた。

 曇り空のように灰色がかった空のせいか暗いとまではいかないものの明るいというわけではない。

 周りの景色は見た感じ何ら変わりのないように思える。

レンガ造りが特徴的な藍那の家。

整ったうちの庭。

蝶番(ちょうつがい)が壊れているらしく開きっぱなしの勝手口が備え付けられた向かいの家。

 見える範囲がドアの開きに合わせて広がっていき、ようやくのこと全部開き終わり完全に視界が広がった時だった。

 ズシンと重い痛みが側頭部に走った。

 痛みに頭を押さえるも二度、三度と繰り返し衝撃に襲われ意識が昏倒していく。


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