77 奴はカムラ 11
おかげさまで本日未明、本作「異世界に転生したら村八分にされた」が100万PVを達成する事が出来ました!
これもひとえに全裸読者のみなさまのおかげです。ありがとうございます、ありがとうございます!!
もぬけの殻となった助祭さまの部屋を、俺たちは家宅捜索した。
してみると、彼女のクロゼットの中から、よそ行きの衣類一式と旅荷がごっそりと無くなっているではないか。
『しばらく姿を隠します、わたしは女神様のご意思に従ったまでで、無実です』
そう書かれた置手紙の通り、村から失踪したらしい。
改めて筆跡鑑定もした。
司祭さまにお願いして彼女が過去に書いた書類などを引っ張り出してきて、俺たちも素人ながら見比べたところこれはほぼ疑いようも無く、彼女の文字だったのである。
「間違いなく助祭の文字ですね……」
「なるほど、やはり助祭は犯人の一味あるいは共犯者という事で確定だの」
司祭さまと女村長が並べた文字を見比べてそう結論を出した。
完全に気落ちしてしまった司祭さまは「女神様に仕える身分でありながら、何と大それたことを仕出かしたのだ」とぶつぶつ呟いていた。
「しかし逃げたとなると、どこに逃げたのだろうかの。ッワクワクゴロ、何かわかるか?」
「猟犬を使って追いかけてみますかい?」
「そういう方法もあるのか。無駄にならないのならやってみる手もあるな」
「まあ何にしても俺の弟たちが今、村の中で聞き込みをやってます。旅装束の助祭さまが逃亡を図ったのを見かけた人間もいるかもしれねえ」
主不在の居室で、女村長とッワクワクゴロさんがそんな話をしているのを俺は耳にした。
クロゼットの中身だが、ラックにかけられている服がごっそり一部無くなっている様な感じだ。
季節は夏もまっさかりなので、外見さえ気にしなければどんな服でもいいだろう。
それに旅人が雨避けや寝袋替わりに好んで使うポンチョが無い。
俺は何度もクロゼットの中と部屋のあちこちを見比べながら首をひねっていた。
部屋の中はそういう意味では割合と雑然とした印象だった。
「司祭さま。彼女は普段から片づけ上手というか、綺麗好きだったという事はありますかねえ?」
「綺麗好きですか? 確かに助祭はいつも仕事机や部屋を整理整頓していた様な気がしましたが、それが何か?」
「いや、ちょっとですね」
クロゼットから適当に抜き出した荷物を寝台の上に広げた。
その後に必要な旅荷をズタ袋の中にでも押し込んで、逃走したという流れだろう。
「彼女、部屋を見た限りだとだいぶ焦って逃げ出したみたいですね。普段から整理整頓を心がけているというひとが、こんなふうに内履きを脱ぎ散らすわけがない」
俺がスリッパのようなものを片方ひょいと持ち上げながら言った。
寝台の下には、本来ならば丁寧に並べられていたであろう靴の類も、あわてた事がわかる様に乱れている。
旅人に愛用されるブーツの類はみんな綺麗に残っているので、編上げ紐の無い靴を履いたのだろうか。
「うむ。すると何か証拠になる様な書類なども、引き続き家探しをしているうちに出てくるやもしれぬな」
「ついでに司祭さまに、診療所の医療道具も確認してもらいましょう。カプセルポーションの注入器具の出どころがこの教会堂なら、ひとつ無くなっているはずですからね」
妙に感心した顔の女村長にうなづいておいて、俺は司祭さまを見やった。
もはや覚悟を決めたという顔をした司祭さまも黙って俺に従い、カサンドラが眠っている診療所にあらためて向かう事になる。
調べてみると、
「やはり、診療所の注入器具を持ち出していたらしいです……」
あるはずの場所に注入器具が無かったのである。
器具を普段納めておく箱だけが残っていて、中身はからっぽである。
◆
このファンタジー世界において、科学捜査や鑑識作業なんてものは存在していない。
そうなれば犯人特定は本人の証言と状況証拠だけで行われる事になるのだ。
元いた世界の様に裁判があり科学検証やあらゆる証言と動機を検証していく犯罪捜査の様にはいくわけにはいかない。
だから今の状況を整理したところで、村の幹部たちは助祭さまこそがおっさんにポーションを譲渡した人間だと確信を持っただろう。
そう思っていた人間のひとり、司祭さまはげっそりした顔で助祭さまの動機が解らずに思案しているみたいだった。
「しかし後は彼女がどうしてこんな事に及んだかですな。わ、わたしにはそのあたりがわかりません」
「女村長さまの領地開拓を快く思わないのでそうした、とか。そういう風には考えられませんかねえ?」
「まさか、彼女は騎士修道会の序列でも聖堂会の階位でも、ずっと下の身分ですよ。そういう事を考える立場にあるとは、とても思いません」
女村長と幹部たちが村で助祭さまの目撃情報を聞きつけて飛び出して行った後。
残った俺は司祭さまと診療所の診察室で向き合っていた。
司祭さまは女村長や騎士修道会の連中たち権力者のパワーゲームが背景にあるとは、考えていない様だ。
「つまり彼女が騎士修道会だか聖堂会だかの内密な指示を受けて司祭さま、あなたも知らないうちに秘密の工作をしていたなんて事は想像できないという事ですか?」
「ああ騎士修道会については間違いなくありえないと思います……」
「へえ、その根拠というのは?」
「単純にこの辺境一帯は領主たちの仲が悪いことが有名ですから、われわれ騎士修道会と、その下で運営されているブルカ聖堂会は中立の立場を旨としています」
それなのに彼女は、村長さまの領地経営に介入してしまった事になります。
ますますしおれた司祭さまはそんな風に言って丸帽子を取ると、白髪交じりの禿頭をつるりとなでまわした。
「なるほど。なるほどなあ」
そうすると助祭さまは個人的に、何かの理由でおっさんを支援する行動に出たことになる。
場合によっては建設現場の殺人や、放火についても。
そこで俺はふと思い出したことがあった。
「司祭さまは、騎士修道会の雁木マリという修道騎士をご存知ですよねえ」
「今日も村長さまのお話に出て来た、聖堂会に処女降誕したという聖少女ガンギマリーさまでしょうか?」
「そうです、そいつです」
「ええもちろん。ご拝顔した事はありませんが、彼女は女神様の使徒として降誕したともっぱらの噂がある偉大なお方ですから騎士修道会の人間、聖堂会の人間ならば知らないはずがありませんよ」
「あいつが女神様の使徒? 埼玉生まれの女子高生がやけにデカい扱いだ」
全裸メガネでブルカの聖堂に爆誕した雁木マリを連想して俺は苦笑した。
「騎士さまは、彼女と面識があるのですか?」
「ああ、街に出かけていた時に知己を得ましてね」
「それはすばらしい」
「雁木マリは、たぶんもうすぐここに来ますよ。もともと俺が開拓を手伝ってくれとあいつの話していたのでね」
「なんと!」
「それよりも彼女、魔法を器用に使っていたと思うのですよ」
ダンジョンに潜った時は発光の魔法や、ファイアボールを使っている姿を何度か見た。
血の滲むような訓練も何度もしていたという話も、苦々しげに俺に語っていたものである。
「ええ。簡単な魔法であれば、修道騎士となったものは攻撃魔法から癒しの魔法まで、一連の教育を受けるはずです」
「ファイアボールもですか?」
「火の魔法もですか。もちろん、使える人間は使えると思います……」
「じゃあ助祭さまはたぶん、建設現場で殺人を犯して、付け火をして回る事も可能という事だな」
「……確かに」
「おっさんとふたりで協力して、これをやった可能性はあるな」
俺は頭の中を整理した。
硫黄の粉末を火の回りをよくするためにおっさんが散布して、それを火の魔法で燃やし尽くす。
破壊されたいくつかの建物は、明らかに複数人でやった様にも見えたが、これもファイアボールかなにかをぶち込んだのなら難しくはないだろう。
ご丁寧に潰されていた井戸は、たぶんこれが原因だ。
「それなら、殺されたふたりの見張りゴブリンも、おっさんと助祭さまのふたりなら、これは可能という事になる」
「しかし殺害の手口は、剣の腕が確かな人間がどちらもやったんでしたね」
「そうですね。ひとりは袈裟懸けにバッサリと、これは助祭さまが修道騎士として腕が良かったのなら、わりと簡単でしょう」
「認めたくはないですが、彼女は剣術の筋もかなりよかった」
「もうひとりの殺害は腹にひと刺しと、頸根の血脈を切断だ。これは例えばおっさんが腹にひと刺しし、助祭さまが首の血管を斬ったというのなら、まあできるんじゃないか」
おっさんも鍛冶職人として自分たちが鍛えた剣の試し切りをしていたはずだ。
しかしあいつの雰囲気から闘争心という様なオーラが漂っていたところを、俺は感じたことが無い。
すっとその事が俺の中で疑問に残っていたのだが、素人でも出来る突きの一撃をおっさんがやったというのなら理解はできるのだ。
捜剣の技術も必要だが、何より頸根を断ち切るという大胆さというか容赦のない一撃は、ひとを殺したことのある人間にしか出来ない様な気がするのだ。
「ちなみに司祭さまはひとを殺したことがありますか?」
「わたしですか?!」
「もちろん公務での事です。あんたもむかし騎士修道会で修道騎士だった事があるんでしょ?」
「ありますが、その頃ならば強盗を……」
雁木マリは以前言っていたはずだ。
修道騎士ともなればモンスターに限らず、盗賊の類を討伐するために駆り出される事もあると。
騎士修道会出身というのならば司祭さまでもそうなのだから、助祭さまがひとを殺す経験があっても多分間違いない。
「助祭さまも当然、ありますよね」
「詳しい経歴は知らないですが、あると思います。騎士修道会とはそういう組織ですから」
後はおっさん、助祭さまをどういう風に結びつけたか、だな。
おっさんの姉さんのなんとかサンドラの事についても調べれば、これで何か見えそうな気がする。
うん、後少しだ。
俺が伸びをして立ち上がったところで、治療室に続くドアがちょうど開いた。
「シューターさんお話が……」
妻カサンドラが、俺たちの方を見て立っていたのだった。




