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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第11章 明るい宮廷工作
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420 カラメルネーゼさんの新しい職場を見学します

「……ドロシアさんの嫁がれた先は、辺境の最果てにある寂れた寒村と聞いておりましたけれども。こうして見ると、随分と立派な一大拠点ではありませんこと」


 湖畔の丘陵に築かれた城館には湖から水路が引き込まれていて、そこには船着き場がある。

 はじめてこの土地を訪れたカラメルネーゼさんは、その船着き場の見える石組みの監視塔から眼下を見下ろしながらそんな感想を口にしたのだ。


「元々はカラメルネーゼさんが仰る通り、周辺が広大な森に囲まれた何もない開拓村に過ぎませんでした。こうして多くの移民が集まって湖畔にお城が築かれたのは、ここ一年の出来事なんです」

「広大な大自然が広がっているというのは、それだけ将来にわたって開拓の余地があるという事ですもの。素晴らしいことではありませんか! そうしてこの土地はアレクサンドロシアグラードと命名されたそうですわね。辺境におけるドロシアさんの権勢を示すに相応しい街の景観ですわ」


 王都中央への密行を終えて領内へと帰還した蛸足麗人である。

 はじめて見るその景観をゆっくりと見渡した後に、大正義カサンドラとそんなやり取りをしていた。


 冬場であっても舟艇を使って細々と領邦の南部と交通は続けられていて、今しも行商人がスルーヌかサルワタから船着き場に到着したところだった。

 見ればそれとは別の便が、近頃安全の確保されたシャブリン修道院方面に向けて川を下って補給物資を届けるべく出航しようとしている。


 本格的に川が氷に閉ざされてしまうのは、新年を迎えた頃合いだそうだ。

 それまでのほんのわずかの期間も無駄にしないために、こうして一日に何便も城内の船着き場から舟艇が出入りしている。

 グラードの街からサルワタの開拓村に至る街道だけは、比較的往来が活発なために道の除雪が徹底されている。けれどその先クワズやスルーヌに至る道は、やはり除雪作業に人員を割く余裕が無かったらしい。


「ゴルゴライまでは降雪もさほどではありませんでしたわ。オコネイルさんのご領地辺りまで行けば別でしょうけれど、ゴルゴライからブルカに至る街道一帯の平原は、それほど深く積もらない様子ですから」


 凍り付いた石畳に足を取られない様にと、器用に触手でバランスを取りながら階段を降りる蛸足麗人。

 それを追いかけて俺とカサンドラも手を取り合ってゆっくりと続いた。


 蛸足麗人はゴルゴライの街道口に広がる平原地帯は降雪量もさほどではないと言ったけれど、それはサルワタ基準の考え方だろう。

 冬の初めに俺たちがギムルを視察する際に出かけた時は、大きな森の外縁周辺を移動したせいもあってか十分に雪が積もっていた。

 それに比べれば辺境の最果てにあるサルワタ周辺など、それに倍する雪が積もるのだからまあ「さほどでもない」という感想が出るわけだが、


「それでもほんの少し前まで滞在していた王都は、雪ひとつチラついておりませんでしたもの」

「まあ、王都という場所はどの様なところなのでしょうか?」


 先に階段を降りたカラメルネーゼさんが、振り返って触手を動かした。

 降りてくるカサンドラの手を取って手助けだ。仲睦まじい義姉妹の姿に思わず俺もニッコリである。


「そうですわね。あそこにはわたくしの実家の奴隷商会が本館を出しているのですけれども、あそこで大量の雪が積もったという話を聞いたのは、ここ何年に一度あるかないかではないかしら?」


 平野部に位置する王都オルヴィアンヌは年間を通して天候は比較的安定しているらしい。

 周辺のいくつかの丘陵に王家ゆかりの宮殿や砦が存在して、王都の市壁と連携できる防衛網を構築しているそうだ。

 夏場はサルワタほど蒸し暑い事にもならず、冬も吹雪が荒れる様なマイナス気温の場所にもならず。

 そうした安定した気候がある一大穀倉地帯にオルヴィアンヌ王国の中心地が築かれたのだそうだ。


「建国された後、いくつかの大きな川を繋ぐ運河が作られたのですけれども。それによって以前は平野部で悩まされていた洪水も治まって麦やトウモロコシの収穫量も格段に大きくなったのですわ。それがまた辺境方面に向けて開拓を進める遠因となったそうですもの」

「すると今のサルワタ領邦があるのも、むかしの王様が治水事業に力を入れたおかげだな」

「そういう事ですわシューターさま」


 白い吐息を漏らしながら俺とカサンドラの顔を交互に見比べて、ニッコリと笑って見せたカラメルネーゼさんだ。

 待機していたクレメンスが一歩前に出て「こちらだす」と言葉を添えながら貴人に対する礼をした。

 ようやく旅の疲れを癒した蛸足麗人を連れて、ちょっとした用事のついでにこれからグラードの城下を案内するところなのだ。


「そのう。書物には王都十万の人口を抱えると書かれていたのですが、それは本当ですか?」

「確かに市壁に囲まれた内外の総人口を合わせれば、それぐらいになるかもしれませんわ。辺境とは違ってどの家も石造りやレンガの邸宅が立ち並んでいて、国王に忠誠を誓った諸侯の貴族屋敷もございます。国王の御座所である宮廷の大きさは、きっとこの湖城の数倍にはなるんじゃないでしょうかねえ」

「それはすごいですね、シューターさん」


 城門に向けて歩きながら語って聞かせるカラメルネーゼさんに、辺境以外外の世界を知らないカサンドラは興奮気味だった。

 こんな反応をする大正義奥さんを見るのも珍しいので、思わずクスリと笑ってしまう俺たちである。


 本日の当直警備についていたアルフレッドと短いやり取りをした後に、城門を出てッヨイ広場へと至った。

 どうやら新参の奥さんのひとりになった彼女も、さっそく警備責任者の一角を担っているらしいね。

 ニンジャみたいな特技を持っているから、ある意味で警備なんてお手の物かも知れない。


「んだども。それだけたくさんの人間がいるという事は、街の外にある畑で採れた収穫物だけでは住民を養えないんじゃないだすか? このグラードだってサルワタやクワズから、足りない分の食料を運び込んでいるだ」

「クレメンスさんの仰るのはごもっともですわね。実際に王都はあらゆるものの一大消費地になってりますから、市場だけで街の中に七つもあるんです」

「シューターさん。市場と言うと、近頃のグラードやゴルゴライの広場でやっている様な朝市の事でしょうか?」

「たぶん築地や錦の市場みたいにそれの何倍も大きな常設のバザールじゃないだろうかね。そいつが七つもあるんだから、王都という場所も伊達じゃないな」

「?」


 俺は元いた世界のいくつか有名な想像して語ったが、奥さんたちには何の事やらサッパリだったらしい。

 頭上にハテナマークを浮かべたカサンドラは「女神様のおわす市場は凄いんですね」などと、わかった様なわからない様な曖昧な反応をしていた。


 ッヨイ広場を通り過ぎて、いくつかの通りを散策して回り。

 そうして向かう先は商工会議所である。

 グラード城下にはカレキーおばさんの肝いりで出店した両替商の他に、あらゆる商いの大小さまざまな商館が立ち並びつつある。

 それらを統括するギルド的な存在としてミノタウロス通り沿いに造られた建物が、アレクサンドロシアグラード商工会議所だった。


「まあ、立派な建物ですこと」


 ここはカラメルネーゼさんの新しい職場になになる予定の場所だ。

 スペースは十分にあるので、彼女が好きに使ってよい場所として領主奥さんから言い渡されていた。

 三階建てはグラード城下ではひときわ大きな作りだが、商工会議所としてはまだほとんど機能していない。


「中はほとんどがらんどうのままだけどね。ひとまず最低限の使用人を入れて、一階に事務用品に家財道具を運び込んだところだよ」

「家財道具はどなたが選ばれたのかしら?」


 サルワタや近郊の村々にも家具職人はいるけれど、そちらは難民や移民の受け入れのために寝台作りで手が回っていない。

 そこをいくと開拓の村々よりも文化的な生活を送っているミノタウロスの家具は贅沢品ばかりで、お貴族さまご出身の蛸足麗人も満足するんじゃないかと思ったわけだ。


「俺とカサンドラが、ミノ式家具から見繕った感じだね。気に入らなかったらすまん」

「仕事に必要な最低限だけあれば十分ですわ。わたくしに与えられた部屋はどちらになりますこと?」

「こっちだす。カラメルネーゼさまの執務室と、仮眠などを取るためのプライベートルームが隣り合わせにあるだども、私室の方はまだ荷物置き場になっていたはずだすな」

「それは後で落ち着いてからで十分ですわね」


 商工会議所の入口で丁稚に挨拶をしながら中へ入ると、そのまま受付スペースを無視して奥のルームへと進んだ。

 木のタンスや藤編みの家具、精巧な野牛紋様の彫刻が施された本棚やデスクなどをざっと見まわした後に、応接セットの前にやって来る。


「おーっほっほっほ! この執務室でサルワタ領邦の経済を動かすのが、わたくしというわけですね」

「しばらくはブルカとの戦争や王都との政治駆け引きが忙しいだろうけれど、落ち着けばそういう事になるかな。モエキーさんや他の役人たちと連携して、よろしく頼むよ」

「もちろんお任せ下さいましな。年が明ければすぐにも王都へ引き返すことになりそうですけれども、それまでの時間も無駄にはしませんわよ!」


 頼もしい蛸足麗人のお言葉だ。

 ゴブリンの使用人がティーセットを運んでくると、カサンドラとクレメンスがそれを淹れてくれる。

 カラメルネーゼさんも手伝おうとしたけれど、そこは任務を終えたばかりなのだからとカサンドラが制止した。


 ひと息入れて王都の土産話などを四人でしているところに、マイサンドラを筆頭として続々と他の奥さんたちが商工会議所を訪れてきたのだった。


「旦那がここに来ていると聞いたので来たのだけれど、テールオン妃の暗殺する算段は詳細が煮詰まったのかしら?」


 奥さんたちの顔ぶれは女魔法使いとケイシータチバックさん、それにアップルスター卿とモエキーおねえさんである。

 最後にとても嫌そうな顔をしたニシカさんと男装の麗人が顔を出した。これで全員だ。


「暗殺任務に関わるのはマイサンドラたちのチームだろ。どうしてオレ様まで呼び出しを喰らわなくちゃならないんだよ!」

「しかしニシカさん。あなたは密偵任務の実績に定評がありますので、自分の推薦で指導役になっていただく様に意見具申したのです」


 最後に入って来たニシカさんと男装の麗人は、執務室の入口で小声の押し問答をやっていた。


「お前ぇが旦那に余計な事を吹き込んだのかっ」

「嫌ならニシカさんが王都への密偵任務に参加なさりますか?」

「いやいい。俺は戦争がない時ぐらいはゆっくりしてぇ。代わりにお前さんが行くか?」

「いいえ、自分もご主人さまにご奉仕するという崇高な任務がありますので、ご遠慮願います」

「チッ。ぬけぬけと言いやがるぜ……」


 呆れた顔をしたマイサンドラが、振り返って早く入って来なさいとふたりをどやしつけた。

 何事も順番を大切にする奥さんたちの序列から考えれば、マイサンドラは下位になる。

 けれど彼女はニシカさんの師匠だし、もともとカサンドラの近親だというのでベローチュも強くは出ないから、家族の序列があべこべだ。


 そんな序列のあべこべを大正義カサンドラが咎めるかと思えば、そうではない。

 何やら蛸足麗人やクレメンスで語り合っているじゃないか。


「何だかようやく家族のもとに戻って来た様な気持ちですわ」

「マイサンドラ姉さんは、シューターさんやニシカさんを相手でもきっちりと意見を口にできる方ですからね。今では大切な家族です」

「おほほ、日常がようやく実感できますわぁ」

「だどもこれから話し合うのは、お妃さまの暗殺計画だす。殺伐としているだす」


 ようやく全員が応接セットに着席したり周りに集まったのを見届けて、俺はひとつ咳ばらいをしながら口を開くのだ。

 コホン……


「それではこれから、テールオン妃の暗殺計画に関するお話合いをしようと思います。ひとまずこの商工会議所は受付と事務所しか使っていない。他のスペースを使って近接戦闘の訓練と、実際の暗殺任務の計画の詳細を詰めたいと思う」


 近接戦闘の訓練はさておいて。

 ひとまず奥さんたちは楽にして、忌憚のない意見を聞かせてもらおうかな?

CQB、CQB訓練です!

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