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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第10章 冬籠りの辺境生活
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閑話 ペルソナ・ノン・グラータ 敵中

 ホモンクスの街はポーントール川に浮かぶ中州が発展した都市だそうです。

 かつて辺境開拓の黎明期に、本土から川伝いに進出する事が可能なこの場所に拠点が置かれ、肥沃なブルカ南部平定に乗り出したわけですわ。

 今でもその名残は城壁に囲まれた中州の街並みに見る事ができました。

 辺境征服の歴史を示す様に城壁は増築を繰り返して多層的に積み上がっていて、その一部は蛮族たちとの戦闘で崩れたであろう石組みもありましたわ。


「現在のホモンクスは人口も増えて、対岸に下町が広がっています。しかし今でも船便でこの街に乗り入れる際は、必ず中州側に入港する決まりになっているのです。市壁は対岸まで手が回っていない状態で、近頃は野盗の存在も見過ごせませんからね」


 なるほど、そう説明して下さったパーバンさんの言葉通り、わたくしたちを乗せた交通船は大きな灯台の側をするすると移動しながら、中州街の船着き場へと近づいていきます。


「宿のご予定などは決まっておいでですか」

「いいえ、以前に宿を求めた事のある場所を利用しようかとも思っておりましたけれど」

「そうですか。であればお節介かもしれませんが、自分の知っている宿をいくつかご紹介しようかと」

「まあ、そうしていただけるのであればお言葉に甘えて……」


 大きく揺れる交通船が桟橋に接岸しようとした頃、パーバンさんは親切を装ってそんな言葉を口にしたのです。

 内心では側に控えていたハーナディン卿と顔を見合わせたい気分になっておりましたけれど、そんな事はおくびにも出さずにニッコリとその申し出を聞いておきますわ。

 パーバンさんの意図はともかくとして、好意的に接してくる相手の好意を袖にして、やっかいな相手に豹変したらたまりませんし。

 第一、ホモンクスを離れてしまえばこの黄色マントの男との接点もこれで終わり。


 それにしても、やや足取りが定まっていないのはどういう事ですの?

 渡し板をかけられて、パーバンさんを先頭に陸地へ足を踏み入れたところ、途中で彼がフラリと体を揺らしたではありませんか。


「おっと失礼。長く座り過ぎていたせいか、足が痺れてしまって……」

「おほほほ、お気を付けなさいましな」


 チラリとハーナディンさんを見やりますと、どうやら犯人は彼の様でしたわね。

 ポンポンと背負った旅荷をさりげなく叩いて見せたその態度から、交通船で振舞ったぶどう酒の中に、何かのポーションを垂らしたのかも知れません。


「何を仕込んでおりましたの?」

「自白ポーションの原材料に使う液を少々。精神が不安定になる類のモノです、たいした害はないかわりにソワソワするんですよ。コップの中にあらかじめ垂らしておきました」

「まあ、気の利いた事をなさりますわね」

「僕としてはてっきりカラメルネーゼ夫人が、暗にその種のご命令をなさったのだと理解していましたけどね」


 酒に酔わせて少しでも警戒心を解いておこうとは思いましたけれど、わたくしはそこまで悪人じゃありませんわ!

 小声でそんな風に抗議したところ「どうだかな」とベルベボロンさんが笑って見せるではありませんか!


「お勧めの宿屋は、通りに出て三つ目の角を曲がったところにある場所です。あそこは大きな厩を持っているのと、立派な個室も完備しております。それ以外だと、反対に行ったところに守備隊の詰め所にある宿屋が数件。そこならば官憲の隊舎がある前だから悪党どもも出入りがないです」

「ご親切にどうもありがとうございました。隊長さんにもよろしくお伝えくださいましな」

「いえいえ、では自分は任務に戻りますので。後で巡回のついでに宿に顔を出すとしましょう」


 ではこれにて。

 高貴な身の上に対する礼をとってみせたブルカ兵士パーバンさんは、マントを翻してそのまま仲間たちのところへと戻っていきましたわ。


 行李や旅荷を馬の背中に括り付けると、わたくしたちは真っ先に貨客船の案内所に向かいました。

 さすがにブルカ領南部における交通の要というだけはあって、大小様々な貨客船がこのホモンクスを出入りしているのです。朝一番にはじまり夕方の便まであるというから驚きではないですか。

 残念ながら本土に直接乗り入れる船に関しては、夕方の便はありませんでしたわ……


「仕方がありませんわね。ここはパーバンさんがお勧めして下さったお宿にご厄介になる事にいたしますわ」

「それがいいでしょう。先方のご親切を無下にすると心証が悪くなりますからね」

「今回の目的はただブルカ領内を経由して本土へ情報収集へ向かうだけでなく、今後もこのルートを使って本土と最短距離で移動するための足掛かりにしなければなりませんわ。可能な限りこの際はこの土地に情報の得られる場所を獲得しておいたほうがよろしいでしょう」


 馬上のひととなりながら目抜き通りに出ると、そんなヒソヒソ話をしながらわたくしたちは宿屋の場所を目指しました。

 案内所では奴隷商会のある場所も聞き込みしておきましたので、荷物を置けばそちら経由で情報を集めるのも方法でしょう。


「すると宿屋の食堂や酒場、それから冒険者ギルドの出張所辺りで探りを入れるのがいいか」

「その辺りが無難ですわねえ。ただ治安が余りよろしくない様ですから、行動はベルベボロンさんとハーナディンさんのお二人でやられた方がよろしくってよ」

「カラメルネーゼ夫人はどうするんだ?」

「わたくしは仮にも貴族軍人ですもの。自分の身を守るぐらいの事はやってのけますわ、と強がりを言いたいところですが、不必要に夜の歓楽街を歩くのは得策じゃありませんわね。おほほっ」


 パーバンさんの紹介して下さったうち、大きな厩があるという宿屋は直ぐにも見つかりました。

 大通りに面していると同時に立派な厩が通り沿いにあるので、馬子の方に三頭の馬を預けると部屋の代金を支払うためにフロントへと向かいます。

 本来ならば三人で雑居部屋に宿を取れば予算も浮くのですが、さすがに貴族身分をブルカの巡視隊に名乗ってしまった以上は、体裁を取り繕う必要がありました。

 面倒ですがわたくしだけは個室をあてがってもらい、三人の荷物はそこに運び込みましたわ。


「貨客船に乗ってしまえば、本土と辺境の境までは二日ばかりとの事でしたわね」

「ここまでの道のりは大よそ四日を要しましたが、ここから先はあっという間ですよ。僕の故郷まで来れば陸路で移動という方法もあるし、あるいは領内の船に乗り換えて王都近くまで向かう手はずも可能です」

「どちらがよろしいんですの?」

「場合によりけりというところですが、冬場は降水量も増えているので川を使った方がいいでしょう。問題は野盗どもが暴れているという政情不安定な地域が、この先二日は続くという事でしょうか……」


 思案気にハーナディンさんは寝台に腰を下ろしながら言葉を発していましたけれど、隣でベルベボロンさんは「どうにもならんだろう」と返事をするのです。


「敵の敵は味方なんて言葉があるそうだが、俺たちにとっちゃ盗賊の類は盟主連合軍に利する連中だ。俺たちのいないところで暴れてくれるぶんには感謝しなくちゃならねえ」

「ただわたくしたちがいるところでそれをされれば、厄介な事この上ないですわね」

「先ほど船の案内所の受付が行っていましたが、貨客船に傭兵を雇い入れて万全を期しているという事でした。体裁を取り繕うために奴隷を購入する必要があるのなら、ちょうどいいのではありませんか?」


 馬鹿を仰いな。

 奴隷商会から奴隷商人が奴隷を購入すると、利益がほとんどないではありませんか。

 それこそその点をあの賢しらなパーバンさん辺りに突かれてしまうと、言い訳のし様もありませんわ。


「奴隷商館に立ち寄るのはあくまで奴隷関係の情報収集のためですわ。どこでどの様な奴隷が求められているのかを知っておけば、この先の言い訳に使えるでしょう。まあそれも二日すれば不要になりますけれどもね」

「そういうもんかい」


 ベルベボロンさんは興味なさげにそう返事をしたものだからわたくしは苦笑を浮かべてしまいましたわ。

 けれど今後もこの土地を諜報拠点などに利用するのであれば、使えそうな奴隷を購入しておくのは悪くないかもしれませんわね。

 お荷物にならない程度に。


 こうしてわたくしは陽が陰ってしまう前に宿屋のフロントで奴隷商館のある場所を聞いて、商人らしく振舞うために足を運ぶのでした。


「ごめんあそばせ、わたくしは本土で奴隷商いをやっております騎士爵カラメルネーゼと申しますわ。ご主人がおられましたら繋いで下さらないかしら?」


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