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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第9章 内政の季節が到来です
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308 エクセルパーク卿の伝令

出張より帰還いたしました!

 雁木マリとふたりきりでお互いの体を洗いっこするなんて、どれぐらいぶりだろうか。

 新居というわけではないが、焼の入った土壁の匂いも真新しい迎賓館で俺たちは、少しの気恥ずかしさをどこかに感じながらも互いの肌に触れ合っていた。


「アナホール攻めが終われば、次はシャブリン修道院攻略よ。やン、そこは自分で洗うから……」

「夫婦なんだから恥ずかしがらなくていいのに。じゃあ俺も洗ってもらおうかな」


 石鹸で泡立たせたたわしで、優しくマリのお肌を撫でる様に洗ってやる。

 この土地の人間がシャボンと呼ぶこの石鹸も、騎士修道会所縁のものである。

 以前は果樹園に囲まれたシャブリン修道院の一角にある製造工場で、修道院の特産品として修道士たちが制作していたものだった。

 残念ながら戦災によってシャブリン修道院は灰燼に帰したが、戦闘後に残った石鹸を倉庫からゴルゴライへと運び込んだのだ。


「最終的には残留派を統合してもう一度騎士修道会を統一した宗教組織にする事が肝要ね。けれども、本土もあの様子でしょう。政治情勢があの様子なら、この先は騎士修道会も本土に足を踏み入れる事があるかもしれないわね」

「マリは本土まで足を運んだことがあるのか?」

「軍事的な派遣はないけれど、奉仕活動ならばもちろんあるわ。騎士修道会の活動範囲は主に辺境一体を担当しているのだけれど、それぞれの会派は別に土地に囚われて活動範囲に制限があるわけではないのだから」

「という事は王都にも?」


 マリの胸にあるひよこ豆に触れると嫌がるので、しょうがなしにその周辺を熱心に洗う。

 おっぱい体操は効果がまるでないのか、ブルカの街でであった頃と変化が認められなかった。

 まあ大は小を兼ねると言うし、柔よく剛を制するとも言う。

 そんなマリの見果てぬ夢について何かモノ申す事ははばかりある事なのだ。

 個人的にマリの場合はお尻がとてもキュートで魅力的だと思うんだけれどもね!


「王都は一度だけ、宗教関係者との会合で足を運んだだけね」

「やっぱり行った事はあるのか」

「王都中央の女神様の枢機卿たちは、あまり騎士修道会の事を快く思っていないんですもの。不必要に近づくことはしなかったわ。やっぱり武装した修道会というのは珍しいし、同じ宗教者として奇異に見られているところもあったもの。あンやだ、どこさわってるのよもう!」

「そうなのか。宗教騎士団ってのは、俺たちのいた中世の世界では別に珍しくもなかったんだけどな」


 日本でも僧兵というものは存在していたし、ヨーロッパ方面でもヨハネ騎士団やドイツ東方騎士団、ロードス騎士団なんてのは有名どころだろう。あとは少林寺の拳法を使う僧侶たちだろうか。


「他国には武装教団と化した修道会はいくつかあるけれどね。やっぱり本土では王侯貴族たちが権勢を握っているから、武装化した教団というのは特異な存在なの」

「逆を言えばそれだけ辺境は自由な気風と言うか、宗教組織も武装化しないと生き残れないって場所だったんだなあ」


 大きな風呂桶ようのたらいの中で、じゃぶじゃぶとお湯をさせてみせるマリである。

 アスリートの様に見事に鍛えられた肢体を見ればわかる事だけれど、戦士として見た時のマリはとても優秀な、訓練を欠かしてこなかった修道騎士なんだろな。

 いくつもの擦り傷跡や鞭で打たれた様なみみず腫れがあるけれど、これらは新旧入り混じっていてある種の凄みをもたらしていた。


 しかしあれだな。

 聖なる癒しの魔法でもってしても、こさえる傷の修復は追いつかないのだろうか。

 俺がそんな事を感じながら、ジロジロと鍛えられた大胸筋を観察していると……


 マリは泡立ったヘチマのたわしを放り出して、そのまま俺の胸にある大きな傷跡を指でなぞって見せるではないか。


「あんまりマジマジ見られると恥ずかしいわ。訓練や戦場の傷は、おざなりに処置することが多いから傷跡がずっと残っているでしょう?」

「聖なる癒しの魔法を使えば治すことが出来るんじゃないかとも思ったんだけど、そういうんじゃないのか?」

「可能と言えば可能なんだけれど、それでは自分の失敗や教訓を忘れてしまいそうで今まではしなかったの。改めて傷跡を消すためには、少し時間をかけて癒しをする必要があるの。命の別状はないから、このファンタジー世界では治療にも別途料金を頂くことになっているぐらいだわ」


 苦笑を浮かべたマリが俺の胸板から脇腹に向けて指をはわせ、そうして抱き着いてきた。

 

「こんな傷だらけのあたし、嫌だったかしら?」

「そんな事はないさ、マリはマリだ。考えがあってやった事なら、俺は夫として尊重するよ」

「何だか、夫と妻なんて関係になるなんて。はじめてあった時には想像もしなかったわよ、おじさん?」

「おじさんか。おじさんなんだよなあ、このファンタジー世界だと。三十過ぎならもう子供が何人もいたっておかしくはない」


 抱き返しながらそんな返事をしたところで、お互いに顔を見つめあってしまった。

 しばらく前まではお互いに味噌まみれだったなんて考えると笑えて来るが、こうしてマリと洗いっこする事が出来たのでよしとします。

 ただし昼飯は味噌大惨事のおかげでお預けになってしまったが。


「あなたの傷だけでも治してあげようかしら?」

「いや、せっかくだからマリとお揃いで。傷がいっぱいあった方が辺境不敗っぽくていいんじゃね?」

「シューターはこっちの世界じゃよく若いって間違われるから、それぐらいの方がいいかもしれないわ」


 ははは。

 俺が二〇歳過ぎの若者に間違われるのはよくある事だ。

 しかし微笑んでいるマリの顔に手を回して近づけると、若い奥さんたちと並んで、年齢が多少でも近いと感じてもらえるなら、それはつり合いが取れているのかも知れないなんて思ってしまった。

 

 目をつむって覚悟をしたような上気したマリを見て、俺はその唇に自分のものを重ねた。

 ありがとうございます、ありがとうございます。

 俺はキスをしてもいいんだと思い、ちょっとぎこちない雁木マリの覚悟に感謝した。

 いただきます!


     ◆


 晩秋の束の間、俺たち新婚に与えられた安息の日はただの一夜だった。

 改めて一緒に食事を作ったり、地図を広げて今後の作戦について話し合ったりしていればあっという間に夜がやってきて、しっぽりと早めの就寝を迎えればすぐにも翌朝だった。

 マリの背中に抱き着く様にして寝台に丸まって目を覚ましたけれど、そんな心地よい時間を過ごしていたところで現実に俺は引き戻されたのである。

 

 ふっと意識が覚醒したかと思うと、すうすうと寝息を立てているマリの頭を撫でてムクリと起き上がる。

 吉宗公は昨夜暴れん坊の限りを尽くしたのでまだ眠りについている様で、朝からマリに「あれだけ頑張ったのに、まだ足りないのかしら!」とお叱りを受ける事もなかった。


 そうして、いつのまにか寝室の暖炉が火が消えて肌寒さを全裸に感じながらシーツをめくったところで。

 真新しい迎賓館へと足早に近づいてくる何者かの気配を感じたのである。


「鎖帷子かな。だとするとダイソンかエレクトラか……」


 剣の擦り付ける音の感じ、あるいは足運びからするとエレクトラではないかな、なんて想像を働かせる。

 迎賓館の前で不寝番しているはずの当直は、何故かエルパコとベローチュが買って出たはずだ。

 何でも夫婦水入らずを邪魔するのは関心しないからという事で、家族会議で奥さんたちが交代で、緊急の様でもない限りは誰も近づけないという決定を下したのである。


 入り口付近で何かの会話が繰り返されているが、声音は強いものではない。

 よかった、何か特別な事が起きたというわけではないらしい。

 そのまま少し忍んだ様な足音が寝室に近づいてくるのがわかって、俺は扉の方に視線を送った。


「……起きている、入っていいよ」

「おはよう、シューターさん。エレクトラが来ているよ」

「けもみみ奥さん、おはよう。異常はなかったかい?」

「う、うん。ガンギマリーさまの声が夜中に聞こえたぐらいしか、何もなかったよ」

「……!!」


 少し恥ずかしそうな顔をして小声で扉の隙間から顔をのぞかせるのは、やはりエルパコである。

 吉宗公のご活躍は、耳のいいエルパコには全てお見通しだったのだ!

 そのままエルパコはすぐに首を引っ込めると、今度はエレクトラが緊張した顔で室内へと入ってくるではないか。


「お、お楽しみのところを申し訳ございません」


 お楽しみ中とか言うんじゃないよ!

 

「いいよ。マリはまだ寝ているところだから、話の続きがあるのなら隣の部屋で」

「了解いたしました。アレクサンドロシアさまよりご伝言です。ご起床されましたら、一度お顔をお見せするようにと」


 寝台をゆっくり起き上がると、緊張の顔をしたエレクトラがどういうわけか俺をジロジロと見てくるので見返してやった。

 やだな、俺の全裸をそんなに観察して。

 この世界じゃ包茎だって、そんなに珍しくないだろっ!


「朝は特に冷え込みますし、お召し物をっ」

「あ、ありがとう……」


 さっとクロゼットに移動したエレクトラが、ガウンを差し出してくれる。

 しかし視線は常に股間に集中しているのでいったい何を考えているんだろうかという気分になりながら、背を向けた。

 そのまま帯で前を閉めて、隣のリビングへと移動する。

 エレクトラはひどく残念そうな顔をしてついてくるのだった。


「今朝は領主奥さんと軍議の予定は無かったと思うけど、何かいい報告でもあるのかな?」

「先ほどエクセルパーク卿の配下がゴルゴライに入城しまして、ただいまカサンドラ奥さまがお会いになっているはずです。アレクサンドロシアさまは就寝中でしたので、用件のみカサンドラさまがお伝えになりまして」


 その足で直ちに俺を呼んで来いと、アレクサンドロシアちゃんが寝床から命令を飛ばしたらしいのである。

 カサンドラがこの件を対応したというのが、いかにも俺の不在中の代理人として立派な事で頭が下がる思いだ。

 一方の領主奥さんは寝たきりすぎるだろ……


「わかった、すぐに向かう様にしよう。話が長くなりそうだから、マリに書置きを残しておきたい。エルパコは筆記用具を持ってきてくれるかな?」

「すぐやるよ、シューターさん」


 ぶんと尻尾をひとつ振って見せたけもみみが、とてとてと部屋の隅にある戸棚に走っていく。

 エレクトラはその場で貴人に対する礼をとってみせると、


「それじゃあたしは、お着替えを用意した方がいいですね。お召し物はどちらに?」

「……隣の部屋なんだよ。けど自分でやるからあっちを向いていて」

「は、はいっ」


 ケモミミがインク壺と羽根ペンを用意している間にいったん寝室へ戻るとヒモパンを履く。

 何だかエレクトラのムッツリ助兵衛気味が気になるので、下着だけは身に着けて居間に戻ると、ひどく残念そうな顔をされたので俺は微妙な気分になった。


「そんなに見たかったら、カサンドラに許可をもらう様に。家族の内向きの事は一切の報告が必要なんですよ」

「いいんですか! あたし頑張って花嫁修業しちゃいますからねっ」


 よくねえよ。声がでかい!

 ひと睨みすると雁木マリの寝ている寝室を指さしておいた。

 エレクトラはアマゾネスっぷりに反する委縮顔をして背中を丸めて謝罪した。


「聖女奥さんへ、アレクサンドロシアちゃんから急用を伝えられたので俺は行ってきます。二人で過ごせる時間はとても貴重で、幸福なものでした」


 久しぶりに日本語で麻紙にそう記すと、不思議そうな顔でけもみみとエレクトラが覗き込んでくる。

 女神様の使われる神聖文字だね、とかシューターの旦那はやっぱり学があるね。などとつぶやいているのを無視してチョッキを羽織ると、俺は立ち上がった。


「じゃあエルパコ。マリの事はよろしく頼むよ」

「了解だよシューターさん。今度はぼくの時も迎賓館で楽しもうね」


 ちょ。エレクトラの前で言わないで!

 あと迎賓館はラブホじゃないんだからねっ。

 

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