表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第9章 内政の季節が到来です
403/575

304 ツジンのくびき

更新お待たせいたしました!

 これまでツジンという男について、俺たちはほとんど情報を得る事は難しかった。

 目撃者は存在すれどもそれらはすべて断片であり、いったいどういう経緯でブルカ辺境伯ミゲルシャールの側近たる家宰となったのかは知る事が出来なかったのだ。


 ただすでに知っている情報として。

 俺や雁木マリと同じく元いた日本からの転生異邦人である事と、当初この世界で傭兵団を組織してミゲルシャールに売り込みをしたという事がわかっている。


 そして尋問の最後にツジンについてブルカ伯に尋ねたところ、


「あいつと出会ったのは三〇数年前の国境戦争の時だ。修道士の身なりで傭兵団を率いているおかしな男がいたと思ったら、自分でこの戦争を勝利に導く秘策があると近づいてきたのがはじまりだぜ」


 その後、隣国の国境にあった難攻不落の要塞都市攻略で、ツジンの献策を受けたオレンジハゲが勲功を挙げた事は、過去にクロードニャンコフが俺に教えてくれた話と合致する。

 ミゲルシャールの大胆不敵な性格とツジンの緻密で用意周到な攻撃的な作戦は、その後も国境紛争や辺境の開拓侵略でも、遺憾なくコンビの成果を発揮したものだ。


 王国の政治を(わたくし)しようと企みながら、辺境で独立という野心を持つ豪胆で不遜なオレンジハゲは、そういう意味でツジンの献策は面白みのあるものだったのだろう。

 実際に、攻め手に回りながらじわじわと周辺領主や宮廷に触手を伸ばしている間は、ツジンの暗躍はうまく回っていたはずだ。


「今回のブルカ辺境伯の拷問で、多少成りとツジンという男についてその辺りの情報を詳しく知る事が出来たのは幸甚と言えるかもしれませんの」

「そうだの。あの似非坊主には散々各地で煮え湯を飲まされてきた。わがサルワタの村でも、スルーヌや戦場においても」

「触滅隊についてもかの修道士が組織した破壊工作集団と言うじゃなあい? アタシの領内で滅茶苦茶に悪党働きしてくれた連中が、誰の差し金だったのか明々白々になった事は重要よお。ブルカ伯のおハゲさんの差し金で、ツジンがやってくれたわけねぇ」


 憤慨したマリアツンデレシアにアレクサンドロシアちゃんが同調しつつ、男色男爵も相槌を打ちながら教化部屋を退出していく。

 わが家の一員であるオホオ村のラメエお嬢さまもツジンとは少なからず関係を持っていたので、カサンドラに背中を支えられながら教化部屋を出て行った。


     ◆


 尋問が終了してオレンジハゲには新市街にある戦争捕虜の強制収容所にご退場願った後。

 この場に残ったのは険しい表情を浮かべた俺と雁木マリ、男装の麗人やけもみみに、ニシカさんである。

 そしてもうひとり。蛸足麗人のカラメルネーゼさんは教化部屋の扉を閉めて振り返りながら、俺に言葉を投げかけて来るのだ。


「さて、出そろった情報を整理しておきましょうか婿殿?」

「ああそうだな、話の本筋はオレンジハゲの宮廷工作だ。自分の娘に子供を産ませて王位継承権を持たせるという大胆不敵な方法に出てきたわけだが」


 この世界における支配者の継承権というのは、見ている限り男女の区別なくその長子たる嫡男嫡女が後継者になるのが一般的だ。

 場合によっては時の権力者が別の子供を後継者に指名することがあるらしい。


 俺たちサルワタ貴族の例に当てはめるなら、トカイというアレクサンドロシアちゃんの前夫が死んだ時に奥さんであった彼女が引き継いだ事だろうか。


「恐らくそれは、ギムルさんがその時に成人を迎えていなかったからの特別な例ですわよ」

「あるいはドロシア卿の前夫が、ドロシア卿の才幹を見越して死の間際にそういう遺言を残したのかもね。あのひとは貴族の教育を受けているわけだし、事実あの通り領地経営の手腕は間違いないもの」


 俺の思考に対して蛸足麗人と雁木マリはそれぞれの考えを示してくれた。

 ではそれがオルヴィアンヌ王国の場合はどうか。


「普通ならば国王は自分の子供を後継者指名するものだわ。王位継承権はお子が産まれた時にその全体を見直されるわけだけれど、男子でも女子でも、国王の血を継ぐ者が優先的に第一位となるものだから当然ね」

「現状では国王にお子はまだひとりも産まれていないというのが問題なのですわ。陛下はまだお若いつもりでお子を成さなかったのが本当にここに来て災いになったのですわ」

「ご主人さま、可能性としては国王とその血を受け継いだお子を宿したテールオン妃さまが暗殺される様な事が起きれば、これはもうオルヴィアンヌ王国始まって以来、最大の内乱に発展する可能性があります」


 雁木マリの深いため息の後に、それを受け取るようにカラメルネーゼさんが続け、最後に男装の麗人がひとつの可能性を口にした。


 そうなった場合は、どうなるのだ。

 ブルカ伯オレンジハゲの野望はいったん潰えた事になるが、かえって政情が不安定になってツジンに付け入る隙を与える可能性が出てくるとも言えるんじゃないか。

 

「それが俺は気になるところだな……」

「もちろんそうなれば、ブルカ伯あるいはその後継者と目されるフレディーマンソン卿による王国の傀儡化は失敗します。有力諸侯たちが王位継承権を持つやんごとなきお方々を立てて、次の権力者へとなろうと考えますから」


 男装の麗人の言葉に俺は渋い顔をし、そして雁木マリも天井を仰ぎ見た。


「どちらに転んでもツジンの思惑通りになるというのが気に食わないわね。国王の傀儡化に成功すれば正当な形で独立承認も勝ち得るし、失敗してもそれは一方的な独立を可能ならしめるもの。このツジンを打った計略はまるでくびきよ……」


 ツジンがそこまでを考えて色々な手を打ってきたのか、いくらかの偶然も重なったのかわからないが、王国の未来はとても暗いものである様に感じたのだ。

 くびきというのは、馬車に使う馬を拘束するための器具の事だ。

 逃れる事のできないツジンの一手を指してそう揶揄したのだろうが、まったく笑えないぜ……


「そして婿殿の仰る様に、その政情不安に漬け込んで、ブルカの独立と娘を殺された事を口実にした本土への侵略というシナリオは十分に考えられますわね。そうなればドロシアさんの思う壺」

「そうね。同時に、ブルカ伯の独立が許されるのであればと本土の有力諸侯たちは総じて自主独立の方向に舵キリをする可能性があるわよ。ドロシア卿だってもはや頼りにならない王国の傘下に収まるよりも、辺境の諸侯と束ねて王位を目指すという可能性はあるわ。そしてそれは当然の考えね」


 蛸足麗人も聖少女も、アレクサンドロシアちゃんが描いた密かなる未来の野望を正鵠に言い当てる。

 どこでいつ、その事に気が付いたのかは知れないが、この時その場にいた俺たちは野望の共有をしたという事になる。


「……俺はこの世界で最初に、付いていくと決めたアレクサンドロシアちゃんの意思を尊重するつもりだ。領主奥さんが独立を宣言するのなら、最大限そのための努力をするさ」

「わたくしは夫たるシューターさまのご命令に従うまでですわ。ま、ドロシアさんが王様の国というのは釈然としないものがありますけれども、お商売には少なくとも独占権を与えてくださりたいものですわね」

「自分もご主人さまの意思こそが、自分にとっての意思です。ご主人さまがアレクサンドロシア奥さまに賭けるの言うのであれば、家族が一丸となって粉骨砕身に力を尽くすのがよろしいでしょう」


 押し殺した俺の声に、カラメルネーゼさんやベローチュも同意した。

 そしてけもみみもニシカさんも。


「ぼくはシューターさんが全てだから、シューターさんがいいと思う事は、ぼくにとってもきっといい未来なんだ」

「旦那に恥をかかせなければいいってことだろ? 人生の相棒に世話を焼かされるのも悪くねえ。ガンギマリーはどうなんだ。ん?」


 腕組みを解いてばるんとたわわな爆乳を揺らしたニシカさんは、そのまま背中を預けていた壁から身を起こして、雁木マリへと近づいた。


「あたしはまだ判断はできないわ。自主独立する宣言のタイミングを間違えばオルヴィアンヌ王国全土を敵に回す事になるし、恐らく盟主連合軍も敵に回す事になるもの。ドロシア義姉さん独力で、全てを打倒する事なんて出来っこない」

「まあそうだろうな。判断はすぐにできる事じゃないし、タイミングを間違わない様に諭す役割があるなら、それは夫である俺の仕事だ」

「けど、勘違いしないでちょうだいよね。あっあたしだって、いざシューターが決めた事には女神様に誓って全力で支える事は間違いないのだから。あたしたちは家族なのだから支えあうのが当然よ」


 そんな風に言ってマリは暗がりの中でもわかる朱色の顔をうつむき加減に俺に見せた。

 ニシカさんはニヤニヤしながらマリの背中をポンポンと叩いて、その度に豊かなお胸がよく揺れた。マリの胸は揺れるものもないので代わりにサイドテールが揺れただけだ。


「何れにしてもシューターさま。わたくしもオッペンハーゲンのクロードニャンコフ卿と連携して、予定通りに王都の内情については常に新しいものを入手する様に心がけますわ。例の取引もありますもの、資金力があればいざという時に役に立ちますわよ。おーっほっほっほ……はっ?!」


 納得顔で話を纏めにかかった蛸足麗人であったけれど、笑って最後に口にした言葉がいけなかった。

 何か女の勘でも働いたのか、突如としてどんぐり眼をすぼめてジト眼を向けて来るマリである。


「例の取引って何の事かしらシューター?」

「ああえっと、カラメルネーゼさんとカレキーおばさんに任せている、御用商人の商取引問題だよ。国王に税金を上納しないといけないから、遠い王都までの送金方法を約束手形でやるってのでお願いしたんだ」

「そう? 為替で送金するのなら、オルコス五世金貨をわざわざ用意しなくても、どうにかなりそうって事なのね?」


 あわてて俺が言い訳をし、それにウンウンと蛸足麗人も頷いて見せる。

 ひとまずおかしな事は言わなかったのでマリも怪訝な顔をはしたものの、ひとまず納得の表情を浮かべてくれた。


「ま、まあそういう事になりますわ。さあみなさん、このお話はまだ家族のみなさんにも話してはいけないことですわ。内容を詰めてドロシアさんの意思を確認し、それからカサンドラさんにご報告するのが何事も順番ですわよ!!」

「そうね、今は冬を迎えて内政を整えて、ブルカ国境までどれだけ領地を削り取れるかに集中すべきだわ。もうすぐ徴税官の派遣もあるのでしょ?」

「うン、そうだね……」


 やったぜ、逃げ切れたか!

 話題を何とか逸らせる事ができたと確信したタイミングで「さあ行きましょう」と合いの手を入れてくれた。


「あまりここで密談を重ねておりますと、他の奥さま方に不信がられてしまいます」

「そうだね。義姉さんは勘の鋭いひとだから、何かあれば秘密の作戦だからとぼくも言っておくよ」


 ベローチュとエルパコに背中を押されながら雁木マリが出て行ったところを見届けて、俺は小声になりながら急いで蛸足麗人に今後の相談をしておく。


「王都がこんな状況じゃ、金貨を買い取ってもらうという作戦は延期した方がいいのかな……」

「どうですかしら。わたくしも判断しかねますけれども、とにかくオッペンハーゲンまでブルカ辺境伯金貨を運ぶことは予定通りでいいはずですわ。ブルカ伯のおハゲさんがこれ以上のさばらないためにも、王都周辺の権力事情は慎重に調べる必要がありますものね……その上で最終判断ですわ」

「場合によっては、どうにかして王都にサルワタ貴族から使節を送る事も考えた方がいいかもね。その場合は冬の内にか、春先一番か」

「戦争が再開される前に、あるいは戦争をひっくり返すためにその手段を考えるべきですわ。折りを見て、ッヨイ子ちゃんとドロシアさんを交えて話し合いましょう……」


 くっそこの冬はますます忙しくなりそうな気分だぜ。

 徴税官に内職と戦争再開に向けての準備、それに戦争か……


「それと子作りだな」

「えっ……」


 振り返ればニンマリと下品な笑みを浮かべたニシカさんが腰に手を当ててこちらを見ている。


「ニシカさん子供が欲しいですか?」

「バッカそうじゃねえオレ様はまだいいんだ!!」


 真っ赤な顔をして全力で否定する黄色い蛮族かわいい。

 しかし真剣な顔をすぐにも取り戻したニシカさんは、咳ばらいをひとつ飛ばして続きを口にする。


「そうじゃなくてだな、王様の話を聞いていて、お前ぇも早いところ子供をこさえておかないといけないと思ったんだがどうだ。ん?」

「そうですわね。領主が安泰であるという事を示すためにも、何事も順番にと考えるのであれば、カサンドラさんがお子を授かるのがベストですわ。ガンギマリー卿にそのところ相談なさるのがよろしいですわね」


 ま、マリに相談するのか?

 まだ婚約者同士で、ふたりで結ばれたこともないのに他の奥さんの子供の相談とか、順番的にヤバくないですかねそれは。


「戦争が継続する事を考えれば、婚約のままでいるのは問題ありですわ。この秋の内に正式に結婚したのだと盟主連合軍にお示しになりなさいな」

「そうだぜ相棒、連中は本格的な冬が来る前に領地に引き上げていく事は間違いないし、いったんの現状報告をリンドルの大本営に戻って、早打ちボーイにしなくちゃなんねえだろ」

「た、確かにそうだ」


「放っておいても愛があれば子が授かるものというのは、農民の考えですわ。確実に子種を仕込み、後世に血を残すことこそが高貴な身の上の義務ですわよ」


 出来ればドロシアさんより先に、わたくしに子種を仕込んでくださいな。

 おーっほっほ、おーっほっほっほっほ!

 高らかに哄笑(こうしょう)してみせた蛸足麗人は、触手をワキワキさせながら教化部屋を退出していくのであった。


 呆れた俺とニシカさんであるけれど。

 わが家に派閥争いなんて無縁だと思っていたが、何事も大切な順番を間違えれば家庭内戦争は間違いなしだ。


「オレはしばらくアッチの方は遠慮しておくぜ。戦争ともなれば、腹に子を抱いて戦場を駆けまわるわけにもいかねえからな。念のためにオレもガンギマリーに相談して避妊の施術をやってもらわなきゃなんねぇ……」

「何事も順番を間違えたらカサンドラの大正義制裁が待っていますからね……」

「嫁さんが多いのも大変だなシューターよ」


 あんたもその嫁さんのひとりなんだよ黄色い花嫁さん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ