234 ナワメの森を突破せよ 5
一旦投稿後、一部加筆修正の対応をさせていただきました!
翌日未明にフクランダー寺院の遺構へとオッペンハーゲンのドラコフ隊が到着する。
俺たちはやがてリンドル川西部戦線の攻略拠点となる事になるこの場所を彼らに託すと、ナワメの森を突破する部隊の再編制にとりかかった。
男色男爵の妖精剣士隊と別動隊のみなさんを、ひとつの作戦部隊へと作り替えるのが目的だ。
複数の分隊からなる妖精剣士隊のそれぞれに、諸侯たちを振り分けて少人数ごとに森へ侵入するのだ。
「ギリギリで現地協力員の手配が間に合ってよかったわねえ。さすが顔の広いシューター卿のおかげと言うものだわァ」
そう言って男色男爵にはひどく感謝されたものだが、俺は元々異邦人であるから顔が広いわけではないのだ。
これもすべて奥さんたち家族のみんなに助けられての事である。
ありがとうございます、ありがとうございます。俺はハーレム大家族に感謝した。
さて男色戦隊と名付けられた再編成部隊は、大きく五つの集団に別れてナワメの森を突破する事になる。
斥候役を引き受けるのは、鱗裂きのニシカさんに率いられたチームと男装の麗人のに率いられたチームのふたつだ。
ニシカさんは言わずと知れた辺境随一の猟師であるから安心だ。それにベローチュは俺の奴隷となる前に自身が所属していた分隊を率いる事になるから間違いの無い配置になると思う。
このふたつが、南北に長く伸びたナワメの森の両翼に配置される事になる。
もっとも山脈地帯側の西部を走破するのがニシカさんのチームで、ここに妖精剣士の分隊と軽輩諸侯の幾つかが加わっているが、もしも敵と遭遇した場合にも十分に撃退が可能な様にカラメルネーゼさんやけもみみなどが加わった分厚陣容になっているの威力偵察部隊と言ってもいいかもしれない。
逆に男装の麗人の率いているチームは、どちらかというとそれよりも小規模で、すぐ背後に続いている男色戦隊の主力を誘導する役割を担っていると言った方がいい。
男色戦隊の主力は戦隊の指揮官である男色男爵が複数の分隊を直卒している。ここに俺やカサンドラたちも加わって進軍しているのだが。
「キュイキュイ!」
「旦那さま、バジルちゃんは頼もしく成長しましたねえ」
「本当だねえ」
まだ少し前まではあかちゃんとばかり思っていたのに、このはしゃぎ様。
「みなさんの足手まといになっている様な気がするわたしと違って、本当に頼りになります」
「そんな事は無い、カサンドラも十分に頑張ってくれているよ」
今では中型犬よりもう少しだけ大きく成長した肥えたエリマキトカゲとなったバジルは、馬上で俺に抱きかかえられるよりも、自分の足で大地を歩く事を選択する程度に足腰が育ってきている様だった。
不慣れな馬に揺られて必死に行軍の列に加わるカサンドラを気遣ってか、寄り添う様に馬の足元をチョロチョロと走り回っている。
生後半年も経っていないのだから長く走り回る事は出来ないだろうけれど、本人がやる気を見せている間は自由にさせてやろうと俺は思っていた。
すると、
「ギイ!」
「おいこら、あかちゃんどこに行く!」
時々、隊列から大きく飛び出してバジルがいなくなると思ったら、馬を降りて進まなければならない様な森の深い茂みの中で、毒蛇の類を駆除してくれた様である。
自慢気に毒蛇の首をガッチリ咬みついて、肥えたエリマキトカゲが早々に帰還してくる。
まあ「パパとママの安全はぼくが守るよ!」という具合でそうしてくれたのだろうけれど、猟師の娘であるカサンドラはともかくとして、俺とカサンドラの後を追って行軍していたタンヌダルクちゃんとクレメンスは肝を冷やした様だ!
「だっ旦那さまぁ! 毒蛇ですよ毒蛇ぃ!」
「そうだす! 危険ですからあかちゃん捨てて来るですだよ!」
騒ぎ過ぎというものである。
別に自分が元気な毒蛇に遭遇したわけでもないのだから、作戦行動中は大人しくしていなさい。
俺たちの本隊の背後を移動しているふたつの部隊があったけれど、そのふたつは比較的規模の小さい男色戦隊の支隊となっている。
それぞれがナワメの森の南限にあるフクランダー寺院の遺構と、本隊との連携を保つために構築される背後連絡線を守るのが役割だ。
ここに伝令犬の中継拠点を設ける事で絶えずリンドル川西岸戦線の本部予定地と通信を維持する事が出来る。
ちなみに、そのうちの一隊をお預かりするのがデルテ卿のご夫人というのは、カラメルネーゼさんの提案した通りになった。
「この件ではシューター卿に御心を砕いていただき感謝の念に堪えません」
「おーっほっほっほ! 拠点の警備はお貴族さまの重要なお仕事ですわ。それも後方ではなく中継拠点ですものねえ」
「それでも、あの様な女を立て、その上で俺の顔も立ててくださるとは……」
デルテ騎士爵はとても感謝してくれたけれど、俺の代わりにカラメルネーゼさんが自慢気に返事をしてくれたの任せておいた。
まあ提案したのは蛸足美人なので問題は無い。
しかしこのふたり、勲功争いをしている者ものだから意外にも息がぴったりな気がするんですけど、すぐにその輪の中に俺を入れようとするのをやめてほしい。
「必要があっての処置ですから、とにかくわたくしたちは連絡を無駄にせず戦いを完遂する事です」
「そうですな。一番槍、勲功第一というところでしょうか! よし腕が成りますな閣下、全裸の血が騒ぐのではありませんか。ん?」
ここはファンタジー世界であり、便利な無線もあるわけではないから、深い森の中に入ってしまうと味方同士の連絡手段が極めて難しくなるからな。
確かにカラメルネーゼさんが言う様に必要にあっての処置で、デルテ騎士爵の奥さんを配置したと言える。
例えば信号矢を使った相互連携を取りたくても、恐らくその場所から距離が離れてしまうと、猟師ですら聞き取り判別をするのが難しい程度に森は雑音に満ちている。
同時に光が差し込みにくいこの場所では、上空に信号魔法を打ち上げたとしても、これを視認するのは至難の業だ。
「なるほど、こういう時に伝令犬が役に立つわけだな」
「本当に役に立つのか疑問だよ。人間に飼われている犬は、森の中では狼の餌食になってしまうよ」
俺が感心していた隣で、毒蛇が出ようとも平気な顔をしていたけもみみがそう解説してくれた。
伝令犬はこういう場合に確かに確実な連絡手段に見えるかもしれないが、野生の狼から見れば単独で部隊間を走り回っている犬はただの餌にしか見えないそうである。
「だから最後に確実な手段は、森の中で生活をしている人間が頼りになるんだ」
すなわちナワメの森を生活空間にしている猟師たちであり、老騎士のジイさんが手配した現地協力員のみなさんこそがそれを担う事になる。
「そうだな。俺も猟師出身だから、ご同業のみなさんの事は頼りにしている」
「うん。でもぼくは、シューターさんの事を頼りにしているよ」
「お、おう」
あるいは現地協力員のみなさんの総元締めという立場になるのだろうか、ナワメの森の猟師株を管理発行する権限を持っている彼女という事になるのだが、
「わ、わたしに期待してもらってもいいわよ。狼なんて怖くなんかないんだからっ!」
お齢十一歳の張り切りおませ少女のラメエお嬢さま。
彼女は改めてナワメの森に男色戦隊が進軍開始する前にお風呂に入る事を許されたので、衣服の一切を着替えなおして、綺麗な白い甲冑姿で馬にまたがっていた。
「現地協力員の手配は、黄色い猟師とその仲間を合わせても全員で十人足らずしか用意できなかったからな。出来るだけそういうお願いはしないつもりではいるけど、ラメエ卿にお願いする事もあるだろう」
「え、何でわたしだけ他人行儀にラメエ卿なのよ。わたし以外の奥さんには呼び捨てとかちゃん付けなのに……」
俺がニッコリと笑うと、聞き取れないような小さな声を漏らしてラメエお嬢さまは馬上で身を縮めてしまった。
「頼りにしているからな。出番が来るまでカサンドラやタンヌダルクちゃんの側を離れない様に」
「こっ子供扱いしないでよね!」
子供扱いと言いましてもね。
あなたは成人したての、少女に毛の生えた様な年齢でしょうが。
本来ならばその側には老騎士が控えているのが望ましかったのだろうけれど、爺さんはソープ嬢の元に日常生活品や注文の品を届けると言う任務があるので、フクランダー寺院の本陣に残っている。
どういうわけかラメエお嬢さまはカサンドラやタンヌダルクちゃんには懐いている様だったから、その代わりぐらいは果たせるんじゃないか。
さすがに剣術の訓練は多少嗜んでいたらしく、戦闘で役に立つかは別にしても少しは肝が据わっている様子なのもありがたい。
「よしエルパコ、先頭にいる男色男爵のところに行くぞ。現在位置を確認して、斥候チームから連絡が無かったか確認する」
「うん、わかったよ。あかちゃんおいで」
「キイイイ!」
俺が馬首を返してけもみみを見やると、ぼんやりした顔をしていたけもみみがその瞬間に真面目な顔になった。
すぐにも姉妹たちに目配せをしながらバジルを呼び寄せるという動きの速さだ。
「ちょ、待ってよ。わたしも行くわ!」
俺とエルパコが隊列を追い抜きながら駆けだしたところで、すぐにもラメエお嬢さまがハーレム大家族の集団から追いかけてくる声が聞こえた。
森の中に伏兵しているブルカ連合軍の反撃部隊を探して、俺たちは今進軍を開始した。
次回、バジル大作戦!




