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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第7章 戦場でお会いしましょう
301/575

231 ナワメの森を突破せよ 2

いったん投稿後、説明不足を感じた個所を修正し、後半を大幅加筆しました。

「俺たちが協力してもらいたい事はふたつある。ひとつはナワメの森に精通している猟師を複数人手配してもらいたいのと、もう一点。この宿営地(フクランダー寺院)の遺構を出入りしている行商人の情報だ」


 勝手にテントの中でドッカリと座らせてもらった俺である。

 少しでも捕虜のおふたりにフレンドリーに接して、緊張感を解いてもらわないとな。

 すると、そういう事を意識しながら俺が腰の剣を抜いてカラメルネーゼさんに預けながら胡坐をかいたのを見て、ラメエお嬢さまも横座りをしてみせた。

 作戦成功!

 おませ少女は俺を胡乱な眼で見やりながら、おずおずと質問を返してくる。


「ナワメの森に精通している猟師? そんな人間を手配してどうする気なの?」

「詳細は話せない。何しろこれは軍事機密だからな」

「……そう」


 おませ少女に俺たちの意図は理解出来なかったみたいだね。

 けれどもそれを補佐する老騎士には、俺たちがやろうとしている事が薄々理解出来た様だった。

 アレクサンドロシアちゃんが俺に良くやって見せる様に、器用に片眉を吊り上げながら「ふむ」などと返事をしてみせる。

 貴族軍人の端くれらしく、森で軍事作戦をやりたいと考えているのは、森に精通した猟師を寄越せと言っているだけで理解できるだろう。


「わ、わかったわ。もうひとつの行商人というのはどういう事かしら? じいが言う様に、兵糧不足で補給が上手くいっていないという事なのかしらね?」

「食糧は別に不足していないんだなあ。爺さんの洞察は的を射ているんだが、残念ながら俺たちには信頼できる参謀が総司令官の側に付いているから、その補給問題はやがて解決されるだろう」


 探りを入れる様に身を乗り出してラメエお嬢さまが質問を畳みかける。


「じゃ、じゃあ何が目的なのよ」

「この領域を俺たち盟主連合軍が統治後も、フクランダー寺院の土地所有者に生活必需品を送り届けてもらいたくてね。それから追加で注文もあった。土地所有者どのが調度品の類を一新したいと言うので、家具から何から手配できる人間が必要だ」


 おませ少女はまたしても怪訝な顔をしていたけれど、これも爺さんは理解できた模様だ。

 今度は片眉と言わずに驚いてますという表情がその顔から明確に見て取れている。

 この反応はきっとラミア族の後継者の事を知っている態度だね。


「フクランダー寺院の土地所有者? ここは打ち捨てられた遺構なのよ、この地域の不文律で領主なんて存在するはずないじゃない」

「お嬢さま、これには色々とわけがあるのでございます」

「何よそれ……」


 しどろもどろに爺さんが返事をしたものだから、おませ少女のラメエお嬢さまはご不満顔である。

 確かにこの土地の領主たちは誰もこのフクランダー寺院やナワメの森の一帯は領有宣言をしていないからな。

 不審に思うのも当然だ。


「ソープ嬢はかなりの人見知りだからな、行商人の手配は出来るだけ早く頼むぜ」

「わ、わかりました。出来る限りの事をはさせていただきたのですが、そのためにはこのやつがれめを解放していただかない事には……」

「どういう事よじい、説明しなさいよね」

「お嬢さま、この土地の地下にはダンジョンがありましてな」


 むかし話の言い伝えに出てくるラミア族の正統なる後継者の末裔が、今もダンジョンでひっそりと生活をしているという事を老騎士がかいつまんで説明してやるのだった。

 まあ概ねは想像した通りだったが、その事を知っているのはオホオ村の先代領主やその側近たちばかりだったらしい。


「何よわたしそんなの聞いてない……」

「その先代さまも、前の領主から最小限の人間にのみその情報を共有させる様に指示を受けていたのですお嬢さま」


 親子三代の領主たちとその側近だけ(ラメエお嬢さまはまだ代替わりしたばかりなので知らなかった様だが)の秘密事項という事だな。


「行商人とは申しますが、ダンジョンに出入りを許されていたのは、このわたくしめひとりでございます。ソープ姫さまは全裸卿の仰いますように、誰にでもその姿を見せていいものではない高貴な身の上の方でござりますれば」


 その場にはいないソープ嬢を想像しながらか、うやうやしく爺さんは首を慣れながら言葉を語ったのである。

 ははあ。

 という事はこの爺さん、ソープ嬢とミゲルさんの悲恋の話を知っているのではあるまいな。


「ソープ嬢は俺と誰かさんを間違えて、俺に熱烈な求愛をして来たぜ」

「何と?!」

「安心してくれ、それについては誤解はすでに解けている。ただしいつまでたっても誰かさんが迎えに来てくれないので、悲恋に打ちひしがれているところだ」

「…………」


 爺さんにかまをかけるつもりで、俺はひとつ押し込んで話題を振っておく。

 カラメルネーゼさんも俺の隣にニヤニヤ顔を浮かべているので、俺の意見に同意の様だ。

 蛸足美人がいやらしい笑いを浮かべると、下品より淫靡さの方が際立つから、俺はゴクリとつばを呑んでしまった。

 それと、さっきからさり気なく俺に密着してパイタッチをしてくるのやめなさい。

 ついでにさっきから気になっていたが「わたくしの主人」とか言って「主人」を強調するのもやめなさい。


「もしかするとオホオ村の領主というのは、ミゲルさんに命じられてフクランダー寺院の守護をするための配置だったんじゃないのかね。あそこにはラミア族の財宝が随分と隠されていたからな」

「すでにそこまでご存知だったのですか……」


 かまをかけるつもりが、見事に大正解を引き当てたという具合だ。

 白髪交じりの老騎士が妙に撫でつける様な視線を俺に送って来ると思えば、そういう事だ。

 さしずめブルカ辺境伯の密命を言い渡されていたオホオ領主の代々の秘密は、すでにその部下の中で知っている人間は彼ぐらいのものになっていたらしい。


「そういうわけだから、あんたたちにとっても悪い取引じゃないはずだ」

「本当にそうなのじい?」

「そうであるかどうか、じっくりと吟味する必要がございますな」


 代替わりしたばかりのおませ少女な領主さまを守るために、爺さんも必死で考えている。


「俺たちはフクランダー寺院の地上施設は利用させては貰うけれど、地下のダンジョンの主である彼女の生活まで邪魔立てするつもりはないからな」

「…………」

「これにナワメの森に詳しい猟師について、数を揃えて差し出してくれるのであれば、身柄の保証をしましょうというわけだ」

「身柄の保証について詳しくお聞かせください。具体的にはどんなものですかな?」


 老騎士もさらなる条件を引き出そうと俺たちを食い入るように見る。

 するとカラメルネーゼさんが俺の腕にまわした手を解きながら「主人」を強調して説明してくれる。


「こちらのふたつの条件を実行してくれるなら、ラメエお嬢さまが戦争奴隷として競売にかけられる前に、一時的にわたくしの主人が身柄を引き受けりつもりがありますわ」

「さらに君たちが望むのならば、国外にあなたたちを逃がす事が出来る様に岩窟都市の王様に掛け合う事も可能だな」


 ナワメの森の地図情報だけで現地の詳しい地理条件を理解する事はむずかしい。

 爺さんはその事をよく理解していると見えて、この交渉事がつり合いが取れているのかどうかを見定めようとしている様だ。

 そういう事であれば、


「後は爺さんが、そこの少女領主と話し合って決めればいい」


 俺の元いた日本では、国土地理院という場所が国内の地図作成に付いて一切の責任を請け負っていた。

 その地図の精度は世界のどの国よりも精巧で、地図ひとつを眺めているだけで他国ではあり得ないほどの情報を入手する事が出来るという、バケモノの様な仕上がりだった。

 だがこのファンタジー世界の地図というのは、それに比べればまったくアテにならないレベルの仕上がりだ。

 サルワタの森の事なら何でも知っていると豪語する鱗裂きのニシカさんなどは、例えば地図などまったく無意味で必要ないと言い切ってしまうほどだからな。

 この地点に起伏があり、植生はどうなっているといった情報は記されていないし、そもそも測量方法が未発達なので地図から距離間隔を得る事はまったく不可能だった。


「わが村の村長が代々持っている地図を差し出すというのであれば、不足という事ですかな」

「不足だな。地図を見たところで、そこから読み取れる情報はたかが知れている」

 

 ちなみに俺たちの元板世界じゃ、日本以外の国々で地図を管理しているのは軍隊だ。

 地図は軍事的な価値がもっとも重要なので、このファンタジー世界でも貴族たちによってより詳細な地図は秘匿されているらしいからな。

 老騎士もその事はよく理解していて、俺たちに吹っかけてくるつもりがある事はわかる。


「猟師は先の会戦で少なくない人間が死んでおりまする」

「そうかも知れないね」

「それでも人数を揃えるという事になれば、わたくしめやお嬢さまもまた協力する必要が出て来ますな」


 聞けば、ラメエお嬢さまも物心がついたころから、先代領主とともにナワメの森に入る事が当たり前の日常だったらしい。

 時には老騎士の狩猟を手伝ってマダラパイクを仕留めた事もあったのだとか。

 ああ、領主が大蛇を仕留めたという話は事実だったんだね。

 さしずめ老騎士が領主さまとなった彼女の箔づけするために、ご近所に過大な宣伝でもしたのだろう。


「本領安堵ですな」


 思慮深く熟考していた老騎士がボソリとひと言口にした。

 本領安堵というのは、つまりこの戦争が終わってもラメエお嬢さまをオホオ村の領主として保証してくれと言っているのだろう。

 すると、ずいと身を乗り出した蛸足麗人が不快感を述べる。


「……それは、いくらなんでも虫が良すぎますわよ」

「本領安堵をしていただけるのでしたら、その条件は可能でございます。戦争が終わって他国に逃がされたとあっては、お嬢さまに何ら利が無い事になります」

「生きて辱めを受けないというだけでも、十分に理があるというものですわよ?!

「それではこちらとしてもお話を呑むわけにはいきませんな。何しろ全裸卿がすでにご存知である様に、わがオホオ領主家は、ラミア族の姫君を守る事をミゲルシャールさまにお命じになられていたのですぞ。ブルカ伯さまを裏切る様に求めてきた以上は、それなりの対価を頂きませんと」


 ピシャリと爺さんがそう言うと、おどおどしたおませ少女が不安そうに蛸足美人と老騎士の顔を交互に見比べた。

 

「ハッ! 婿殿、まったく話になりませんわ」


 わざとらしく呆れた顔をして見せるカラメルネーゼさんは、腰を上げて交渉決裂だと態度で示した。

 これも取引のための演出ですわ、と言わんばかりに俺だけにわかる様に片眼をつむって見せる。

 それならこの演技に乗っかっておくのがいい。


「爺さん、悪いが俺には本領安堵の権限なんてものはあいにく無いんだよなあ。俺はただの盟主連合軍の軍監に過ぎないのでね。残念でした、他を当たってみる事にする」

「その点はこのやつがれめにひとつ策がございます」


 立ち上がった俺たちに、お嬢さまご安心めされいとつぶやいた老騎士は、居住まいを改めながらこう述べたのだ。


「お嬢さまが逆賊軍、いや盟主連合軍でしたかな? その有力者に輿入れすればよいのです。さすれば本領安堵は叶います。わがオホオ領主家は盟主連合軍に積極的に協力したという功績で、もしかすればより大きな所領を与えられる可能性すらありますぞ」

「「「…………」」」


 俺もカラメルネーゼさんも、もちろんラメエお嬢さまも、その言葉には眼を点にするしかなかった。

 これはあれか? 

 シェーンくんあたりと、ラメエお嬢さまを結婚させるという作戦かよ。


「リンドル子爵のシェーン卿はお飾りの主権者に過ぎませんな」


 ではオッペンハーゲン男爵か。

 リンドルと肩を並べる盟主連合軍の最有力候補と言えば彼をおいて他にいない。将来は何と言っても辺境伯の爵位を欲しがっている野心家でもあるしな。

 おませ少女もオホオ村も、結婚すればきっと本領安堵どころか玉の輿だだ。


「ドラコフ卿は愛妻家で知られたお方。宗教上の理由でひとりの奥さましか娶らないお方と聞いております」

「一夫多妻のこのファンタジー世界で宗教上ってどんな理由だよ……」

「奥方さまが怖いのです」


 なるほど納得だ。俺もカサンドラがイエスと言わない事は恐ろしくて実行できません。

 じゃあベストレの男爵か、セレスタの男色男爵ぐらいしかいないじゃないか。


「ベストレ領主さまはちと老いてござります。また男色卿はやつがれの尻でなければ満足しないでしょうな」


 いや爺さんの尻はいらないと思う……

 となればデルテ騎士爵は一番槍を目指して頑張っているが、貧乏領主なので奥さんを何人も受け入れるのはちょっと今の段階では難しいかもしれない。

 後は軽輩領主のみなさんぐらいしかいないので、彼らが身元引受人となって奥さんを娶ったところで、特に本領安堵になる様な可能性は無いんじゃないかね。

 その辺りの事を俺が説明すると、


「ご安心ください。辺境に名高い有力なお貴族さまが、おひとり居られるではないですか」


 老騎士は居住まいを正して朗々とそう述べた。

 すごいね。辺境広しと言えどいろんな有力者の名前を並べて全否定されたから、もうたしいた人間は残っていないと思ったよ。

 そんな事を考えながら「「誰だと思う?」とカラメルネーゼさんに質問したところ、


「あなたの事ですわ」

「えっ?!」


 呆れた顔をした蛸足美人が、不機嫌に鼻を鳴らしながらそう返事をした。

 いやいやいや、いくらなんでも成人したばかりの女の子と結婚するなんて。

 国法がそれを許しても、カサンドラが絶対に許しませんよ。それに、


「ちょ、まってちょうだいじい! わたしはこんな全裸を貴ぶ部族と結婚するなんて絶対に嫌よっ。このひと奥さま何人もいるんでしょ?! 第何夫人になれっていうのよ……」

「おーっほっほっほ、現状ですとわたくしの後、第七夫人か第八夫人が妥当だと思いますわね」

「第七! 第八!!」


 この通りおませ少女のラメエお嬢さまご本人が、顔を真っ赤にしていやいやをしているではないか。

 それは無理だから。道徳的にも無理だから。


「何も本当に結婚する必要はござりませんぞ。カタチだけ、カタチだけそういう取り決めをしておいて、後日離縁すればよいのです。奥方さまが多数おられる全裸卿でござりますれば、そういう事も可能ではないでしょうかな。お嬢さまの純潔は守られ、本領も安堵。めでたしめでたしですぞ」

「めでたしめでたし、じゃねえ!」


 俺は声を荒げてニシカさんみたいな口調で反論した。

 もちろん少女に毛が生えた様な女の子に手を出すのは絶対に駄目だ。

 けれども世間体というものがあるでしょう!

 異世界人は許しても、特にあの雁木マリは俺をけだものでも見るような眼で軽蔑するに違いない。

 アレクサンドロシアちゃんはお貴族さまの子女には不要に手を出すなと言っているし、何よりカサンドラにどう説明していいのかわからない。


「け、結婚する以上はいつわりなんて、わたしは嫌だわ」

「そこは方便でござりますぞお嬢さま。ここは耐えて、明日の幸せを得ましょうぞ」

「でも……」


 考えるんだ、考えるんだ修太。

 お前はいつからロリコンになった?

 ようじょに懸想した事なんて今までなかったじゃないか。だからこのおませ少女を相手にしても問題は無いはず。

 いいや違うそうじゃない!


「せ、せめて養子にするというのはどうかな?」

「養子では弱い。もうひと押しですぞ」

「そうよ、養子だなんて。全裸の娘として輿入れじゃ、憧れの花嫁さんになれないじゃない……」


 もじもじしているラメエお嬢さんは、うつむき加減に聞き取れないような小声で悲鳴を漏らしていた。

 ほらみろ、こんなにおませ少女が困っているじゃないか!

 考え直せ、考え直すんだ爺さん。


「それが無理なら、こちらとしては条件を呑む事が出来ませんなあ。いやあ残念でなりませんぞやつがれめは、協力したいのは山々なのですが、残念ですなあ」


 クソジジめ、このタヌキジジイめ!

 協力する気がないなら最初からそういう風に言えよ!!

 勝手にこの場で奥さんを増やしたと知ったら、間違いなくカサンドラから私刑に処されるのは確定的に明らかだ。

 

「こ、この件は持ち帰って検討させていただく事にします。カラメルネーゼさん、行きますよっ」


 そんな捨て台詞を残してあわててその場を立ち上がると、俺は逃げる様にしてオホオ主従のテントから逃げ出したのだ。




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