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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第7章 戦場でお会いしましょう
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228 無事に友軍と邂逅しました


 フクランダー寺院の遺構地下にあるダンジョンから帰還したその夕刻。

 俺たちの先行したこの場所を目指して敵中突破を図っていた男色男爵率いる先鋒の軍勢が山野を超えて到着したのだ。

 男色男爵の妖精剣士隊は戦闘要員から輜重班までが騎馬で賄われた、機動力が売りの部隊だ。

 先行した俺たちが盟主連合軍の先鋒を受け入れる用意が完了したジャストタイミングで到着させてみせるとはね。


「あっらーシューター卿、わざわざお出迎えに出てくださるだなんて。アタシに惚れちゃ奥さま方が泣くわよお?」

「作戦の経過は順調なようですね、あと俺は愛妻家なので妻を泣かせるようなことはしません」


 軍馬から飛び降りた男色男爵は、仮設テントの並ぶ陣屋の中で俺の姿を見つけると、ピンクやパープルにトゲトゲの肩パット姿で俺に挨拶の抱擁をしてくれた。

 俺も男色男爵の無事を喜んで素直に軽くお貴族さまのご挨拶めいたものをしてみせたけれど、いつか見かけた事のある男色卿の部下たちも、揃って欠員は存在していないらしい。


「まったく。オコネイルさんはいつまでわたくしたちを待たせれば気が済むのかと、ずっと待ちぼうけを食らっておりましたわ。三度もお茶を沸かし直すハメになってしまいましたわね」

「顔を合わせればすぐに嫌味を言うところ、ネーゼちゃんは本当にイケズのままねぇ。そんなんじゃアンタ、いつまでたっても貰い手がいないわよお?」

「おーっほっほっほ! わたくしはあなたとは違いましてよ? いつまでもあるとおもうな、売れ残り、ですわ!」


 顔を合わせたかと思えばすぐこれだ。

 ソープ嬢の資産を運び出すために男色男爵の到着を今か今かと待っていたカラメルネーゼさんは、さっそく貴族軍人時代の同期を見つけると、嫌味の応酬をはじめてしまうではないか。

 これみよがしに俺の腕に手を回して自信満々の顔をして見せると、男爵が「あらやだ」と野太い声で驚いた顔をしている。

 ちなみに、俺と蛸足麗人の間では驚く様な事は何も起きていないので、これも用意周到なる彼女の既成事実作りに過ぎない。


「お疲れのところ申し訳ないのですけれど、今すぐ使える人間を数十ばかり貸してくださらないかしら?」

「あらあ、何に使うのかしらあ」

「この寺院の所有者さまと、夫が交渉を持ったのですわ。駐屯中、いくつかの条件を呑む代わりにこの寺院の遺構を自由に使っていいと」

「寺院はうち捨てられた要塞跡地だと聞いていたけれども、所有者のお貴族さまなんていたのねえ」


 カラメルネーゼさんの言葉だけではたぶん何のことやら男色男爵には伝わらないだろう。

 詳しくは後で説明するとしてかいつまんだ補足を俺が入れて。


「地上にはいませんでしたが、地下に権利者のご遺族がお住まいだったのですよ」

「戦争には不測の事態がつきものだわあ。それじゃあご遺族の方の協力を得るために、そこのアンタたち、テント設営が終了したらシューター隊の指示に従いなさあい!」


 ひとまず男爵の剣士数十人と、俺たち別動隊の手の空いた者をかき集めて、ソープ嬢の遺産を地上まで運び出す作業に取り掛かる事になった。

 作戦の陣頭指揮を執るのは副官のひとりという事になっているタンヌダルクちゃんと、カラメルネーゼさんのふたりが担当する。


「それであの子、いつからアナタの妻になったのかしらあ?」

「なってません」


 厚ぼったい唇を尖らせて「そうは見えないけどぉ?」などと口走っている男色男爵の事はこの際無視をしておく。相手にすると思うつぼだ。


「それで、作戦全体の進捗はどういった感じですかねえ」

「先鋒部隊の進撃は予想通りといったところかしらあ。ドラコフ隊の行軍は、後方部隊が少し予想よりも遅れているけれど、おおむね順調よう」

「後方部隊に遅れが?」

「補給部隊を狙って、ブルカ同盟軍側の妨害工作が目立っているのよねえ。本体との連絡補給線を遮断する目的で、どうやらゲリラ的に少人数による襲撃が繰り返されているわあ」


 何事も予定通りとはいかないらしい。

 そこで男色男爵は主だった妖精剣士の分隊長クラスをかき集めて、次々とテント設営の指示や馬たちを休ませるように号令をかけていく。

 そうしてぐるりと周辺を見回したところで「ご主人さま」と小声をかけながら、男装の麗人が駆け寄ってくる姿が見えた。


「本部設営テントにて、諸卿のみなさまがお待ちです」

「ありがとう」

 

 どうやら行軍に疲れた妖精剣士隊をねぎらうための用意は完了した様だ。

 男色男爵は得意満面の笑みで、


「アタシの送り出したベローチュは役に立っているかしらあ?」

「おかげさまで俺の側に付かず離れず、いつもよく働いてくれていますよ」

「それじゃあもう手は付けたの?」

「つけてません」


 何ですぐこういう話をしたがるかなこの男色は。

 俺たちのヒソヒソ話を耳ざとく聞いたらしい男装の麗人は、直立不動の姿勢でおっぱいを突き出しながら、褐色顔を赤面させていた。


「この子は一族の中でも秘蔵っ子なのよう。アタシが直接よく鍛えた剣士でもあるから、戦場にも斥候にも護衛にも役に立つはずだわあ」

「…………」

「ありがとうございます、ありがとうございます。必ずやオコネイルさまに、元気なお子をお見せする日もあるかとおもいます」

「ないよそんな日が来る事は……」


 本来なら俺がいいそうな口ぶりで、男装の麗人が感謝の言葉を口にしている。

 それこそカサンドラの口癖ではないけれど、何事にも順番が大事だからね。奴隷が俺たち家族の最初の子供でも作った日には、アレクサンドロシアちゃんに殺されてしまう。


 しかしこの馬鹿げたやり取りも、もしかすると意味があるのかも知れない。

 数日ぶりとはいえ顔を合わせた旧主従は、すっと身を寄せると「誰それがやられた」という短いやり取りをしているのを耳にした。

 おどけた調子の背後には優しくないファンタジー世界の現実と言うか、俺たちの現状が横たわっているのだろう……

 妖精剣士隊の見知った顔に欠員がいないと思ったのは、どうやら俺の見落としか、知らない誰かが戦死していたという事なのだ。


「と、とにかく天幕の中へ」

「アンタたちもこちらに来なさあい」


 本部仮設テントの前にやってくると俺と男装の麗人がまず天幕の中に入り、続いて男色男爵とその幹部たちが続いた。

 中ではすでに待機していたデルテ騎士爵以下の軽輩諸侯のみなさんや、大正義カサンドラたちサルワタ勢の副官クラスが居並んでいるのが見えた。

 一斉に立ち上がると、みんなで揃って右手を胸に付いて見せる。


「楽にしてください、無事に先鋒のオコネイル隊が到着しました。作戦はおおむね順調だそうですよ」


 おおっという声が一同から湧き上がるのを確認して、ニシカさんに目配せをする。

 中央に置かれた折り畳みのテーブルに地図が広げられて、みんながそこに顔を突き合わせた。

 では軽く状況報告と情報の共有だ。


「現在の俺たちがいる場所がここ、フクランダー寺院の遺構ですね。すでに要塞として使われていた主だった場所の探索は完了して、大きな脅威がないことはわかっています」

「こちらもフクランダー寺院に続く進撃途上にある領地は、おおむね撃破したわ。途中で周辺領主をかき集めた混成部隊といち度だけ交戦したけれども、それ以外は大きな抵抗も無いのよねえ」


 リンドル川西部戦線に動員された諸兵の数は五〇〇〇にものぼる大軍だが、フクランダー寺院はこの戦域の中央に深く討ち込まれた楔の様な形になっている。

 その事を地図上で眺めていればよくわかるのだが、まさに辺境開拓黎明期には河川域から離れた場所に合って極めて重要な要衝であることがよくわかる。

 ちょうどこの場所から周囲にむかっていくつもの開拓村がもうけられ、歴史を重ねる毎にその隙間を埋める様にして新たな開拓村も作られていった。


 カサンドラとハーナディンが協力して友軍を示すコマを指示通りに配置していくと、南部のリンドル領から北に向かって一本線になる様に味方の占領地が形成されている事が読み取れた。


「本隊は今、我々よりも後方の三郷ほどの場所を移動中との事です。現状では会戦に参加しなかったブルカ同盟軍の兵力が散って、ゲリラ的に補給線に攻撃を加えるという戦法を取っています。我々がモッコの村の手前で戦った敵がおおよそ一〇〇〇あまりの軍勢だった事を考えると、この土地にはまだ一〇〇〇あまりのブルカ同盟軍の兵力が存在している事になります」


 褐色お肌にモッコリ頭の剣士は男色男爵の幹部なのだろうか、男爵の代わりに指揮棒を手に持つと、ポンポンと地図上の一点を叩いた。

 この辺りの経緯は男爵が先ほど口にしていたのと同じ内容だが、叩かれた地図にはオホオ村と書かれているのを見て、どこかで聞いた名前であることを思い出す。

 オホオ村というのは確か、ソープ嬢のところに生活必需品を届けている行商人とやらがいた場所だったな。


「するとオホオ村の抵抗勢力もすでに撃破済みという事でしょうかね。後発の部隊が占領作戦を実施中でしょうか」

「そうねえ。あそこの領主は年端も行かない女の子だったけれど、果敢に抵抗をした後は降伏したわあ」

「するとその女の子はご存命で?」

「ラメエちゃんに興味があるのかしらあ」

「ちょっとだけ……」


 別に深い意味は無いですよ? そこの男色、変な目で俺を見ない!

 話を続けてくださいと言葉を発すると、モッコリ幹部が首肯してふたたび指揮棒を指し示した。


「問題は一〇〇〇の敵を打ち破ったとは言っても、この戦域にブルカ同盟軍の兵力が一〇〇〇余り残っているという事実ですね。それからブルカ領軍の援軍も加味しなくてはいけない。そこでオッペンハーゲンのドラコフ隊が到着次第、我々はただちに部隊を再編制した後、三方向に進撃を開始する予定です」


 敵に息継ぎをさせる暇を与えては、ブルカ同盟軍側にも部隊再編のチャンスを与えるという事になるのだ。

 するとデルテ騎士爵が手を上げて質問をする。


「その一〇〇〇の敵兵はどこにいるのですかな、オコネイル卿?」

「わからないわねえ。これまでの敵の戦い方を見ていると、自領に残って戦いを挑んだ者とそうでない者、ふたつに分かれていると言えるわあ」


 不安そうな顔をしているカサンドラ、その隣で片眼をつむって腕組みをしているニシカさん、血気盛んに次の戦場を求めているデルテ卿たちの顔ぶれを俺は見回す。

 どうもフクランダー寺院に至るまでの俺たちの作戦は上手くいきすぎている気がするのだ。

 そのところどう思うかと、背後に立っていた男装の麗人に小さく質問をしてみると、


「出来るだけ遅滞行動をとりながら我々の主力をこのリンドル川西岸戦域に貼り付けさせようという意図が見え隠れしている気がします、ご主人さま」

「やはりうまくいきすぎている、という気がするな」

「であるならばご主人さま、この稲妻作戦の勢いがあるうちに一気に各個撃破をしなくてはいけません。敵が何を意図しているのかがわかればこちらも手を打てるというものなのですが、自分にはそれが……」


 まだわからないと言いたいのだろう。

 ふむ。補給線を寡兵ながらもしつこく狙っている意図というのはやはり気になる。


「恐らくどこかのタイミングで残りの兵力を集結させて戦いを挑んでくることは間違いないわあ。ただし今の段階で残存兵力すべてをぶつけて来ても相手は一〇〇〇、こちらは分散しているとは言っても五〇〇〇、アタシたちに勝てない事は眼に見えているはず」


 男色男爵にはそう先の展開が見えているらしい。

 すると軽輩諸侯のみなさんたちが、次々とそれに釣られて意見を口にする。


「という事は、やはり進撃路の途中で敵は楔を打ち込んでくるつもりがあるのは間違いないでしょうな全裸卿」

「では、焦ってこの先ブルカ同盟軍側の領主が打ち捨てた無人の領地を手に入れた辺りで、我々の補給線は伸びきってしまう。これは罠という事ですぞ全裸卿」

「となれば、この先には強力な敵はおらず、我々の背後に敵が集結をしているという可能性がありますな全裸卿、いかがなさりますか」


 全裸卿、全裸卿うるさいよ!

 俺は衆人の注目がこちらに集まっている事を感じてちょっとドキっとした。

 ここでの俺は前線指揮官ではなくて軍監という立場なんだけど、どうも決断を迫られているような雰囲気が形成されつつある。

 すると今まで黙っていたニシカさんが片眼を開いて地図に視線を向けた。

 そうして一点を指し示しながら俺たちにこう言ったのだ。


「この森があやしいぜ。背後が山岳地帯で森の中は行軍にも不向きだ、たいして肥えた土地もないからと、今回の占領作戦では後回しになっていた場所だろう。戦士を隠しておくには最適なんじゃないか、ん?」

「なるほど、確かに怪しいですね」


 地図上で言えばリンドル川西岸戦域の左側、ブルカ領と山岳地帯の分水嶺で領域を分け合っているその辺りは、特に鉱物資源が取れるわけでもない寂しい寒村が連なっているばかりの土地だ。

 しかもサルワタの森とは違って起伏の大きい森林地帯が横たわっているので、ようじょも戦略的に優位度が低いものだと判断していた場所だ。

 たぶん一気に周辺の主力部隊を撃破した後も、占領作戦が実施されるのは最後に予定されていたエリアだった。


「そもそもアタシたちの考えた稲妻作戦の骨子は、リンドル川の聖域化を目指したものだったわあ。ブルカ伯の工作員が河川による補給路を遮断しないために、川の沿岸にそって安全回廊を確保しようとするもの」

「だから攻略作戦はみんな東側に向いていたというのはありますね……」

「ニシカちゃんが言う通りだとしたら、残りの一〇〇〇の兵力はアタシなら確かにこの森の辺りに伏せさせるわねえ」


 俺は男色男爵の口にする思考を聞きながら地図を睨み続ける。


「それだと、どのタイミングで攻撃を仕掛けるかですよね。補給が切れたところを攻撃してくるのか」

「アタシたちはここまで、携帯持参した食糧だけでやりくりしてきたわあ。という事はそろそろどこかに連中がお出まし、という事になるわねえ」


 どこかで完全に補給路を遮断する一撃を加えて食糧難に陥った俺たちを、この東部の森林地帯から敵がわさわと出てくるという事か。

 補給が届かない軍隊は弱いのは、誰かに説明されるまでも無く簡単に理解できる事だ。


「戦場で大切なのは臨機応変さようシューター卿」

「当初の予定ではリンドル川周辺の占領作戦に当たる予定でござったが、そちらは兵力に余裕があるドラコフ隊に任せる事にすれば戦力を抽出する事は可能ですぞシューター卿!」

「全裸卿、こちらから敵に気付かれずに打って出る事が出来れば、友軍の本隊主力と挟撃する事が可能ですぞ!」

「挟撃体制を作るのであれば、例えわれらが寡兵であっても可能。さあ閣下、ご決断を!」


 男色男爵にデルテ卿だけでなく、諸侯に奴隷にみなさんまでがこちらに熱い視線を送って来る。

 ハーナディンまでがその輪に加わっているところを見ると、決断は間違いじゃないんだろう。

 そうしてニシカさんも片眼に鋭い意志を浮かべながらもニヤリとして見せた。


「いいぜ、オレ様は相棒に命を預けているからな。お前ぇの決断に従うぜ」


 ブルカ同盟軍側にとってここはご当地だ。

 地の利は敵にある事は理解しているけれど、こちらもセレスタという山野の起伏多い土地での行軍をものともしない山岳騎兵の妖精剣士隊がいる。


「よ、よし。それではオッペンハーゲンのドラコフ隊がフクランダー寺院に到着後、妖精騎士隊と別動隊を糾合して森の背後を叩きましょう」

「「「応ッ!」」


 男色男爵を筆頭に、諸卿たちが野太い声で返事を飛ばした。

 俺たちが速攻する事にこだわっている様に、敵は持久戦にこだわっているからな。


 俺はクレメンスを呼びつけると、総司令官マリアツンデレジアとようじょ宛に、敵が潜んでいるだろう森林地帯に侵入して背後を突く旨を連絡する手はずを整えてくれと命令した。


「了解だす。伝令は早馬を使うだすか、伝書鳩を使うだすか?」

「男色男爵のところの妖精剣士隊に、伝令犬というのがいたはずだ。使わせてもらえるか確認を取ってもらえるか? 駄目なら確実を期すために早馬を使おう」

「わかっただす。何ならおらが馬を走らせてもいいだけれども」


 クレメンスは無い胸に右手を付いて最敬礼をして見せたけれど、それはやめておいた方がいい。


「補給線を狙って敵のゲリラが出没しているからな、わざわざお前に危険を晒すわけにはいかない。より戦士の訓練を受けたものが適任だろう」


 ついけもみみにしてしまう様なノリでわさわさとクレメンスの頭を撫でてしまったら、そばかす顔を朱色に染めて彼女は逃げ出した。

 意外とウブだったクレメンス。許してクレメンス。


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