217 チャージ・オブ・ビューティー 4
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「アンタにはこの周辺の地理に詳しい者の人選を命じるわあ。協力しなさあい?」
オホオ村を占領した男色男爵は、村長屋敷の食堂で腰を落ち着けるとさっそく捕虜のラメエ嬢に命令を下した。
ところがその命令を耳にした途端に捕虜第一号のジョンコナーは声を荒げる。
「いけませんぞラメエ卿! 王臣たるもの、逆賊に協力をするのは国王陛下への背信にあたる事です。絶対にあってはならない不義不忠ッ」
「黙りなさあい!」
問答無用でスラリと長い脚で蹴りつけた男色男爵によって、捕虜一号ジョンコナーは転がった。
彼はモッコリ頭の褐色剣士たちの尋問に応じる事も無く、ひたすら殴るけるの暴行を耐えていたのだった。
明らかにブルカ辺境伯の軍勢から派遣されてきたと思われるこの軍監は「捕虜になるぐらいならいっそ死を!」と騒ぐばかりでいただけない。
しかし自殺する事は女神様の信徒のひとたちは禁止されているらしいので、自分で舌を咬み切って死ねないのだ。
こうなるとかわいそうな捕虜一号ジョンコナーは、騎士修道会が盟主連合軍に派遣している医療従事者がポーション尋問をするまで耐えなければいけない。
彼は俺がよく知っている元いた世界流の手荒い尋問を受け続けるのだった。
「アタシが聞いているのはラメエお嬢ちゃんなのよ。アンタの志は立派だけど、黙っていれば次に同じ眼に合うのはお嬢ちゃんなのよお」
「くっ、だから捕虜になるのは嫌だったのだ……いっそ殺せ、殺してくれ!」
バキッボコッ。
なおも抵抗しようと立ち上がりながらタックルをしようとした、見上げた根性のジョンコナーである。
しかしモッコリヘアの褐色剣士がすかさず殴る蹴るをして取り押さえたので、側にいて黙り込んでいたおませなラメエ騎士爵は血色を悪くさせながら視線を外したらしい。
「……い、嫌よ。どうして逆賊のあんたたちなんかに、わたしが従わなければならないの」
「アタシたちは逆賊ではないけれども、そんな事はどうでもいいわあ。そこの爺さん、この娘が安泰ていてほしいのならば、アンタが代わりに協力者を差し出しなさい!」
相手が頑なに殻にこもっているのならば、その保護者である老騎士を攻略するのが一番だ。
さすがに成人したばかりのおませな少女をいたぶる気にはならなかった男前なオネエは、老騎士を一瞥してそう命じたのである。
「ははあ。オコネイル男爵さまの仰せのままに……」
「じい、あなた逆賊に協力するつもりなの?! わたしの事はどうなってもいいから、国王陛下への忠誠はしめさなければならないのよ! 馬鹿なの?!」
「これもお嬢さまをお守りするためでございます。爺めをお許しください……」
「駄目よ、大切な領民を逆賊のために働かせるなんて事は絶対に許されないわ。そ、それだったら、わたしを道案内に使いなさい。わたしの体はどうなってもいいけれど、心まではリンドル御台に捧げるつもりはないんだから!」
「お嬢さまいけません。お嬢さまっ。うっうっ……」
「じいッ……」
手足を縛られたままで身を寄せ合いながら泣いているラメエお嬢さま主従を見て、ゲンナリとしてしまった男色男爵である。
「もういいからわかったわ。明日の出立までこのお嬢ちゃんを自室に軟禁しておきなさあい。爺さん、裏切ればどうなるかわかっているわねえ?」
「仰せのままに。むしろお嬢さまのお命をお助けいただけなければ、最後まで抵抗したこのやつがれめの死体が転がっています……」
一礼して退出した爺さんにようやく満足した男色男爵である。
装備をいったん解いて身綺麗に体を洗った男色男爵は、改めて服を着てお化粧をし直すと、重たい甲冑のままで睡眠をとる事にした。
隣国との国境で戦っていた時は女領主も蛸足麗人も、みんなこうして甲冑姿のまま寝るのが当たり前だったそうだね。
いつ何時敵襲があるかもしれないので、備えあれば憂いなしだ。
◆
翌朝、太陽が山々から姿を現すよりも早くに進軍を開始した妖精剣士隊である。
軍監のジョンコナーは貴重な情報源として俺たちも期待の注目捕虜なので、彼はドラコフ隊の機動歩兵と帯同しているらしい騎士修道会の医療従事者に預ける事になった。
楽しいポーション自白を受けるためである。
「しかし行軍進路で思ったような抵抗が見られないので、徐々に後続との間隔が開きつつあります。どうされますかご領主さま?」
オホオ村を出発して数刻。
かの村での防衛陣地こそ一見すると工夫のこらされたものだった。
けれど以後の集落や村々では領主不在であっけなく通過できるものか、あるいは少人数が通せん坊をしてみせてあっさり排除されるか。
ひどい村になると領主どころか村人たちまでも逃げ出して、閑散と放置された場所までが存在していた。
「一定の連携は維持しなければいけないけれども、昨晩上陸作戦の行われたモッコの村までは、とにかく前進しなければシューター卿が孤立してしまうのよお」
「確かに。全裸卿の率いられる部隊は、総勢合わせてもせいぜい五〇そこそこの軍勢でしたな」
「今は罠である事を警戒する以上に、シューター卿が全滅してしまわない様に先を急ぐべきではないかしらあ」
馬上にてそんなやり取りをした男色男爵の主従のすぐ後ろで、捕虜として水先案内人をする事になったラメエお嬢さんが怪訝な顔をしていたそうだ。
「何よその全裸卿というのは。本当に国王陛下にお仕えする貴族の矜持があるのかしら……」
「お嬢さま、わがオルヴィアンヌ王国には星の数だけ貴族がおりまする。さすれば古い伝説にあるの全裸を貴ぶ部族の末裔が貴族の末席に加わっていてもおかしくはないでしょう」
「頭のおかしい貴族なのかと思ったけれど、全裸を貴ぶ部族の末ならば納得ね。これから冬になるけれど、風邪は引かないのかしら?」
「馬鹿と全裸を貴ぶ部族は風邪を引かないと申しますので、大丈夫でしょう」
後日の祝賀でその時の様子を嬉しそうに話してくれた男色男爵に、俺はがっかりしたものである。
その場で聞いていたんなら否定しろよ!
俺は全裸を貴ぶ部族と思われているかも知れないが、風邪ぐらい引くに決まっているだろう!!
「シューター卿がそのお話を聞いたら、きっと恥ずかしがるわあ。だって彼、今は服を着ているのだものお」
当たり前だよ!
◆
しかしそんな呑気な進撃珍道中が繰り広げられたのも、翌日を迎えるまでの事だったのだ。
ブルカ同盟軍に参加する領地たちも、何も無為無策で自領を放棄して後方に下がったわけでは無かったのだろう。
「ふうん、ようやくブルカ同盟軍のお出ましというわけねえ」
眼前に広がるのは小高い丘陵地帯の間に広がる森だった。
リンドル往還でよく見かける様な大きな起伏がある山脈というよりも、本当にちょっとした小山という方がいいだろう。
しかしその丘陵地帯は木々で覆われていて、谷間の部分がもっとも深い森となっていた。
ご丁寧な事にその森は谷間に沿っていくらか引き込む様に木々が覆い茂っていて、中央がちょっとした広場の様になっている。
その場所にいくつもの軍旗を並べた急場の砦の様なものが出現したのである。
「伝令、直ちに第二陣のドラコフ男爵の元に連絡を飛ばしなさあい!」
「内容は如何いたしますか?!」
「モッコの村に向かう進撃経路の途上にて有力なる敵部隊に遭遇! 数は騎歩一〇〇〇余り、森を遮蔽物にして野戦築城をしている模様。敵のリンドル川西部戦線における主力部隊と思われる。こう伝えなさあい!」
「イエス・マーム!」
モッコリ頭の軽騎兵がひとりその命令を受けると、ただちに馬を返して第二陣であるドラコフ卿の機動歩兵部隊の元に駆けだした。
「ドラコフ隊の先陣は、今頃どの辺りにいるかしらあ」
「そうですなあ。先頭部隊はわれわれよりも、だいたい村ひとつあまり後方でしょうか、機動歩兵三〇〇とそれを守る騎兵数十といったところです」
この時、男色男爵は野戦陣地に籠るブルカ同盟軍を平原に引きずり出す事を考えていた。
寡兵で敵の陣地を攻撃すれば、当然侮った敵は小うるさいハエを追い払おうと、出撃してくることが眼に見えているからだ。
問題は全力で叩きつぶしてしまおうと敵が兵力の全てを集結させた時は、妖精剣士隊だけで対処しなければならなくなる事だ。
「アタシの妖精ちゃんとドラコフ卿の先発部隊を合わせても、せいぜいが五〇〇とちょっとというところかしら。ドラコフ卿の本隊が到着するまでしのげるかしら?」
敵陣の全貌を凝視しながらも面白がるように部下へ質問した男色男爵である。
すると馬上で背筋をピンと伸ばしたモッコリ部下のひとりが、さも当然だと言わんばかりに男色的模範解答を口にしたそうだ。
「お任せくださいマーム、われわれはご領主さまによって鍛えられたエリート妖精です! 軽騎兵の機動力でもって敵を翻弄し、必要があれば機動歩兵の布陣する場所まで誘引してみせましょう」
「その答えを待っていたわあ」
ご満悦の男色男爵は、ビシリと槍を部下のひとりに差し向けた。
「そこのアンタ、ただちに数名を率いてを率いて右翼丘陵地帯の山上に登頂可能か斥候に向かいなさあい! 機動歩兵が合流したら、手勢を率いて緊要地形を確保するのよッ。あの敵陣を攻略するには山上から逆落としが有効よお」
「アイ・マーム!」
「それからそこのアンタ、分隊を率いて敵の挑発してきなさいなあ」
「罵声を浴びせますか、騎射で陣地に攻撃を仕掛けますか?」
「どっちもやりなさあい! 敵のおケツに特大の魔法をブチ込んでやりなさいなあ!」
「イエス・マーム!」
矢継ぎ早に命令を飛ばした男色男爵であったけれども、さすが貴族軍人上がりのご領主さまだ。
水先案内人として腕を縛られたまま馬に乗せられていたラメエお嬢さんは、オネェ言葉の男色貴族がただの男色家ではないという事を思い知らされたのである。
「各分隊、突撃陣形ヨーイ!」
「突撃陣形アイアイマーム!!!」
「第一分隊と第二分隊で突撃集団を形成しつつ、残りの分隊で斜行陣形をとるわよお」
「ラブハンマーアタックの後、包囲突撃ですな。了解であります!」
ラブハンマーというのがいったいどんなアタックなのか知らないが、英語で表すならば「P」の形をした陣形戦術らしい。
Pの頭が突撃集団の主力で、頭から垂れている縦線が斜行陣形になっている。
先頭集団が敵陣に衝突したところで、この垂れている帯が敵の背後に向かって側面攻撃を実施するというものだった。
よく考えているね、確かにハンマーの一撃からラブ包囲作戦だ!
「ご領主さま、突撃陣形完了しました! これより騎射分隊による敵陣への挑発行動を開始します!」
「やってちょうだい」
消化不良気味の進撃を繰り返していた男色男爵である。
モッコリ騎士の騎射分隊が、うまく敵陣の前を走り抜けつつ挑発行動を繰り返す。
やがて陣地の柵の向こう側から応射が行われたのちに、敵側も騎兵隊を先頭に押し立てて軍勢がぞろぞろと出現したのだった。
甲冑のデザインもバラバラ、軍旗のサイズもまちまち。
彼らは男色男爵たちが突破をしてきた空洞地帯の領地から集まった、軽輩領主たちの軍勢である。
「ご領主さま、敵がおめおめと釣られました」
「ああン、いいわあ! バックから突きまくるしかないわねぇ」
「いつでもご命令を!」
ここに来てようやく骨のありそうな敵に遭遇した彼は、野太い声で厳かに命令を下したのだった。
「華麗に突撃なさい」




