祝500万PV感謝&記念SS 第1弾 ぼくとシューターさん
エルパコの日常回になります。
本編を追いかけておられる方は、読み飛ばしていただいても問題ありません。
むかしあるところで、ぼくのおとうさんとおかあさんが猟師をしていました。
おとうさんは森へ獅子狩りに、おかあさんは川へ大蛇狩りに出かけました。
おかあさんが大蛇をおびき寄せるために兎を生餌に罠を仕掛けていると、ブッシュの中からおぎゃあ、おぎゃあ、と大きな泣き声が聞こえてきました。
おかあさんが驚いて槍でブッシュを突っついてみると、なんと中からあかちゃんが出てきました。
あかちゃんには獣耳がついていました。
「それがぼくだよ」
とてもまじめな顔をして、頬杖をついているシューターさんに向かってぼくはそう言った。
「そうか、エルパコも大変だったんだな」
「うん」
「運が悪ければそのまま生涯を終えていたかもしれなかったんだな。だがエルパコ、君はとても運がいいぞ。救われた命だから、幸せにならないといけないぞ」
「う、うん」
シューターさんのごつごつした手が伸びてきて、ぼくの頭をわしわしと撫でた。
「痛いよシューターさん」
「おっと、すまんすまん。でも、幸せにならないとな」
「うんっ」
ぼくが口を膨らませて抗議の顔をすると、シューターさんはあわてて頬杖を外して謝罪してくれた。
眉にしわを寄せて白い歯を見せたシューターさんの顔は、とてもかっこよかった。
場所は昼過ぎの酒場で、がらんどうの店内での事だよ。
今日はシューターさんとふたりで、リンドルの繁華街に遊びに来たんだ。
外交団の交渉の合間、少し時間が出来たからっていうのでシューターさんに声をかけてもらったのさ。
「おかわりはもういいのか?」
「うん。お酒はちょっぴりだけでいいんだ」
お食事をするにはちょっと遅い時間だったけれど、義姉さんやカラメルネーゼさんに手伝ってもらって女の子みたいな服を着て、それで送り出してもらった。
シューターさんはぼくを見ると「とってもかわいいぞ」って言ってくれたんだ。
ぼくは少し前まで男の子だったけれど、今はかわいいって言われてちょっと嬉しかった。
「そうか、じゃあ料理の方をしっかり食べなさい。男は黙ってちゃんこ鍋だからな」
「うん……」
本当は今日だって義姉さんが気を回してくれて、シューターさんがぼくにも何かしてあげたいって相談したら、お休みの日にシューターさんがぼくに誘ってくれるように手配してくれた事を知っているんだ。
義姉さんはとてもやさしいけれど、とても厳しいひとでもあるから「何事も順番ですから、次はエルパコちゃんの番です」と言っていたんだ。
何の順番か、むつかしい事はぼくにはさっぱりわからなかったけれど、ぼくの順番なんだから今日はいっぱいシューターさんに甘えようと思っているんだ。
「すいません。それじゃあ妻に前菜と、俺にもそれと酒をビール以外で」
「あ、シューターさんが呑むならぼくも同じのがいいよ」
「そうか? じゃあ、この酒を。ハチミツの酒というのを頼む」
店員さんはぼくを見て、
「とってもかわいらしい奥さんですね」
「ははは、ありがとうございます。俺の自慢の嫁さんですよ」
シューターさんは気恥ずかしそうにしてそう言ったんだ。
ぼくも実は恥ずかしかった。だって、ぼくはほんの少し前まで、女の子に見られるのがとっても嫌だったんだ。
ぼくは猟師で、とうさんとかあさんはいつも「立派な猟師になって嫁さんを貰い、とうさんとかあさんを安心させてくれ」って言ってたからね。
とうさんとかあさん、ぼくはシューターさんのお嫁さんになったと聞いたら、驚くかな?
「こうして、ふたりきりで時間を過ごすのも久しぶりだな」
「うん」
「いつだったか、湖畔の城を建設する時に一緒に石運びをしたり材木を運んだりした時以来じゃないかな。まだ半年も経っていないのに、ずいぶんむかしの話みたいだな」
「そうだね」
シューターさんはぼくに白い歯を見せて、残りのビールを口に運んだよ。
するとシューターさんは急に白い歯を引っ込めて顔をしかめたんだ。
「麦の粕が喉に引っかかるよな。何でみんなこれをありがたがって呑むんだよ」
実はシューターさんがビールをあまり好きじゃないってぼくは知っているんだ。ニシカさんがいつもこのお酒を呑んだ後に悪酔いをしているから、きっとそれで嫌いなんだ。
ビールは黄色い蛮族の飲み物だって、はっきりわかるんだね。
「お待たせしました。本日ひとつ目のメイン料理は、マスと擦り下ろしたイモの重ね焼きですよ。温かいうちにお召し上がりください」
「ありがとう。このハチミツ酒に合うかな?」
「ええもちろん」
こんな贅沢な料理、ぼくは今シューターさんとふたりっきりで食べてるんだ。
だって、ぼくはシューターさんの第四夫人だからね。
シューターさんは嬉しそうに軽く手揉みをすると、目の前に置かれた大きな皿にナイフを入れたよ。
手際よくナイフで切り分けると、取り皿にぼくの分を乗せてくれるんだ。
そのあと自分の分もよそって、そうして口に運んだ。
「うん。ベーコンの油が染み出してなかなか美味いな。香辛料も効いている」
「…………」
「どうした、食べないのか? 冷めないうちに食べなさい」
「うん」
シューターさんがあんまり美味しそうに食べているのを見ていると、ぼくのお腹もぐうと鳴いちゃったよ。
すると、おやっという顔をしたシューターさんが、自分の口に運ぼうとしていたフォークを止めて、ぼくの方にそれを持ってきたんだ。
「あーん。ほら、あーん」
「え、あ……自分で食べれるから」
「早くしないとフォークから落ちちゃうからな。口を開けなさい」
シューターさんがそう言って、テーブルごしにぼくにマスの重ね焼きを食べさせてくれたんだ。
ちょっと恥ずかしくて、ぼくには味なんてわかんなかったや。
でも、シューターさんと一緒にご飯を食べるのがとても楽しくて、それからもシューターさんに食べさせてもらったよ。
「何だかぼくたち、男のひとと女のひとみたいだね……」
「もちろんエルパコはかわいいけもみみ女の子だからな、当然だな」
「でも、少し前まで男の子だったよ」
ちなみにハチミツのお酒を飲んだシューターさんはびっくりしていたんだ。
「ビールだこれ?! めっちゃ似非ビールだこれ?!」
甘いお酒を期待していたら、違ったんだってさ。
人生はそんなに甘くないって教訓だね、シューターさん。
※ 当初、活動報告に掲載しておりましたが、場所がわかりづらいとのご指摘がありましたのでこちらに転載しました。




