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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します
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138 階段の白き嶺城 5


 清潔な布を使って俺の濡れた短髪を丁寧に拭いて乾かす。

 しかる後にオリーブの香油を使って髪を撫でつけてゆき、仕上げとばかり最後に固形の鬢付け油を使って前髪の付け根にを立てていく。

 同様の手順を正妻カサンドラとようじょにも施してもらっているわけだが、これはどこからともなく雁木マリが連れて来た、お貴族さま専用という床山によってやってもらった。


 むかし俺が時代劇の斬られ役として舞台や撮影の現場に出入りしていた頃、この床山さんのお世話になった事があった。

 聞けば役者さんや力士の髪の毛を結う仕事をする人々の事を床山さんというらしい。

 特別な資格は必要ないという話を床山の親方に聞いたことがあるけれど、やはりそこは熟練の技が必要な世界である。

 力士は髪の毛をマゲにしているし、歌舞伎や時代劇の世界でもそれは同じで、女性の髪をうまく結い上げるのには、それ相応の技術が必要なのも同じというわけだ。

 してみると、俺たち気が付けばお貴族さまの仲間入りをしていたハーレム大家族では、当然の様にお貴族さまらしい髪型というのが儀礼の場では必要となるわけである。


「シューターは髪の毛が短いからこんなもんでいいでしょうね」

「マリの方は大変そうだな。いつものサイドテールというわけでにはいかのか?」

「当然ね、仮にも王都のかなり高貴なご出身のマリアツンデレジア様にお会いするのだから、失礼があってはいけないわ」


 キャバクラ嬢の盛り髪を連想してくれるといいかもしれない。

 前髪をストレートに分けているだけでなく、うなじ髪を三つ編みにして垂らし、サイドテールはふわりとカールをかけて肩にかかる様にゆったり垂らしている。

 これにインナーのレースをあしらったミニスカートと、ツイストバストを強調する前開きのフレアロングドレスである。

 いいね!

 雁木マリのパーソナルカラーというわけでもないのだが、空色のドレス姿はとても様になっていた。

 ただしせっかくのツイストバストも、グリコのおまけ程度の膨らみしかないので残念だ。


「シューターさん、わたしはこういう格好があまり似合わないと思うのですけれど……」

「何を言っているのカサンドラ義姉さん、あなたにこそこういうスタイルはぴったりだわ!」

「そうでしょうか。そう思いますか旦那さま?」

「いいね!」


 いつも毛先を編み上げているカサンドラも、本日は後ろ髪を大きなお団子にする様にして束ねていた。

 こちらはキャバ嬢の盛り髪というよりも、知性あふれる行動派の貴族夫人といった感じだろうか。

 その上で、同じく胸元がツイストになったタイトミニドレスは、健康的なカサンドラの体によくフィットしていて、上品な仕上がりであった。

 ブルカで購入した紫色の布を使ったストールを羽織れば完成。

 胸元もタンヌダルクやベローチュと比べれば小ぶりではあるけれど、十分に女性らしさを強調する仕上がりと言える。


「どれぇ! ッヨイの髪の毛はふわふわなのです」

「本当ですねえ。俺の故郷ではドリルヘアーというのですよ、こういうのを」

「ドリルヘアーですかどれぇ?」

「よいドリルになりましたねッヨイさま。結婚式にでも出席するみたいです」


 うわようじょドリル。

 金髪のふわふわカール髪を丁寧にヘアアイロンをかけて縦巻きロールに仕上げたようじょは、どこから見ても高貴な身の上である。

 気品溢れるようじょの衣装はノースリーブワンピのフレアリボンドレスだった。

 黒と赤であしらった大胆な色合いは、魔法使いという知性あるようじょの心をひとつの芸術品に仕立てていた。

 たぶんこの場にッハイエース君がいたらハイエース、ではなくプロポーズをこの場でしているのではないだろうか。

 腰元にあるワンポイントのリボンがとても愛らしい。

 うわようじょかわいいわぁ。


 さて俺たち野郎の格好は、そこをいくとスタンダードなものだった。

 インナーの上にブリガンダインの鎧を羽織って、どこから持ってきたのか貫頭衣をかぶせられた。

 適当に洋服屋に置かれていた吊るしの貫頭衣には、見た事も無い家柄の紋章が入っているのだが、カラメルネーゼさんに聞いたところ、店のサンプル品として置かれていたものらしい。

 足元は上等な布地のズボンだが、染料が遣われているわけでもないただの白という具合で、気合の入り様が違う女性陣と比べるとかなり適当だ。

 そして腰に肉厚刃広の長剣を吊るして出来上がり。

 これと同じものを男性陣全員が身に着けていた。

 ついでにニシカさんとけもみみ、男装の麗人も野郎どもと同じ扱いなのか、俺とお揃いである。違うのは本物の男性がズボンなのに対して、彼女たちは仮にも白のタイツ姿という事だろうか。


 カラメルネーゼさんだけは自前の服装をそもそも持っていたらしく、女騎士の儀礼に従ってタイトミニドレスの上にブリガンダインを着込み、サーコートとマントという自分だけ格好いい姿なのが解せない。


「さてみなさん、身支度は出来ましたわね?」


 パンパンと手を叩く蛸足令嬢の言葉に従って、俺たちはぞろぞろと宿屋から馬車へと乗り込んだ。

 実際に謁見の間まで足を運ぶのは俺とカサンドラであるけれど、その側近として帯同が許されている二名の枠には、雁木マリと野牛の兵士タンスロットさんを指名する事にしていた。

 したがってリンドル子爵側が用意した迎えの馬車のうち、大使用のものにはこの面子が乗り込み、残りは後に続く他の馬車に乗り込む予定であったのだが……


「ンだよ、金持ちお貴族さまの馬車の癖に、狭苦しいな!」

「そうなのです。ッヨイはどれぇの膝の上で我慢するのです」

「ぼくも、そこがいいな……」

「自分は奴隷ですしとなりかな?」


 何故かニシカさんとッヨイさま、けもみみに男装の麗人が当然の様に大使用の馬車の中に強引に乗り込んできたではないか。


「狭いですよニシカさん。おっぱいを俺に押し付けないでください」

「しょうがねえだろ、文句があるなら早撃ちボーイに文句を言えってんだ」


 ニシカさんはそう言って譲らなかった。

 本来はゆったりと四人掛けで乗れる席に、後席に俺を真ん中にしてニシカさんと男装の麗人、向かいに雁木マリとカサンドラとけもみみである。

 さらに俺の膝の上にはようじょが腰を落ち着けているので明らかな定員オーバーだね!

 これが元いた世界ならお巡りさんに馬車を止められているかもしれない。


 狭すぎるのでタンスロットさんは「俺は遠慮しておきますね大使閣下」などと他人行儀な事を言って、申し訳なさそうに御者台の横に座らせてもらおうとしていた。

 まってくれタンスロットさん! 俺たち湖畔以来の友人同志じゃないか!

 そう思っていたのは一方的に俺だけだった様で、とても嫌そうな顔をして無視されてしまった。


「何で無理やり乗り込んできたんですか君たちは」


 当然の様に不満のはけ口は後ろの馬車に乗るはずだったニシカさんたちに向かうというものだ。


「もしお前らが誰かに襲われた時の事を考えてに決まってるだろう。触滅隊もリンドル貴族も信用ならねえんだろ?」

「まあ、これまでの事を考えれば、何があってもおかしくないけれども」


 ニシカさんのその言葉に、不満ながらも雁木マリは同意していた。

 その隣で不平ばかりを口にする俺たちに向かって、


「警戒の必要があったから、自分たちはわざわざ公衆浴場の個室風呂で密談をしていたのですからね。あそこなら垢すりゴブリンさえ排除してしまえば、何者の耳目も気にする必要がありません。よもや風呂場に浸かりながらご主人さまとその一党が密談をしているとは思いもしないでしょう」


 窓の外を気にしながら、走り出した馬車の中でベローチュがそう言った。

 わざわざ公衆浴場で密談をしていたのは、確かにこの男装の麗人が言った通りに監視の目を欺くためではあった。

 おかげで俺たちの馬車をただいま並走して馬で駆けているカラメルネーゼさんは、あやうく茹で蛸になってしまうところだった。

 けれども、


「シューターさん安心してください。うちの旦那さまはとても好色のお方なので、七人の妻たちを侍らせて酒池肉林を楽しんでおられるのですねと垢すりのゴブリンたちが噂していましたよ」


 冗談じゃない!

 俺が好色で酒池肉林だなんて。まだ雁木マリの胸だって触った事も無いのに、とんでもない言いがかりである。

 カサンドラの言葉に憤慨した俺の事などこの場のみんなは無視を決め込んでいる。何とか援護してくださいよみなさん……


「どれぇはこうしょくお貴族さまなのですか?」

「ち、違いますからねッヨイさま」


 ようじょの曇りなき眼がとても俺に突き刺さる。

 隣のニシカさんだけが嬉しそうにニヤニヤしていた。


「よう好色貴族」

「あんたもその七人の嫁のひとりに入れられているんですがねえ……」

「ちょ、嫁じゃねえ!」


 腹いせにニシカさんをからかってやると、黄色い蛮族はおっぱいを激しく揺らして抗議した。

 フン。大事な謁見の前なのでこのぐらいにしておこう。


「エルパコちゃん、外を見張っている限りは誰も近づいてこなかったのですよね?」

「うん、カサンドラ義姉さんの言いつけ通り周囲には誰も近づいてこなかったよ。エッチなゴブリンのおじさんが覗き見しようとしていたけれど、モンサンダミーさんと鉢合わせになって、こてんぱんにやられたんだ」


 他人事の様にぼけーっとしたまま口を開いたけもみみは、カサンドラの質問にそう答えたのである。

 ん? 傭兵モンサンダミーは個室の周辺で何をしていたんだろうね……


「モンサンダミーさんの件は大丈夫です。自分が次はないとしっかりご主人さまのありがたいお言葉を伝えておきましたから!」


 俺はそんなことを聞いていなかったし、勝手にありがたいお言葉とやらをねつ造するのをやめなさい!


 こうして俺たちはリンドル市中を見下ろす、階段の白き嶺城へと招き入れられたのである。

 俺たちの交渉ははじまったばかりだ。



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