閑話 サルワタを統べる者 序
女村長アレクサンドロシアからの視点補完になります。
貴族軍人の父とゴブリンの魔法使いの母との間に生まれたわらわは、幼少時をブルカ郊外にあるヌッギという村で育った。
父はその土地に王都より赴任してきて、母と出会いわらわが生まれたのだ。
後に生まれた妹たちは多くの魔法使いを輩出した母の出身たる名族ジュメェの血が色濃いと見えて、たいへん優れた母の後継者たちとなった。
一方のわらわは、父が貴族軍人の後継者たらんと育てたいという方針から剣を学んだのである。
魔法はそれなりに使いこなしたけれど、物心のついた頃より指導を受けた剣と馬術のおかげで、十の齢になる頃には父より推薦を受けて、ブルカに駐在する王国の兵団に騎士見習いとして入営した。
人生とはままならんものだ。
ただでさえゴブリンハーフという身の上である事に加えて若輩と侮られ、あまり辺境という場所は居心地のいいところではなかった。
諸部族が入り乱れた辺境では多くの種族からなる貴族軍人の諸子がいたものだが、ゴブリンは特に扱いが悪かった。
多くの魔法使いを出した名族ジュメェの家名であっても、中央の貴族にとっては侮りの対象でしかないのだからしょうがない。
数年の従軍を経て王都に召喚されたわらわは、国王の臣下たる騎士として叙勲を受けた。
王都ではじめ後宮の警衛をつとめたが、やがて国境線に在陣したり不穏部族の討伐に従事した。
貴族軍人の子弟が入営した場合、普通は王都周辺の勤務が普通であるものだが、やはりここでもわらわはゴブリンハーフと蔑ろにされていたらしいが、その事はさほど気にならなかった。
大人たちの悪い真似なのか、中央で権力闘争にあけくれる貴族たちの子弟とは、過ごす事が無かったからだ。
そして十六の齢で、両親より見合いの話をもらった。
男の名はダリエルパークと言ってブルカ伯に寄騎をする辺境領主の倅だった。
父もまたゴブリンの母と結婚をする様な一風変わった人間であったけれど、ダリエルパークは事の他ヒトならざる人間に好色を示す人物と見えて、出征の度に外地で蛮族の女に悪さばかりしている男だったらしい。
ただし武門貴族の誉れは高く、数々の戦場を巡ったという点ではひとりの英傑ではあった。
わらわとも知らずうちに、国境線の幕営では戦を共した事があったと見合いで知った時は驚いた。
そろそろ身を固めると覚悟を決めたダリエルパークが、そのまま最初の夫になった。
だが幸せというものは訪れなかった。
夫ダリエルパークは戦場から帰って結婚をしてつかの間に体調を崩した。様子がおかしいと修道会に診てもらえば死の性病わずらいときたものだ。
それが原因か知らぬが、どうやらダリエルパークは種無しだったらしく、病を押して蛮族の討伐に出たまま、夫はそのまま女神のお導きによって異世界へと旅立ち死んだ。
結婚生活はたったの一年。
わらわに残されたのは義理の実家という窮屈な居場所と、子を成さなかったという負い目である。
早々に国許へ退散しようと思ったが、若い義弟が家督を継げるまでは代理としてわらわは残される事になった。
むしろ義実家はわらわに迷惑をかけたと気に病んでいたのか、新しい見合いを持って来てくれた。
それがふたりめの夫、エタルだ。
齢はわらわとずいぶんと離れていたが、サルワタの開拓を進める熱意にほだされ、義実家の勧めもあって再婚を決めた。
見合いの時にわらわを慕ってくれた先妻の子ギムルは、今でも実の子の様に思っている。
このまま夫エタルと共にギムルを立派な後継者に育てようやく自分の居場所をつくれるのだと思い始めた頃。
村に蔓延した流行病で夫エタルは死に、女神のお導きで異世界へと魂を旅出たれたのである。
ようやく領内と村の開拓に目途がついた矢先の事だった。
何事も上手くいかない事ばかりのわらわの人生の中で、女神はひとつの幸福をお与えくださった。
その男は、わらわにこう言った。
「……ご期待に応える様に頑張ります」
みるからにたくましく鍛え上げられた体は、戦士そのものだった。
どこか飄々として、森をさ迷っていたというのに焦燥感の無い顔は、恐らく多くの戦場を経験した者にだけにしか出来ない達観だろう。
わらわにはそれがわかる。
数多の戦場を駆け巡った中で見た古参の騎士の中に、そういう顔をした者がいたはずだ。
名前をシューターと言った。
弓を使う者という戦士の部族にふさわしい響きだ。
わらわは女神がシューターを遣わされて、このサルワタに自らの居場所を作れとまるで仰っている様に感じたのだった。
これが女神の試練ならば、その試練に打ち勝ち、楽土を作るまでだ。
本日更新短めですが、ごめんなさい!




