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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第4章 アレクサンドロシアの野望
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96 ツダの両頭会談


 ツダ村に騎士修道会の総長が到着したのは、陽が落ちてずいぶんと時間の経過した頃の事だった。


 俺たちはというと、ツダ村教会堂の司祭さまや助祭さまが手ずから料理してくれた食卓を囲んでいた。

 サルワタでは手に入らない、ひき肉の腸詰めを使った料理の数々である。

 腸詰めの玉ねぎ炒め、冬麦と葉野菜の腸詰めのオートミールケーキ、それに煮込んだ根菜のスープだ。

 そんな腸詰めをふんだんに使った料理に、きっとここにはいない鱗裂きのニシカさんならば「うまい、うまい」と喜んだことだろう。

 まあ俺たちはここでは客人に過ぎず、騎士修道会の総長が到着するまで深酒するわけにもいかない。

 サルワタの開拓村のものより皮かすの少ないぶどう酒をちびちびやりながら、それらの料理を少量ずついただいていた。


「どうですかな、この村の名物は」

「はじめてひき肉の腸詰めを食べたが、これはなかなか美味なものだな。特に香辛料が効いていてさぞ酒がすすむであろう」

「ブルカ近郊のオークたちの村では、それぞれ味付けの違うひき肉の腸詰めを作っているのが自慢なのです」

「うむ、保存がきくのであればぜひわが村にも持ち帰りたいものだ」

「そこまで気に入って頂けたのなら何よりです」


 腸詰め料理というのはブルカ近郊でもオークたちの食文化の工夫から生まれたものらしい。

 実家が確かブルカだったはずの女村長も、これまで口にする事が無かったんだな。


 皿に分配された量が不満なのか見るからに不機嫌そうな顔をしたエレクトラを尻目に、残り少ない根菜スープを木のスプーンですくっていると、俺の隣に座ってエルパコがけもみみをピクリと動かした。

 どうやら何かの気配を察知したらしいけれど、けもみみに緊張感があまり無い様子を見ると、敵襲といった具合ではないらしい。


「……シューターさん、馬蹄」

「なるほど、マリたちが来たという事だな」

「うん」


 小声でその事を教えてくれたエルパコにうなずきかえして、俺はナフキンで口元をぬぐった。

 するとツダ村の司祭さまがおやっという顔をする。


「どうされましたか騎士さま。村の料理はあまりお口にあいませんでしたか……」

「いや、大変美味しくいただいております。……村長さま」

「ふむそうか。司祭どの、実は騎士修道会の総長が村に到着したらしい」

「おお、そうでしたか。それは我々もこうしてはおれない」


 女村長の言葉に司祭さまや助祭さまたちも、あわてて立ち上がる。

 まあ教会堂の本家にあたる騎士修道会の最高指導者がここに来たのだから、あわてるのも当然か。

 俺たちは揃って食事を中断して身だしなみを改め、教会堂の入口へと向かった。


「もし騎士どの、少々お聞きしたい事があるのですが」

「ん、何でしょうか?」


 俺が剣のベルト位置を調整していると、ごっつい豚面の中年助祭が声をかけて来た。


「気配だけで総長さまたちが村に来たのが分かったのですか?」

「いや俺にはわかりませんでしたよ、ただこの子がね」

「ああなるほど、イヌ耳の獣人騎士さまですか」

「ぼくは、ハイエナ獣人だよ。それと、騎士じゃない」

「それは失礼しました。女戦士さま」


 教会堂の入り口に出ると、俺たちは女村長とツダ村司祭さまを真ん中にして整列した。

 入口のすぐ前は石畳になっていて、そこに暗闇の中をカポカポと馬蹄を響かせる集団が近づいて来る。

 数はそれほど多くないところを見ると、わずかな護衛だけを連れて騎士修道会の総長はこのツダにやって来たらしい。

 先頭をランタン片手に馬を引く雁木マリの姿が浮かび上がり、その背後から騎乗したままのマント姿の人物が見えた。

 そして数名の屈強なマント男たちが見える。

 きっと騎士修道会の精鋭たる修道騎士なのだろう。下馬してフォーメーションでも組むかの様に総長のまわりをしっかりと警護していた。


 総長と思われる甲冑にマント姿の男が、ヒラリと馬を飛び降りた。

 年齢は五〇絡みぐらいだろうか。

 暗がりの中でランタンに照り返されて浮かんだ顔は鋭いワシ鼻に口ヒゲを蓄えた男だった。

 穏やかな眼と対照的に、眉は吊り上がっているのが特徴的だ。


「お初にお目にかかる、余は騎士修道会総長のカーネルクリーフだ。この度は遠路ご足労であった」

「わらわは、サルワタ騎士爵アレクサンドロシア=ジュメェだ。こちらこそ招きに応じてくださり、大変感謝しておる」


 お互いに名乗りを上げながらも、どちらも明確に頭を下げようとはしない。

 恐らくこの瞬間から駆け引きが始まっていたのだろう。


「そ、総長さまにおかれましては、わざわざこの様な何もない村にお越しいただき、大変恐悦至極にて――」

「よい。それでは立ち話も何だ、案内してもらおう」

「は、はいではこちらに……」


 ツダ村の司祭さまは普段の俺みたいにペコペコと頭を下げながら、教会堂の扉を開けて中へといざなった。

 それにしても、街に出かけて行った冒険者ダイソンの姿が見かけないがどうなってるんだ。

 礼拝所に向かう途中で雁木マリに身を寄せて、その事について質問する事にした。


「ダイソンは戻っていない様だが」

「彼なら、街についたその足でドロシア卿の用事のために別行動になったわ」

「何も聞いていないか?」

「知っているけれども、それはシューターには教える必要が無い事だから」


 何だそれは、かなり気になるじゃないか。

 ダイソン本人も女村長も「楽しみにしておけ」という様な事を言っていたが、こういうサプライズは気になって仕方がない。


「まあ、悪い話じゃないから」

「お、おう」


 今は会談の行方に集中しなければならない。


 俺たちは礼拝堂にある長椅子の最前面に移動した。

 騎士修道会総長はマントを翻すと、中央の祭壇の前で跪いた。

 そして両手を握り人間サイズの女神像をじっと見やった後、そのまま祈りを捧げる。


「この度の会談は、女神様のご神前で行う事にするがよろしいか」

「わらわに異存はない」

「ならばそうさせてもらおう。女神様のおられる前で、腹を割って裏のない話をさせて頂く」


 ふたりの指導者はその様な会話をすると、それぞれ祭壇を向いたまま長椅子に着席した。

 その様子を見届けて、余人たちはこの場を退席するためにぞろぞろと動き出した。

 修道騎士たちが司祭さまに導かれて移動を開始するので、けもみみは俺がどうするのかを見ているらしい。

 騎士修道会側では仲介者として雁木マリが残るようで、俺はけもみみの視線を感じながら女村長を見やった。

 俺が残るのか、エレクトラが残るのか。

 アゴを振ってふたりとも外せと女村長が言外に語った。


「では、後ほど……」


 それを見届けて俺は一礼し、エレクトラやエルパコたちと下がる。

 チラリとワシ鼻の壮年騎士姿をしたカーネルクリーフを見やると、やや垂れた彼の眼が俺を射抜く様に追いかけるのが見える。

 ゴクリとつばを飲み込みながらも、俺は修道騎士たちの消えていった控えの部屋に急ぐのだった。


 気になるな、余人を排しての会談内容。

 エルパコならばそのけもみみでもしかしたら会談内容を聞き取る事が出来るかもしれないが、それはアリかナシか。

 礼拝所へとつながる控えの間の扉が閉まるとともに、俺たち従者一同は互いに顔を見合わせるのだった。

 

     ◆


 俺の視線で意図を理解したけもみみは、そっと礼拝所につながる扉の側で、壁に背中を預けた。

 その一方で俺は警戒されないために、談話スペースになっている中央のソファに腰をかける。

 見れば、修道騎士たちの面々は雁木マリが村へ連れて来た連中とは面子が入れ替わっていた事を改めて確認出来る。

 恐らくこれが騎士修道会総長の側近を務めるエリート修道騎士なのだろう。

 このファンタジー世界でよくいる筋骨隆々の人間とはちょっと違う、どちらかというと痩せたタイプの人間たちだ。


 しかし鉄皮合板の甲冑の上から灰色の法衣を被った彼ら護衛の姿は、研ぎ澄まされた日本刀みたいな雰囲気がプンプンだ。

 その上、みんな無口でソファに腰かけている。

 どちらかというと俺たちを敵とでも見ている様な姿勢は、とても居心地が悪い。

 こういう時はスマイルで距離感を縮めるのがいいな。


「こうして女神様によるめぐりあわせで知り合えたのだ、せっかくだから自己紹介をしようじゃないか。ん?」

「…………」


 俺がフレンドリーにそう言うと、誰もが無言のままで視線だけをこちらに向けて来た。

 こういう経験は村にはじめてたどり着いたころに経験しているので、早々めげることはないぜ。


「そうだな、こういう時は言いだしっぺから口にするのが作法だった。俺の名はシューター、サルワタの森の開拓村で猟師をやっていた男だ。こんな恰好をしているから猟師には見えないかもしれないが、我がご領主さまのお引き立てで、騎士としてお仕えする事になったんだ」

「…………」


 駄目だ、せっかくフレンドリーに笑顔を振りまいているのに、こいつらまったく反応がねえ!

 悲しくなった俺は、それでもめげずに言葉を続ける事にした。


「し、しばらく前にな。ブルカの街で冒険者をしていた事があったのだが、その時に何だ、女神様の枢機卿にして騎士修道会の聖少女修道騎士? さまの雁木マリと知り合った。その際に冒険者仲間としてバジリスク討伐にも参加したんだぜ」

「お前はすると、ッヨイハディさまをご存知なのか?」


 俺のめげない心が通じたのか、ひとりの屈強な修道騎士が口を開いた。

 おおっ女神さま! 修道騎士がデレました!!


「もちろん知っているさ。俺はッヨイさまの奴隷をしていた男だからな」

「本当かそれは?!」


 またひとり、修道騎士が口を開いた。


「するとッヨイハディさまは、この村の近くに来ているのか?!」

「ああそうさ、今回の会談にあわせて少し離れたゴルゴライという村まで来ている。俺たちはこれから外交団に出かける予定で――」


 ようやく口を開いた修道騎士たちに気をよくして、俺は今回の旅について語りはじめた。


また1分投稿を遅刻してしまいました。

ごめんなさい、ごめんなさい…

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