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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第4章 アレクサンドロシアの野望
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91 わらわは本気であると女村長は言った


 正直を言って、俺はずっと嫌な予感がしていたんだ。


 女村長がブルカ辺境伯との敵対姿勢を鮮明にすると決意をした時、では誰がその使者として派遣するのかとアレクサンドロシアちゃんがつぶやいたのである。

 これは戦争のはじまりだった。

 血を流す戦争はまだずっと先になるかもしれない。

 けれども、王国の辺境一帯に対して睨みを効かせるべくブルカ辺境伯は巨大な軍事力と権限を兼ね備えているのだ。

 これに対決するためには、他の辺境領主たちとの連携強化を作り上げなければならない。


 しかしどうだろう。

 辺境の中でもさらに僻地に存在しているサルワタの森の開拓村とその周辺集落は、それらの有力な辺境領主とは繋がりがまるでなかったのである。


「聖少女というツテがわらわたちにあるのだから、まずはもっとも頼みにしなければならないのは騎士修道会であるな。味方に騎士修道会がいるという事で、者どもに与える安心感はまるで違うであろう」


 女村長の屋敷から教会堂へと向かう道すがら、そんな事をぼそりと口にしたアレクサンドロシアちゃんである。

 後に続くのは護衛の冒険者エレクトラと俺である。


「シューターさん。ちょっといいかい」

「どうしたエレクトラ」

「あたしみたいな下っ端の護衛が口を出す事じゃないんだけどさ」


 俺はメスゴリラみたいな外観のエレクトラに向き直りながら、ヒソヒソ話をしてくる彼女に身を寄せた。

 何か女村長に聞かれたら不味い話でもあるらしい。


「村長さまが何やら隠れて、旅支度をはじめていたんだよ」

「……旅支度?!」

「しッ、声が大きいよ。そうさ旅支度だ。護衛のあたしにも何も聞かされていないけれど、腹心のシューターさんなら何か聞いているんだろ?」

「いや何も聞いていないけど」


 俺は何も聞いていなかったけれど、だいたいの予想は何となくだが出来ていた。

 これから俺たちは教会堂に向かう。

 そこには騎士修道会として、聖堂会として今後このサルワタ領内でどう立ち振る舞っていくかを、司祭と雁木マリ、そしてマリとともにここへ派遣されて来た他の修道騎士たちが協議を重ねているはずだったのだ。

 その場所に女村長が向かうのである。

 

 俺たち村の目的は明確で、ブルカ辺境伯と対決するための味方として騎士修道会を取り込む事だ。

 雁木マリは俺の同郷で冒険者仲間でもあったし、個人的に味方であることは間違いない。

 その雁木マリが騎士修道会の聖少女とあがめられている人間であるのだから、彼女を利用して女村長は騎士修道会を説得させたいのだ。


「……まあ旅先の見当は何となくわかるぜ」

「どこだい。まさか敵の本拠地に乗り込もうって言うんじゃないだろうね」


 そのまさかだろうね。

 俺はその言葉を口にしなかったけれど、エレクトラはすぐにそれを察したらしい。

 とても嫌そうな顔をして「説得しとくれよ」とささやいた。


「何をしているお前たちは。おい、お兄ちゃんも、わらわをないがしろにして護衛にまで手を出すとは何事か。女を口説いて回るにしても順序と優先度というものが大切だ」

「え? ちょ、手なんか出してないし」

「ふむそうか。ならばさっさと来るのだ。護衛ふたりがわらわから離れていたのでは護衛の意味がないであろう」


 俺たちに猜疑の眼を向けてきた女村長である。

 エレクトラはそう言われて嫌そうな顔をしながらも慌てて女村長の側に走っていった。

 俺はというと、とても悲しい気持ちになっていた。

 順序と優先度などと言われたが、別に俺は無差別に誰でも口説いて回っているわけじゃねえ!

 悲しい気持ちになった俺は、腹いせのつもりでひとこと女村長に言ってやることにした。


「アレクサンドロシアちゃん」

「な、何だ。みんなの前で名前にちゃん付けで呼ぶではない」

「じゃあアレクサンドロシアちゃんもお兄ちゃんと呼ぶのはやめような」

「う、うう。わらわは不愉快だ!」


 そうかそうか!

 年甲斐も無く照れたアレクサンドロシアちゃんかわいい。


     ◆


「それで、このあたしに騎士修道会総長に引き合わせて欲しいと言っているの?」

「ありていに言えばそうだ。木端使者に書簡を付けて送り出すだけでは、わらわの誠意が伝わらぬというものだからな」


 場所は教会堂、司祭の執務室に対面で座った雁木マリと女村長が会話をする。


「それは可能な事だけれど、じゃあどこで会談を執り行うつもりなの? まさかこの村に修道会総長を引っ張ってくることは不可能なのだけれども」

「よい。その様な無理な願い事をする必要はないぞ」

「じゃあどこで会談をする予定なのですドロシア卿?」

「ずばりわらわが直接、ブルカの街に赴く。それが誠意というものである」


 女村長を挟んで反対側では、エレクトラがあちゃあという顔をしていた。

 当然、その提案に司祭さまも雁木マリも、その向こうにいる修道騎士たちも驚いた顔をしていたね。

 そりゃそうだ。これから対決する事になるライバル領主のおひざ元に、わざわざ足を運ぶなんて、


「……どうかしているわ。シューターあなた、その事を知っていたの?」

「いや知らん。けどだいたい予想は付いていたかな」

「止める猶予も無かったのね……」

「ここに来る道すがら、エレクトラが教えてくれたんだ。村長さまがコソコソ旅支度をしているらしいってね」


 お互いに呆れた顔を浮かべたあと、しごく真面目な顔をしていたアレクサンドロシアちゃんを見やった。


「ドロシア卿が誠意をお見せくださるというのはわかりました。けれど、何もブルカに足を運ぶ必要というのは無いんじゃないでしょうか」

「わらわは本気である。何としても湖畔に建設中の城下に聖堂を建設させ、騎士修道会の一部でも頓営させる事が出来れば、これは強力な味方になるのだからな」

「それはわかります。ですが、例えばサルワタとブルカの近郊で会談を行うとか。そういう方法もあるわ」

「聖少女ガンギマリーがそう言うのならば、わらわとしてはそれでも構わぬ」


 これで少しはリスクを回避できるわ。とでも言いたそうに、警備責任者たる俺の方を雁木マリがチラリと見やった。

 ありがとうございます、ありがとうございます。


「それならば、わたしの同期にあたる司祭がいるブルカ近郊の村で行うというのはどうでしょうか。人物はわたしがよく知っていますし、その村は辺境伯の領内ですからおかしなスパイがいる事もないでしょう」


 司祭さまがそこで提案をした。

 おかしなスパイというのは、辺境の領主たちの土地に潜ませているブルカ辺境伯のスパイを指している事は明白だ。

 まさか自分の領内に敵情を探るための間諜はいないだろうと司祭さまは言いたいのだ。


「ふむ。その事についてはわらわも懲りたので、皆がその様に助言するのならば任せるとしよう」

「それがいいわね。で、シューター。街に書簡を届ける予定はどういう風になっているのかしら?」


 女村長が納得してくれたので、今後の予定を話し合っておく。


「ひとまず、この村に乗り物と言えば荷馬車がひとつしかないというありさまなんで、今タンヌダルクちゃんが実家に馬車を借りれないかと族長にかけあいに行ってもらってるんだ」

「それじゃあ使節が乗るための馬車の手配は出来るのね?」

「たぶんな。無いと困るしな」


 俺はこの世界の外交的なしきたりについて詳しくなかったけれど、使節を送り出すためにはそれなりに見栄えというか外見というのが必要なものらしい。

 じゃあ今までどうしてこの村に馬車が無かったかというと、そもそも先代領主と、当代領主の女村長も、貴族軍人の出身であるので馬に乗れるのである。

 だが俺は乗れない。

 だから俺のために馬車が必要なのである。


「で、やっぱりその使者というのはおま、シューターに決定になったの?」

「うむ、その通りだ。わらわの腹心であり剣の腕もたつので、いざ道中野盗に襲われても安心だし、今回はわらわも同道するからな。なおさら適任と言える」

「そう、それはご愁傷さまね……」


 まったくだ。同行する俺の身にもなってくれよ!

 と心の中で思っていたが、本来の護衛役であるエレクトラは、さらに嫌そうな顔をして俺に助けを求めてきたのである。


「シューターさん。あたしを鍛え直してくれないかい……」

「お、おう。道中で空手教室でもやるか」


 護衛役のエレクトラの心労もお察しである。


     ◆


「今回の使節の経路順は次の通りを計画しているのです」


 食堂のテーブル前に集まったのは俺とニシカさん、それから雁木マリとッヨイさま、それに冒険者エレクトラや修道騎士だった。

 女村長には決定した事を報告するとして、俺たちは事前に安全な経路を選びながらブルカ近郊の村、そしてリンドルとオッペンハーゲンに向かうルートを決めなくちゃいけない。

 ようじょがイスの上に立って指揮棒で俺たちの村を指す。


「まずサルワタ領を出発したら、ブルカ近郊の村に向かうのですが……」

「司祭が言うにはツダという村だそうね。今頃は連絡のために伝書をしたためてくれてるはずよ」

「そのツダ村にドロシアねえさまを連れていきます。ここで騎士修道会のそーちょーと会談を行う予定なのですが、どれぇの一団はそれが終わったらリンドルの街に向かいます」


 先に辺境伯に書簡を届けに行くか、それとも他の領主と外交や修道会総長と会談を行うかについては少し揉めた。

 まずはじめに辺境伯に挑戦状ともとれる抗議文の書簡を届けてしまえば、警戒した辺境伯が、修道会総長と女村長の会談を妨害してくる可能性も考えられる。

 という事で、俺たちはツダの村に先入りした後に修道会総長と会談を行い、早々にアレクサンドロシアちゃんには退散してもらおうという事になった。

 その後に俺たちは外交作戦を開始する。


「リンドルは、ブルカとサルワタ領を結ぶ距離とほぼ同じぐらいの道のりなのです」

「すると、だいたい三日ぐらいの距離という事だな。わかったぜ、それぐらいなら緊張感を持って周囲を警戒出来る」


 ニシカさんがうなずきながら地図に視線を落としていた。

 気配を察知する能力を持ったニシカさんは、こういう旅路に非常に頼もしい仲間と言える。


「リンドルから次に向かうオッペンハーゲンには、直接ブルカを経由せずに田舎道があるのです」

「オッペンハーゲンは自分が赴任した経験があります。リンドル周辺はわかりませんが、オッペンハーゲンに近づけばある程度土地勘があるのでご安心を」


 修道騎士のひとりがそんな風に言った。おお頼もしい青年だぜ。

 ところがこの修道騎士は当てに出来ない事がすぐに発覚した。


「いや、お前たちはそのまま聖堂に戻る事になるから、オッペンハーゲンには行かないわよ?」

「ええええっ。そうなんですか?」

「当たり前よ。あたしはこの村に冒険者として残る事になるけど、あんたたちは騎士修道会の修道騎士でしょうが」

「そんなずるい、何で聖少女さまだけ!」

「あたしは例えるなら学園の理事長みたいなものなの。校長である修道騎士総長の指揮下にお前たちはいるのだから、当然お前たちは学園に戻るのが当たり前じゃないの」


 当然よ、と言いながら雁木マリがわけのわからない説明をした。

 その例えでなんとなく状況を理解できたのは、たぶん俺だけである。というところまで思い至って、雁木マリがわざわざ俺のために説明してくれたんだなと理解した。


「マリって理事長だったんだな。騎士団トップより偉いのかよ」

「そりゃまあだてに聖少女じゃないわ。あたしの地位は騎士修道会における枢機卿にして聖少女修道騎士というのよ。偉いんだから崇めてくれていいのよ? フフっ」


 ブルカ聖堂に全裸で降誕した雁木マリの正式名称は長い。


「そんな偉い人間がこの村にいて大丈夫なのかよ」

「あたしはそうね。強制力を持った騎士修道会の助言者という立場だから、何か組織に問題が起きない限りは口を出すつもりはないのよ。何しろ聖少女の影響力は修道会の中でも大きなものだから、今は騎士隊には配属されていないの」

「そうなのか。その口ぶりだといろいろと苦労があったんだな」

「こ、今度、その事について個人的に慰めてくれてもいいのよ?」


 機会があればな。

 今は議論の最中なので話を元に戻しておく。


「それで修道騎士のみなさんはそーちょーと共にブルカに帰っていただくことになるのです!」

「「「はい……」」」


 何を期待していたのか、うなだれた修道騎士のみなさんはようじょにさとされて返事をした。

 ぼそぼそと不満を口にしている彼らの言葉をひろってみると「せっかく知らない土地を旅できると思ったのに」とか「異教徒といけない恋路をしてみたかった」とか「擦れた都会の女より村娘だよな」などと残念な事を漏らしていた。

 ジロリと雁木マリが睨み付けると、一斉に彼らは背筋をぴんと伸ばすのだった。

 しかし問題は使節団の陣容とオッペンハーゲンからブルカへと向かう最後の道程である。


「オッペンハーゲンで交渉を済ませた後に、使節団はブルカの街に向かいます。それぞれの街での交渉もそうですが、ブルカ辺境伯を相手に書簡をつきつけるので、馬鹿にされないだけの使節団の内容じゃなければいけないょ」

「村長さまの護衛のためには冒険者エレクトラとダイソンが付いていくことになるな。俺たち使節団の方は、ニシカさんとエルパコがいれば周辺警戒は問題ない。んが、それでは使節団と言えないよなあ」

「そこはドロシアねえさまが、野牛の一族から兵隊を連れていく様に言っていたのです。村をからっぽにするわけにはいかないので、ッワクワクゴロさんと野牛の族長が一時的に村に出て来るのです」

「ッワクワクゴロはいつも留守番ばっかりだぜ。きっとまた悔しがるぜ」


 ニシカさんが茶化してそんな事を言ったが、彼なら安心だ。

 それにタンクロードバンダムの強さは俺が保証するぜ。

 何しろ個人の武勇で言うならばあれはヤバいレベルで強かったし、彼は部族のリーダーでもあるので人間を統率するのはお手の物だろう。

 問題は村の人間がいう事を聞くかどうか、そもそも野牛の一族は外見が恐ろしいので面と向かって抗議する人間なんていないだろう。ッワクワクゴロさんとも面識はあるし、うまくやってくれるだろう。


 そんな感じで旅行程のすり合わせも終わりを迎えた頃、ちょうど女村長が司祭さまと一緒に執務室から出てくる姿が見えた。


「皆の者、騎士修道会総長への親書とツダ村の司祭宛ての伝書が用意出来た。そこな修道騎士には申し訳ないが、ひとり馬術に長けた者にこれを届けてもらいたい」

「はは、では俺が」

「うむ頼んだぞ。それから出発は明後日とするので、各々ただちに準備をする様に」


 アレクサンドロシアちゃんの宣言を聞いて、俺たちは慌ただしく旅路の支度にとりかかるのだった。



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