事前講習会
俺を包んでいた赤い光が収まり、夕闇に目が慣れてきた頃。俺とビスタは、城のような巨大な建物の門の前に座り込んでいた。建物の壁面にエンブレムらしきものが見えるが、日が落ちて朱色の空も黒い夜空に押されつつある今では、僅かにシルエットが確認できるのみである。門の中央にも同じようなエンブレムがついているが、そちらも同様である。
「ここは?」
「クロウリー魔法学院です」
「知ってるのか?」
「ええ、僕ここの7年生ですから」
俺の背におぶさる赤髪の少女・ビスタは誇らしげにそう答えた。
「あと、聞き忘れたんですけど、あなたは…?」
「俺か?俺はここ…いや、センジ・ココノエだ。今ある人からの依頼を受けて、『光属性または闇属性の最上級魔法を使える人間』を探してるんだ」
「さっきいましたよ?」
「!?」
「さっきの白いコートの女の人です。『冥府の〜』ってつくのは闇属性の最上級魔法のみですから。あの人に何か用があるんですか?」
「ああ、まあな。それで、光属性または闇属性の最上級魔法を使える人ってどのくらいいるんだ?」
条件が「魔法を使える、あるいはその素質がある人間」なので、複数該当者が存在するはずである。
「うーん…かなり少ないと思います。教会の方でも最上級魔法が使える人はまずいません」
「そうか…」
こんなにも早く凶星が見つかるとは…本来なら「仕事が早く済む」などと喜ぶべきなのだろうが、素直に喜ぶ気にはなれない自分がそこにいた。
◆◇◆◇◆
俺たちは、魔法学院からそう遠くない場所にある民宿で一泊する事にした。
民宿ではいろいろなことを話した。いや、俺がビスタの話を聞いていたという方が正しいか。
「がく…何て?」
「学園都市国家レギオン。この国の名前です。俗にいう都会ですね。僕の家もこの国にあります」
誇らしげに語るビスタ。
「そーいや、ビスタは何でデニスにいたんだ?」
「…参考書を買いに行ってたんです。あそこは公益が盛んなので、珍しい書物が集まるんですよ。ついでにその書物を見て魔法の宿だ…いや練習とか」
「へー…あ、さっきはんぺん凍らせたのって、それ?」
「は、はい…」
「ふーん…」
「すみません…」
「い、いや、いいよ気にしなくて!それより、クロウリー魔法学院ってどんなところ?」
「この世界で一番偉い魔法学校です。と言っても、正式な魔法学校はクロウリー魔法学院だけなんですけどね」
ビスタ曰く、魔法は今でこそメジャーな存在となったが、過去では謎が多い為に敬遠されがちで、魔法を夢物語だと思う人もいたらしい。その魔法を大きく発展させ、ここまで普及させたのが大魔導師アレイスターなのだそうだ。
「…成り行きでここまで来ちゃった訳だけどさ、明日からどうするの?」
「文化祭の準備をします。センジさん、手伝ってくれませんか?」
「文化祭って、何を?」
「ステージで魔法のショーをやる予定なんですが、助っ人が欲しいんです。僕と一緒にセンジさんに一緒に出ていただけば助かるのですが」
「いや無理無理無理無理!絶対無理!俺そんな舞台度胸とか無いから!もっぱら裏方だから!ね?」
「……散々人を振り回しておいておまけに変な場所に転送して、ごめんの一言も無いんですか。ああそうですか分かりましたよ」
「いっ…いやごめん!本当にごめんなさい!」
「じゃあ手伝って下さいよ」
「うっ…は、はい」
くそう。こいつやり手だ。
その後も抵抗を繰り返したが、諭され小突かれ終いには「往生際が悪い」と一喝された俺は、渋々協力する事になった。
◆◇◆◇◆
「あの赤いネックレス…間違いない、真紅の契りだ…」
白いフード付きのコートを着た人物、通称「白服」は白いコートを脱ぎながら呟いた。その下から、理知的な光を放つ切れ長の目に精悍な顔立ち、そしてグラマラスな体躯が露わになる。
コートを脱いで畳むと、彼女はおもむろに棒切れのようなものを手に取り、地面に模様を描き始めた。模様は二重にも三重にも重なり、やがて迷路のようにこまごまとした魔法陣が出来上がった。白服はその模様を暫く眺めてから新たに5〜6つ書き足し、呪文を唱えた。
「起きろ」
魔法陣は光を放ち、周囲に風が巻き起こる。どうやら風魔法のようだ。
「絶対に見つけ出す」
言われるだけで身が竦むような、冷たく鋭い声だった。