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食べ物で遊んではいけません。  作者: 九重センジ
第一章・デニス王国
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二度ある事は…

俺と少女は、カゼノタミに向かい合うように立っていた。

改めて近くで見たカゼノタミの姿は、奇妙そのものだった。テレビで見るようなくねくね動く竜巻ではなく、はっきりと人の形を保っている。竜巻というより白い巨人と言った方が近いかもしれない。


さて、俺はカゼノタミと戦う事を決めたのだが、もちろんこのデカブツ相手に無策で挑もうとは思っていない。それなりの作戦は立てている。


「君…は呼びづらいな、名前は?」

「ビスタ・オーレリアです」

「そうか。ビスタ、今から俺たちは、あれを吹き飛ばす。仮に消し去れないとしても、安全な場所まで避難するだけの時間が稼げればいい」


風が強くなってきた。そのせいか、自然と俺の声も大きくなる。


「作戦はこうだ!

まず、俺が球体状のはんぺんを召喚する!それと同時に君がさっきの魔法を使ってはんぺんを凍らせろ!球体状のはんぺんは重りが偏っているから、凍らせれば勝手に転がってあいつを押し潰す!分かったか?!」

「で、でももう魔力が…」

「とりあえず一回やれ!できなければ俺が何とかする。せーので魔法発動な」

「は、はい…」

「行くぞ。せーのっ!」


俺の掛け声に合わせ、視界のほとんどを占拠するほど大量のはんぺんが現れる。それにビスタの声が続く。


「瞬間冷却!」


はんぺんは氷付き、はんぺんの大玉ができる。中のはんぺんの密度が一部分だけ大きくなるように調整していて、それの重みで前に転がるという算段だ。


「喰らえバケモノ!」


俺の叫びに呼応するかのように、超巨大はんぺん玉はカゼノタミの方向へと転がり出す。そしてカゼノタミに衝突しようとした時、センジは異変に気づいた。


「まずい!玉が崩れかけてる!ビスタ、もう一度さっきのを頼めるか!?」

「無理です…もう魔力残ってません…」


崩れかけの玉 ー齧られた林檎のようにも見えるそれー がカゼノタミに触れる。カゼノタミは一瞬動きを止めたが、数秒すると大玉の崩れて陥没した部分からはんぺんが一つ一つ離れて浮き上がり、カゼノタミの胴に飛び込んでいった。


「逃げるぞ!」


俺は目に見えて疲弊しているビスタを担ぎ上げ、走りだした。



◆◇◆◇◆


カゼノタミから遠く離れた、地上から約100m程離れた上空。そこに十代前半と思しき少女が浮遊していた。センジ達から見て死角になる場所にいるので、センジとビスタには見えていない。


「まさか二人でアレを相手に善戦するとは。センジ君だっけ?あの子予想以上にデキる子かもしれないなぁ」


ビスタを背負って走るセンジを見ながら少女は呟く。その容貌は真っ白な髪と琥珀色の瞳を持つ少年のそれであった。


「最初はどうなる事かと思ったけど、テストもクリアしたし、時間稼ぎの足止めとはいえアマリリスの進行も防いだから大丈夫だよね。会うたびにガキ呼ばわりするのは気に食わないけど!」


ひとしきり愚痴と感想を吐き出した少女は、文字通り煙のようになってその場から消えた。



◆◇◆◇◆



「はぁ…はぁ…とりあえずここまで逃げてきたが…当分は追ってこれないはずだ…」


俺たちはカゼノタミから離れた場所まで避難していた。王宮から東にまっすぐ行った、デニス王国東関所だ。カゼノタミは建物の向きから判断して西に進んでいたので、反対方向であるここなら追われる心配は無い。


本の文章だけで地理情報を判断するのは難しかったが、何とか役に立った。


「逃がしはしない」


突然響いたアルトの声。どこから湧いて出たのか、図書館を出た時に見た、あの白いコートの人物が目の前にいた。声からして女性だと思われる。


「くっ…『麻痺(スタン)!』」


俺は鬼店主に教わったやり方で麻痺杖を使う。白服の人物に向けて飛んでいった紫の雷は、白服に素手で弾かれた。


「効かん。『冥府の監獄(イビル・プリズン』」


落ち着いた声に応じ、周囲が暗闇に包まれる。目を開けているのか閉じているのかすら分からない。


「『神罰(パニッシュ)』」


麻痺杖は一回限りの使い切り。今はもうただの棒切れ同然だ。なす術なしと諦めかけた時、胸のあたりに熱を感じた。


「まさか…ナギト!?」


白服の驚愕の声を最後に、俺の意識はブラックアウトした。赤い光が見えたような気がするが、よく覚えていない。

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