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食べ物で遊んではいけません。  作者: 九重センジ
第一章・デニス王国
6/14

世紀の大発見です

「…へ?」


何が起こったんだ…?


「あ、すみません!大丈夫ですか?」

「あ、ああハイ」


俺と同じか少し年下ぐらいに見える少女が、ひどく慌てた様子で駆け寄ってきた。栗色のつぶらな瞳や、耳に掛からない程度に短く切り揃えた赤髪から、「まだまだ修行中」という彼の肩書きが予想できる。身に付けたマントの下から紋章入りのブレザーが覗いた時、俺の予想は確信に変わった。

少女はカチコチに凍りついたはんぺんに目をやり、それから俺の方に向きなおり言った。


「すみません…はんぺん凍らせてしまいました…」

「いいよ、幾らでも出せるから」


もしかして…


そのままはんぺんを消去しようとした俺の手が止まる。気づいた時にははんぺんは影も形もなく消え去っていたので、もう一度試す事にした。


「さっきの…何ていうか知らないけど、はんぺん凍らせたやつ。あれもっかいやってくれる?」

「はい…?」

「俺がもっかいはんぺん…さっき君が凍らせたやつだな。それを召喚するから、もう一度凍らせて欲しい」

「はあ…分かり…ました…」


俺の意思を測りかねた様子で承諾する少女。栗色の瞳が何かを探るように俺を直視していた。


「出ろ」


はんぺんが空中に現れる。少女がそれに合わせ、件の術ー魔法だろうか?ーを発動する。


「『瞬間冷却(フロスティ)!』」


はんぺんが凍りついた。

触れてみるとひんやりとした感触と、はんぺんであることを疑いたくなるような硬い質感が伝わってきた。幸運な事に地面が石畳なので、試しに地面に叩きつけてみる。えいっ!


ガッ


はんぺんが当たった地面は、ヒビこそないものの少し削れていた。

対するはんぺんはあら不思議、傷一つついていない。


もしかして。

もしかしたりしなかったりしなかったとしても。


いける。いけるぞコレ。


「どういう事ですか?」

「え」

「いやさっきから『もしかしたりしなかったりしなかったとしても』とか『いけるぞコレ』とか仰ってたので」


口に出してたのか…俺。

恥ずかしさのあまり卒倒しそうになるのを抑えながら、俺は言う。

しかし、その声は程なくかき消された。


「何だ!?」

「まただ、またあいつが来たぞ!」

「馬鹿な、こんなに周期が早いわけがない!昼に来たばっかりだぞ!?」


周囲の人が口々に叫び、足早に建物へと逃げ込んでいく。


「ひぃ…!」


少女も「あいつ」に対する恐怖心を隠せないのか、完全にフリーズしてしまっている。


あいつ。

嵐のような姿をした巨人、否、人のような奇妙な形をした竜巻。

鬼の店主でさえ店に逃げ込み、内側から戸を抑えなければいけない程の破壊力。通った所を壊滅させ、その風には毒を含むという凶悪極まりない性質。


巨体を揺らしながら「あいつ」は迫ってきた。もうはっきりと視認できる所まで近づいている。本能的に「今逃げても無駄だ」という事を悟っていた俺は覚悟を決め、大きく深呼吸した。



…来い、カゼノタミ。



◆◇◆◇◆



【剣に嫌われた剣士・一部抜粋】


その日は梅雨の長雨であった。


五十嵐凪斗は生命の危機に瀕していた。水たまりでスリップしたトラックにはねられたのだ。そのトラックは横転し、今現在炎を上げている。運転手は炎に洗われて骸となり、炎も雨に打たれてその勢いを次第に弱めていった。


ああ、自分もやがてあのようになるのか…朦朧とする意識の中で、彼はそんなことを考えた。


…誰か…いる…?


凪斗の目に人影が映る。それは肌も髪も服も色白く、背景の雲と同化して見えづらい。しかし、凪斗を見下ろす琥珀色の瞳だけが異彩を放っていた。


「死にたくない?」

「…………。」


当然こんなところで死にたいなど思う奴がいるはずがない。仮にいたとしても、それは俺ではない。

しかし、凪斗の意識は遠のいていく。


「ふふ…苦しそうだね…。案内するよ。ついておいで」


これまで根性で耐えていた凪斗だったが、ついに彼は意識を手放した。

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