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食べ物で遊んではいけません。  作者: 九重センジ
第一章・デニス王国
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はじめてのでいりきんし

「『次騒いだら強制退去』って言いましたよね?」


俺の視界が急に暗くなる。不思議に思い見上げると、目の前にさっきのおばさん職員が立っていた。身体が横に広い分、迫力も凄い。でも変だな。俺はあれ以降静かに本を


バッシィィン。


強烈なビンタ。


「え…?あの…」


有無を言わさず二発目が来る。

俺の中で、何かが切れる音がした瞬間であった。


ーーはんぺん、出ろ。


俺の思考に呼応して無数のはんぺんが現れる。狭いスペースに収まり切らず溢れ出たはんぺんは、津波の如き勢いでおばさん職員を押し流す。

少し黙っていてもらおう。必殺!


「はんぺん落とし!」


おばさん職員の上に巨大な球体が現れる。勿論全部はんぺんの塊だ。


「ぶッーーー!?」


塊は重力に従って落ち、おばさん職員の上にのしかかった。はんぺんを能力で全て消し去り、職員の元に駆け寄ると、彼女はうつ伏せのまま泡を吹いて失神していた。


……………。


やってしまった。

カッとなったとはいえ、図書館で忠告を無視した挙句職員一名を気絶させたとなると、出入り禁止は確実。どうしよう…


「やあこんにちは。3時間12分ぶりだね」

「!?」


職員が目を覚ましたかと思うとゆっくりと立ち上がり、拍手を始めた。さっきまでとは違い声が妙に高い。あと口元の泡は拭き取れ。汚いぞ。


「いやー素晴らしかったよー!はんぺんを武器に大の大人を気絶させちゃうんだからねぇ」


そう言って拍手を続ける人物は、おばさん職員からいつの間にか琥珀色の瞳と真っ白な髪を持つ少年に変わっていた。

それまでの不安と怒りの反動か、俺は白髪頭の少年に噛みついていた。


「あの時のガキ…!」

「ひっどいなぁガキなんて」

「今すぐ俺の能力を変更しろ!」

「自分でやったのにぃ?」

「ぐっ………」

「やーいまぬけー」

「ふざけるのも大概にしろよ」

「こんなに突っかかって来る子は初めて見たよ…でも、無理。一度決めた以上はどんな手段でも変えられないね。それがルールだし」

「救済措置とか無いのか!?」

「救済措置ねぇ…ぶっちゃけ今のがそうだったけど」

「おばさんのフリして人をタコ殴りにすることがか?」

「そうともさ」

「………」

「じゃ、そろそろお暇するよ」

「待ーーー」


制止も虚しく、白髪頭の姿は揺らいでいき、そして消えた。

くそう、覚えとけよ。


結局、騒ぎを起こしたのが他の職員にばれ、俺は出入り禁止となった。例のおばさん職員はというと、事務室のロッカーの中で気絶していた。彼女によれば昨日泊まり込みで作業している時に金縛りに遭い、そのまま意識を失ったそうだ。

それ以降の事は覚えていないようで、「大丈夫ですか!?」「お怪我は!?」と心配する同僚に困惑顔だった。

でも、それも俺のせいにされるのは納得がいかん。


図書館を追い出された俺は、一人の人物を目にした。

長身痩躯でフード付きの白いコートを身に纏い、そこから覗く目には鋭い光が宿っていた。

目立たない容姿なのに、その人の周りだけ空気が違うような感じがした。何というか、誰も寄せ付けたくないというか、心を閉ざしたと言うか…

その人が去ってからも、脳裏にはその人の姿が焼きつくように残っていた。



◆◇◆◇◆



俺は王宮に到着。これで当初の目的である「はんぺんの献上」を果たすことができる。


王宮の衛兵には怪しがられたが、その場ではんぺんを与え、「コレを献上しに来た」旨の事を伝えるとあっさり通してくれた。彼らがあまりに無防備すぎるので「この国の警備体制はどうなってるんだ!?」と小一時間ほど説教したいところだが、そこは我慢。


十分後、王様登場。正確に言えば王室へ俺参上。


王様は…なんというか、「ツッパリ」とか「番長」とか「ヤンキー」とかそういう言葉がすごく似合う男だった。魔法ファンタジー世界にも関わらずリーゼントだし、ピアスらしきものもつけている。

年も俺とあまり違わないように見える辺り、二代目以降だろう。

あとさっきから学ラン着せてみたい衝動に駆られてるんですけど着せて良いですか?


ヤン…もとい王は椅子に座ったまま、尊大な態度で言った。


「お主、俺に献上したいものがあるそうだが、何だ?」

「ヴァル!また悪戯しおってからに!さっさと戻らんか!」

「げ!親父!」


ヤンキー君は王様じゃありませんでした。


「…すまんの。息子が迷惑をかけてしもうた。ワシがデニス国王じゃ。御用は何じゃね?」


見るからに王様という感じの壮年男性が問うた。


「これを献上しに参りました」


王様の手のひらにはんぺん×1を召喚。


「魔法か…?これは何じゃ?」

「『はんぺん』という異国の食べ物にござります」


王ははんぺんを恐る恐るという風に一口。口に含んだ瞬間に目の色を変え、その後は貪るように完食した。といっても、数口で食べられるような量しか無いのだが。


「ふむふむ…美味い!美味いではないか!これは何で出来ておる?」

「魚の肉です」

「………………。」


しばしの沈黙。王の顔がみるみる紅潮し、ついに怒声が飛ぶ。


「何というもんを食わせてくれたんじゃ!」

「え…?」

「もうよい、連れていけ!」

「はっ」


俺は衛兵に引きずられるようにして部屋から出された。両腕を掴まれ、廊下を歩かされている時に衛兵の一人が教えてくれた。


「あの人ね…人は良いんだけど大の魚嫌いで…行商人も魚はこっそり売るようにしてるし、王様の前で魚の話はしないってのが暗黙の了解になってるんだよ…。まあ、今回の事はしょうがないさ。こっそりだったら僕らも見逃すよ。ハンペン…だっけ?あれ美味しかったし」


周りの衛兵も同情するような目で俺を見ていた。てか、王様を「あの人」呼ばわりって。しかも隠れて魚売り買いしてる上にそれを直属の部下が見逃してるって…王様、あんた舐められてますよ。部下が「バレなきゃいい」とか言ってますよ!


俺は(表向きでは)王宮への出入りを禁じられた。本日二回目である。裏口からなら衛兵がこっそり入れてくれるそうだが、今後王宮に行くつもりはない。


「はんぺん出ろ」


俺は空中にはんぺんを召喚する。

空中にあったはんぺんは突然凍りつき、石畳にぶつかって軽い音を立てた。

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