こちらデニス王国商店街
俺が高原から見下ろしていたデニス王国は、交易が盛んな国であった。
何でも、他の国では行われていない「自由取引政策」というのが行われているためらしい。ぶっちゃけて言えば、織田信長の楽市楽座と似たような感じだ。
そんなワケで、俺はビザなしパスなし検査なしで入国できた。正に隣町に行くような感覚。わぁい便利便利。
入国してみると、さすがは交易の街と言うべきか人の髪色も顔つきも多種多様だ。ついでに言えば猫が二足歩行してるア○ルーっぽいいのとか、緑色のやたらゴツい鬼とかもいる。ってかあれモンスターだよねどう見ても。
で、その鬼に声をかけられた。
「そこの兄ちゃん!ちょっと見ていかないかい?」
…うん、店に入ることにしよう。
べ、別に「断ったら殺されそう」なんて考えてない。そんな事これっぽっちも考えてないから!!
「こ、ここは何の店ですか?」
「兄ちゃん、ビビってんのか?俺ごときを怖がってるようじゃ、世の中渡っていけねぇぜ!あ、ちなみにうちは雑貨屋な!」
ガハハと笑いながら俺の肩を叩く鬼の店主。あの、痛いです。
「すみません…」
「いーんだ、気にすんな。俺も来たばっかりの頃はみんなにビビられたよ」
「おじちゃん白魔石ちょうだーい!」
「はいよ、25ピーリな」
「ありがとー!」
ほくほく顔で駆けていく少女を眺めながら、鬼店主が語る。
「俺も今じゃすっかりここの一員だ。あの娘も常連だしな」
「へぇー…」
「それにしても兄ちゃん見かけない顔だな。どっから来たんだ?」
「日本、です」
「聞いた事ねぇな…。もしかして『影の大地』の出身か?」
「影の大地?」
「そう。西の方に海を隔てて大陸があるんだが、そこの開拓が全く進んでなくてな。人が住んでるらしいって噂は聞いたんだがその土地の事をだーれも知らないんだ。だから交流もなけりゃ戦争もない」
「開拓に行った人は?」
「誰も帰ってきてねえよ。情報は全部遠目に島を見た船乗り達の証言さ。今回の遠征も、誰も帰ってこねえだろうな…。
ま、それは置いといてだ。兄ちゃんこれからどこ行くんだい?」
「あるものを探して旅してます」
「旅かぁ…そだ、これなんかどうだい?」
そう言って鬼の店主は、一冊の本を取り出してきた。辞典のごとき厚さ、そして重さだ。
「これは…?」
「『旅人のためのサバイバル辞典』だぁよ。これが旅人や行商人に好評で」「くださいっ!」
「お、おう…100ピーリだぞ」
パンフレットで言語知識を学んだ際に一緒に覚えたのだが、この世界では鉄貨、銀貨、金貨が使われている。鉄貨1枚で1ピーリ、銀貨1枚で100ピーリ、そして金貨一枚で10000ピーリだ。
銅はこの世界では貴重なため、金よりも高価なのだそうだ。
「あと…旅のオトモならこれだ。『麻痺杖』。あらかじめ魔力が込めてあって、モンスターに遭った時にこいつを使えば、ほんの少し動きを止められる。その代わり一回使い捨てだけどな」
「それも買います」
「まいど、5ピーリな」
魔法の使えない俺にとって自衛手段の有無は死活問題。異世界に骨を埋めるのも悪くはないが、こっちに来て数日で死亡なんて事態は避けたい。
購入後店を見て回った俺の目に、古びたネックレスが留まった。
「なになに…『真紅の契り』?」
「そいつはとある客が『私にはもう必要ない』って売ってくれたんだが、店に並べても誰も手を伸ばそうとしねえ…いや、誰もこいつに気づきすらしねえんだ。ウチにネックレス買いにきたやつも含めてな」
「………。」
「もしかしたらこのネックレス、お前に縁があるのかもしれねえな」
「…買います。いくらですか?」
「50ピーリ。安くしとくぞ」
「ありがとうございます。では、俺はこれで」
「おう、いつでもらっしゃい!」
転成直後は真上にあったはずの太陽は、赤くなり始めていた。
傾いた陽を浴びながら、俺はある計画を立てた。
王宮で稼ごう。その金を使い情報を集めるのだ。宮廷お抱えの料理人(?)にでもなれば一定の金銭が手に入る。旅はできなくなるが、この国は人の出入りが激しいから情報を集めるのは容易いだろう。必要に迫られた時は仕事を辞めれば良い。本来の予想とは違うが、怪物退治だけがノウじゃない。
「カゼノタミだ!」
「カゼノタミが来たぞ!」
「急いで家の中に入れ!」
何だ…?何が起きている…?