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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第3章 少年期 冒険者入門編

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第二十一話「スペルド族」

目覚めると夜だった。


 目に入るのは満点の星空。
 木が燃えるパチパチという音。
 ゆらゆらと揺れる炎の影。

 焚き火の側で寝ていたらしい。
 もちろん、俺には焚き火を起こした記憶もなければ、野宿を始めた記憶もない。

 最後の記憶は………そうだ。
 空がいきなり変色したと思ったら、白い光に包まれたのだ。

 そして、あの夢だ。
 くそ。
 嫌な夢を見た。

「はっ……!」

 慌てて自分の身体を見下ろす。
 鈍重で何もできない身体ではない。
 幼くも力強いルーデウスに戻っていた。
 それを確認すると同時に、先ほどの記憶が夢のように薄れていく。
 ほっと一安心。

「ちっ……」

 人神め、嫌な感覚を思い出させてくれる。
 けれど、本当によかった。
 俺はまだ、この世界で生きていけるらしい。
 やり残したことがいっぱいあるからな。
 ……せめて、魔法使いの証ぐらいは捨てたい。


 身体を起こしてみる。
 背中が痛い。
 地面にそのまま寝かせられていたのか。

 夜空の下、ひび割れた大地が広がっている。
 草木はほとんど生えていない。
 虫すらいないのか、焚き火の音以外には何も聞こえてこない。
 音を立てれば、どこまでも吸い込まれていきそうな気配すらある。
 どこだここは……。

 少なくとも、俺の記憶にはこんな場所は無い。
 アスラ王国は全土が森か草原だ。
 あの白い光でこんな風になったのか……?

 ああ、いや。
 違う。
 そうじゃない。

 人神が言っていた。
 俺は転移したんだ。
 魔大陸に。
 なら、ここは魔大陸だ。
 きっと、あの光のせいで……あ。

 ギレーヌとエリスは……!

 立ち上がろうとしたところで、
 すぐ後ろで、エリスが俺の裾を掴んで寝ていることに気付いた。
 なぜか彼女には、マントのようなものが掛けてあった。
 俺はなにもなかったんだが……。
 まぁ、レディファーストということにしておこう。
 彼女の背後に『傲慢なる水竜王(アクアハーティア)』も転がっていた。

 とりあえず、外傷はなさそうだったので、ほっとする。
 ギレーヌあたりが何とかしてくれたのかもしれない。
 エリスを起こそうかと思ったが、うるさそうなのでとりあえずは放っておく。

 ギレーヌはどこだ?

 と、辺りを見回すと、
 先程は気付かなかったが、焚き火の向こうに人影があった。

「………!?」

 ギレーヌではないと、瞬時に悟る。

 彼は、そう、男だ。
 彼は俺を観察するように、微動だにせず、じっと見ていた。
 警戒している感じではない。

 むしろ、何かにこう。なんだっけな。
 そうだ。
 猫に恐る恐る近づく時の姉貴みたいな感じだ。
 こちらが子供だから、怯えられないか心配なのだろうか。

 なら、敵意はなさそうだ。
 ほっとした瞬間、俺は男の風貌に気付いた。

 エメラルドグリーンの髪。
 白磁のような白い肌。
 赤い宝石のような額の感覚器官。
 極めつけに、脇においてある三叉槍。

 スペルド族。
 顔には縦断する傷。
 眼光は鋭く、表情は厳しく、剣呑とした印象。

 同時に、ロキシーの教えを思い出す。

『スペルド族には近づくな、話しかけるな』

 エリスを抱えて全力で逃げようとして、寸前で思いとどまる。
 人神の言葉を思い出したのだ。

『近くの男を頼り、助けるのです』

 あの自称神の言葉は信用できない。
 あんな話の後で、こんな怪しい男をポンと出して、どうして信じられるというんだ。

 しかも、スペルド族だ。
 ロキシーからこの種族の怖さはさんざん教えられてきた。
 いくら神が頼って助けろといった所で、どうして信じられよう。

 どっちを信じる?
 得たいの知れない人神と、ロキシーと。

 言うまでもない。
 信じたいのはロキシーだ。

 だから、俺はすぐに逃げるべきだ。

 いや。
 だからこその『助言』なのかもしれない。
 何の情報もなければ、俺はこの男から逃げただろう。
 その結果、運良く逃げ切る事が出来たら……どうなる?

 周囲をみろ。
 この暗くて見覚えのない風景を。
 岩ばかりで、ひび割れた地面を。

 魔大陸に転移した。
 という言葉をそのまま信じるのなら、ここは魔大陸だ。

 そういえば、
 人神のインパクトで忘れていたが、
 その前に奇妙な光景を見た。

 この世界のあらゆる場所を飛んでいる夢だ。
 山の上、海の中、森の奥、谷の底……。
 即死するような場所もたくさんあった。

 あれが何の関係もない夢でないのなら、
 転移したのは、恐らく本当だろう。

 魔大陸のどこかもわからない。
 逃げれば、広い大陸のどまんなかに、放り出されることになる。

 結局、選択肢など無いのだ。
 ここでこの男から逃げ出し、あるいは戦って倒し、
 エリスと二人で魔大陸をさまよった所でいい事はない。

 それとも、賭けるか?
 夜が明けたら、近くに人里があることを賭けるか?

 無茶をいうな。
 道がわからないということがどれぐらい辛いことか、
 俺はよく知っているじゃないか。


 落ち着け。
 深呼吸しろ。

 人神は信じられない。
 だが、この男個人はどうだ?

 よく見ろ。
 顔色を伺え。
 あの表情はなんだ?
 あれは不安だ。
 不安とあきらめの混じった顔だ。
 少なくとも、彼は感情のない化物ではない。

 ロキシーは近づくなと言っていた。

 だが、実際にスペルド族と会ったことは無いとも言っていた。

 俺は『差別』や『迫害』、『魔女狩り』という概念を知っている。
 スペルド族が恐れられているのは、誤解である可能性もある。
 ロキシーは嘘を言ったつもりはないかもしれない。
 ただ誤解していただけなのかもしれない。

 俺の感覚では、彼に危険は無い。
 少なくとも、人神に感じた胡散臭さは微塵も感じられない。

 今はロキシーでも人神でもなく、自分の感覚を信じよう。
 俺は一目見て、嫌な印象や怖い印象は持たなかった。
 外見を見て警戒しただけだ。
 なら、話だけはしてみよう。
 それで判断しよう。

「おはようございます」
「………ああ」

 挨拶をすると、返事が帰ってきた。
 さて、なんと聞くべきか。

「神様の使いですか?」

 その質問に、男は首をかしげた。

「質問の意図がわからんが、お前たちは空から降ってきた。
 人族の子供はひよわだ。焚き火を作って身体を暖めておいた」

 人神の名前は出なかった。
 あの神は、この男には話を通していないのだろうか。

 面白いから、という言葉をそのまま信じるのであれば、
 むしろ俺の行動だけではなく、
 俺と接触した彼の行動も面白おかしく鑑賞するつもりなのか。

 だとすれば、彼は信じられるかもしれない。
 もう少し話をしてみよう。

「助けて頂いたんですね。ありがとうございます」
「……お前は、目が見えないのか?」
「は?」

 唐突に変なことを聞かれた。

「いえ、両の眼ともしっかり開眼していますよ?」
「ならば、親にスペルドについて聞かずに育ったのか?」
「親はともかく、師匠には厳重に注意されましたね。近づくなって」
「………師匠の教えは守らなくていいのか?」

 彼はゆっくりと、確かめるように聞いてきた。
 自分はスペルド族だけど、大丈夫なのかって話だ。
 意外と臆病なんだな。

「お前は、俺を見ても、怖くは無いのか?」

 怖くはない。
 恐怖はないのだ。
 ただ、疑っているだけだ。

 だが、それを言う必要もない。

「助けて頂いた方を怖がるのは失礼ですよ」
「お前は不思議なことをいう子供だな」

 彼の顔には、困惑の表情が張り付いていた。

 不思議、か。
 スペルド族としては、忌避されるという感覚が普通なのだろう。

 ラプラス戦役については習った。
 戦争後、スペルド族が迫害を受けてきたのも知っている。
 他の魔族への差別は薄れつつあるようだが、スペルド族に対してだけは異常だ。
 まるで戦中の米兵に対する日本人のように、あらゆる種族が毛嫌いしている。

 この世に絶対悪があるとすれば、それはスペルド族だ、とでも言わんばかりに。

 俺が生前に差別を良しとしない日本人でなければ、
 彼を見た瞬間に叫び声でも上げていたかもしれない。

「………」

 彼は枯れ枝を焚き火へと放り込む。
 パキンと音がした。
 その音を聞いたのか、エリスが「んぅ」と身動ぎをした。起きるかもしれない。

 おお、いかん。
 エリスが起きたら絶対に騒ぐからな。
 ぐちゃぐちゃになる前に、自己紹介ぐらいはしておくか。

「僕はルーデウス・グレイラットです。お名前をお聞きしても?」
「ルイジェルド・スペルディア」

 特定の魔族は種族ごとに、決められた苗字を持つ。
 家名、なんてものをつけているのは、基本的に人族だけだ。
 たまに他の種族も酔狂で付けたりするらしい。
 ちなみに、ロキシーはミグルディアだ。
 と、ロキシー辞典に書いてあった。

「ルイジェルドさん。もうすぐこっちの子が起きると思うんですが、
 ちょっと騒がしい子なので、先に謝っておきます。申し訳ない」
「構わん。慣れているからな」

 エリスなら、ルイジェルドの顔を見るなり殴りかかってもおかしくない。
 敵対しないためにも、必要な会話は終わらせておくべきだろう。

「隣、失礼します」

 エリスの寝顔をチラリと見て、まだ大丈夫そうだなと思い、
 俺はルイジェルドの隣に移動した。

 彼は暗い明かりの下で見てみると、なんとも民族性溢れる格好をしていた。
 イメージとしてはインディアンだろうか。
 刺繍の入ったチョッキとズボンだ。

「む……」

 居心地悪そうにしている。
 人神のようにグイグイと来ない分、好印象だ。

「ところで話は変わりますが、ここはどこなんですか?」
「ここは魔大陸の北東、ビエゴヤ地方。旧キシリス城の近くだ」
「魔大陸……」

 確か、キシリス城は魔大陸の北東だ。
 話を信じるなら、だが。

「どうしてそんなところに落ちたんでしょうね」
「お前たちにわからんのなら、俺にもわからん」
「そりゃ、そうですね」

 ファンタジー世界だし、何が起こっても不思議ではないと思うが……。

 ペルギウスの配下とかいう大物も登場したし、偶然の産物ではないのかもしれない。
 ていうか、あの人神が関与してる可能性も高い。

 巻き込まれたのが偶然なら、生きてるだけで儲けものだ。

「ともあれ、助けていただいたことには感謝します」
「礼はいらん。それより、どこに住んでいるのだ?」
「中央大陸のアスラ王国、フィットア領のロアという都市です」
「アスラ……遠いな」
「そうですね」
「だが安心しろ、必ず送り届けてやろう」

 魔大陸の北東とアスラ王国。
 地図の端と端だ。
 ラスベガスとパリぐらい離れている。

 しかも、この世界では、船は限られた場所しか通れない。
 だから陸路でぐるりと回らなければいけないのだ。

「何が起こったか、心当たりはないのか?」
「心当たりというか……空が光ったと思ったら、光輝のアルマンフィって人がきて、異変を止めに来たと言いました。その人と話していたら、いきなり白い光が押し寄せてきて……。次の瞬間にはここで眼が覚めました」
「アルマンフィ……ペルギウスが動いたのか。
 ならば、本当に何かが起こったのだろう。転移ぐらいで済んでよかったな」
「まったくです。あれが爆発とかだったら即死ですからね」

 ルイジェルドは、ペルギウスという名前を聞いても動じなかった。
 意外と、何かあると動く人なんだろうか。ペルギウスって。

「ところで、人神という存在に聞き覚えは?」
「ヒトガミ? 無いな。人の名前か?」
「いえ、知らないならいいです」

 嘘を付いている感じはない。
 彼が人神のことを伏せる理由……。
 思い至らない。

「それにしても、アスラ王国か」
「遠いですよね。いいですよ。近くの集落にでも送ってくだされば……」
「いや。スペルドの戦士は一度決めた事は覆さん」

 頑固だが実直な言葉だ。
 人神の助言がなければ、それだけで信頼してしまったかもしれない。
 しかし、今は疑心暗鬼だ。

「世界の端と端ですよ?」
「子供が余計な気遣いをするな」

 恐る恐るといった感じで、俺の頭に手が乗せられ、おずおずといった感じで、撫でられた。
 俺が拒否しないでいると、彼はほっとした顔をした。
 この人、子供好きなのかな?

 しかし、歩いて10分の所にあるわけじゃないのだ。
 そんな軽々しく送ると言われても、信用できない。

「言葉は通じるのか? 金はあるのか? 道はわかるのか?」

 言われて、そういえば、と思った。
 俺は先程から人間語で話しているが、この魔族の男は流暢に返事を返してくる。

「魔神語はできます。
 魔術が出来るので金はなんとか稼げます。
 人のいる所にさえ連れて行ってもらえれば、道は自分で調べます」

 なるべく断る方向で話を進めたかった。
 この男は信用できるかもしれないが、
 人神の思惑通りに事が進むのは、避けたほうがいい気がしたのだ。

 疑り深い俺の言葉に思う所もあるはずだが、
 ルイジェルドは実直な返事をした。

「そうか……ならば護衛だけはさせてくれ。
 小さな子供を放り出したとあっては、スペルドの誇りに傷がつく」
「誇り高い一族なんですね」
「傷だらけの誇りだがな」

 その冗談に、俺はハハッと笑った。
 ルイジェルドの口端もつり上がっていた。笑っているのだ。
 人神の胡散臭い笑みとは違う、温かい笑みだった。

「とにかく、明日は俺が世話になっている集落まで行こう」
「はい」

 神は信じられないが、この男は信じられるかもしれない。
 少なくとも、その集落とやらに行くまでは、信じてやろう。


---


 しばらくして。 
 エリスの目がパチリと開いた。
 ガバッと身体を起こし、キョロキョロと周囲を見渡す。
 次第に不安そうな顔になり、俺と目があって、あからさまにほっとした表情になる。

 すぐに、隣に座るルイジェルドと目があった。

「キャアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!」

 悲鳴というか、絶叫だった。
 転がるように後ろに下がり、そのまま立ち上がって逃げようとして、腰砕けになって倒れた。
 腰が抜けたのだ。

「イヤァァァアアアアア!」

 エリスはパニックになった。
 しかし暴れもしなければ、這いずって逃げるでもない。
 その場にうずくまって、ガタガタと震えて、ただ声だけは張り上げて叫ぶ。

「ヤダ! ヤダヤダ! 怖い! 怖い怖い怖い!
 助けてギレーヌ! ギレーヌ! ギレェーヌ!
 どうして来てくれないのよ! イヤ、イヤ! 死にたくない! 死にたくない!
 ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいルーデウス!
 突き飛ばしてごめんなさい! 勇気がなくてごめんなさい!
 約束を守れなくてごめんなざぁぁあ、あ、あぁぁぁん!
 うえええぇぇええん!」

 最終的には、亀のように縮こまって泣き出してしまった。

 俺はその光景に戦慄を覚えた。

(あの、エリスが、こんなに怖がっている……)

 エリスは気の強い女の子だ。
 座右の銘は恐らく天上天下唯我独尊。
 ワガママで乱暴で、とりあえず殴ってから考える、そんな子だ。

 もしかして、俺はとんでもない勘違いしていたんじゃないか?
 スペルド族は、決して触れてはいけない相手なんじゃないのか?

 チラリとルイジェルドを見てみる。
 彼は平然としていた。

「あれが、普通の反応だ」

 そんな馬鹿な。

「僕は異常ですか」
「異常だ。だが……」
「だが?」
「悪くはない」

 ルイジェルドの横顔は、随分と寂しそうに見えた。

 思う所があった。

 俺は立ち上がり、エリスのところまで移動する。
 足音に気づいて、エリスはびくりと身体を震わせた。
 俺はその背中を優しく撫でた。
 昔、何かに怖がって泣いていたら、
 ばあちゃんがこうやって背中を撫でてくれたのを思い出しながら。

「ほーら、怖くない。怖くない」
「ひっく、怖くないわけないじゃない!
 す、スペルド族よ!」

 そんなに怖がる理由が、俺にはわからない。
 だって、あのエリスだ。
 剣王ギレーヌ相手にも牙を剥いたエリスだ。
 彼女に怖いものなんてあるはずがない。

「本当に怖い人なんですか?」
「だ、だって、す、スペルド族は!
 子供を、たべ、食べっ! 食べるのよ? ひっく……」
「食べませんよ」

 食べないよね?
 とルイジェルドを見ると、首を振った。

「子供は食べん」

 だよね。

「ほら、食べないって」
「だ、だ、だって! だってスペルド族よ! 魔族なのよ!」
「魔族だけど、人間語は通じましたよ」
「言葉の問題じゃない!」

 ガバッと顔を上げて、エリスが睨んでくる。
 いつもの調子に戻ってきた。
 やはり、エリスはこうでなくては。

「あっ、大丈夫なんですか?
 ちゃんと縮こまってないと、食べられちゃいますよ?」
「ば、馬鹿にしないでよ!」

 馬鹿にした口調で言うと、エリスは俺をキッと睨んだ。
 そしてそのまま、ルイジェルドの方もキッと睨んで……。

 カタカタと震えた。
 目が潤んでいる。
 もし、いつもの様に仁王立ちしたら、足もカクカクになっていただろう。

「は、はじ、はじ、はじめ、て、お、おめにかかります。
 え、え、エリス・ボボ、ボレアス……グレイラットです!」

 半泣きになりながら、自己紹介をした。
 偉そうに睨んで自己紹介なのが、ちょっと笑える所だ。
 いや、そういえば昔、俺がそういう風に教えたかもしれない。
 人と会ったら、とりあえず自己紹介をして先制攻撃しろ、と。

「エリス・ボボボレアス・グレイラットか。
 知らない間に、人族はおかしな名前を付けるようになったな」
「違うわよ!
 エリス・ボレアス・グレイラットよ! ちょっと噛んだだけよ!
 それよりあんたも名乗りなさいよ!」

 叫んでから、エリスは「あっ」と、不安そうな顔になった。
 自分が誰に向かって叫んだか、思い出したのだ。

「そうか。すまん。
 ルイジェルド・スペルディアだ」

 エリスがほっとした表情になり、ドヤ顔をしてくる。
 どお、怖くなんてないんだから、という顔だ。

「ね、大丈夫だったでしょう?
 話が通じればみんな友達になれるんですよ」
「そうね! ルーデウスの言うとおりね!
 お母様ったら、嘘ばっかり!」

 ヒルダが教えたのか。
 しかし、どれだけ恐ろしい伝承だったんだろうか。
 いや、俺だってテケテケとか、ナマハゲを実際に見たらビビるかもしれない。

「ヒルダさんはなんと?」
「早く寝ないとスペルド族がきて食べちゃうって」

 なるほど、子供を寝かしつけるための迷信として使っているのか。
 し○っちゃうオジサンみたいなもんだ。

「でも、食べられていない。
 むしろ、スペルド族と友だちになったら、みんなに自慢できるかも」
「お、お祖父様やギレーヌにも自慢できるかしら……?」
「もちろんですとも」

 チラリとルイジェルドを見ると、驚いた顔をしていた。
 よし。

「ルイジェルドさんは友達が少ないみたいだから、
 エリスが頼めばすぐに仲良くしてくれると思いますけどね」
「で、でも……」

 ちょっと子供っぽい言い方すぎるか?
 と思ったが、エリスは迷っている。
 考えてみれば、エリスに友達はいない。
 俺は……ちょっと違うだろう。

 友達という単語に気後れしているのかもしれない。
 あとひと押しが必要か。

「ほら、ルイジェルドさんも!」

 促すと、ルイジェルドもなんとなく流れがわかったらしい。

「え? あ、ああ。エリス……よろしくたのむ」
「! しょ、しょうがないわね! わ、私が友達になってあげるわ!」

 ルイジェルドが頭を下げたのを見て、エリスの中で何かが崩れたらしい。
 よかった。

 それにしても、エリスは単純だ。
 あれこれと考えているのが馬鹿らしくなる。

 でも、エリスが単純な分、俺が考えないとな……。

「ふう、とりあえず今日はもう少し休みます」
「なによ、もう寝るの?」
「うん、エリス、僕はつかれたよ。なんだか、とても眠いんだ」
「そうなの? しょうがないわね。おやすみ」

 俺が横になると、エリスは自分のそばにあった、マントのようなもの(おそらくルイジェルドの私物)を掛けてくれた。
 どっと疲れた。

 意識が落ちる直前、

「お前、もう怖くはないのか?」
「ルーデウスが一緒だもの、大丈夫よ」

 という会話が聞こえた。

 ああ、エリスだけでも無事に送り届けないとな。
 そんなことを思いつつ、俺の意識は落ちた。
+注意+
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