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チョコレイトショー


「はい、チョコ」


 いつものように、そう言って彼女は笑った。白い肌が赤く染まる。ほの暗い映画館の中にぼんやりと浮かぶ彼女は神秘的だ。

 赤くなった指先に包まれた小さな赤い箱を、僕に向かって差し出す。僕が受け取ると嬉しそうにはにかんだ。


「映画、楽しみだね!」


 行こ! と彼女が笑い、歩きだす。

 周りはバレンタインに浮かれる男女ばかりだ。みんな一様に笑顔で上映場に入っていく。


「レイトショーなんて初めてだよ」


 彼女が目を輝かせて言う。僕が「実は僕も」と言って頭を掻くと、「仲間だね」と笑った。


 そしてこの後、彼女は殺される。失恋直後で周りを嫉んだ男に刺されて。

 生き残ってしまった僕は、死んだ彼女が繰り返す死の直前の記憶をこうして黙って眺めるしかない。

 周りではなにも知らない恋人達が笑っている。

 彼女が死んだこの場所で、幸せそうに……。

 あの日貰った小さな赤黒い箱を、潰れないようにそっと握った。指先で軽く撫で、ジャケットの胸ポケットにしまう。

 無意識に反らしていた視線を彼女に戻すと、また最初から繰り返していた。何千回目かのバレンタインがまた繰り返される。


「はい、チョコ」


 あの日の幸せな記憶まで死に浸蝕されてしまった彼女は、血まみれの死体みたいな顔で笑っている。血の気の失せた真っ白な肌に噴き出した血で真っ赤になった顔。

 それでも、死ぬまでの彼女は今でも幸せそうに笑う。


「ハッピーバレンタイン」


 記憶の中の僕に笑う彼女に微笑んで、僕は映画館を後にした。



はじめまして、マーチです。


モバゲーのサークルで開かれた500文字小説大会(テーマはバレンタイン)に出したものを投稿しました。


読んだ後にタイトルから

「チョコ」「レイトショー」

「霊」と「ショー(観る)」

が浮かべば嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 引き続き拝読させて頂きました。 幸せの絶頂から絶望への転落劇。読んでいて、男性の悲しみが少しだけ伝わってきました。 『少しだけ』と書かせて頂いたのは、男性の悲しみや絶望感が、彼女の死を受…
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