暗殺者の日常
ジュースってあるじゃないですか。例えばコーラとかファンタとか、まぁ自動販売機にある甘い飲み物をジュースと聞くと想像するじゃないですか。
でもトマトジュースは最初に出てこないですよね。自分からジュースって名乗ってるんですよ。でもジュースのイメージがないですよね。
ただそれだけです
私は、狭い空間に沢山の人が密集している場所が嫌いだ。例えば電車やバス。
大型ショッピングモールも狭くはないが多くの人集りがあれば、息苦しさを感じる。
だから私は電車やバスなどの交通機関は使えない。
移動する時はほとんど徒歩だ。免許は持っているので車を運転する事は出来るのだが、車を所有していない。
遠くの場所に行くとなると、とても困る。
だから私は歩く。
「今日も歩くの?」
彼女が聞く。
「あぁ」
彼女は私の妄想の中で生きる架空の人間だ。おかっぱの赤髪に赤い服。それと昔のヒッピー達が履いていたベルボトムを履いている。
「今日は誰を殺しに?」
「町中華の浜口さん」
「じゃあ依頼は中華嫌いの寿司屋さんと見た!」
彼女は歩いていない。私のそばの電子機器から顔を覗かせて私を見て聞いて話してくる存在だ。
ショーウィンドウに見えるテレビに彼女の姿。歩きスマホの奴のスマホからは声が聞こえる。イヤホンも同じだ。
そんな常識から逸脱している存在に私は、自分自身の妄想から生まれた物だと認識しているが……果たしてコイツは何者なのだろうか。
「歩くの疲れない?」
「昨日と同じ答えだ」
「あれ?私、昨日聞いたっけ?」
私は路地裏に入った。路地裏には電子機器が周囲にないのでアイツはいなくなった。
彼女はいつの間にか、そこにいた。最初は鬱陶しい存在だったのだが、なんだかんだ話し相手にもなるので気が楽になる友達の様な存在になった。
まぁ自分の頭から生まれている人間だから話が通ずるともおかしくはないか。
路地裏にある扉を開いて中に入る。
いなくなると静かだ。
「ふーん……ふーーーんふん」
静かな空間に一人の鼻歌が聞こえてくる。それはベートーヴェンの第九だった。
イヤホンをつけて鼻歌を歌いながら餃子を作る彼こそが私の殺す相手だ。
私は浜口さんの背後からゆっくりと近付いて彼の首に腕を回して一気に力を入れる。
酸素を送る血管を力強く押さえて、脳に届かせない様にするのを一分。やっと町中華の浜口は倒れた。
すると男が耳に付けていたイヤホンからアイツの声がする。
「死んだ?これでミッションコンプリートインポッシブル?」
「まだコイツは死んでいない」
倒れた町中華の浜口さん。私はポケットに入れていた特殊な目薬を取り出して、それを浜口さんの目にさす。
これで終わり。町中華の浜口さんは死んだ。
「浜口さん可哀想だね」
「だな」
私は逃げる様にその場から去った。
数ヶ月後、浜口さんの町中華屋の前を通ると寿司屋が出来ていた。気になった私は中に入り、カウンター席に座った。
大将らしき人に今日は何を握れるのか聞こうと顔を見ると浜口さんだった。
今、彼は寿司を握っているらしい。
「いやー私ね、元は町中華を営んでたんですが、中華の記憶がポッカリと無くなっちまったんですよ」
「へぇ」
「だから新しいことに挑戦してみたんですよ。それが私、寿司の才能があったみたいで修行も半月で卒業になる程で」
中華の記憶が無くなる。それはあの時の目薬だ。町中華一筋の浜口さんを殺す方法は中華の記憶を消すだった。
だが彼は寿司の才能があったらしい。
「お客さん。今日はついてるね〜。特大の大マグロが来てるんですよ。勿論、食べますよね?」
「……すまんが魚が嫌いでね。かっぱ巻きを10で」
「は、はいよ」
すると隣の客の耳に付けたイヤホンから女性の笑い声が聞こえた。あははと笑う声が。
最近、宇宙人とドライブデートしてたんですけど、急に空の飛行機雲を指差して笑い始めたんですよ。急に笑い出してなんだろうと思ってたら、あれがお前らの技術力って馬鹿にして笑ってたんですよ。
だから、笑う顔も素敵だねって言ったら頬を赤くしてましたわ。




