案内がない博物館
博物館のシン…とした静けさと、館内の控えめな照明をホラーと組み合わせてみました。
最後まで楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
「ここはどこ…?」
少年は見知らぬ空間で目を覚ました。
ガラスケースが立ち並び、ボロボロのぬいぐるみや頭蓋骨、大きく不気味なツボがある。
まるで博物館の展示のようだ。
見回しても、同じような景色が続いている。どこまでも終わりがないようだった。
空気は少し冷たく、天井からは非常口のマークが大量に吊り下がっている。
矢印の方向もそれぞれ違ってあべこべだ。
「どこに行けば、ここから出られるんだろう…」
少年の問いに答えてくれる者はいない。
代わりに薄暗く不気味なこの場所を展示照明がぼんやりと照らしていた。
立ち上がった少年は、とりあえず館内を歩き回ることにした。
展示品はどれも見たことがなく、館内のマップのような物も見当たらない。
それどころか、自分以外の人が一人もいないのだ。
心臓はドクドクと音を立て、冷や汗が額にじんわりと滲んだ。
ぐぅぅ…
お腹が鳴る。
ふと、横を見ると展示品の横に荷物置き場のような場所がある。
そこには、スナック菓子とジュースが置いてあった。
(誰のだろう…?)
人様の物を勝手に食べてはいけないと、両親からはきつく言われていたけれど…
背に腹は代えられない。
少年は袋を開けて食べた。
カリカリカリ…という少年の乾いた咀嚼音のみが唯一の音である。
荷物置き場の後ろで隠れるように食べていると、突如として館内の電気が消えた。
さっきまで消える素振りもなかったのに、どういう事だろうか。
食べる手を止めた少年の耳に、新たな音が聞こえた。
ズッ…ズズズッ…ズズズズッ…
何かを引きずるような音。
本能的に悟る。——今、動いたら終わる。
ただじっと、物陰で息を潜めて
音を立てぬよう浅く呼吸をする。
パッと電気がついた時、そこにいたのは
化け物だった。どう見てもこの世のものとは思えない姿に、悲鳴を上げそうになるのを必死でこらえた。
人間の足のようなものが何本もついている。腕はタコのようで、人間の顔のようなものが、体中にいくつも埋め込まれていた。
ズズズッ…ズズッ…
引きずるような音はコイツの足音だったらしい。
まるで獲物が来るのを待つように、化け物は辺りをぐるりと見回した。
…しばらくして、化け物はまた移動した。少年は片時も目を離さずに、ソイツを見つめていた。
一瞬でも目を離せば殺されてしまうと思ったからだ。
(ここにいてはいけない…)
ゆっくりゆっくりと、化け物が行った方と逆の方向に少年は歩いた。
まだ、あの引きずるような音は聞こえない。
階段があった。
どうやら、上の階があるようだ。
少年は階段を上がっていった。
一段上がる度に、アイツの姿を思い出しては震えが止まらなかった。
息遣いが荒くなるのも気にせず、ただひたすらに化け物から遠ざかるため、足を動かした。
そもそも…どうやってここへ来たのか。
ここに来る前の記憶は無いし、館内にも見覚えは無い。
考えながら階段を上がりきる。
手すりの向こうからそっと、下を覗いた。
ズズズッ…ズズズ…
やはり、あの化け物は下の階を徘徊していた。となると、まだここは一階よりは幾分か安全だろう。
あの恐ろしい化け物は、ズルズルと体を引きずりながら展示品の陰もくまなく見ている…何かを「探しているように。」
ゾッとした少年は手すりから離れた。
早く出口を探さなければ。
しかし、あるのはエレベーターとまた新たな展示品のあるスペースが多数あるのみである。
一つは空の生物を展示しているのか、淡い水色で違った空間に見える。角の生えた馬の模型…おそらくユニコーンが奥に見えた。
もう一つはピンク、他にも黄色や緑と多種多様な色の展示スペースがあるが、やはり非常口のような場所は見当たらない。
(だけど、ここは廊下の中央だし…一番目立つよな。)
けれど考えるのに夢中になり、いつまでも立ち止まっていたら、化け物がやって来るかも知れない…
咄嗟に少年は水色の展示スペースへと駆け込んだ。
辺りは雲が取り囲み、綺麗な鳥やユニコーンのリアルな剥製が吊り下げられている。)
どうやら、ここに危ない物は無さそうだ。
(うわぁ…綺麗…)
うっとりと少年は見惚れていた。
子供にとっての理想郷のようだ。どれもリアルであるが故に、本当に夢の世界に入り込んでしまったように感じた。
先ほどの化け物と遭遇した時の緊張感や恐怖心を受け止め、心を休ませてくれるようだと少年は思った。
そう。
背後から忍び寄る影にも気づかずに。
ズズズッ…ズズッ…
気づいた時には、もう遅い。
少年は考えていなかったのである。
化け物は一体だけでは無いということを。
そして、この博物館は
子供の夢を餌にしていると言うことを。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
是非、次の作品も読んでくださると嬉しいです。




