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6/13

イベント発生だよ

 一回目の試験の日、最も多くのゴブリンの核を持ち帰ったのはイレギュラであった。

 二回目の時は、イレギュラとルテリアの両名が協力したということで、百個の核を二等分する形で提出していた。


 今回、三回目。

 当然ながら、生徒も教師もこの二人が一位と二位を独占すると考えていた。


 しかしながら、今回どっさりと持ち込んだのはメラニィとパピヨであった。


「この通り! 私は八十個お納めしますわ!」

「私は六十個です! お願いします!」


「おお凄いじゃないか。前回は二人とも三十個だったのに、大幅に成果を出したな!」


「今までは少し様子を見ていただけでしてよ! 本来の実力を発揮すれば、これぐらい余裕ですわ!」

「メラニィ様ならできて当然です!」


「疲れた様子もないし、その上服も汚れていない……これはすさまじい実力だな」


「おおっほっほほほ!」

「メラニィ様なら当然ですわ!」


「今後も期待できるということ、でいいのかな?」


「ええ、今後も期待に沿って見せますわ!」

「さすがです!」


 彼女とそのお友達であるパピヨは大いに満足していた。


 唯一の懸念事項として、ちらりとイレギュラとルテリアを見る。


(あらあら、ずいぶん慌てて帰ってきたわね。ノルマ分は持ってこれたみたいだけど……慌ててみっともないわねえ。お似合いだわ)


 彼女にとっては当然ながら、二人はおとなしくしている。

 二人が黙っている限り不正(彼女にとって不正ではないのだが)が明らかになることはないので、ご満悦の表情であった。


 だからこそ、まったく周囲の視線の質に気づいていなかった。



(やりやがったな……)



 教師は皮肉たっぷりで警告もしたのだが、他の同級生たちもあきれ返っていた。


 初日からこうだったのなら、誰も不審に思わなかっただろう。だが今回は三回目なのである。

 どう考えても不自然だ。


(バカじゃねえの? さすがにやりすぎだろ……)

(俺も正直やろうかなって思ったけど、これはちょっとない)

(索敵スキルがあるわけじゃないのに、この短時間で百四十個も集められるわけないじゃん。少しは考えようよ)

(イレギュラから奪ったのと、使用人から回収したの。それを全部馬鹿みたいに提出しやがったんだな)


 使用人の成果物を臆面もなく出している怠け者たちすら、あからさますぎる状況にドン引きしていた。


 そうとも気付かずに高笑いしている彼女は、幸福なのかもしれない。



 それからさらに数日後。


 四度目の試験が始まった。


 多くの生徒たちが森に入っていく中、イレギュラもルテリアを伴って森の奥へ走っていく。


「ねえ……あの二人、私たちを見送ってるね」

「ああ。森の出口近くに陣取って、優雅に俺たちへハイエナプレイをするつもりだ。逆に暇すぎないかねえ?」

「それはまあそうだけど……うん、絶対暇だね」


 メラニィとパピヨは、門の近くにいる教師に観えないところで待つつもりのようだ。

 教師の前でずっと待って、イレギュラから受け取ったものをそのまま納める、ということはできない様子である。

 そこまで厚顔無恥ではないらしい。


「それじゃあこっちも一旦離れて奥に行こうか……ちょうど、いい獲物がいる」

「獲物?」

「ああ、角付きだ」


 イレギュラに案内されるルテリアは、普段よりも早く足を止めることになった。

 森の奥から五体のゴブリンが現れたのである。


「一つの群れで五体……それに、一体は角が生えているね」

「ああ。言うまでもないが、アレは普通のより強いぞ。雑魚を片付けてから、全力で打ち込むんだ」

「うん!」


 イレギュラと出会って効率よく強くなる前のルテリアであれば、五体と会敵した時点で恐怖に震えていただろう。

 戦うどころか逃げることもできず、ただ殺されていたに違いない。


 だが今の彼女は違った。

 両手に槍をしっかりと持ち、勝算をもって突撃する。


「ぎぅ!?」


 四体の通常個体が反応もできない速さで、槍を大きく振るう。それだけでゴブリンたちは一蹴、四体まとめて死体に変わっていた。


「このまま!」

「ぎぃ!」


 ルテリアはそのままの勢いで角の生えたゴブリンに襲い掛かる。

 しかし彼女の一撃……先ほど四体をまとめて葬った一撃よりも腰の入った一撃を、角の生えたゴブリンは辛くも回避していた。


 それだけではなく、手に持っていた棍棒で反撃まで仕掛けてくる。


「なんの!」


 だがそれをルテリアは槍で受け止める。

 角の生えたゴブリンの、全力の一撃はあっさりと止められていた。


「とりゃあああ!」


 槍で受け止めたまま、腰の入った前蹴り。

 ゴブリンの小さな胴体に彼女の靴がめり込んだ。大きく吹き飛び森の木に衝突する。


「ぎぅ……」


 それでもこのゴブリンは死なない。

 手に持っていた棍棒を再び振りかぶり、ルテリアへ逆襲しようとした。


「とどめっ!」


 そうはさせじと、ルテリアの槍がゴブリンを貫き、木に縫い留めた。

 胴体を貫かれたゴブリンはそれでもしばらくもがき、やがて息絶えた。


 残心をしてから……ほっと一息。

 そこにイレギュラが拍手をしながら近づく。


「お見事! 本当に強くなったねえ」

「うん、私は強くなったよ。強くなってなかったら……死んでたと思う」

「ああ、そうだな」

「あっさり認めないでよ!」

(俺の介入がなかったらマジで死んでたんだよなあ)


 四体のゴブリンを瞬殺し、強化個体である角付きのゴブリンすらも圧倒したルテリア。

 彼女の顔色はとても悪い。

 少し前の自分ならなすすべもなく死んでいたのだから、想像するだけでぞっとしてしまうのだろう。


 イレギュラは彼女をよそに、己の『千里眼』から情報を集めていた。


(ついに始まったか、最初のイベント『ゴブリン大発生』。ゲーム的にはこの森で出現するモンスターの質が一気に上がるイベントだ。シナリオ的には終末が近づいていることを臭わせつつ、主人公が奔走するも多くの雑魚同級生が死ぬことになっていた。だが俺の介入で生徒の平均レベルが上がっていたから、主人公様の救助も間に合っている)


 ルテリアだけではなく、イレギュラによって強くなっていた男爵家や子爵家の生徒もこのインフレについてきている。

 自分の介入の成果を確認しながら、イレギュラは視界の一つに注目する。


(おっと、あの二人も襲われそうになっているな……)


 森の出入り口付近に待機させていたドローンの視界には、能天気に世間話をしているメラニィとパピヨが映っていた。二人はまだ気づいていないが、その周囲には多くのゴブリンが集まりつつあった。


 それだけならあの二人でも対処できなくはないが、角付きの個体まで集合しつつある。確実に処理能力を超えるだろう。


「ルテリア! あの二人がゴブリンに襲われている! 今すぐ助けに行ってくれ!」

「え、あの二人が!?」

「助けたくない気持ちはわかるけど、見殺しにするほど憎いわけじゃないだろ?」

「……わ、わかった! イレギュラさんは!?」

「俺は足が遅いから、君だけ先に行ってくれ!」

「……すぐ来てね!」


 一瞬不安げになったものの、ルテリアは指示通りに入口へ走っていった。

 彼女が消えたことを確認すると、イレギュラは自分の足元の影を強く踏んだ。


「今のルテリアでも、あの群れには勝てないな。一般ゴブリンもそうだが、角付きの数も多すぎる……! そこで俺が背後からサポート!」


 イレギュラの足元の影が広がっていく。

 以前と同様に人形の兵士が出現してくるのだが、その速度は明らかに以前よりも遅かった。


「このレベルの敵が相手だと、トイ・アーミーじゃ力不足が否めない。なのでぇ……出ろ、人形兵士レベル2! ベテラン・アーミー!」


 イレギュラの足元から出現したデッサン人形たちは、一体一体が武器を持っていた。

 また簡素ながらも兵士らしい鎧も着ている。


 その数は二十体。以前よりも出している数は少なかった。


「ベテラン・アーミーのコストとウォームタイムは、トイ・アーミーの二倍! 数は半分しか出せない上に、出すのに倍の時間がかかるってことだ! だがその性能はトイ・アーミーの三倍! 一体一体はクナオルより弱いが、角付きゴブリンよりは強い! 」


 イレギュラがわざとらしいほど大きく手を振るうと、ニ十体のベテラン・アーミーは一一斉に走り出す。その行軍する動きだけで、トイ・アーミーよりも格段に強いことがうかがえる。


「ルテリアちゃんを追いかけて、ゴブリンの群れを殲滅しろ!」



 メラニィ・ルコードとパピヨ・シルクンは森の入り口付近でゴブリンの群れに囲まれていた。

 なまじ他の生徒から離れて孤立していたからこそ、周辺のゴブリンすべてが近づいてきてしまっていた。


「メラニィ様……」

「わ、わかってるわよ! 見ていなさい……ゴブリンなんて、何体いても敵じゃないのよ!」


 パピヨはメラニィにすがり、メラニィはそれを請け負う。

 震えあがりながらも、ゴブリンが何体いても敵ではないと叫ぶメラニィは、己の力を解き放った。


「ふっとべえええええ!」


 メラニィのアビリティは二つ。

 広範囲魔法、遠距離魔法。

 これを同時に発動させた場合、射程が長く有効範囲も広い攻撃魔法が使えるということ。


 なまじ包囲陣形を作っていたばかりに、多くのゴブリンがその範囲に入ってしまっていた。

 およそ十体ほど、一撃で吹き飛んでいく。

 だがそれでも、まだまだ大量のゴブリンが残っていた。


「ど、どうよ……私はすごいんだから。お母様もお父様も、お姉さまもお兄様も、弟も妹も、私をすごいって褒めてくれたんだから……私は、やるのが面倒なだけで、ゴブリンを倒すなんて簡単なんだから……!」

「メラニィ様! まだまだ来ます!」

「ちょ、ちょっと待って! もう少し、もう少し時間をおかないと、再発射できないの!」

「急いでください!」

「う、ううう! たああああ!」


 再びの攻撃魔法。

 今度は先ほどよりも多くのゴブリンが巻き込まれた。

 それでも半分以上のゴブリンが残っている。

 その上、距離が詰まりすぎてもはや魔法で攻撃できない。自分をまきこんでしまうからだ。


「ああ……ああ……」


 パピヨは絶望し、もはや言葉を発せない。

 メラニィは、震えながら叫んだ。


「なんでよ! なんでこうなるのよ! 私はただ、今まで通りでいたかっただけなのに! お屋敷で、お父様やお母様に愛されたかっただけなのに! なんでこんなところで死ぬのよ!」


 ーーー彼女に才能がなかったとは言えない。

 仮に彼女がこの森でまじめにノルマをこなしていれば、あっさりとこのゴブリンの群れを瞬殺できただろう。

 しかし彼女はそれを望んでおらず、だからこそ初期状態のままここに至っている。


「お兄様が公爵を継ぐことになった!? お兄様に世継ぎが産まれた!? もう十四歳だから!? ルコード家に生まれたものとして義務を果たせ? お前は昔から優秀だったから大丈夫だろう!? 違うわよ! 私は英雄になんてなりたくなかった! 私が魔法を使って見せたのは、誉めてもらえたから! 将来は英雄だなって言われて頷いたのは、そうしたらお父様とお母様が喜ぶから! 本当に英雄になりたいわけがないじゃない!」


 恵まれた才能、恵まれた家庭環境に産まれた彼女は、だからこそここに至り、世を嘆いている。


「私はただ……ずっと、ずっと愛してもらいたかっただけなのに! 無理は言ってないじゃない! なんで叶わないのよ! このままずっとずっと、ほめてもらって、欲しいものを買ってもらって、たまに旅行に連れて行ってもらって、パーティーで称賛されて……そんな、当たり前の日々を求めているだけなのに~~~!」


 いよいよ、人間をおそうモンスターの手が迫る。

 メラニィとパピヨの命運は決したかに見えた。


「たああああああ!」


 横やりが入った。

 突進するルテリアが、ゴブリンの群れに突っ込んできた。


「ふうう、だああああああ!」


 及第点に甘んじず、それ以上を求めた彼女は『普通』に強い。

 メラニィとパピヨを包囲していたゴブリンの群れを、後ろから切り開いていく。


「絶対助ける!」


 彼女自身の視界も開かれた。

 ゴブリンの群れの先には互いに縋り合う少女がいた。


 見殺しにするほど嫌いじゃない。


 なんとも端的な言葉が、今の彼女の背を押す。

 いろいろな考えをすっ飛ばして、彼女は無力な二人に接近した。


 だがゴブリンたちも指をくわえてみているわけではない。

 突貫してくる『普通の強者』を包囲して抑え込もうとする。


 抵抗されないわけではないだろうが、数で圧倒できる。圧して倒して、そのまましとめられる。

 その程度の実力差だ。

 ゴブリンたちは本能的にそう判断して、彼女を覆い隠そうとした。


 だがそのさらに外周から、武装した人形たちが声も出さずに襲い掛かる。

 この瞬間、彼らの戦局は覆しがたいものになった。


 通常のゴブリンよりも強い人形がニ十体。躊躇はせず、命を惜しむことがない兵器。

 ゴブリンたちの強みであった数を、なんの芸もなく機械的にすりつぶしていく。


 混ざっている角付きの個体は抵抗するが、その間も数が削られていく。

 やがて普通のゴブリンの数は完全にゼロとなり、手の空いた他のベテラン・アーミーが角付きゴブリンたちを包囲し倒していった。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ……もう大丈夫だよ!」


 ここでルテリアはへたり込んでいた二人にたどり着く。

 泣いていた彼女らを勇気づけ、安心していいと伝えていた。


 その上で、覚悟をもって『残っているはずのゴブリン』を迎え撃つべく向き直った。


「……あれ?」


 必死で戦っていた彼女はここで初めて周囲を確認したのだが、そこには『何』も立っていなかった。

 ゴブリンは全員死んでおり、三人の少女が知るはずもない人形兵たちも消えている。


「まだまだゴブリンはいたはずなのに……」

「いやいや、君が頑張って殲滅していたよ。初めて会った時から考えると、すごく強くなったねえ。今回の戦いでまた強くなったんじゃないかな?」


 すべての人形をすでに消しているイレギュラ。

 彼は拍手喝采で、手柄を彼女にゆだねていた。


「えっと……なんでそんなに遠くにいるの? それになんで服を脱いでるの?」

「そこはほら。俺の配慮だよ」

「え……え、あ、うん」


 イレギュラは三人の少女が鮮明に見えない場所に立ち、上半身に着ていた服を脱ぎ始めていた。

 ルテリアは意図を察して自分からイレギュラに近づき、服を受け取って二人の元へ戻った。


「えっと、その、コレ」

 

 ルテリアは『二つの布』を二人に渡していた。

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― 新着の感想 ―
何というか、良くも悪くも失ったことのない子なんだなメラニィ。 横取りが自ら品位を落とすことにも気づいてないし、両親に愛されることが当たり前でそれ以上の何かを積んですらなかった子供。 メラニィと対照的に…
実家の方から本当に期待されて、大丈夫だと思われてんのか、「こりゃ、もうあかんわ」と見切り付けられて放逐されたんか、マジでわからん。
なんてことだ。 イレギュラの服を着なくてはならないということは、まさに男装! 真の仲間になってしまいやがったのか…。
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