勢いでごまかす
非常に今更ではあるが……。
アビリティには個人差がある。
比較的よくある『身体強化』は攻撃力防御力スピードが上がるわけだが、個人によってある程度の偏りが生まれる。
クナオルはスピードが高く、ワワ・スムールは攻撃力が高く、ルテリアはバランス型である。
もちろんこれは十種競技のオリンピック選手が『相対的に得意』と言っているようなもので、クナオルが一般人より攻撃力や防御力が低いというわけではない。
スピードに優れている場合でも、攻撃力や防御力も一般人よりは高いのだ。
これは変身も同様である。
本質的にはすべて同じアビリティであり、本人たちの気性や考え方によって形態が異なっている。
であれば。
イレギュラと恐怖の魔法使いが本質的に同じアビリティを有しているとして、どのようにして差異が生まれているのか。
恐怖の魔法使いにとって『理想の部下』とは『民』である。
イレギュラは戦略シミュレーションゲームに例えて、領地や拠点から一定時間ごとにモンスターを出し続けると解釈していた。
おおむね間違っていないが、正しくは戦略シミュレーションゲームの元になっている実際の侵略がベースである。
恐怖の魔法使いが貴族や王ならば、部下に対してそのように考えるのは自然であろう。
イレギュラが表面的に求めていた『会話の成立するキャラクターを生み出す能力』もありえなくはない。
その場合はモンスター育成ゲームのように、一体一体を長い時間をかけて育成し、強大なモンスターへと成長させていくだろう。
イレギュラや恐怖の魔法使いと違って、一体一体の実力は高くなるに違いない。
ではイレギュラが対戦型タワーディフェンスゲームのような『一定の枠のコスト内なら、短時間で再生産できるユニット』を扱う能力になったのはなぜか。
それは彼が本質的に『一番欲しいコマ』への認識がいろいろな意味で『死んでも惜しくない』ことだからである。
何時でも出せて消せて、即座に再生産でき、そのことに何のデメリットもない。
死んだらどうしようとか、命令を聞いてくれなかったらどうしようとか、ご機嫌をうかがうとか、尊重を一切しなくていい。
彼にとって『理想の部下』とはそういう解釈である。
結果として、一体一体はそこまで強くなく、しかも膨大に出せるわけではないという弱点も背負ってしまった。
だからこそ彼は他の人間を運用することで補おうとしている。
死んだら惜しい人間の仲間と共に、彼は戦いに臨んでいるのだ。
※
テリァ領にあったすべての黒の泉を破壊しきった一行は、意気揚々とテリァ城へ凱旋していた。
道中の戦いでランクアップしたことも含めて、堂々たる凱旋である。
自分たちへ舐めた対応をしたテリァの兵士たちへマウントを取る準備は万全だった。
やはり正当性のある上から目線は気分がいい。相手を得る前から上機嫌である。
そのような一行だがテリァ城の近くに来たところで異常事態に出くわした。
モンスターの死体が大量に散乱していたのである。
文字通りの散乱である。小型モンスターが肉片と骨粉になって飛び散っており、地面を大いに汚している。
大型モンスターも似たようなものだ。大型の臓物が広範囲にばらまかれており、その外側もいびつに折れ曲がりながら地面に転がっている。
巨大な鉄球で陥没したような地面、大量の火薬で開けられたような穴。
天下泰平の世どころか大戦争のような様相である。
「うげえ」
ルテリアが貴族の娘とは思えない生理的嫌悪感丸出しの声を漏らした。
彼女だけではなくほかの面々も同じように嫌そうな顔をしている。
今まで何度もモンスターを倒してきた彼女らであったが、ここまでの物量を見ると吐き気を覚えてしまう。
「どうなってるのよ、これは……ま、まさか、この城の主であるピット・テリアの力!? こんなに強かったの!? 噂に聞く姫様のお兄様、次期皇帝陛下級じゃない!」
メラニィはマウントを取ろうとしていた相手の戦果だと考えて戦慄した。
彼女の部下たちもついつい縮み上がる。
いやあ、迂闊なことを本人やその仲間の前で言わなくてよかった。
やはり沈黙は金である。何の得にもならないのだから、誰かの悪口など言わない方がいいな。
「メラニィ様! なんかあっちの方からテリァ領の兵士たちが歩いてきますよ!」
「わかったわ、ルテリア! いい、みんな! 絶対に失礼なことをしちゃダメよ! 礼節を持って対応するの! 皇帝陛下に降ろそうと訴える予定があったなんて話しちゃダメよ!」
「は~い!」
学生たちは臨機応変に柔軟な対応をしていた。
ちょっと失礼な態度をとられたからって、自分も失礼なことをするのはダメだね。
「おお、メラニィ・ルコード様!」
「ええ、メラニィ・ルコードですわ。この度はご機嫌麗しゅう……」
「これをやったのは貴方達ですか!?」
「……え、これをやったのはこの城の主、ピット・テリァ様では?」
「ピット様は、貴方たちが城へいらっしゃる前日に過労で倒れて、ベッドから起き上がることもできておりません! それにピット様と言えども、ここまでの戦いぶりはできないでしょう」
慌てた様子で走ってきたテリァの兵士たちは、メラニィたちがコレをやったのかと聞いてきた。
それこそ『この間めちゃくちゃ失礼なことしちゃったよ!』というメラニィたちと同じ種類の慌てようである。
慌てすぎて大事なことを漏らしてしまっていた。
「じゃあ誰がやったのよ……」
「我等もわかりません。本当に貴方ではないのですか?」
「私たちにここまでできる力があるのなら、ここに救援を求めないわ」
「ごもっともで……」
(とか言われていますね、坊ちゃん)
(仕方ないだろ。確実に勝てる状況にしたいんだ、爆装ゴーレムだけじゃ逃げられた時追えないだろ)
「じゃあ誰がやったんだろう……イレギュラさん、なにかわかる?」
(ほら、ルテリアさんから聞かれていますよ)
(わかってる、わかってる)
状況は混乱している。
イレギュラが手札を示せば納得してもらえるかもしれないが、黒の泉をイレギュラが使うことになるため余計な不和が生じかねない。
なにより戦術的に考えて、開帳する意味がなかった。
「俺もわからない。だから調べないといけないわけだが……何日かけて調べる気だ?」
「おっしゃるとおり、ですわね……」
侍女に支えられる形で、白髪の女性がよろよろと歩いてきた。
屍の道を進む姿は、まさに亡者そのもの。
疲弊によって年齢よりもずっと衰えて見える彼女こそ、ピット・テリァである。
どう見ても戦える様子ではない彼女が現れたことで、場の空気は彼女への注目に切り替わった。
「どういうわけだか、この城の周囲に近づくモンスターが一掃されるようになりました……わ。ですが誰がどうやって倒しているのか、確かめる余裕もなく……ただ、幸運を享受することしかできませんでしたわ。情けないことに、この異変を調べる暇はありません。天祐に感謝しつつ……今後のことを、話しましょう、です、わ」
侍女に支えられる彼女の姿を見て、メラニィたちは複雑な気持ちにならざるを得なかった。
こうなるまで戦い、今も交渉をしようとしているなんて、とても尊敬できる領主だな。
この姿では当分戦えないだろう。これじゃあ援軍は頼めない。
どちらも素直な気持ちだった。
「それでは……ご存じかと思いますが、私どもは英雄校から派遣されてきた学徒兵です。隣のコッカース領へ救援に来たところ、ドラゴンが黒の泉を守っていると知りました。ドラゴンを倒すには、変身アビリティを持つ者が三人は必要。なので貴方の助力を得るべく」
「まずこの領地を救ってくださった、というわけですわね……」
ピットはせき込んだ。
「では、その予定通り……私はコッカース領へ援軍に向かいますわ」
死相に満ちた彼女の言葉に、誰もが唖然とする。
テリァの兵士たちは彼女を押しとどめた。
「ピット様! どうかお気を確かに! せっかく持ちこたえた命が消えてしまいます!」
「貴方が死んでしまったら、我らはどうすればいいのですか!」
「黙りなさい。この領地が救われ次第、コッカースへ救援に向かう。これを約束したのは貴方たちでしょう……私はそれを果たすだけですわ」
「それは……その責任は、我らのものです。罰ならば、我らが受けるべきかと」
「貴方は何も知らなかったではありませんか。なのになぜ、貴方が罰を受けるのですか」
「黙りなさい。もはや貴方たちの首で済む話ではないのよ!」
覇気を込めて睨むピット。
「最初から対価を支払う気もないのに命懸けで戦わせるなど、焼き討ちにされても文句が言えなくてよ。ならば行かなくてどうするというのよ!」
ピットの懸念はもっともである。
黒の泉を破壊するということは、トロールの上位種と戦って勝つという事。
死んだり大ケガで引退することもあるだろう。
結果的には無傷だったが、だったら踏み倒していいのかという事になる。
まして相手は公爵令嬢であり、お隣のコッカース男爵からの正式な書状も持ってきている。
これで『実は死にかけているから無理です』と言ったら、イレギュラが言っていたように皇帝へ訴えられてしまうだろう。
敗訴は確定、そのままお家は取り潰しである。
そして、それはある意味で前提条件だ。
怒った学徒兵たちが今ここでテリァ城に攻め込み、略奪と凌辱の限りを尽くされるかもしれない。
それは犯罪ではない。正式且つ正直に皇帝へ事情を説明しても『それは学徒兵たちが被害者だね』と慰められてしまうほどだ。
「焼き討ち……みんな、どうする?」
メラニィは嫌そうな顔をして『焼き討ち』を検討していた。
彼女個人としてはあんまりやりたくないが、部下がやりたいと言えば止める気もなかった。
「ん~~まあ、私はやらなくてもいいと思います」
「俺も。さすがにそこまでは、なあ」
「誰か死んだり、大ケガしたらそうしたかもしれないけど、そうなってないし」
(お、これはいい風に働いたな。主人公様のところみたいに仲間がボロボロになっていたら怒っていたかもだが、安全に戦ったからそこまで苦労していない。小者でも余裕があるから寛大な心で許してくれるわけだ)
「じゃあ焼き討ちはナシで。で……結局どうするのよ! ピット様がこんな状態じゃあ戦えないわ! この城の近くにいるかもしれない、モンスターを返り討ちにした人……人たちを探す!?」
「名乗り上げていないのですから、事情があるのでしょう。ですから、私が行きますわ……行かないといけないの!」
「お気持ちはわかりますが……戦力、そう戦力の話をしているのよ! 今の貴方が死力を尽くしても、ゴブリン一匹すら倒せないでしょうに! ドラゴンをどうやって倒すのか、という話なの! 勇気の話じゃなくて準備の話なの!」
「おっしゃる、とおり、ですわね」
ピットを説得したことで、思わず周囲から拍手が漏れた。
メラニィ・ルコード。ここにきて将としての芽吹きを見せてきた。
今まで芽も見せなかったと言える。
「イレギュラ、貴方から提案を聞きたいわね。私たちは覚醒をしたけど、結局ドラゴンを倒せる戦力は一人も増えていないわ。どうすればいいと思う?」
「とりあえずコッカース領に戻りましょう」
イレギュラの提案は、やはりありふれたものであった。
「今回の作戦はバーニエ・コッカース男爵から許可をいただいたものです。最終的に失敗しましたが、それはそれで報告した方がいいでしょう。作戦が失敗したのはメラニィ様が悪いわけじゃありませんし(重要)」
「そうね、私は何も悪くないわね(重要)」
メラニィは力強く頷いた。
やっぱり自分が悪くないときは力強くなれるものである。
「ピット・テリァ男爵についてですが、同行願いましょう。男爵の責任問題でもありますし、ご本人から申し開きもしたいでしょう。それに……希望がないわけでもない」
「希望? なにかアテがあるのね」
「あの城に残っているアメル様ですよ。彼がランクアップしているのなら、ピット様を治せる可能性があります」
「……その発想はなかったわね」
メラニィは四方が丸く収まる可能性に賭けることにした。
自分の責任じゃないし(重要)。
「ピット・テリァ男爵。貴方の体調がもうすこし落ち着くまで待ってから、コッカース領へ同行していただく。そういう計画でよろしいでしょうか」
「その必要はありませんわ。正直に申し上げて、数日寝て回復する疲労ではありません。寝たまま召されるかもしれませんわ。それならば、優れた回復魔法の使い手が居るというコッカース城に向かうべきでしょう」
「……わかりました。それではこちらも準備をします」
護送中に死んだら私の責任じゃないかしら(重要)。
少し迷ったが、メラニィは応じる。
そしてこの場で唯一『打つ手』を意識しているクナオルは質問をした。
(坊ちゃん。あえてお伺いしますが、アレを今は使わないのですか?)
(最悪の場合は道中で使うが、そうでなかったら使わねえ。アレは一回使うと警戒されるからな……アメルを利用してごまかせるのならそれがいい)
※
ピットと彼女を看護する侍女を加えた一行は、コッカース領へ戻っていった。
およそ半月ほどの時間をかけて戻ってきたわけだが、その歓迎は暖かかった。
城の中の人々は通過する馬車へ歓声を送った。
長く籠城し疲れていた彼らだったが、それでも希望を持てる程度には生気がある。
それだけ、この場に残したベルマとアメルが頑張ってくれたのだろう。
そう思いながら一行は城の本丸に入った。
ものすごく頑張っている三人が、頑張って疲れた顔で出迎えてくれた。
バーニエもベルマもアメルも、以前に近い状態で疲労している。
「……ベルマ。二人で交代しながらでもキツかった?」
「ああ……二、三日しか休めないから、疲労が抜けきらないまま戦うことになった。アメルもこの通りでな、限界は近かった」
「だがおかげでずいぶん楽ができた。あのまま戦い続けていれば、私も君のようになっていただろう。だから……この状況は、君が私に劣るという事ではない。よく来てくれた、好敵手よ」
「今の私に、貴方の好敵手が務まるとは思えないわね……そう呼んでくれるだけでもうれしいわ」
「自慢の髪がそこまでくたびれるまで戦うとは。正直に言って驚いているよ」
「あら。髪を惜しんで民を見捨てる女だと思われていたの? さすがにそれは許せないわね」
「すまん。本当に頭が回っていないようだ。普段の軽口を言える状況ではないというのにな……」
「そういう意味では私の方が申し訳ないわね。不明なことはあるけど、テリァ領の黒の泉は片付いているから」
「君が健在ならよかったのだが……あるいはアメル・カンカール殿が健在ならば、なあ……」
ーーーガチでスポーツをやっている漫画では、登場人物のドラマが劇的に描かれる。
これは誇張ではない。安全な競技であっても全力で打ち込んでいれば、ドラマが生まれて当然だ。
アメルもこの城で医療に従事したことでドラマを得た。
その結果覚醒を遂げ、回復魔法も一段階ランクアップした。
彼が健在なら希望もあったが、彼も疲れてフラフラである。
「どうするのよ、イレギュラ……この城を持たせるだけでいいのなら私たちが代わりにやれるけど、ドラゴンを倒す話がまた進まなくなったわよ。アメルの回復を待つ?」
メラニィはそこまで絶望していない。
テリァ領を救った仲間たちは強くなったので、この城を維持するだけでいいのなら問題はないからだ。
あとはのんびりアメルの回復を待つ、というのも手だろう。
ただその場合、事態が悪化する可能性もあったのだが。
「無理は承知でアメル様に回復魔法を使ってもらいましょう(強弁)!」
「え、ええええええええ!?」
今まで黙っていたアメルが絶叫した。
今までにない力押しぶりに、さすがに面食らっている。
「僕も頑張ってるんですよ!? あんなに疲れている人を治すなんて……できません!」
「まあまあ。別に一人でドラゴンに突っ込めと言ってるわけじゃないんですから」
「それはそうですけど、今回復魔法を使おうとしたら気絶しちゃうと思います!」
(それはそれで好都合なんだよなあ……)
「……イレギュラに考えがあるみたいだし、どのみちアメルには当分休んでもらうことになるから、今晩に試して気絶してもらいましょうか」
「メラニィ様まで気絶するまで頑張れって言うんですか!?」
「私たちは死ぬ思いをしているし、変身持ちの三人はドラゴンと戦うのよ」
(さすが公爵令嬢、実にパワハラだな。だが都合がいい……俺の強引さから何かを察してくれたか)
イレギュラは邪悪に笑っていた。
なお周囲の仲間たちは……。
(わかりやすいぐらい何か考えている顔をしている……)
全員、何かを察しているのだった。
※
その日の夜である。
イレギュラの提案によって、変身持ちの三人は同じ部屋に集められた。もちろん治療を担当するアメルも、である。
本丸の中の一室、地下の部屋。もとは倉庫であったためそれなりに広いが、貴族が入るにはいささか貧相な部屋であった。
ベッドで横になっている三人へ回復魔法をかけようとしたアメルだったが……。
本人の言っていたように、疲労から眠るように気絶した。
(やはり、無理でしたわね……)
疲れから、ベルマとバーニエも同様であった。
だが疲れすぎているピットだけは、体を起こす余裕もないままに起きていた。
半分寝ているような、二度寝寸前のような状態である。
そのような、疲れている四人の部屋に二人の影が入ってくる。
やはりイレギュラとクナオルであった。
(この二人、なぜ?)
ろくに瞼も開かない状態であったが、声を聞くことはできた。
「ううん、都合がいい! 俺の思った通りの展開になったな! さすが俺の計画だ、十重二十重に安全策を張り巡らせているぜ!」
「病人の前で騒がないでください。あとそもそもうるさいです」
「すまんすまん! メラニィ様もうんざりしていたが、とにかくこれでようやくドラゴン退治に本腰を入れられるな。それじゃあテリァ城に残していたゴーレムとドローンを回収して、と」
「むしろ今までは残していたのですか?」
「一応念のためにな。それに解除は遠くからでもできるが、設置は現地に行かないとムリなんだぞ。それならここで回収した方がいい」
(テリァ城に残していた? ……まさか彼がなにかをしていたの?)
目を開けようとしても、疲れて動かない。
疲労でうなされているようにしか見えず、結果として寝ているふりになっていた。
「そいじゃあ行くか。守護石像レベル1、コスト3、バリケードゴーレム!」
目を開けられないピットだったが、なにかのアビリティが発動している音は感じていた。
(おかしいわね。彼のアビリティは千里眼、索敵系のはず。回復魔法は使えないはずじゃあ……仮に使えるとして、なんで隠していたの? なにかデメリットがあるのかしら。それがあるとしても許容される状況なのに、なぜ?)
一時的に対象を回復するが、一定時間が経過すると死ぬ。
そんな呪いの様なアビリティがあったとしよう。
バーニエとピットはそれを許容する覚悟があるし、むしろその程度でいいのなら請け負う覚悟だ。
イレギュラが隠しているという事は、そうですらないという事になる。
「そこからさらに追加武装! 治装……リヴァイブ・バリケード。ゴーレム! ×4だ!」
「本当にうるさいですね、この騒ぎで起きたらどうするんですか」
「……久しぶりにキメたいだけなの」
「関節を?」
「なんで俺の関節をキメるんだよ! ごほん! それじゃあ……お前たち、一人ずつ飲み込め!」
立った人間が隠れられる大きさの丸い岩に、石の連結した腕を持つゴーレム。
最下級のゴーレム、バリケードゴーレムが四体。
一番下の階にあたるこの部屋に出現した。
さらにそれを影が覆い、変形させていく。
中央の丸い岩が半透明になり、液体を湛えているようにみえた。
(何これ!? ぬるま湯の中? なんで呼吸ができるの!?)
ゴーレムの腕は優しく動き、それぞれが一人ずつ液体の中に取り込んでいく。
疲れた患者を抱きしめるように沈めたゴーレムたちの『液晶』に、全快までの時間を現す砂時計が表示された。
「やっぱりめちゃくちゃ疲れているな。特にピット様なんて、朝までかかりそうだぞ」
「ここまで疲れている人を一晩で治せるなんてすごいですね」
「ああ。一人ずつだし時間こそかかるが、最上級の回復魔法に匹敵するかもしれない性能を持っている。時間はめっちゃかかるけどな」
(体が楽になっていく……眠い……)
「これがあるのですから、最初から三人とも治せばよろしいのでは?」
「俺が正常な人間なら、こんな怪しい石の中に患者を沈めることを許可しねえよ。本人が請け負っても、周りが止める。ベルマは侯爵令嬢だし、他の二人は現役の男爵だぞ? 法で許されていない治療を通すなんて無理筋が過ぎる」
「このまま治せば、翌朝には大問題な気がします」
「全員まとめて一回ならセーフだろ。それに治した後でなら多少騒がれても問題ない。あとは突っ込むだけだからな」
(何が起きているの……?)
「それじゃあお前たち、治療が済み次第ベッドに戻せ。そのあと自壊しろ、いいな?」
イレギュラは指示をしてから部屋を出ていく。
翌朝には四人全員が回復しているだろう。
だがイレギュラは忘れていた。
この部屋にベッドが三つしかないので、アメル(男です)が女性三人の内だれかと同衾するという事になるのだ。
ゴーレムは命令通りに動くので、まあお察しであった。




