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露見しただけ

作者: P4rn0s
掲載日:2026/01/10

わたしがその動画を初めて見たのは、通勤電車の中だった。

朝のニュースでもなく、特別な告発番組でもない。

ただ、指先が無意識に弾いた短い動画だった。


廊下の隅。

俯いた子。

笑い声。

スマートフォンの画面越しでも、痛みは簡単に伝わってきた。


コメント欄は騒がしかった。

「またか」「最近多すぎる」「異常な時代だ」

正義感のような言葉と、飽きたような言葉が、同じ温度で並んでいた。


その日から、ほぼ毎日、似たような動画が流れてくるようになった。

学校が違っても、制服が違っても、構図は驚くほど似ている。

囲む人数。

逃げ場のない壁。

撮影者の無関心な手ブレ。


一日一本。

まるで更新ノルマのように、いじめの映像が上がる。


世の中は「異常だ」と言った。

こんな動画が毎日上がる社会はおかしい、と。


けれど、わたしは違和感を覚えていた。

本当に異常なのは、ここなのだろうか。


思い返せば、動画がなかった頃から、似た光景はいくらでもあった。

教室の隅で、消しゴムが消える。

誰かの机だけが、やけに汚れている。

あだ名が、いつの間にか呼び捨てよりも残酷な形に変わっている。


それらは、ずっと「よくあること」として処理されてきた。

大人たちは言った。

子どもの世界のことだから。

成長の過程だから。

昔はもっとひどかったから。


記録されなかっただけで、止められていなかっただけで、

いじめは、そこにずっとあった。


動画が異常なのではない。

映るようになっただけだ。

隠せなくなっただけだ。


一日一本動画が上がる世の中が異常なのではなくて、

一日一本上がるほど蔓延っているいじめを、

何十年も、見ないふりをしてきた時間のほうが、よほど異常なのだと思った。


炎上してから動く学校。

拡散されてから謝る大人。

「把握していなかった」という言葉が、

まるで免罪符のように使われる。


把握していなかったのではない。

把握しようとしなかっただけだ。


動画の中の子は、今日もどこかで息をしている。

削除された動画の先に、現実は消えない。


わたしはスマートフォンを伏せた。

見ないことは、もう、無関心とは違う。

知ってしまった以上、知らなかった頃には戻れない。


この異常さは、突然始まったものではない。

ずっと続いていたものが、

ようやく、可視化されただけなのだ。


それでもまだ、

「最近の子どもは怖いね」と言って、

画面を閉じるだけで済ませるのだろうか。


その選択こそが、

次の一日一本を、静かに準備しているのかもしれない。

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