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露見しただけ

作者: P4rn0s

わたしがその動画を初めて見たのは、通勤電車の中だった。

朝のニュースでもなく、特別な告発番組でもない。

ただ、指先が無意識に弾いた短い動画だった。


廊下の隅。

俯いた子。

笑い声。

スマートフォンの画面越しでも、痛みは簡単に伝わってきた。


コメント欄は騒がしかった。

「またか」「最近多すぎる」「異常な時代だ」

正義感のような言葉と、飽きたような言葉が、同じ温度で並んでいた。


その日から、ほぼ毎日、似たような動画が流れてくるようになった。

学校が違っても、制服が違っても、構図は驚くほど似ている。

囲む人数。

逃げ場のない壁。

撮影者の無関心な手ブレ。


一日一本。

まるで更新ノルマのように、いじめの映像が上がる。


世の中は「異常だ」と言った。

こんな動画が毎日上がる社会はおかしい、と。


けれど、わたしは違和感を覚えていた。

本当に異常なのは、ここなのだろうか。


思い返せば、動画がなかった頃から、似た光景はいくらでもあった。

教室の隅で、消しゴムが消える。

誰かの机だけが、やけに汚れている。

あだ名が、いつの間にか呼び捨てよりも残酷な形に変わっている。


それらは、ずっと「よくあること」として処理されてきた。

大人たちは言った。

子どもの世界のことだから。

成長の過程だから。

昔はもっとひどかったから。


記録されなかっただけで、止められていなかっただけで、

いじめは、そこにずっとあった。


動画が異常なのではない。

映るようになっただけだ。

隠せなくなっただけだ。


一日一本動画が上がる世の中が異常なのではなくて、

一日一本上がるほど蔓延っているいじめを、

何十年も、見ないふりをしてきた時間のほうが、よほど異常なのだと思った。


炎上してから動く学校。

拡散されてから謝る大人。

「把握していなかった」という言葉が、

まるで免罪符のように使われる。


把握していなかったのではない。

把握しようとしなかっただけだ。


動画の中の子は、今日もどこかで息をしている。

削除された動画の先に、現実は消えない。


わたしはスマートフォンを伏せた。

見ないことは、もう、無関心とは違う。

知ってしまった以上、知らなかった頃には戻れない。


この異常さは、突然始まったものではない。

ずっと続いていたものが、

ようやく、可視化されただけなのだ。


それでもまだ、

「最近の子どもは怖いね」と言って、

画面を閉じるだけで済ませるのだろうか。


その選択こそが、

次の一日一本を、静かに準備しているのかもしれない。

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