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「愛が無い関係」なんて誰が決めたのですか?  作者: 延々Redo


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3/12

◆フィラウティア―自己愛

二つ目

「――以上、バーネット卿の勇気ある行動を称え、ここに表彰する」


 学園の講堂に、割れんばかりの拍手が響き渡る。

 壇上で騎士の礼を取るウォルト様を見て、私、シェリー・イースは一階の席で深く、深く頷いた。さすがは私の見込んだ婚約者だ、と。


 事の発端は先日、学園付近で起きた馬車同士の衝突事故だった。

 混乱する現場で、彼は誰よりも早く動いた。通行人の誘導、騎士団への通報、そして負傷者への迅速な応急処置。騎士の家系に生まれ、日夜訓練を積んでいる彼にとって、それは当然の義務だったのかもしれない。

 けれど、それを完璧にやり遂げる精神力と実行力。それこそが、私が彼をパートナーとして選んだ最大の理由なのだ。


「……素晴らしい。やはり、私の目に狂いはなかった」


 私は、自分自身の審美眼に改めて惚れ直していた。

 向上心を欠かさない彼の隣に並び続けられるよう、私もまた、自分を磨き続けなければならない。そう思うだけで、胸の奥に心地よい熱が灯るのを感じた。




◇◇◇◇◇




「ウォルト様、本当にかっこよかったです!」

「今度、お礼にクッキーを焼いてきたんです。受け取ってください!」

「週末のパーティー、ぜひいらしてほしいわ!」


 集会が終わるやいなや、ウォルト様は令嬢たちの厚い壁に囲まれていた。短い金髪に澄んだ青い瞳。王子様のような容姿に、あの英雄的行動だ。人気が出るのは当然だろう。

 ウォルト様は困ったようにはにかみながらも、あくまで紳士的に、等距離の対応を崩さない。その卒のなさも、実に彼らしい。


「バーネット卿は今日も溜め息が出るほど素敵ね……。それにしても、嘆かわしいことだわ」


 背後から、わざとらしい溜息が聞こえた。

 振り返らなくてもわかる。マクドウェル伯爵令嬢、ヴィクトリア嬢とその取り巻きたちだ。


「あのような素晴らしい殿方の婚約者が、どこぞの地味な田舎娘だなんて。宝の持ち腐れもいいところだわ」


「まったくですわ! イース嬢のような華のない方が、あの方のお隣を歩くだなんて…。想像するだけで恐ろしいことですわね」


 彼女たちは私の目の前で足を止め、扇で口元を隠しながら勝ち誇ったような視線を向けてくる。マクドウェル家は元侯爵家という自負があるのだろう、イース子爵家の私を見下すのが彼女たちの日常茶飯事だった。


「あら、ごきげんよう…。あなた、鏡をご覧になったことはなくて? その野暮ったいドレスに、肌の荒れ。侍女も雇えないほど困窮していらっしゃるのかしら?」


「イース嬢には、ウォルト様に尽くす気なんてないのでしょうね。あんなに他の令嬢に囲まれているのに、眉一つ動かさないなんて。婚約者としての愛が、微塵も感じられませんわ」


 彼女たちの指摘は、ある意味では鋭かった。確かに私は、彼が誰と話していようと焦りもしないし、嫉妬もしない。


「愛がないのでしたら、一刻も早く身をお引きなさい。貴女は彼の輝きを曇らせるだけの、不釣り合いな石ころなのですから」


 これには、私も少しばかりムッとした。

 私の容姿への指摘は、今後の改善点としてありがたく頂戴するが、私たちの「関係」を否定されるのは話が別だ。

 反論しようと口を開きかけた、その時。


「――あの! バーネット卿との間に愛が無いって、本当ですか!?」


 場違いなほど大きな声が、廊下に響き渡った。

 ブラウンの癖毛を振り乱した少女――レニー・ピアースが、ひどく悲痛な面持ちでこちらを凝視している。


「な…っ、何ですの貴女!? 唐突に会話に割り込んでくるなんて、無礼だわ!」


「あ、あの、私レニーって言います! ピアース子爵家の者です! そこのイースさんに言いたいことがあって…!」


 彼女はマクドウェル嬢の制止を無視し、私に詰め寄ってきた。その瞳には、使命感という名の狂気が宿っている。


「愛の無い関係で、バーネット卿を縛り付けるなんて最低です! 彼を解放してあげてください!」


「……は?」


 あまりの失礼さに、呆れを通り越して感心してしまった。

 初対面の、しかも格下の令嬢が、白昼堂々と婚約解消を迫る。この学園のモラルはどうなっているのか。


「愛の無い関係、とは心外ですね。ピアース嬢、私たちは――」


「嘘よ! だって、二人が仲良くしているところなんて、一度も見たことがないもの! 愛があるなら、もっとこう…見つめ合ったり、寄り添ったりするはずよ! あなた、バーネット卿がモテるから、自分の地位を守るために彼を拘束しているだけでしょ!」


 レニーの叫びに、周囲の野次馬たちがざわつき始める。


「確かにあの二人、冷めてるよな」

「政略結婚の典型か」


 無責任な噂が空気を支配していく。マクドウェル嬢までもが「ほら、ご覧なさい」と言わぬばかりに鼻を鳴らした。


 私は小さく溜息をついた。

 この少女には、言葉で説得するのは無理だろう。彼女が見ているのは「現実」ではなく、自分の頭の中にある「テンプレートな恋愛劇」なのだから。

 

 教師を呼ぼうかと周囲を見渡したとき、人混みを割って、一人の青年が歩み寄ってきた。


「――シェリー! 大丈夫か?」


 ウォルト様だ。彼は令嬢たちの囲みを突破し、真っ先に私の隣へと駆けつけた。


「バーネット卿! ちょうど良かったわ、このイースさんが…」


「ピアース嬢、と言ったかな。君が何を騒いでいるのかは、向こうまで聞こえていたよ」


 ウォルト様の声は冷ややかだった。

 彼は私と一瞬だけ視線を合わせた。言葉はなくともわかる。


(面倒なことになったな)

(ええ。でも、ちょうど良い機会かもしれませんわ)


 それだけのやり取りで、私たちは瞬時に役割を分担した。


「ピアース嬢。まず、マナーについてお話ししましょう」


 私が一歩前へ出る。彼女が反論のために息を吸い込む瞬間を狙い、言葉を被せる。


「あなたは私を『イースさん』と呼びましたね。初対面、かつ目上の者に対してその呼び方は、この国の礼法において明確な非礼です。さらに、目上の方の会話を遮り、無視し、一方的に自説を喚き立てる。それは階級社会を否定する反逆行為と捉えられても文句は言えませんよ」


「……ッ、あ…」


「さらに、私のことを『子供みたいな独占欲で彼を縛り付けている』と断じましたね。名誉毀損です。ここにいる二十名以上が証人ですが、今すぐ訴えられても構わないという覚悟があっての発言ですか?」


 レニーの顔が、みるみるうちに青ざめていく。

 彼女は必死に反論しようと、何度も酸素を求めて口を動かすが、私はその隙を与えない。


「そもそも、愛が無い関係なんて、一体誰が決めたのですか?」


「!?」


「なぜ、ベタベタと人前で睦み合わないだけで、愛が無いと思うのですか? なぜ、彼が他人に囲まれているときに嫉妬しないことが、愛の欠如になるのですか?」


 私は、自分の胸に手を当て、誇らしげに告げた。


「ウォルト様は、この私が見つけ出し、選び抜いた最高の婚約者です。私は、自分の判断力と審美眼を、何よりも信頼しています。――自分が選んだ最高の男が、他の女に心を移すはずがない。その程度の確信も持てずに、どうして彼を『私の男』だと自慢できるでしょうか?」


 沈黙が流れた。

 マクドウェル嬢も、野次馬たちも、レニーも。

 嫉妬しないことが、冷淡さではなく、圧倒的な「自己肯定」と「信頼」の裏返しであるという理屈に、度肝を抜かれたようだった。


「その通りだ」


 ウォルト様が私の肩に手を置き、静かに、けれど力強く言った。


「ピアース嬢。私とシェリーは、互いを一人の独立した人間として尊敬している。だからこそ、四六時中監視し合う必要も、愛の言葉を安売りする必要もない。私たちは、視線を一度交わすだけで、相手が何を考え、何を求めているか理解できる」


「……そんな、そんなの…」


「君の言う『愛』は、相手を信じられない不安から来る『執着』に過ぎない。自分を信じられないから、相手を束縛せずにはいられないんだろう? だが、私たちは違う」


 ウォルト様は私を見つめ、優しく微笑んだ。


「私たちは、自分自身を愛している。そして、その自分が選んだ相手を、同じように愛しているんだ。そこに疑いの余地などない」


 レニーは、まるで幽霊でも見たかのような顔で後退った。

 彼女の信じる愛の形が、私たちの前ではあまりにも幼く、独りよがりなものに見えたからだろう。


「……負け、ですわね」


 不意に、マクドウェル嬢が扇を閉じた。

 その顔には、先ほどまでの侮蔑はなく、清々しいほどの敗北感が浮かんでいた。


「言葉や態度がなくとも通じ合う愛。…正直、わたくしには真似できませんわ。完敗です、イース嬢」


「ご理解いただけたなら、何よりです」


「フン、謝罪はいたしませんわよ。でも…次は、もう少しマシなリボンを選びなさい。貴女の審美眼が本物なら、その容姿も磨けるはずでしょう?」


 そう言い残し、彼女は颯爽と去っていった。嫌味を言いつつも、私の芯を認めた顔だった。


「シェリー、行こうか。報告書を書かなければならない」


「ええ、ウォルト様。…あ、そうだ」


 歩き出す寸前、私はもう一度だけレニーを振り返った。


「ピアース嬢。学生の身分だからと甘えないこと。自分の無知で、他人の幸福を壊そうとした責任は、重いですよ」


 膝をつき、呆然とするレニーを置き去りにして、私たちは歩き出した。


「シェリー、君、壇上を見て頷いていただろう。私が見えていたのか?」


「ええ、もちろんです。やっと世間があなたの価値に気づいたのだと、誇らしく思っておりました。……私は、最初から知っていましたけれど」


 二人の視線がぶつかり、ふふ、と笑みが漏れる。

 手こそ繋いでいない。甘い言葉も交わさない。

 けれど、私たちの間には、鋼よりも強固な「自己愛」に基づいた信頼が、確かに流れていた。


「さすがは、私の見込んだ婚約者ですわ」


「ああ、君もね」


フィラウティアの関係性が一番長く続きそうだと思ったり

この二人は自己肯定感がバリ高いです

別名:後方腕組み婚約者カップル


そろそろヒロイン?になんかしらほしいなと思ったので、

次はレニー視点の話になります

何で彼女がこんななのか

だからと言って許されるわけではない


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるの!!」


と思ったら

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面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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