1-4 初めての演習
昼食を終え、リアナとミアは教室を出て、午後の授業が行われる演習場へ向かって歩いた。
廊下には休み時間のざわめきが残り、入り混じって漂っている。
先程まで木の上に登っていたモルはカメレオンの姿になり、他の生徒にバレないようリアナの制服のポケットへ隠れた。
リアナは今日が編入初日であるため、いい意味でも悪い意味でも目立たないよう心がけていた。
それが潜入任務を遂行するリアナの鉄則だった。
「この演習場って、どんな感じなの?」
リアナが穏やかに尋ねると、ミアは少しオロオロしながらも、
「え、えっと…魔術の基本演習から応用演習まで…小規模の模擬戦もやるの。
わ、わ私たちと同じのい、1年全員同時に行う授業だよ。
た、多分だけど、リアナは編入初日だから、け、見学とか、だと思う。」
リアナは微笑みながらうなずく。
「なるほど。楽しみだわ。」
二人が演習場の扉をくぐると、広大な空間に魔法陣や標的がいくつも配置されていた。
生徒たちは杖を握り、短い詠唱とともに魔術を放つ。
光や風、炎のような魔術が飛び交う様子は、まるで小さな戦場のようだ。
リアナは慎重に観察を続ける。
「気をつけて、演習中はルールを守らないと危ないの」
ミアが隣で声をかける。
リアナは辺りを見渡す。
どの生徒がこの中で一番魔力が多く、魔術が強いのか。
逆にどの生徒が1番魔力が少なく、魔術が弱いのか。
辺りを見渡しながら情報を集めていく。
リアナはこういう情報を集めることが得意である。
だが、集中しすぎて顔にでてしまっていたらしい。
「…大丈夫?」ミアが不安そうに顔を見上げる。
「あ、えぇ。少し気配を感じただけ。何でもないわ」リアナは微笑み、軽く流す。
リアナは情報を集めることとなると頭いっぱいがそれだけになってしまう事がある。
リアナは気をつけなきゃ、と思った。
演習は進み、リアナは各生徒の力量や性格、魔術の癖を頭の中で整理していく。
攻撃型、防御型、バランス型、杖の扱いに不慣れな者―すべてが潜在的な情報だ。
ミアはこの学園の高等部1年の中で魔術成績がいい方らしい。
確かに魔力も150相当もっていると本人から聞いたし、妥当だろう、と思った。
リアナは情報を集めているうちに分かったことがある。
この学年で魔術が一番強いのはルーク・アシュフォードである。
誰が圧倒的に見てもそうだろう。
ルークの魔力は166程度(リアナは見た目だけでも魔力の量がわかる)である。
そこまではいいとしても、
驚くことにミア・リュネットが2番目に魔術が強いのだ。
確かに魔力150は2級魔術師を目指そうと思えば目指せる量なのだから妥当か、とも思った。
「ここでの任務、思ったよりも簡単じゃないかもしれない…」
リアナは内心でそう呟きながらも、表情は冷静のまま、観察を続けた。
演習が終わると、生徒たちは疲れた様子で廊下へ出ていく。
リアナとミアもゆっくり歩きながら、軽く会話を交わす。
「は、初めての授業はど、どうだった?」
ミアが少しオロオロしながら聞いた。
「結構面白かったわ。それよりミアってすごく魔術が強いのね。」
リアナは関心した様な顔を見せる。
ミアは顔が真っ赤になり照れながら
「リアナに言われると、う、嬉しい...。あ、ありが、ありがとう。」
と嬉しそうに答えた。
リアナは疑問に思っていた。
昼休みの時に感じたあの膨大な魔力。
この学年にはそれっぽい人がいないのだ。
私みたいに魔力を制御してる?それともなにか―
廊下の窓から差し込む柔らかな光の中で、二人は足を揃えながら歩く。
2人はたわいのない話をして、それぞれの寮へ戻る。
こうして、リアナの潜入初日は静かに、しかし微妙な緊張感とともに過ぎていった。
そしてこの学園の秘密は、少しずつその姿を現し始めていた―
【モル】
リアナ・ヴェイルの上位使い魔。
普段はモモンガの見た目をしているが、人間とカメレオンの姿に変わることが出来る。
【1級魔術師】
リアナと同じくこの国に5人しかいないトップの魔術師。
全員、魔力は180越えである。
1級魔術師が5人より少なくなった時のみ面接と試験が行われる。
【2級魔術師】
年に4回、春夏秋冬で2級魔術師試験が行われる。
魔力150越えでその試験を受けることができる。
その試験に合格出来た者が2級魔術師と呼ばれる。




