1-3 昼食と異変
教室のチャイムが鳴り、午前の授業が終わると、生徒たちは一斉に昼食のために教室を出ていく。
リアナ・ヴェイルも席をたとうとした。
その時、
「……よければ、だけど…い、一緒に、ご、ごごご飯…たべない?」
先ほど声をかけてくれた隣の席の女の子、
ミアが少し照れながらリアナに昼食を誘う。
茶色の髪は陽の光に柔らかく揺れ、素朴で控えめな雰囲気は初対面の緊張を和らげる。
リアナは微笑みながら答える。
「喜んで」
二人は教室を出て、校舎の廊下を隣になりながら歩いて食堂へ向かう。
「ねぇミア、この学園にはどんな食堂のメニューがあるの?」
と微笑みながら聞いた。
リアナは1級魔術師になる前、セリウス魔術学園に通っていた。
その学園は貴族が多く、豊富な種類のメニューがあったが
ここアルカナ魔術学園は貴族が多い訳ではないため
リアナはどんなメニューがあるのか検討もつかなかった。
「え、えっとー、例えば
カレーとか、ラーメンとか、沢山メニューがある訳じゃな、ないけど、す、すごく美味しくて...」
とミアは噛みつつも答えた。
それを聞いたリアナは
「そうなんだ、楽しみ」
と微笑んだ。
そうやってミアとリアナはたわいのない話をしながら食堂へ向かった。
廊下には休み時間のざわめきと魔力の微かな波動が混ざり合い、
リアナはミアと話しつつも無意識に周囲の魔力を感知する。
誰が強い魔力を誇示しているか、潜在的に注意すべき人物はいるか。
そう考えている時、
一瞬、大きな魔力の力を感じた。
リアナは思わずその魔力の源を探そうとした。
だが、どこの誰の魔力かが特定できなかった。
しかもその膨大な魔力は一瞬で消えてしまった。
(でも、今...)
そう何かを思いかけたが、考えるのをやめた。
リアナは木の上にいるモルに目配りをする。
モルはリアナの鞄から抜け出し、今は中央の庭の木の上に登り、リアナを見守っていたのだ。
モルは首を横に振った。
モルも誰の魔力か分からなかったのだろう。
食堂に着くと、すでに多くの生徒で賑わっていた。
リアナとミアは中央の庭付近にある空いている席を見つけ、向かい同士に座る。
リアナはメニューを見た。
(なるほど。
確かにメニューは多くないしセリウス学園の頃と比べ物にはならないわね。)
そう思いつつもリアナはカレーライスを。
ミアはパスタを頼んだ。
「……あ、あの、リアナは、魔術は得意なの?」
ミアが少し遠慮がちに聞く。
この学校は魔術学園。
ほとんどの生徒が魔術を学ぶために通っている学校であるから、
その質問をされることはわかっていた。
リアナは微笑み、淡々と答える。
「んー、あまり得意な方ではないわ。魔力も100程度しかないし」
リアナは皆にバレないようにするため、
魔力を100程度に制限しているのだ。
「そ、そうなんだ...!な、なんでこの学校に編入生してきたの?」
ミアの目が輝く。
オロオロしながらもリアナの目をじっと見つめる。
リアナは準備していたため淡々と答える。
「親の転勤よ。
この学園が一番近く通いやすかったから編入してきたの。」
「そ、そうなんだ...大変だったね...
秋からの編入って、こ、怖くないの...?」
ミアの問いかけにリアナはまた淡々と
「ええ、少し緊張はあるわ。
でも心配しないで、それよりも楽しみが強いのよ。」
と答えた。
極秘任務できているだけなのでほぼまったく緊張していないのはここだけの秘密だ。
食事を進めながら、二人は少しずつ打ち解けていく。
ミアが学園の雰囲気や授業のことを話すと、リアナは笑顔で相槌を打ち、時折「なるほどね」と軽く返す。
リアナは会話をしている時も頭の片隅で先程の魔力を発した人物を探していた。
「でも、やっぱり秋からの転入は不安だよね」
ミアが小さく呟く。
「そうね。でも、ここでちゃんとやっていくしかないわ」
リアナは静かに答える。その声には揺るがない意志が込められていた。
ふと、周囲のざわめきの中で、また一瞬強い魔力の流れを感じる。
リアナは辺りを見渡すが、やはりその気配はすぐに消え、誰のものかは特定できない。
今日という日の潜入初日から、ただの平凡な学園生活では終わらないことを、リアナは確かに感じていた。
二人は食事を終えると、食堂の窓際から差し込む柔らかな光の下で、軽く微笑みを交わす。
ミアの顔には少し緊張の色が残るが、リアナの落ち着いた姿に少し安心した様子が見えた。
こうして、潜入初日の昼食は静かに過ぎ、リアナの目には、学園の生徒たちとこれから過ごす波乱な日々の光景がほんのりと映り込むのだった―
【セリウス魔術学園】
リアナ・ノワールが1級魔術師になる前に通っていた学園のこと。
13歳から入学し14歳で卒業。
たった1年で卒業したリアナは異例である。
リアナの他にもう1人、1級魔術師も卒業している。
ちなみにリアナが編入してきた時期は秋です。
夏休み終わりに入ってきたと思ってください。




