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まじわり輪  作者: がおがおの
第二章 少年期 真相編
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第二十四話 取引と出発

母は少し動揺していたが、前みたいに感情的に怒ることはなかった。


「シエロ、それって本気なの?」

「勿論です。僕が『原初の子』だという確証はありません。仮にそうだとしても、僕は母さんと父さんの子です。それは変わりません」

「それは分かっているけれど、、、」


母は、僕が兄を探すことよりも、僕自身が『原初の子』として軍に利用されることを何より恐れているのだろう。

だが、今の僕には力が足りない。


「その件は明日、ベンジャンさんに相談するつもりです。僕なりの『取引』を用意して」


母の不安げな表情は完全には晴れなかったけれど、僕の決意を感じ取ってくれたのか、それ以上は何も言わなかった。

それからセリナも目を覚まし、母と三人で遅めの食事をとった。

父とフィオナさんは、居間のテーブルに突っ伏して眠っていた。

相変わらず、他の三人の姿は見えなかった。


次の日。

僕もセリナも昨晩あれこれ考えていた割には、緊張感からか早めの起床となった。

部屋を出ると、居間にはまだ誰もいなかった。

僕は母の部屋を、音を立てないようにそっと開けて覗いた。

母はまだ静かに眠っている。

居間の机で寝ていた父も、いつの間にかちゃんと部屋に戻ったらしく、姿がなかった。


(はぁ、全くお父様は)


「ねぇ、シエロ。少し外、散歩しない?」


背後からセリナが声をかけてきた。


「散歩、ですか。朝の空気も吸いたいですし、良いですね!行きましょう」


僕とセリナは着替えて、拠点の外――崩壊した市街地へと出た。

季節は六月に入り、朝霧もそこまで濃くはない。

冷たく澄んだ空気が肺の底まで満ち、体中に巡っていくのが分かる。

心なしか、頭が冴えていく気がした。


「セリナ、どうしますか? 少し周辺でも歩きますか?」

「そのために散歩しに外に出たんじゃないの?」

「そ、それはそうでしたね、、、」


(たまにあるセリナのこの“当たり前でしょ?”という返し、地味に心に刺さる、、、)


僕たちは、拠点から離れすぎないように瓦礫の山を縫って歩いた。

足元で草の露が弾け、遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。

平和な朝の風景と、目の前の凄惨な廃墟のコントラストが、今の僕たちの状況を物語っているようだった。


「シエロはこれからどうするの? 昨日も聞いた気がするけれど」

「実はお兄様を探そうと思っています」

「そうなの!?でも探すって、どうやって?手掛かりはあるの?」

「それはですね――」


僕は、昨晩考えた計画をセリナに話した。

言葉を選びながら、可能性とリスクをひとつずつ並べる。

セリナは僕の話を聞いて、驚くよりも少し考え込んでいた。

視線が斜め下に落ち、歩幅が半歩、小さくなる。


「そうなのね。色々、シエロなりに考えがあるのね」

「まぁ、ベンジャンさんとの交渉次第なのですがね、、、」


セリナは、そこでふいに足を止めた。


「ねぇシエロ。私ね、実は魔術も本当は全然使えなかったの」


彼女はぽつりと語り始めた。


「でも、ある日突然、縁も増えて、魔術も異常に上達したの」


セリナは過去、何があったのかを――すべてではないかもしれないが――僕に話してくれた。

一歳の時の謎の失神。

そして今回の災害の夜、突然力が溢れ出したこと。

話すたびに揺れる睫毛、言葉の端で掠れる息、指先のこわばり。

その全部が、彼女の抱える不安の深さを物語っていた。


「セリナ、それは別にセリカの力とか、そんなものじゃありませんよ!セリナはセリナだし、セリカはセリカです。だから落ち込まずに、それを自分の力に変えればいいんです」

「シエロ、、、」


その時だった。

背後から、低い声が響いた。


「その通りだ」


僕とセリナは、弾かれたように振り返った。

そこには、いつの間に近づいたのか、何の足音も立てずにベンジャンが立っていた。


「ベンジャンさん!?」

「あんた、物音くらい立てなさいよ!」

「すまない。別に驚かせるつもりはなかった」


そう言いながら、ベンジャンは瓦礫を踏み越えて僕たちの方へ歩み寄る。


「それで、一体どのような御用でしょうか?」

「先ほどの話だ、セリナ・ベルギオ。いやセリナ・マーガレットが正しいか?」


(そういえば、セリナの両親がセリカと同じなら、姓はマーガレットのはずだ。どうしてベルギオなのだろうか?)


「貴様はこの力はセリカ・マーガレットのものであって、自分の力ではないと言ったな?」

「っ……聞いてたの!?」

「だが、その力は貴様にあるべきものだ。今の貴様こそが、本来あるべき姿なのだ」

「でも、、、」

「それに、そんな話をしている時点で、貴様自身も『自分が原初の子かもしれない』という自覚があるのではないか?」


ベンジャンの鋭い指摘に、セリナは言葉を詰まらせ、視線を落とした。

僕も同じだ。否定はできない。

だが、今こそが交渉のチャンスだ。

僕は顔を上げ、ベンジャンの目を真っ直ぐに見据えた。


「ベンジャンさん。そのことについて、あなたに『取引』の提案があります」


ベンジャンは眉をぴくりと動かし、近くの瓦礫に腰を下ろした。


「いいだろう。聞かせろ」


(怖い人だと思っていたけど、案外、僕たちの話を聞く気はあるらしい)


僕とセリナも、彼と向かい合うように瓦礫に腰を掛けた。


「単刀直入に言います。僕はこれからまだ見つけられていないお兄様を探そうと思っています」


ベンジャンは何も言わず、僕を見つめている。


「ですが、今の僕一人の力では限界があります。情報も、移動手段も。そこで、あなたたちの協力が必要なんです」

「俺たちがお前の兄探しを手伝う義理がどこにある?」


ベンジャンは冷たく言い放ち、立ち上がろうとした。


「我々の目的は戦争の勝利と、六皇神の打倒だ。人探しごっこに付き合っている暇はない」


「ええ、分かっています。だからこそ」


僕は彼の背中に向かって、声を張った。


「お兄様の捜索を手伝っていただけるのであれば、僕もあなたたちに全面的に協力します」


ベンジャンの足が止まる。


「『原初の子』の確認の儀、そしてもし僕がそうであった場合の戦力としての協力。その全てを約束します」


ベンジャンは、その場でゆっくりと身体を僕の方へ向け直した。


「やっと自分の価値を理解したか」

「いいえ。僕はあくまでお母様とお父様の息子です。それは、これからどうなろうと変わりません。ですが、家族を守るためなら、僕はこの身にある『可能性』を利用します」


ベンジャンは目を細め、僕を値踏みするように見つめた。 やがて、短く息を吐く。


「いいだろう」


ベンジャンの一言で、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。 彼は踵を返し、拠点の方へと歩き出す。


「今から全員を集める。居間に来い。」


居間に戻ると、窓際の光はまだ白く、机の上には昨夜の酒宴の跡が片付けられていた。

母は椅子に座り、不安そうに指を組んでいる。

父は腕を組んで壁に寄りかかり、入ってきた僕をじっと見た。

その目は、昨夜の酔っ払いのそれではなく、一人の父親の目だった。


「集まったな」


ベンジャンが口火を切る。 フィオナとグイルも揃っている。


「まず条件を整理する。シエロとセリナ、この二人が『原初の子』かどうかは未確定だ。俺たちの当面の目的は、それを確定させることにある。その過程で、シエロの兄であるソルの捜索も並行して行う」


ベンジャンが僕の方を見た。


「シエロからの提示条件は、両親の安全の保護、および兄・ソルの捜索協力だ。これに対し、我々は全力で支援する。異論のある者は?」

「ないわよーん。可愛い坊やのお願いだもの」

「ちっ、面倒だが仕方ねぇな」


フィオナとグイルがそれぞれの反応を見せる。


「シエロ、お前はどう協力する?」

「兄の捜索、それとあなたたちの言う『確認の儀』への同行。ただし、僕の意思と、家族の安全を脅かす命令には絶対に従いません」


僕がきっぱりと言うと、横にいたセリナもすっと背筋を伸ばした。


「私は勿論、シエロと同行するわ。私も、、、自分のことを知りたいから」


ベンジャンは小さく頷いた。


「いいだろう。交渉成立だ。両親の保護は引き受ける。見張りや退避経路も確保しよう」


ベンジャンがそう言うと、まるで自分が呼ばれたかのようユーノが重たい瞼をこすりながらやってきた。


「おはよ~。みんな朝から会議~?」


(相変わらず変わった人だ、、、)


その時だった。

父が、壁から背を離して一歩前に出た。


「ならば俺も行く」

「お父様!?」


父は真剣な眼差しで、僕とベンジャンを交互に見た。

分厚い掌が、わずかに震えている。

武者震いか、それとも恐怖か。


「お父様はお母様の傍に居てあげてください!お願いします。お兄様を探すのは僕たちだけで十分です。お父様が居てくれるだけで、お母様は安心できると思います」


父の喉仏が上下し、視線が母へ流れる。

母は、静かに父を見つめ返していた。


「それでも、俺はシエロを一人にするわけにはいかない!あんな危険な目に遭わせたんだ、親として放っておけるか!」

「じゃあお母様を一人にさせるのですか!?お母様は怪我をしてるんですよ!?」

「俺が母さんを一人にさせたいわけが無いだろう!」


久しぶりに父の本気の怒鳴り声を聞いた。 僕を心配するがゆえの、不器用な叫び。


「あなた、、、」


母が、静かに声を上げた。


「お母さんは、家族が離れ離れになるのは寂しいわ。本当に、胸が張り裂けそうなくらい」

「母さん、、、」

「だけど、ソルもまだ帰ってこない。シエロがあの子を探しに行くと決めたなら、私はそれを信じたい」


母は父の手を取り、その震える拳を包み込んだ。


「だからあなた。シエロを信じて、、、あなたは私の傍に居てください。私が不安で押しつぶされないように」


父の目から、力が抜けていく。 握りしめていた拳が、ゆっくりと開かれた。


「分かった。俺は、母さんの傍にいる。ここでみんなの帰りを待つ」


こうして、父は母の護衛として拠点に残ることが決まった。


「話は纏まったな」


ベンジャンが話を戻す。


「『原初の子』の確認方法だが、七柱が作ったと言われている『召喚の石碑(オベリスク)』へ向かう」

「その石碑(オベリスク)はどこに?」

「正確な座標は不明だが、大まかな目星はついている。俺とユーノで詳細な位置を特定する。その間、フィオナとグイルの班は、シエロたちと共に兄の捜索にあたれ」


ベンジャンの指示に、フィオナがウィンクで応えた。


「任せてちょうだい。坊やのお兄さん探し、私とグイルでバッチリサポートするわ!」

「チッ、なんで俺が子守りなんだよ、、、」

「はいはいグイル、文句言わない!」


グイルは舌打ちしながらも、拒否はしなかった。


「では、解散だ。準備ができ次第、出発する」


ベンジャンとユーノが部屋を出ていく。

残された僕たちは、つかの間の別れを惜しむように身を寄せ合った。


僕は母の前に膝をつき、その手を取った。


「すぐ戻ります。兄を見つけて、必ず」


母は一瞬、言葉に詰まったようだったが、やがて優しく微笑んだ。


「いってらっしゃい、シエロ。セリナちゃんも、お願いね。無理はしないで」

「はい、任せてください!」


セリナが元気に返事をする。

父は僕の肩に手を置き、強く、ずっしりと重みのある手で押した。


「気を付けるんだぞ、シエロ」

「はい」

「セリナちゃんを守るんだぞ」

「はい」

「困ったらすぐにフィオナさんたちを頼るんだぞ」

「はい、分かっています」


父の言葉一つ一つが、心に沁みる。

これが、家族だ。


(必ずいい報告ができるように)


僕たちは居間を出た。

廊下の先、地上へ続くワープゲートの光が差し込んでいる。

僕は右手を握りしめ、隣のセリナと目を合わせた。


「行きましょうか」

「ええ! 私がすぐにシエロのお兄さんを見つけてあげるわ」


光の中へ、僕たちは歩き出した。

そして、『原初の子』という自分自身の真実へ向かって。


「さて、坊や。手始めに何処に行く?お兄さんの居場所に心当たりはあるの?」


僕は迷わず頷き、真っ直ぐ前を見据えた。

兄の手がかりを探すなら、まずは兄が通っていた場所。そして、かつて僕たちもリリア先生を探しに訪れたことのある、あの都市へ行くべきだ。


「都市サフラニアへ向かいます」

「サフラニアに?」

「はい。そこには目指す学校があるのです」


僕は、兄が通っている学校の名を告げた。


「『都市魔術高等学校』お兄様はそこの生徒です。なのでそこに居るのが今の所一番確率が高いと思います」

「なるほどね、お兄さんが通ってる学校ね。青春って感じで悪くないわ!」


フィオナがポケットから、この東の国(アズライト)までワープした時の魔導具を取り出した。


「サフラニアならマーキング済みだし、この瞬移宝鏡(しゅんいほうきょう)ですぐね」


瞬移宝鏡(しゅんいほうきょう)?以前ルージュナが使っていたあれか。だけどルージュナが持っていた見た目とは随分違うような)


「とりあえずサフラニアに行くわよ皆」


(今はそんな事を考えている場合ではない)


「よろしくお願いします」


僕たちは光の奔流に身を任せる。

全ての答えと、兄との再会を求めて。

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