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まじわり輪  作者: がおがおの
第二章 少年期編
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第十四話 また何処かで

第一章での人物紹介

【アルランド家】

シエロ・アルランド 6歳 ヒト族 / 金色の縁を持つ魔術の天才少年

ソル・アルランド 12歳 ヒト族 / 兄。都市魔術栄生学校生

ルキウス・アルランド ヒト族 / 父。基本属性全て上級魔術師

ノエル・アルランド ヒト族 / 母。薬草学出身の調合師


【マーガレット家】

セリカ・マーガレット 7歳 ヒト族 貴族 / 王位後継者候補、武闘系

アイリス・マーガレット ヒト族 貴族 / セリカの母

ニナ ヒト族 / セリカ専属メイド、高い戦闘能力

モフモフのメイド 獣人族/マーガレット家のメイド


【スカラルト家】

ルイドス・スカラルト 6歳 ヒト族 貴族 / 学園評議会長の息子、土魔術使い

イザトラ・スカラルト ヒト族 貴族 / ルイドスの母、上級魔術師、植従魔術使い

???・スカラルト ヒト族 貴族 / 学園評議会長

ヴィクター・スカラルト ヒト族 貴族 / ルイドスの兄、都市魔術栄生学校最高学年


【その他】

リリア・マートル 16歳 リネット族 / 風特級魔術師、元教師

ガルド ヒト族 / 森の管理人

ランデック・ソリテ ヒト族 / 情報屋

ルージュナ・ヴァーミリオン六歳 ヒト族/シエロの同じクラスメイト

雪も降り、布団から出られない季節だ。

今は冬休みで学校もないため、家から出ることもほとんどない。

セリカも冬休みに入ってからは、ほとんど顔を見せなくなった。

たまに『今日は新しい魔術を覚えた』とかの手紙が届く。

僕も手紙を返すが、読まれているかは不明だ。

それはそうと、今日はとても悲しい日だ。

違うな。大事な日だ。


「おはようございます」

「あら、シエロ。今日は自分で起きてきたのね」

「はい、お母様。今日はリリア先生がこの家にいるのも最後の日なので」


そうだ。今日でリリア先生が旅に出る日。

本当はあの最終課題が終われば旅立つ予定だったのだが、僕の我儘で何やかんや居てくれた。


「まだリリア先生は自室でしょうか?」


階下に降りたものの、リリア先生の姿は見当たらなかった。


「リリアさんなら朝から用があるって、お父さんと出かけたわよ」

「お、、、お父様とですか!?」


おいおい、最後にリリア先生を独り占めする気じゃないだろうな。


「そうよ。でもお昼ご飯までには戻るって」

「そうですか、分かりました」


僕が二階の自分の部屋に戻ろうとした時―――


「シエロ、良かったら今から庭の植物の手入れでも一緒にしない?」

「庭の手入れですか?」

「そう、雪が葉の上に長時間積もると、植物が折れちゃうのよね」

「何か屋根を付けるのはダメなのでしょうか?」

「一回考えたんだけどね。陽の光が当たるガラスの温室など考えたんだけど、結構高くてね」

「それは大変ですね」


僕はそう言って庭に出た。

雪は降ってはいないが、一面白銀の世界。

父とリリア先生が歩いたであろう足跡だけが残っている。


「シエロ、ここの植物の葉に積もった雪を落としてくれる?」

「分かりました」


僕は母に言われた所の雪を払っていった。

それにしても朝ということもあり寒すぎる。

毎日庭の手入れをしている母は、改めて偉大だなと感じた。

それから母に言われた通りに庭の手入れを手伝っていると、見たことのない薬草のようなものが育っていた。


「お母様、こちらの植物は薬草でしょうか?」


その植物は葉も茎も赤く、白い景色に映えていた。


「これはね、シエロの言う通り薬草よ。レッドハーブっていうの」

「レッドハーブですか。普通のハーブと何か違うのでしょうか?」

「レッドハーブは単体では何も効力がないのだけれど、ハーブと混ぜて使うことによって回復量が増えるの」

「そうなんですか!それは凄いですね」


今日は父とリリア先生が帰ってくるまで、久しぶりに母の薬草座学を沢山聞いた。

久しぶりの母の座学は、聞いていて楽しかった。

庭の手入れを終わった後は、母と薬草の調合を教えてもらったりした。


「ただいまー」


父とリリア先生が帰宅した。


「ただいま戻りました」

「お帰りなさい。リリアさん、寒かったでしょう?」

「厚着をしていましたので私は大丈夫でした。お気遣いありがとうございます」


僕はリリア先生の声が聞こえて、すぐに階下に降りた。


「お帰りなさい、リリア先生!」

「帰りました、シエロ君」

「おい、シエロ。父さんも帰宅しているぞ」

「あ、お父様もお帰りなさい、、、」


リリア先生と二人で何をしていたのかは知らないが、父よ、僕に秘密でリリア先生と出かけるとは何事ですか!


「朝から何をされに出かけていたのですか?」

「実は、これを、、、」


リリア先生はそう言うと、大きな茶色の紙に包まれた何かを持っていた。


「そちらは何でしょうか?随分と大きいですね」

「これは私から、シエロ君への誕生日プレゼントです」

「僕の誕生日プレゼントですか!?」


リリア先生からの誕生日プレゼント!

リリア先生は少し恥ずかしそうにしながらも、その大きなプレゼントを僕に渡した。


「私は本日で、ここを離れますので少し早いですが、シエロ君、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとうございます!」


嬉しい。

僕はプレゼントを受け取った。

プレゼントは大きさに見合った重さをしている。

一体中身は何だろう。想像もつかない。


「早速開けてみてもよろしいでしょうか!?」

「はい、でも、シエロ君が気に入るかは分かりませんが、、、」

「僕はリリア先生からのプレゼントは、どんなものでも嬉しいですよ!」


僕はそう言って、包まれた紙を剥がした。

すると中から出てきたのは―――僕の身長よりも大きな杖だった。

その杖は黒く、先端に赤い魔石が付いている。


「これは、、、、杖ですか!?」

「はい!シエロ君には、この黒い感じが私的には似合うなと思いました」


(そうです。僕は黒が似合いますよ、リリア先生!)


「それに、シエロ君は魔術の才能がありますから、これから上級以上の魔術を早い段階で覚えていくと思いますので、今から魔道具を持つのは早くないかなと思いまして」

「リリア先生、、、本当にありがとうございます!大切にします!」


最高だ!

今日からの(あいぼう)との物語が始まるぞ!


「念のために言っておきますが、学校には持っていかないでくださいね」

「勿論です!学校に行く時以外は、常に持ち歩きます!」

「それと――」


リリア先生が、少しだけ声のトーンを落とした。


「この杖は、少し特別なものなんです」

「特別、ですか?」


僕は杖を握り直しながら、先生の顔を見上げた。

リリア先生は、どこか遠くを見るような目をしていた。


「お父様と一緒に選んでいる時、不思議なことがあって」

「不思議なこと?」

「この杖だけが、、、まるで私を呼んでいるような感覚がしたんです」


先生が杖の先端、赤い魔石をそっと撫でる。


「それで手に取ってみたら、温かくて。この杖はシエロ君のための杖なんだって、そう感じたんです」

「僕のための、、、」

「不思議ですよね?でも、この杖がシエロ君を選んだのかもしれません」


先生が微笑む。


「だから、大切にしてあげてくださいね」

「、、、はい!」


僕は力強く頷いた。

杖が僕を選んだ、そんな不思議な話。

でも、確かにこの杖を握っていると、何か温もりのようなものを感じる気がした。


「シエロ、扱いには気を付けろよ?普通ならソルの歳から魔道具を触ってくんだ。もうすぐ七歳になる子供は普通は持たないからな」


ということは、兄は今年から魔道具に触れているのかな。

兄のことだから、とっくに触っているということもあるが。

とにかく、早くこの杖を使ってみたい。


「早速外で、この杖を使ってみてもよろしいでしょうか?」

「もうすぐお昼だから、早く戻りなさいよシエロ!」

「分かっております、お母様!」


僕はそう言って、リリア先生とセリカと稽古した場所まで向かった。

とりあえず、試しに軽く振ってみた。

まだ自分より大きな杖なので、振っているというよりは振らされているに近い。

それに、ただ振るだけでは当然何も起こらない。

少し縁を、この杖についている魔石に込めて振ってみよう。

僕はその場にある、自分より少し小さいくらいの岩に向けて杖を振った。


ビュン


すると、岩には直径25センチ程の綺麗な円形の穴が開いた。

(不思議だ)

僕は特に円形のイメージも何もしていない。

ただ杖の魔石に縁を込めて、軽く振っただけだ。

どうしてこうなるかはよく分からない。

でも、、、凄い威力だ。

これが魔道具の力なのか。

まだ身長より大きいため、持つだけで疲れる。

とにかく僕はお昼まで杖の扱いを練習して、家に戻った。


「ただいま帰りました」


僕が帰ると、丁度荷物をまとめたリリア先生が二階から降りてきた。


「あっ、シエロ君、丁度ですね」

「リリア先生、もう出られるのですか?」

「はい。荷物もまとめ終えましたし、私はこれから旅の続きをします」


リリア先生は、僕と初めて会った時の茶色ローブを纏っていた。


「リリアさん、本当にお昼は食べていかなくて良いの?」

「奥様、お気遣いありがとうございます。しかし、私もお世話になりすぎましたので」

「本当に、うちの馬鹿息子がご迷惑をおかけしました」


(おいおい、誰が馬鹿息子だ)

僕からすれば、父の方がまだまだ子供だと思うが。


「いえいえ、シエロ君は私よりも才能がある魔術師になりますよ」

「リリアさんにそう言ってもらえて、親として光栄です」

「では、私はこれで、、、」


リリア先生が荷物を持ち、別れの挨拶をしようとした時だった。


「せんせーい!」


突然家の外から、先生と叫ぶ声が聞こえた。

父が家の玄関の扉を開けると―――セリカだった。

それにニナもいる。


「おっ、マーガレット家のお嬢様じゃないですか」

「シエロのお父様、こんにちは。先生はまだいますか?」

「すみません、突然押しかけて。本日リリア・マートルさんが旅に出られると、シエロ君の手紙に書いてあったもので、それでセリカお嬢様が」


そうだった。この前送った手紙に、リリア先生のことも伝えていたんだった。

手紙を読んでもらえていて、僕はほっとした。

僕も玄関に向かった。


「お久しぶりです。セリカ」

「シエロ!先生は!」

「リリア先生なら、丁度今から出られるところです」


そうして僕たちは、一度外に出た。


「先生!お見送り間に合って良かったわ!」

「わざわざ来ていただき、ありがとうございます。セリカさん。それにニナさんまで」

「先生にプレゼントがあるの!」

「プレゼントですか?」


そう言うとニナが、セリカに少し大きな袋を渡した。

その袋は、とても高級な素材で出来ていた。


「はい、先生これあげる!」

「良いんですか!?」

「早く開けて!」

「あ、ありがとうございます」


リリア先生は受け取った袋を、丁寧に開けていく。


「これは、、、帽子ですか!」


その帽子は先が尖った円錐形の帽子。

通称『魔女の帽子』だ。


「そうよ!先生に似合うと思って、私が買ったの!」

「セリカさんがですか!ありがとうございます」


リリア先生は早速、セリカがくれた帽子を被った。

その姿は―――とても美しかった。

リリア先生は恥ずかしそうに聞いた。


「ど、どうでしょうか?」


セリカはすぐに答えた。


「すっごく似合ってるわ!!」

「良かったです。ありがとうございます」


そんなリリア先生に見とれていると、後ろから母に背中を少し押された。

振り返ると、「シエロも渡すものがあるんじゃないの」そんな顔をしていた。

そう、実は僕もリリア先生にプレゼントを用意していた。

だけど、杖に夢中になったり、セリカが来たりと、タイミングを見失っていた。


「リリア先生、とってもお似合いです」

「シエロ君まで、ありがとうございます」

「実は僕からもありまして、、、」


僕はセリカと違って、高級な袋に包んでいるわけではないが、誰よりも丁寧に梱包した。


「ど、どうぞ」


(なんだか、めちゃくちゃ恥ずかしい)


「シエロ君からもいただけるのですか。ありがとうございます」


リリア先生はニコッと笑って受け取ってくれた。


(あー、可愛い)


リリア先生に満足してもらえれば百点だ。

そのままリリア先生は、丁寧に僕のプレゼントを開ける。


「これは、、、もしかして私でしょうか?」

「はい!リリア先生そっくりの人形です!」


そう、僕は先生とそっくりな手作り人形を作った。

サイズ感も片手で持てるサイズなので、カバンなどにつけても邪魔にならない。


「これは、、、シエロ君が作ったのですか?」

「はい、そうです!」

「普段見えないような、私の二の腕にあるほくろまで再現されていますね、、、」


(ふっふーん!よくぞ気づいてくれました)

そうなんです。私、シエロ・アルランドは毎日リリア先生を注視していましたので、これくらい朝飯前なのです!


「シエロ、、、あんた少し気持ち悪いわよ」

「セリカさん。何を言っているのかね。この人形にはある仕掛けがあるのですよ」

「あんた、しゃべり方までおかしくなったの、、、」


そう、この人形にはあるギミックがある。


「仕掛けですか?」


リリア先生は不思議そうに聞く。


「背中に黒いひもが付いていると思います」

「これでしょうか?」

「はい。そちらのひもを引っ張ると、僕が母に教わって作った、体力がとても回復するポーションが一つ入っています」

「ポーションですか!?」


そう、今日の庭の手入れの後、母に教わりながら回復ポーションを作ってみたのだ。

土台は母が作っていたものを使い、そこにレッドハーブとその他薬草を刻み、測り、調合した。


「はい。母に見てもらいながら作ったもので、効果は確かだと思います」

「凄いですね、シエロ君は。なんでもこなせる凄い魔術師になったりして」

「いやいや。それと、その紐は一度引っ張ると元に戻せなくなるので、いざという時にお使いください。まぁ、リリア先生に万が一はないと思われますが、、、」

「ではこの人形は大切に持っておきますね!」


良かった。

最初人形を手にした時は少し表情が怪しかったが、なんとか喜んでもらえて良かった。

プレゼントを渡した後は、いよいよリリア先生との別れだ。


「では皆様、本当にお世話になりました」


リリア先生は深くお辞儀をする。


「こんな私を助け、、、家に入れていただいたり、プレゼントをいただいたり、感謝しかありません。私はこれから旅の続きをします。シエロ君、セリカさん。それに皆様、また何処かでお会いしましょう」

「先生、、、」


セリカは寂しさの気持ちで、涙があふれ出ていた。

しかし、最後の別れではない。

リリア先生は旅に出るだけだ。またどこかで必ず会う。


「リリア先生。今まで稽古を付けていただき、ありがとうございます。僕も立派な魔術師になって、いつかリリア先生の旅に合流します」

「待っていますよ、シエロ君」


リリア先生が、僕の頭にそっと手を置いた。


「それと、もし――」


先生の声が、少しだけ震えた。


「もし、シエロ君が本当に困った時。大切な人を守りたいのに、力が足りないと感じた時」


先生の手が、僕の頭から離れる。


「その杖に、強く願ってみてください。きっと、応えてくれるはずですから」

「願う、、、ですか?」

「はい。魔道具というものは不思議と自分の想いに寄り添ってくれるんです。私はそう思っています」


先生が微笑む。

でも、その笑顔はどこか寂しそうで――


「、、、はい」


僕には、まだその言葉の意味が分からなかった。

でも、確かに胸に刻んだ。

そうしてリリア先生は、最寄りの馬車亭まで歩いて向かった。

僕たちは先生の姿が見えなくなるまで、見送った。


(また会いましょう、リリア先生)


「うー、今思ったけど、ずっと外にいたから寒いわね」


そうセリカが言うと、すぐにニナが良さげなブランケットをかける。


「セリカお嬢様、お身体が冷えていますので帰りましょうか」

「そうね。私たちも家に戻りましょうか」

「またね、シエロ」

「はい、またいつでも来てください!」


僕たちも寒さに耐えられず、すぐに解散した。

家に戻ると、なんだかいつもより静かな感じがした。


「リリアさんがいなくなると、なんだか寂しいわね」

「そうだな。リリアさんが来てくれてから、シエロも一段と明るくなっていたしな」

「お父様、僕はいつでも明るいですよ」


少しだけ暗い表情をしながら、僕は二階へと上がった。

自分の部屋に戻る途中、リリア先生が使っていた部屋に入った。

わずかに、リリア先生の匂いが残っている気がする。

僕はリリア先生が使っていたベッドに飛び込んだ。

顔を下に向け、大きく息を吸う。


(やっぱり、リリア先生の匂いがする)


僕はそのまま陽の光も差していて、眠りについてしまった。


「おい、シエロ、、、?」


なんだか懐かしい声が聞こえる。


「おい、シエロ。お前、人のベッドの上で何寝てんだ?」


はっ!

僕は一気に目を覚ました。


「あれ、いつから、、、」

「おい、シエロ。俺のベッドで何で寝てるんだ?」


僕は振り返り、目をこする。

そこには兄が、大きな荷物を背負って立っていた。


「お、、、お兄様!?何故ここに?」

「何故って、長期休みだから帰ってきただけだ。それより、なんで俺のベッドで昼寝なんてしてるんだ?」

「こ、これはその!」

「まぁ良い。とりあえず昼飯食べて来い」


あ、そういえばお昼ご飯前に少し横になったのだっけな。

僕は少し急いで階下に降りた。


「シエロ、やっと起きたね。もう十四時よ」

「すみません。気づいたら寝ておりました」

「お父さんから聞いたよ。ご飯今温めてるから、座って待ってて」

「ありがとうございます」


僕はそうして椅子に腰を掛けた。

ソファーに座っている父が突然こちらを見て、気持ち悪い顔をしてきた。


「な、なんでしょうか?」

「お父さんの血、ちゃんと引き継いでるな」


(なっ、、、そうか)


父にリリア先生が使っていたベッドで寝ているのを見られていたのか!

それにしても、何が引き継いでいるだ。

僕は父みたいな変な男にはなりませんよ。

僕は父の言葉を無視した。

しばらくすると、母がご飯を運んできてくれた。


「どうぞ、シエロ」

「ありがとうございます」


僕は母が作った昼ご飯を食べた。

上から兄が降りてきたタイミングで、父から珍しく提案があった。


「久しぶりに三人で稽古でもしないか?」

「もうお父さんったら。すぐに稽古するんじゃなくて、どこか出かけようとか無いの?」

「いやいや、俺はソルもシエロも立派な魔術師になってほしいのだよ」


そんな言葉を聞いて、母はため息をついた。


「俺は構いませんよ。シエロが俺に負けて泣くかもですけど」

「お兄様。お兄様は知らないと思いますが、もうお兄様が僕に負けて泣いてしまいますよ」

「随分と偉そうになったな、シエロ。今ここでやってやろうか?」

「望むところですよ、お兄様」


母は二度目のため息をついた。


「お父さん、早く二人を外に連れて行ってください」


母はそう言うと、自分の部屋に入っていった。


「さぁ、続きは外でだ。二人とも」


僕たちは以前、リリア先生とセリカと稽古した場所に移動した。


「お父様、後日で良いので、お母様を連れてどこかに出かけましょう」

「そうだな。あの感じ、結構怒ってたよな」

「お母様の心の管理は、お父様の仕事ですからね」

「ひぃー。ソルは痛いところを刺してくるな」


稽古を始める前に、兄から父への女性ケア講座が開かれていた。


「じゃ始めるか。父さん対二人でいいか?」

「お父様、すみません。一度シエロと一対一してもよろしいでしょうか?」

「そうだったな。お父さんは端で見てるから、好きにしなさい」

「ありがとうございます」


僕と兄は互いに縁を練り、向き合う。


「シエロ、随分と成長したじゃないか。ずっと気になっていたが、その杖のおかげか?」

「この杖はただの杖ではありませんよ。愛のパワーも入っていますので」


(この杖から何となく、リリア先生を感じる)


「六歳のくせに愛のパワーってか。一方的な押し付けの間違いじゃないか?」


うるさい兄だ。

リリア先生の愛がこの杖に籠ってるに決まってるじゃないか。

そういえば見る限り、兄は魔道具を持っていなさそうだ。

これは勝った。


「愛の力っていうものを教えてあげますよ、お兄様」


僕は挨拶代わりに、ファイアボールを放った。


ドガァァァン


そのファイアボールは、僕の想定を超えた威力だった。

普通に始めてしまったが、何気に初めて杖を使って魔術を発動させた。

感覚的には、普段の三倍以上は威力が上がっている。

しかし、兄の心配をする必要はなかった。

煙の中から一本の光が輝き、その光はすぐに僕の目の前に来た。


「驚いたよ、シエロ。ここまで上達しているとは思わなかったよ」


兄の手には、光り輝く剣。


(どこからその剣を?)


僕はすぐにウィンドブロウを放ち、後ろに下がる。


「動きも申し分ないな」

「お兄様こそ、僕が知らないうちに随分立派な剣を」

「やっぱり男と言えば剣だろ?」

「それは、、、人によるんじゃないでしょうか?」


(なんか父も兄も、思想が強いタイプだ)


「シエロ。少し本気で行くぞ?」

「はい。受けて立ちます」


僕と兄の魔術の打ち合いは激しく続いた。

押して押し返しての互角。

しかし僕は、兄の動きを正確に見て覚えた。

兄が横から素早い動きで、剣を僕に振りかざす。

僕はその剣を上から斬撃を飛ばし、兄の剣を斬ってやろうと思った。

兄には申し訳ないが、剣を斬らせてもらう。


シャキィィィン


僕の斬撃は兄の光る剣を貫き、地面まで斬り込む。

兄は目を開き、驚いていた。


(勝った)


しかし―――兄の手には、先ほど斬ったはずの剣があった。


(は?)


兄の光る剣が、僕の顔の目の前で止まる。


「勝負ありだな」

「ま、参りました」


くそっ、どういうことだ。

確かに僕は兄の剣を斬った。

兄は僕に手を差し出し、その手を僕は受け取り立った。


「お兄様、、、」

「まさか剣を壊しに来るとは思わなかったぞ」


兄は笑っている。


「まぁ実戦だと、その判断は剣士に対して完璧だけどな」

「お兄様、どういうことでしょうか?僕は確かにお兄様の剣を斬りました」

「そうだな、確かに俺の剣を斬った。縁で固めた剣をな」


縁を固めた剣!?

どういうことだ。魔道具なしで縁を出力して剣の形に変えて、それであの本物の鉄の剣並みの強度を誇るのか!?


「魔道具なしで、お兄様そんなことができるのですか?」

「魔道具なし?この右手についているリング。これが俺の魔道具だよ」


兄の右の人差し指に、銀のリングがついていた。


「これが魔道具ですか?」

「そうだ。これは縁を具現化する魔道具だ」


縁を具現化。

それは縁の練りを極めれば極めるほど、なんでも具現化可能なシンプルかつ最強の魔道具だ。


「縁の具現化ですか?」

「そう。まだ俺の実力じゃこれが限界だけど、縁が尽きない限り何度も作り出せる」

「だから、僕が壊してもすぐに出せたってことなんですね」

「そうだ。しかし、シエロにここまでやられるとは思わなかった。随分強くなったな」

「ありがとうございます」


何故か兄に負けたが、最後の褒め言葉で悔しくはなかった。

すると父が拍手をしながら、こちらに向かってきた。


「二人とも随分成長しているな。お父さんびっくりしたぞ」

「ありがとうございます。お父様」

「シエロは普段から見ていたから知っているが、ソルのその魔道具。素晴らしいものだ」

「この魔道具は、都市魔術栄生学校の主席の方にある繋がりで、お譲りいただいたものなのです」


兄はそのリングを見て、何か強い決心を抱いた表情をしていた。

きっと大切な思いが籠っているのだろう。


「そういや、この世界の最強と呼ばれるうちの一人『万象の女王クイーン・オブ・オールセレスティア』も同じ魔術を使ってるって言うな」

「確か、その人は魔道具なしで何でも具現化可能って噂もありますね、、、」


さっきから父と兄は何を言っているのだろう。

万象の女王クイーン・オブ・オールセレスティアは、おとぎ話の中に登場する魔物を全滅させた女神のことだ。

(この世界って、、、やっぱり思想が強すぎる)


「お、お父様。すみませんが、その方はおとぎ話の中で出てくる女神のことでしょうか?」


父と兄は少し不思議そうな顔をし、互いに見つめ合い、笑った。


「な、何かおかしなことを言いましたでしょうか?」

「良いか、シエロ。万象の女王クイーン・オブ・オールセレスティアは確かに、おとぎ話の中でも出てくる。だけど、この世界にも存在する」

「い、いるのですか!?女神が!」

「あぁ、間違いなく」


何てことだ。

あのどんな魔物も一瞬で倒す女神セレスティアが、この世界に存在するなんて。

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