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始まりはいつも

それの原因は何かしらの機械の故障だったのかもしれないし、タダのヒューマンエラーだったのかもしれない。

今となっては知りたいとも思わないような些細な問題だ。

とにかくその日、成田空港発ロサンゼルス国際空港行き、ALW3605便の飛行機は空中で爆散した。

そして僕を含む401人の乗客と、23人の乗組員は全員異世界へと転生した。


――――――


とてつもないほどの痛みで目を覚ます。

発生源は頭ではない、背中だ。

「だああああああ!!!」

身体を起こすと、先程まで僕の背中の上で跳ね回っていた双子の獣人、フェムとベムがキャッキャッと騒いでいた。

「アラタが起きた!」

「ウスノロが起きた!」

「やーいウスノロ!」

「捕まえてごらん!」

交互に口を動かし、散々人を煽りちらした後に逃げ去っていく二人。

全くとんでもないやつらだ。

「よおウスノロ」

そんなやり取りを見ていたのだろう。

二人が飛び出していったドアから今度は違う顔が出てくる。

僕と同じ異世界転生者の上嶋優花(じょうしまゆか)だ。

漢字に起こせば、それはそれはおしとやかに思えるかもしれない名前をもつ彼女だが、その実態は全く異なる。

粗暴、乱暴、凶暴と、なんともまあ荒々しい三拍子を揃えた彼女は、いつもの口調で言う。

「こんなところでまたサボり?」

「うっせ」

こんなところ、などではない。

狭く、暗く、それでいてジメジメしていない。

村の協会にある使っていない倉庫。

ここは僕にとって最高の休憩スペースだった。

「もう10日も経ってんのよ。そろそろ何かしようって気概を見せてくれてもいいんじゃないの?」

「あぁはいはい。そうですね」

10日。そう、10日間だ。

僕ら424人が村外れの草原で倒れていたのを先程の悪ガキ共が見つけ、そして保護されてから今日でちょうど10日。

「こっちにある……王国だっけ?そこに保護を頼みに行った連中も今日帰ってくるらしいし、本格的に色々動き始めてるのよ、なのにアラタは―」

「あぁ、そうだな」

「こら、どこ行く気だ」

説教の気配を感じ取ったのでそそくさと逃げようとするが、容易く道を塞がれる。

「逃げるな」

「逃げるんじゃない。子どもたちの面倒を見にいってあげるんだ」

「こんな時だけいいやつぶるな」

割と強めに頭を叩かれ、僕は渋々元の場所へ戻る。

過去に村の人が城下町で衝動買いしたはいいものの、置き場に困って放置されている上等品のソファは、座ってよし寝てよしな僕の倉庫内の定位置だ。

僕がそこに腰掛けると、優花は特に断りも入れず横に座ってくる。

「アラタは元の世界に帰りたいとか思わないわけ?」

新は僕の名前だ。

本名は笹衣新(ささいあらた)なのだが、優花はいつも僕を下の名前で呼ぶ。

そのせいか村の子供達も僕をアラタアラタと呼び捨てするようになった。

別に嫌な気はしないが、気にはなるというものだ。

「で、どうなの?それとも、異世界での生活も悪くないな、とか考えてる?」

図星だ。

「やめときなさいよ。確かに村の人は親切だし居心地もいいけど、言ってたでしょ?」

彼女はトーンを低めて、言う。

「この世界には魔物がいるんだって」

「・・・わかってるよ」

魔物。

動物の様な外見から、人、竜、あるいは不定形なものまで。

種類は多種多様、脅威度もピンからキリまで。

出現の原理も、生態系も、全てが未だ調査中の生物。

元の世界では架空の存在でしかなかったソレが、この世界には蔓延っているという。

「わかってない」

ビシッと僕を指さしながら忠告する彼女は、いつにもまして真剣だ。

「魔物は本当に危険らしいのよ。そんなのがいる世界でアラタがマトモに生活なんて出来ると思う?」

出来ないと思う。

しかし、そう答えるのは癪だ。

「頑張ればできるかなって」

「バカ!」

即座に頬へ手が伸びる。

「昔っから脳天気で、協調性皆無で、おまけにバカでアホでマヌケで、ほんとオマエは・・・!」

「痛い!痛いです優花さん!」

頬を限界までつねり上げられ、終いにはベンチから放り投げられる。

「人が心配してやってるのに・・・!私がどんな気持ちで・・・」

言葉が尻すぼみになる。

彼女は顔を伏せて、軽く地団駄を踏んだ。

「・・・・・・・悪かったよ」

今回ばかりは100割1000%、僕が悪い。

「優花とは幼稚園からの付き合いだし、甘えてた部分もあるよ」

「甘えてた、“部分”?」

「えっと、何から何まで甘えきってますゴメンナサイ」

僕の返答にウンウンと頷く。

その様子はいつもと、それこそ10年来の付き合いで何度も目にしている普段の彼女とソックリだ。

「とにかく、心配とか迷惑かけて・・・その、ごめんな」

「分かればいいのよ」

彼女は満面の笑みでそう言うと、立ち上がり、僕のそばへと寄る。

なんだか変な雰囲気だ。

優花とは幼稚園の年少で知り合い、高校2年の今まで嫌というほど一緒にいるが、こんなにも彼女が女性っぽく見えた日はない。

「えっと、優花」

「な、何よ・・・」

何の気の迷いか。

僕が“何か”を口走りそうになったその時だ。

「わぁ~、アラタとユカがいい感じだ!」

「アツアツだ!」

「アツアツカップルだ!」

倉庫の入口でキャッキャッと騒ぎまくる2つの影。

フェムとベムだ。

「村のみんなに教えてやろ!」

「教えてやろ!」

2人は盛り上がったまま何処かへ走り去っていく。

「あ、こら!待ちなさい!!」

優花は顔を真っ赤にしながら倉庫を後にした。

僕とて変な噂を流されるわけにはいかない。

「優花!挟み込むぞ!」

「オーケー!」

僕も後に続き、尊厳をかけた鬼ごっこへと参戦する。

村中の人々にニヤニヤとした目で見られながら走り回る僕ら。

そんな僕らの元へ、同じ異世界転生者約30人の訃報が届けられたのは、その日の夕暮れ間際のことだった。

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