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14話:突然消えた無風


 先ほどまで滝に打たれながら瞑想をしていた無風むふうの姿が見当たらないことに気づき、蒼翠そうすい神眼術しんがんじゅつにさらに霊力を注いで周囲を捜索する。しかし滝の中にも、川の辺の岩場にも無風の気配はなかった。

 

 無風は真面目だから、仙人せんにんからの指示があるまで絶対に動かないはず。それにこの五里ほどの距離で異変が起これば気づけるはずなのにそれができなかったとなると、もしかしたら何か問題が起こったのかもしれない。

 

 

「俺、ちょっと無風を見てきます」


 不安を覚えた蒼翠が慌てて立ち上がる。が、すぐに向かいで茶菓子を手に取っていた仙人が「取り乱す必要はない」と制した。



「無風なら大丈夫じゃよ」

「……は? なんでっ?」

「つい三日ほど前じゃったか、突然無風からとある場所に行きたいと言われてのぉ。まぁ、たまには遠出するのも修行の一つだと思って、行き方を教えたんじゃ」

「遠出? 俺、そんな許可出してませんよっ?」



 無風は邪界に連れて来られてから一度も、蒼翠の元から離れたことがない。それに邪界はどこも危険ゆえ、本人にも出るなと言い聞かせておいた。それなのにどうして――。

 

 

「まぁまぁ、箱入りの娘を一人で旅に出すというわけでもないんじゃ、そんなに怒ることでもなかろう。それに無風はお前さんを喜ばせるために行ったんじゃぞ?」

「俺のため?」

「なんでもお前さんの配下から、お前さんが欲する宝があると聞いたらしい」

「俺が? いやいやいや、俺が欲しい宝なんて何もないけど!」



 ドラマの蒼翠は強欲だったから求めた物がたくさんあったが、今の自分に欲しいものなんてないし、半龍人の配下にそんな話をした記憶すらない。

 何か、心の奥をざわつかせるような不穏な予感が、蒼翠の中で走る。



「それで、無風はどこへ?」

「確か北の山にある集落がどうとか言っておったような……」

「北部の山……集落――――っ! まさか雨尊村うそんむらっ?」

「おお、そうじゃそうじゃ、そんな名前じゃった」



 やはり嫌な予感は当たった。

 蒼翠がいの一番に思い出した雨尊村は北山の奥地にある小さな集落なのだが、なぜそんな場所が考える間もなく頭に過ったかといえば、それは勿論、あの村が金龍聖君こんりゅうせいくんに登場した村だったからだ。



 ――どうして……絶対にあの村とは関わらないよう気をつけていたのに!


 雨尊村は、ドラマで無風が洪水災害を引き起こした村。

 確かドラマでもちょうど今の時期だった。ある日、暇つぶしに災厄でも起こそうと考えた蒼翠が、無風に「雨尊村のほこらまつられている宝珠ほうじゅが、悪いあやかしを引き寄せているゆえ、排除せねばならない」と偽りを教え、宝珠を持ってくるよう命じた。

 

 当然何も知らない無風は命令どおり宝珠を祠から取り出したのだが、そうするとたちまち空にどす黒い暗雲が立ち込み、雨尊村に類を見ないほどの大雨をもたらした。


 無風が取った宝珠はその昔、天候を操って村に災難をもたらせた荒神を封印していたものだった。それに気づいたのは村にわざわいを招き、多くの人間の命を奪ってしまった後だった。


 無風は村人たちから恨まれ、酷く罵倒された。その経験は無風の心に大きな傷跡として残り、後々まで苦しめることになる。

 そして、その記憶は後に無風が蒼翠を憎む要因の一つにもなった。言うなれば無風に殺される未来の危険因子だ。だからこそ蒼翠は今日まで無風に雨尊村の存在を知られないよう気をつけてきたのに、まさか配下が伝えてしまうなんて。

 

 

「まずいっ!」



 このままではドラマと同じ悲劇が起こってしまう。

 絶対に止めなければ。

 蒼翠は電光石火の勢いで地を蹴ると、真下が断崖絶壁であることも厭わず飛び立ち、雨尊村へと向かうため急ぎ空を進んだ。




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