現実は厳しい…。
「ふぁ~…。じゃ、行ってきます…」
欠伸をしながらダルそうに家を出てくる一人の少年。見た目に何の特徴もない…本当に良くも悪くも全く特徴がなく印象に残らないこの少年、名を竜崎王一という。
「一ちゃん、行ってらっしゃい! 帰ってきたら誕生日パーティーをしましょうね! 今日は特別な誕生日だから、出来るだけ早く帰ってきてね!!」
そんな王一を玄関から見送る一人の女性。見た目は金髪碧眼でナイスバディの美少女だ。更に、
「おはよ王一っ! 今日も一緒に学校行こうよ!」
王一の正面からかかる声。見ると、若干茶色掛かった黒髪をロングに伸ばした、これまた美少女が王一に手を振っていた。そうして、この黒髪の美少女と共に登校する事となる王一。一見、美少女達に囲まれて幸せそうに見える王一…なのだが、
「ちょっとまた相談に乗って欲しくて…」
「陽美、お前さぁ…。いくら幼馴染だからって、一度振った相手に恋人の相談するとかちょっとおかしくね? しかも何度も」
「ぶーっ…良いじゃん別に。こんな事相談できるの王一くらいしかいないんだもん」
歩き始めての美少女…陽美の開口一番の台詞に、王一は辟易した様子で陽美を見遣る。そう、残念ながらこの少女は既に付き合っている彼氏がいるのだ。しかも、王一の告白を断った過去もある。曰く「顔がイマイチ…」だ、そうだ。
だというのにこう付きまとわれては、王一としてもたまったものではない…と思われるだろうが、悪態をつきながらも、王一の表情そのものはそこまで嫌がってはいない。やはり、好きになった子に頼られるのは嬉しいのだろう。
「それに彼女って言うのなら、王一にだってできたじゃん!」
「お前、あれが彼女って本気で…」
「あら王一。こんなところで出会うなんて奇遇ね」
歩きながら言い合う二人の背後からかかる声。二人が振り向くと二人の女性が立っていた。
が、その内の片方…金髪の女性の存在感が圧倒的だ。気の強そうな鋭い視線を有する美貌もそうだが、何よりもデカい! 身長もデカければ、バストもデカい! そして、発せられる雰囲気から態度もデカそうなのが容易に想像がつく。
そしてその後ろに控えている黒髪の女性。メイド服…コスプレなどではなく、明らかに本物のメイドが着るような本格的な物だ…を着ている所から、この色々デカい女性の付き人か何かだろう。
「あ、せ、先輩…。おはようございます」
「私の事は美夜と呼ぶように…と、伝えたわよね? 勿論、呼び捨てよ」
「し、しかし…年上を呼び捨てにするのはやはり…」
「礼儀正しいのは美点。とはいえ、私が良いと言っているのだからそうしなさい」
弱弱しく口を開く王一に対し、色々デカい女性…美夜は言葉の全てをビシッと強く言い切る。自分の発言に間違いはないと強く信じている様子だ。
「ほら、彼女が来てくれたじゃん」
「お、お前彼女って…。明らかに釣り合ってねえだろ。満才家って、なんか良く分かんねえけどとりあえずスゲエ金持ちの家なんだろ? そこの長女で、しかも才色兼備の超人だぞこの人」
「確かにそうかもしれないけど、告白までしたくらい満才先輩は王一の事気に入ってるんですよね?」
「ふむ…。気に入る…とまではまだいってないけど、気になってはいるわね。私の勘がね、この子を離すなって言ってるの。確かに一見平々凡々な子だけど、なにか…そう、この子にはなにかがあるのでしょう。私の勘は良く当たるのよ、ふふふ…」
陽美の問いに、美夜は王一の肩に手を置きながら怪しく笑う。そう、信じられない事だが、告白してきたのは美夜の方からなのだ。といっても、その内容はそう甘いものでもなく、
「貴方、何か気になるわね…。ちょっと私と付き合いなさい」
という告白…と言うよりほぼ命令みたいなものだったのだが。
無論、それでも才色兼備の美女に迫られて嬉しくない男子などいない。王一とて例外ではないが、そこで引っかかって来るのが、かつて告白して振られた経験だ。この苦い経験で現実を知ってしまった王一には、美夜の行動はどう見ても只の戯れにしか見えないのだ。
さりとて、同時に小心者でもある王一には美夜の強い圧を跳ね除ける意志の力などない。こうして、ずるずると今に至る訳だ。
「ところで、二人は何の話を? 良ければ混ぜて貰っても宜しいかしら?」
「あ、構いませんよ! というか、こちらこそ良ければ満才先輩に話を聞いてもらってもいいですか!? 私の彼氏の事なんですけど、最近ちょっと乱暴になってきて…」
「あら…。詳しく話してくださる?」
そうして、王一を置いて二人で会話を始めたながら歩き出す陽美と美夜。そして美夜の付き人。そんな三人を眺めつつも後を追い、不意に自分の顔に手を当てる王一。
「はぁー…。俺もこんな平々凡々な顔付きじゃなければ、陽美とも付き合えたかもしれないし、もうちょっと自信がついたのかなぁ…。父親は知らねぇが、母さんはあんな美人なのに、なんで俺はこんな普通の顔なんだ…? ぶっちゃけ、実は俺は母さんの実子じゃなく、その辺で拾ってきた子供なんです…なんて言われても余裕で信用できるぜ。もしかしたら、今日の誕生日でそれが明かされるのかもな…」
そう自嘲気味に呟きながら、朝見送ってくれた女性…王一の母である竜崎エルフィナに思いを馳せる王一であった。




