第一話 絶望
この日、勇者は全てを失った――
遡ること3時間ほど前、勇者一行は魔王城への突入前に作戦会議をしていた。
魔王と戦う際の連携について入念に話し合っていた。
そして長い作戦会議は終わり、
「これが、最後の戦い…」
魔法使いは少し不安そうな顔をした。
「勇者様は聖剣に選ばれたのです。負けるはずがありません」
僧侶は自信満々だ。
「油断は禁物だぞ」
戦士が続ける。
「大丈夫、僕ら4人が力を合わせれば魔王なんかに負けやしないよ」
勇者も自信満々だった。
勇者、魔法使い、戦士、僧侶、彼ら4人は多くの村や街を魔族の恐怖から救い魔王との最終決戦を残すのみだった。
「よし、突入しよう」
勇者一行は魔王城へ突入した。
魔王城の中は罠も仕掛けもなく、それどころか敵すらいなかった。違和感を感じつつも勇者一行は迷うことなく魔王のいるであろう城の最奥へと辿り着いた。
勇者は深呼吸したのち扉を開いた。
そこには足を組み頬杖をつきながら玉座に座り、見下したような目で勇者一行を見つめる魔王がいた。
「魔王!貴様を倒しにきた!僕は勇…」
「いや、名乗る必要はない」
勇者が名乗りを上げようとするも途中で遮られた。
「人間ごときの名を記憶に残す気もなければ覚える気もない。さあ、かかってこい人間A」
魔王は勇者を見下している。
作戦通りまずは勇者が斬りかかる。しかし、その刃が届く前に勇者は魔王の衝撃波により吹き飛ばされた。
(何も見えなかった…僕は今、何をされた…?)
勇者が吹き飛ばされるのを見て、勇者に続き攻撃を仕掛けていた戦士は即座に勇者のサポートに回った。
「勇者様!大丈夫ですか!」
急いで僧侶が駆け寄り勇者に回復魔法を施す。
「ほう、回復魔法とは珍しい…先に消すのが定石だな」
そう呟くと魔王は玉座から立ち上がり僧侶の方へ直接攻撃を仕掛けた。
「ひっ…」
魔王の攻撃速度は速すぎた、誰も反応できず僧侶は呆気なく即死した。
「弱いな、人間B」
「貴様ぁ!」
戦士は怒りの感情のまま魔王へ猛攻を仕掛ける。
「待て!早まるな!」
勇者が叫ぶが戦士の耳には届かない。
「最上級炎魔法!」
魔王に向かって人類最高威力の魔法が放たれた。
「しっかりしなさい!感情的になってはダメよ、連携が崩れてる」
涙を流しながら魔法使いが諭す。
「すまない、頭に血が昇っていた」
戦士は冷静さを取り戻した。
「人間にしては良い魔法を放つではないか、人間C」
しかし、魔王へのダメージはない。
「死ぬ前の記念だ、我が魔法を拝ませてやろう」
魔王は無詠唱で魔法使いへ魔法を放った。
勇者は即座に魔法使いを突き飛ばし、左腕の盾で防ぐも防御が意味を成さず左腕ごと持っていかれた。
「「勇者!!」」
魔法使いと戦士が駆け寄る。
のたうち回っている暇はない、勇者はすぐさま立ち上がり聖剣の鋒を魔王へと向ける。
(左腕を失った…意識が飛びそうだ)
「オレが時間を稼ぐ、帰還魔法の準備をしろ」
そう言うと戦士が前に出る。
魔法使いは無言で頷き、戦士に防御魔法を付与しつつ帰還魔法を使おうとした。
「逃すと思うか?」
次の瞬間、戦士が魔法で刻まれ無惨に倒れる。
「貴様も脆いな、つまらんぞ人間D」
勇者ももう一度魔王に立ち向かうが頼みの綱である聖剣でも攻撃は通らず、折られてしまった。
「退路は潰さねばなぁ?」
魔王は再び、魔法使い目掛けて魔法を放つ。
「やめろ!やめろぉ!」
勇者は魔法使いに手を伸ばそうとする。
間に合わなかった。無情にも魔王の攻撃が魔法使いの胸を貫いた。
「勇者…ごめん…あなただけでも…」
これが魔法使いの最期の言葉だった。
勇者は絶望のどん底に突き落とされた。
その時、勇者の首飾りが輝いた。
魔法使いからプレゼントされて以降、肌身離さず付けていた首飾りだ。
(なんだこれは…⁉︎)
眩しい光がが勇者を包み込む。
気がつくとそこは今亡き、勇者と魔法使いの故郷だった。
魔法使いが生前に保険として残していた『自身の死をトリガーに自身以外の生存者を帰還させる』という魔法が発動したのだ。
しかしながら、ここには勇者しかいない。
首飾りも効果が発動したため砕け散ってしまった。
こうして勇者は、魔王に敗北し全てを失った。




