世界は光で溢れている。
夏の日差しが照りつけるその日の帰り道、北高からの下校途中だった。僕は他校、ちょうど南中学園のそばを通り過ぎた。その時、南中学園の白鳥の門の前で数人の生徒がチラシを配っていた。
「お願いします。お願いします」
有名女子校の女の子たちが行き交う近隣の住民と思わしき人達に白いチラシを配っている。僕は道路の反対車線に足を向けようか、歩きながら無意識のうちに迷っていた。学園の生徒たちは女子生徒である。僕とはまるで住む世界の違う、真っ白の純白な制服を身に纏っていた。
「あ、北高の生徒だ」
一人が登校中の北高生徒に気づいたのか、声を上げた。そしてタッタッと僕の方に駆けて来たではないか。僕は向けようとした目を地面に向けた。いわゆる節目がち、そういう状態になったのだ。
「こんにちは。これ、今度の文化祭で行うので、来てください」
彼女はそう言った。僕は思わずその女子生徒を見た。彼女は凛とした表情で一枚のチラシを手渡していた。はたから見たら黒い学ラン服の生徒と真っ白の純白な制服を着た生徒が対照的だろうな…、そう思った。
「ど、ども……」
僕はチラシを受け取った。居た堪れなくなって再度地面に視線を落としつつ、すごすごと帰宅への道を進んでしまう。僕は歩きながら自分が日陰のある反対車線に歩いていることに気づいた。ここは日陰、隣の家の塀によって出来る影だ。その影と日差しに照りついたアスファルトの境を見た。その瞬間、今日の北高での話し合いを振り返ってしまった。僕からも何か、何かしなければ…。そう思うか思わないかの境で、地面に落としていた目線を気づいたら女子生徒たちがいた白鳥の門の方に向けていた。女子生徒は小さく手を振って門に戻って行った。その姿はまるでスポットライトを受けた白鳥のようだった。
僕はチラシを丁寧に二つ折りにして、その場を後にした。
「ただいま」
家に帰ると僕は一目散に自室に引き篭もるように戻って行った。部屋の電気を付け、黒いリュックサックを下ろし、中から先ほど渡された白いチラシを取り出した。チラシの縁には金色の縁取りがされていて、真ん中には金色の文字でこう書かれていた。
「南部中央学園 学園祭のご案内
このたび、南部中央学園では恒例の学園祭を開催いたします。本年度のテーマは「つながる笑顔、広がる未来」です。生徒たちが日頃の学びや活動の成果を披露する多彩なステージイベント、展示、模擬店など、心を込めて準備を進めております。皆さまに楽しんでいただける内容が盛りだくさんです。
どなたでもご参加いただけますので、ぜひご家族やご友人お誘い合わせのうえお越しください。生徒たち一同、皆さまのお越しを心よりお待ち申し上げます。
•日時:八月十九日 十時~十八時
•会場:南部中央学園校内(アクセス:西丘駅より徒歩五分)
•お問い合わせ:南部中央学園事務局」
僕は唸りそうになった。とんでもない高校だ、そう、言語化するならなんちゅう学園だ、それそのものだ。僕はスマホを取り出し、緑色のアイコンをタップした。そう、ライン、連絡ツールだ。画面を見ると父と母、弟以外に一つだけグループがあった。それもそのはずだ。あれから長代、中谷、短澤たちと四人でグループラインを作ったのだ。そのグループラインに僕は文字を打っていった。
「明日、みんなに教えたいことがある」
僕はスマホを閉じて、ベットに横になった。天井を見上げると光が照明を中心に輪を描くように照らしていた。窓の外を見ると、蝉が鳴く音だけが聞こえる。ただ蝉の鳴く音は断続的になっていた。
僕は静かに目を閉じた。