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「脳内彼女」  作者: でふ
第十二羽

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13/14

世界は鳥たちの舞で溢れている。

 その後、僕とカリンさんはベンチで話し合った。お互いのこれまでの生い立ちや将来なりたい夢のことを。カリンさんは舞台女優になりたいそうだ。僕はその彼女の立つステージ、「白鳥の舞」が楽しみになっていた。

 時刻はそろそろ17時を迎えようとしていた。カリンさんは準備があるからね、と言い残し15時頃に先に体育館に向かってしまった。僕は一人、ベンチで呆けていたのである。そこへ長代と中谷、短澤たちがぞろぞろとやって来た。

「探したぞ」

 中谷はそう言って呆けている僕に声をかけてきた。僕はハッと気づいて、彼らを見た。彼らの後方には南中学園の女子生徒三人が少し距離を空けて佇んでいた。僕は彼らも彼らでやることやったんだな、流石だな、と思った。長代と中谷、短澤たちがそれぞれニヤリ、とした。

 その後方にて佇む彼女たちのうちの一人が一歩前に進んで声をかけてきた。

「そろそろ体育館にて伝統文化「白鳥の舞」の公演を行います。皆さんそれぞれ私たちについて来てください」

 僕はその女子生徒の腕に腕章がついていることに気づいた。腕章には南中学園のエンブレムの白鳥の紋章と、「南部中央学園事務局」の文字が印刷されている。後方にいる二人の腕も見た。彼女たちの腕にも同じような腕章がついている。

「んじゃ、俺らも行こうぜ」

 中谷がそう言ってベンチに座っている僕に手を伸ばした。僕は一回頷いてその手を取り、女子生徒たちの後についた。向かうは南部中央学園体育館、建築様式は15世紀に建築されたトリアノン宮殿のような体育館だ。


 体育館に入るとパイプ椅子が並んでいた。体育館は暗くなっており、僕は瞳孔が広がるような感覚をした。少し経つと目が次第に慣れてきて、あたりの空間がわかるようになってきた。ステージを前にパイプ椅子が端から端まで並んでいる。僕は空いている端の方の一列に並んでいるパイプ椅子に腰掛けた。長代、僕、中谷、短澤の順だ。

 先ほどの女子学生三人たちはというと、僕たちが座る座席の方ではなく、ステージ横の扉を開いてその中に入って行ってしまった。周りを見渡すと、前の方に中部中心高校の生徒たちが多く陣取り、その周りを北部北高校生徒たちが囲むように座っている。

「さっきの子たちって事務局の?」

「そうそう」

 僕と中谷はざわめきの中、囁くように話し合った。

「…どうしたの?」

「それがさ、俺たちも色々試行錯誤して、結局あの子たちとそれぞれ出会ったんだわ。その後、俺らが合流してみたら三人とも事務局の人でさ」

「つまり、それぞれ食事会をしたってことっす」

 長代が途中から割り込んできた。

「なるほどね……。色々、ありがとう」

 僕はそう言った。彼ら三人もそれぞれ男だ。気になる人もいたであろう。それでも僕が桃咲カリンさんと時間を過ごせたのはこの三人のお陰であった、そう思った。その感謝の意味も込めてありがとう、と伝えたのだ。中谷と長代からはそれぞれ、気にすんな。大丈夫っすよ。と声が飛んできた。

「しっ、静かに。そろそろ始まるぜ」

 短澤はそう言った。僕は周りを見た。体育館の入り口の扉は閉まり、中の照明がだんだんと暗くなる。座席にはそれぞれの学校の学生たちが腰を下ろしていた。

 照明が暗くなり、真っ暗闇になった。その数秒後、ステージの中央にスポットライトが差し込んだ。スポットライトは体育館の二階の左右から差し込んでいる。背景を大きな垂れ幕のカーテンにして、そこに一人の女子生徒が立っていた。僕は一瞬で誰か分かった。始まったのだ。


「皆さん、お越しくださいましてありがとうございます。三年生の桃咲カレンと申します。今日は皆さんにこの学園の誇る伝統文化「白鳥の舞」を公演させていただきます。本年度の本校学園祭のテーマは「つながる笑顔、広がる未来」です。この公演を見ていただき、一人でも笑顔になっていただけるよう、南部中央学園生徒たちが精一杯頑張りますので、皆さん楽しんでください。そしてこの笑顔が、未来の翼になることを切に願います」


 座席全体から拍手が鳴り響いた。前の方からはピューピューっと口笛が聞こえてくる。僕たちも思わず拍手した。これは素晴らしいものになりそうだ。僕は期待に胸を膨らませた。

 視界が暗闇に慣れてきた。桃咲カレンさんは降壇し、左右から差し込むスポットライトが動いて消えた。僕は二階席を見た。そこには先ほどの事務局の女子生徒たちがライトを動かしているのが分かった。

 暗闇の中、垂れ幕のカーテンが左右に広がる音がする。僕たちは再度大きな拍手で公演を迎えた。



 ステージがライトアップされるとそこには南部中央学園生徒たちの合唱団がいた。そして、その手前に交響楽団たちがそれぞれ楽器を携えて椅子に座っていた。中央に指揮者の服装をした女子生徒がいる。その指揮者がタクトを振り上げた時、静寂に包まれた空間に合唱団のかまえの姿勢と交響楽団の楽器をかまえる音が鳴り響いた。

 指揮者がタクトを振り下げて左右に動かす。交響楽団たちの音色が重奏的に響き渡り、合唱団が唱い始めた。これはオペラだ。

 音楽が奏でられる最中、ステージの両端から真っ白で純白の生徒たちが踊るようにして飛び出してきた。左右から、交互に。スポットライトがその純白の白鳥たちをそれぞれ照らし、浮かび上がらせる。その飛び出してくる白鳥の最後に僕の知っている顔が二つあった。桃咲カレンさんと桃咲カリンさんだ。

 合唱団と交響楽団の奏でるリズム、メロディー、ハーモニー、そして音色が組み合わさり、そのステージの前で白鳥の彼女たちが踊る。それこそまるで湖面を踊るように進む白鳥そのものだった。

 僕は感嘆した。これは南部中央学園の誇る総合芸術だ。その集大成が今目の前に広がっている。スポットライトを浴びた一羽の白鳥たちがそれぞれ中央に集まり出した。そして、全てのスポットライトが中央に集まった時、音楽は最高潮に達し、華を開くが如く、一羽の大きな白鳥が姿を現した。


 僕たちは公演後に割れんばかりの拍手を送った。座席の前方で生徒たちが立ち上がり出した。僕たちもつられて立ち上がり出す。スタンディングオベ―ション。会場を包み込むその割れんばかりの拍手は、数十秒、鳴り止まなかった。



 照明が点灯し、体育館全体が一気に明るくなる。公演が終了後、皆が思い思いに感想を言い合った。よく見ると、前方で口笛を鳴らしていたのは先ほど一緒にメイド喫茶に行った横田であり、最初に立ち上がったのは檸檬さんであると分かった。横田は最後まで口笛を吹いていた。


 僕たちは夕焼け空の下、体育館を後にした。夕焼けに染まるヴェルサイユ宮殿とその伸びた影に掛かるオランジュリー庭園に咲き誇る花々は、とても荘厳で、雄大であった。

 僕たちは白鳥の門まで歩いてきた。振り返るとそこには南部中央学園生徒たちが横一列に並んでいた。

「「「本日は誠にありがとうございました!」」」

 彼女たちがザッと頭を下げた。僕たちは、こちらこそありがとうございました!、というのを必死に耐えながら、全員で一つのセリフを言った。そのセリフが夕焼けのヴェルサイユ宮殿を背に響き渡った。



「「「なんちゅう学園だ!!!」」」

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