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第18話 ロマンブライトの挑戦

 UAEダービーの翌週、いよいよロマンブライトのクラシック挑戦が始まった。第一弾は桜花賞。コースは阪神競馬場、芝千六百メートル。

 一昨日からしとしとと花時雨が続いている。馬場状態は不良よりの重。


 ダートでならした馬が芝で好走するには、ダートでは後方からの競馬で少しでも瞬発力を鍛え、芝ではダートで培った先行力を発揮して前残りを狙う。それが鞍上若竹の考えであるらしい。

 多治見調教師から、もしかしたら中央競馬に挑戦するかもしれないと聞かされてからは、後方からの競馬に徹していた。東京2歳優駿牝馬で勝つ事を優先して前に付けていたらウィンザーローズには負けていなかったと今でも思っているとインタビュー記事には書かれていた。


 全ては中央のクラシックに勝つため。


 ロマンブライトは十八頭立ての四枠八番。人気は八番人気。

 トライアルのアネモネステークスは、過去のアネモネ賞時代からも含めて、桜花賞馬を輩出できていない。ダイイチルビーやヤマヒサローレル、ダイワルージュといったそれなりに名の知れた馬もここを勝ってはいるのだが、残念ながら本番は惜しい止まりである。


 一番人気は阪神ジュベナイルフィリーズを勝って三戦三勝でこのレースに臨んでいるカルタニセッタ。

 二番人気はトライアルのチューリップ賞を余力残しで二着したハンメルフェスト。

 三番人気はアルテミスステークス二着、阪神ジュベナイルフィリーズ二着、フィリーズレビュー二着と惜しいレースが続いているタルバガタイ。

 全勝のカルタニセッタか、それとも連帯率十割のトライアル組か。少なくともオッズはそのようになっており、新聞が煽るほど地方からの挑戦者は期待されていないという感じである。


 パドックの中継を見る限りでは胸前の筋肉が厚く、トモ(=後脚全体)の張りも良く、中々に気配が良さそうに見える。テレビの解説の人たちも良く見えると言ってくれてはいる。だが、予想者たちの買い目は、あくまで連下止まり、もしくは見送りであった。


 本馬場入場も終わり、発走前の輪乗りが行われている。ロマンブライトの歩様は徐々に力強くなり気合が乗り始めている。


 関西GIのファンファーレの演奏が始まり、観客席から一斉に手拍子が聞こえてくる。

 その大歓声にロマンブライトは明らかに気を取られた。他の馬が輪乗りを続けているのに、ロマンブライトは足を止め観客席を見つめている。耳がピンと立って観客席に向けられている。

 鞍上の若竹はロマンブライトを観客席が見えない位置に移動させ首筋を撫でて落ち着かせた。


 枠入りが始まる。

 一頭枠入りを嫌がる馬がいて、少しゲート内で待たされる形になってしまった。だがそれでもロマンブライトは辛抱強く耐えた。


 ゲートが開き、各馬が一斉にゲートを飛び出す。

 さすがに中央のGIレース、初速が段違いに早い。それでもロマンブライトは何とか前目の位置をキープしようと必死に押して行った。チューリップ賞を勝ったダンスポジションと、エルフィンステークスを勝ったルージュエフェクトの二頭が先陣を争い、どんどんペースが早くなっていく。向こう正面の長い直線を行く間中二頭の先陣争いは続き、そのせいであからさまにペースが早くなった。


 もしかしたら前の馬は全滅するかもしれない。そう感じた若竹はかなり縦長の展開になった馬群の中央付近に位置取りを変えた。


 三コーナーに差し掛かっても前二頭は競り合いを止めない。さらに外から二頭を突く馬が現れて、先頭の五頭から六番手以降はかなり間が開き始めている。

 大きく弧を描く曲線の半ば頃、残り八百メートルを過ぎた頃から各馬が徐々に前の馬に並びかけて行った。その中の一頭がロマンブライトだった。


 四コーナーを過ぎて直線コースに向くと、案の定前にいた五頭は早くも一杯となって下がってきてしまった。

 若竹は下がって来る馬の間をすり抜け、一鞭入れて先頭に躍り出た。

 さらに二鞭、さらにもう一鞭。粘り腰ならこの馬が有利なはず。そう信じて若竹はロマンブライトを追った。


 残り二百メートル。

 ロマンブライトは未だ先頭を走ってはいるのだが、思った以上に後続の各馬が一団となっている。

 その一団の中から抜け出た二頭が、大外に馬体を持ち出して一気に上がって来る。一頭はハンメルフェスト、その外がカルタニセッタ。だが道中の流れの早さが災いしてか、坂に差し掛かると二頭の末脚が鈍った。一方のロマンブライトは力強く伸びている。


 坂を上り切って、残り百メートル。

 ロマンブライトは驚異の粘り腰で先頭をキープし続ける。もう少し、ゴール板はもう目の前。

 ところがそんなロマンブライトを一頭の馬が一気に抜き去って行った。さらにハンメルフェストとカルタニセッタにも並びかけられた。三頭横に並んだところがゴール板であった。


 勝ったのは十四番人気のエルガファル。前走にシンザン記念を四着した五戦一勝の馬で、抽選で選ばれた馬だった。

 二着はカルタニセッタ、三着ハンメルフェスト。ロマンブライトは四着に終わった。


 この結果を受けてロマンブライトの陣営は、意気消沈するどころか逆にオークスへの弾みがついたと喜んだ。

 レース後、ロマンブライトは落鉄が判明した。落鉄しながらも四着であれば、それは強さを証明できたという事に他ならない。

 さらに、マイル戦はこの馬は少し忙しすぎた。府中の長い直線勝負でこそ、この馬の真価が発揮されるであろう。

 多治見調教師はそう記者団に語ったのだそうだ。



 桜花賞が始まるといよいよ春競馬も本番という気分が漂ってくる。そんな中、ダートクラシックの最初の一冠羽田盃の出走メンバーの事が記事になっていた。


 中央競馬からはモディリアーニ、ライジングイーグル以外に、ヒヤシンスステークスを勝ったラムセスモカ、寒椿賞を勝ったククルカンが出走を予定している。

 迎え撃つ地方勢は、大井のカリナン、北海道のラッキーユニバース、岩手のスプリングオペラ、船橋のゴールドラッシュ。


 羽田盃のトライアルは四レース。船橋のブルーバードカップ(JpnIII)、大井の雲取賞(JpnIII)、京浜盃(JpnII)、スターバーストカップ。

 一月のブルーバードカップはゴールドラッシュが勝利し、二着がラッキーユニバース、三着モディリアーニ。

 雲取賞はカリナンが一着、二着にライジングイーグル、三着ククルカン、スプリングオペラが四着。

 京浜盃ではスプリングオペラが一着、ラッキーユニバース二着、三着がラムセスモカ。

 ここまで八頭は何らかの形で激突しており、それが一堂に会する事になる羽田盃が非常に楽しみである。


 よく見ると羽田盃の出走メンバーの中にスターライラとウィンザーローズの名が無かった。


 全日本2歳優駿を二着したスターライラだが、先日昇竜ステークスを勝利し、次走はユニコーンステークス(GIII)に出走予定となっている。

 ユニコーンステークスは、今のダートクラシック三冠が整備される前のダートクラシックの一冠目だったレース。その当時は大井のスーパーダートダービーが二冠目、盛岡のダービーグランプリが三冠目であった。


 東京2歳優駿牝馬を勝った川崎のウィンザーローズは、南関東牝馬路線に出走している。ユングフラウ賞(SII)に勝利し、先週浦和桜花賞(SI)に勝利。次走は東京プリンセス賞(SI)に出走予定。


 なお、どちらも春の大目標は六月の関東オークス(JpnII)を予定しており、どちらが真のダート女王か今から気になるところである。



 我らがビヴロストは、まずは東海地区の牝馬の頂点を目指すと言う事で、明後日、東海クイーンカップ(SPI)に出走を予定していると結城調教師からメールが入っている。結果いかんに関わらず、次走は名古屋競馬場での三歳の頂点を決める東海優駿(SPI)に出走予定なのだそうだ。もしどちらも勝てるようであれば、その後の事を相談したいので名古屋までお越しいただく事になると思うとメールには記載されていた。

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