85話 一発KOの代償
朝、チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえる。
ウルフが俺の部屋を心配そうに覗く。
レイニーが処置してくれた包帯を見て渋い顔。
「おはよウルフ」
「遅いと思って訪ねてみれば……その怪我はどうした?」
「第二の四天王と戦ってて吊るされて焼かれた」
「今日はゆっくり休め!!な!?」
吊るしたのも焼いたのもレイニーである。
いや、茹でた?
昔TVで〈煮えたぎった油を消そうとして水をかけて大火傷〉というニュースを見た。
マグマに水をつっこまれた俺も、勿論大火傷だ。
「おはようございます」
「レイニーに質問」
「はい」
「治療のオーバーヒールって何?」
俺の治療に使われたが初めて見た。
「少しは強い人でなければエネルギーが尽きて死ぬ回復技です」
「俺そんなのかけていいぐらいの強さかなぁ!?」
「カドマツ様、体力が増えましたから」
ウルフが首をかしげている。
「どうした?」
「おまえの成長ちょっと早すぎないか?」
「平成の時代に色々あったせいだろうな――」
「それって俺が生きてた昭和のあとだよな?」
昭和、どのあたりの昭和に生きてたかにもよる。
何せ64年もある、戦争とかで死んでるかもしれない。
だったらウルフは祖母の感覚なのかな。
「ウルフって昭和何年ぐらいの記憶ある?」
「好きだったアイドルが結婚したことぐらいなら覚えてるんだが」
「参考にならねぇ」
「あと、俺は【ファミコン】わかるぞ」
昭和後期のゲーム機!ということは絶対に戦死はない。
「お! やったことあるの?」
「お袋が持ってた」
「母親が持ってるって昭和にしては珍しいパターンだな」
おいてけぼりのレイニーの口がMみたいに変化している。
仲間ハズレにされた子供たちがする顔だ。
俺も子供の頃はゲーム買ってもらえなかったからな……。
親から離れられた時に引きこもってゲーム三昧したけど。
「まだ手足ピリピリするんだけど、治療スキルもう一回」
「使いすぎるとコアが傷つきますよ」
「レイニーにはコアがないわけだろ? 使いすぎたらどうなるんだ?」
「怪我しないので分かりません」
ウルフの目が点に。
「コアがない?」
「え、ウルフは知ってたんじゃねぇの?」
「レイニーじゃないな、とは思っていたが……」
「……本人ではない、という訳ではないです」
「はい?」
「私もレイニーです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「す、すまん」
ウルフぐらいには正体教えておいたほうが良かったんじゃないかなんて。
今の『本人じゃない』とされるのはレイニーにとってかなり嫌なのだろう。
聞いたことないレイニーの大声だった。悲鳴とも呼べそう。
「トイレいくからレイニー肩貸して」
「ここでしていいですよ? スキルでこう、誘導しますから」
「汚ねぇ!!」
俺の尿が宙をまって便所まで空中をいく様は見たくない。
ウルフに肩を借りようとしたがレイニーがやりたがった。
教会でお皿を運ぼうとしたらやりたがる子供たくさんいたな。
やらせたら駄目だというシャックの助言でやらせなかった。
想像以上に小さな子は失敗するらしい。
で、結局レイニーに肩を借りて用を足した。
部屋で安静にと寝かされながら昨晩の状況をウルフに伝えた。
ウルフは困ったように頭をかいた。
「今までの話を聞くとカドマツに戦闘はやっぱりむいてないな」
「とっくに気づいていてほしい」
「戦場では冷静な判断がいる場合が多い、飛び出すアホは戦場に向かん」
「アホっていうなよ……事実だけど」
「食事を持ってきてやるからその寂しがりに褒美でもくれてやれ」
褒美って言われても。
頭を撫でることすら今の俺には出来ない。
がんばればいけるか―――?
「痛ッ!!」
「消し炭になりかけた所を治療しましたからね」
「……なんでバリアの大きさあんな小さかったの?」
レイニーならもっと大きなバリアを張れそうなのに。
「私はバリアのスキルカード苦手なんです」
「何で?」
「水圧に対するバリア、雷に対するバリア、刀などに対するバリアと種類豊富です」
「あ、なんでも防げるバリアはないんだ?」
「魔物がどんな攻撃をするか読み切ってバリアを張るのと、攻撃に攻撃をぶつけて相殺なら後者のほうがずっと役にたちますよ」
年寄りの話は勉強になるな。




