表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/152

61話 うつりゆく

 

 カミノ城に皆で帰ってきてから1週間目の朝。

 俺はこの世界に転生してきて最初に貸してもらった、転生者歓迎用の部屋で過ごしている。

 足に鎖をつけようとはもう言ってこないレイニーに一安心した。


『カドマツ様、モーニングティーでございます』


 ポチが淹れてくれた謎の紅茶を飲む。

 美味しいのだが、俺の気分は晴れない。

 グレイスノウから帰ってきてからというもの、レイニーは寝込んでしまった。


「ポチを連れ帰ったのは俺だからなぁ」

『私がご友人に手を出したことを疑っておいでで?』

「いや、だって発熱して咳だぞ」


 どう見ても俺が発動した【スキル:インフルエンザ】の症状である。

 絶対に使いたくなかったスキルだが、マキナやシャックやシャックの妹、『悪夢の水槽』に囚われていた人々と天秤にかけるしかなかったあの状況。他に打てる手もなかった。

 そこまで俺たちを追い詰めた原因は、目の前にいるこのポチこと魔王復活の鍵を握る『四天王』の一角・イチドペンギン。


「俺の従者になりたいことについては別にいいとして」

『いいのですね』


 自分を倒した相手の手下になりたいなんて昔からある話。

 ヤンキー物の定番だし倒したモンスターが仲間になるゲームも多い。

 そんなことよりも、仲間になる前に何故ポチは『四天王』をしていたのか?

 魔王復活のコアがどうのという話も気になる。


『私はただのパーツですから』

「パーツ?」


 ポチは自分自身の意思で四天王をしていたわけではないらしい。

 誰かに負けるまではあの灰色のダンジョンからは出られず、困っていたのだという。

 ルールを全部説明したのは、とっとと負けて外の世界に行きたかったから。


『もしもご主人様が私のせいで何か言われるようであれば自害もいたします』

「やめて」


 レイニーが寝込んでいるのは、俺が使ったスキルのせいだ。


 転生者は病気では死なないと分かっていても心配なので、俺はポチと一緒にレイニーの部屋にお見舞いにやってきた。

 メイドが用意してくれた食事や飲み物と、濡れたタオルをメイドのメレンゲに変わって部屋まで運ぶ。

 ベッドに横たわるレイニーをのぞき込むと、まだ熱が高いようだった。おでこのタオルがもう生ぬるくなっている。


「ポチって日本にあるもの出せる?」

『物によりますが』

「熱さましのシートがほしいんだけど」

『御意』


 レイニーのおでこに冷却シートを貼ってやると、目が合った。

 普通は病人という生き物の表情はもっと弱弱しい。

 だがレイニーは両目を見開いて、こちらがたじろぐほどの眼力。


「その顔どうした」

「ゴハン」

「取ってくれってことか?」


 食事のトレーを手渡したら、目をカッと見開いたまま食べはじめるレイニー。

<●><●>顔文字にするなら多分これ。

 おかゆを平らげていくがその視線はこちらにある。

 こっち見るなといいたくなるほどの眼力だ。


「私、偉いですか?」

「よしよしごはん食べられてレイニーは偉いなー」


 レイニーが食べ終わった食器を回収して机に置いた。

 ワクチンも打ってない奴が熱で倒れている時点で寝ていなければ死ぬレベル。

 もっともこの程度で死ねるなら逆にいいのかもしれないが……。


『ご主人様』

「何?」

『床がビッショビショでございます』


 床がいつの間にかプール並みに――


「漏らしたなこいつ」


 水スキルを。

 慌ててメイドたちを呼び、バケツを持ってきてもらう。

 汲み取るには量が多すぎて無理そうだったので、窓を開け放水する。

 しかし、スキルにしても()()()()()()だと思った。

 追加のバケツを抱えて入ってきたメレンゲが、ぽつりと一言。


「王子、すごい汗ですね」

「汗なのこれ!?」


 今までレイニーのスキルをまじか見てきたから分かる。

 かなり手加減しなければ、この城ぐらい余裕で()()

 これは汗だと言われてむしろ納得した。


「汗を拭くとかいう次元じゃない――あ」


 そういえばウルフはノアが死んだ時、「医療系な転生者に責められた」と言っていた。医療スキルを持つ、まだ見ぬ転生者がこの世界のどこかにいるはずだ。


「グラド、医療系のスキル持った人を知らない? てか呼べる?」

「連絡しても来てくださるのは何とも言えないですが……ティラノ様を通じれば何とか」


 こうしてティラノに連絡を取ってもらい、急ぎでカミノへ呼んだ大人の女性。


「うちが医療スキル持っとるサカネや」

「初めまして」

「シャックの妹を助けてもろたて聞いたから恩ぐらいは返すつもりできたったけど、今これどういう状況なん?」

「インフルエンザです」


 ―――パンッ

 信じられない速度で頬を引っ叩かれた。

 けど威力は異常に低い。


「先に言えアッホンダラアァッ!!」

「……すみません」

「【スキル:治療 ポイズンデリート】」


 サカネさんのスキルが発動し、レイニーの身体を緑色の光が包み込む。

 窓からこぼれる滝汗(物理)は止まった。


「サージカルマスクがないゆーても布マスクぐらいせんかいボケカス!!」

「そ、そうですね」


 現代日本のことを知ってるタイプの人だろうか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ