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39話 彼の理由

 

『はい解毒のお薬です飲ませて』


 仕事が早いギルドマスターはさっさとレイニーの症状を診ると調薬を済ませ、俺たちに粉薬を差し出した。


「苦い?」

「はい、あーん」

「イや」


 シャックさんが嫌がるレイニーの口を開けて【スキル:ひきよせ】で胃に流し込んだ。


「まずい~」

「飴あげるから食べていいぞ」

「わーい」

「何で飴がそんなにたくさんあるの?」

「城の窓から美味そうに飴を喰ってる子供が見えたから」


 解毒剤が効いたのかレイニーが眠そうにしていたので、鞄から毛布を出して寝かせた。何でも入る鞄のおかげで一緒に枕も出してやれる。

 だがレイニーが起きても解毒薬の効果が現れなければ今夜の宿すら取れるか怪しい。

 子供がえりしてしまったレイニーは、ミサイルの発射スイッチそのものだ。



「そういえば、国王!!」

「ん?」

「俺たちホンイツさんの様子とか見ずに城を出たんだけど……あいつもレイニーと同じ薬を吸っていたら、あいつも子供みたいに泣いていたら……嫌だなと」

「あのゴミカスが泣いている分にはいいけど、あんな状態で城から出られたら厄介なのは確かだね」

「ここ頼む」

「は? 君1人で行かないでよ危ない」

「俺の力じゃレイニーを移動させるのも大変だし……なら【スキルカード:ドール】」


 シャックの言う通り俺1人では心許ないので、今の俺にできる限り巨大に作ったトラウマ人形にレイニーをくくりつけて連れていくことに。

 亀甲縛りなら落ちないかなと昔の趣味を生かした。

 久しぶりの結び方だったが上手くいった。


「君、運送業でもしていた人?」

「いや趣味で美少女フィギュアを縛ってた」

「嘘が吐けない人なの?」

「ちょっと変わった性癖ぐらい誰しもあるだろ」


 そうして俺たちは今朝ぶりにホンイツ国王のいる城に戻ってきたのだが、国王は18禁のお見せできない姿だ。アニメなら確実にモザイク。

 どうしようか悩んだが、このまま放置したら風邪をひきそうのは間違いないだろう。

 風呂場に連れていき、とりあえずお湯で洗ってからソファーに転がした。

 人形のように亀甲縛りしていたレイニーがちょうどお目覚めだ。



「……うん?」

「良かったーやっと起きたねこのクソ王子」

「シャックさんの幻覚が見えるのですが……」

「さっき会ったよね僕たち」

「覚えていないのですけども、あと何で私は縛られているのでしょうか……?」


 レイニーの様子が戻ったようなので縄を解いたのだが、当のレイニーはかじった人参が苦かった時のような顔。

 亀甲縛りをしていた縄の痕がくっきりレイニーの身体に残っていた。

 俺は水責めにあった。


「がぼがぼ」

「他にやり方あったでしょう」

「ごぼぼぼ(ごめんて)」


 口の中の水が弾けた。

 スキルだとか言葉にして唱えなくても唐突に【スキル:水】を発動できるレイニーの#強さ__・__#が今までのレイニーの苦しみ。

 つらい思いをすればするほどスキルは強くなるというこの世界の摂理を知った今は、何だか強い人ほどむなしく感じる。


「ああ、薬の影響で私まで記憶が飛んだのですね」

「シャックさんと本気でバトルしだすし」

「本気じゃなかったよ、甘噛み程度」

「あんな威力がある、確か――きょだいのりしお?」

「そんなポテトチップスみたいな技名じゃなかったけど?」

「私が本気を出したらこの国はもう海に沈んでいます」


 ミサイルの発射スイッチが正気に戻ってくれて本当に良かった。

 友達が大変な目に遭った国とはいえ、無辜の人々が犠牲になるのは勘弁してほしい。

 苺飴とかおいしそうに食べ歩いているあの少女たちまで水に沈んだともなれば本物のトラウマ必須。


「そういえばシャックさんはどうして魔王討伐をやめたんだ?」

「唐突だな」

「いやティラノさんから聞いて前から気になってて」

「そういう時は人に話せない事情があるものですよ」

「ごめん」


 レイニーが討伐をやめたのはノアのことがあったから。シャックさんにもトラウマがあるのかもしれない。

 しかし別に隠されもせず。


「お金がなくて討伐に参加してる余裕がないだけだよ」


 だからカミノは国から補助金を出しているのかと、俺は今頃納得していた。


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