38話 シャック
「私と遊んでくれないのですか?」
子供のようにむくれてしまったレイニーによしよしして、さっき買った棒つきキャンディを口に放り込んでおく。
レイニーが大人しくキャンディを喰っている間に俺はシャックさんと話をすることにした。
さっきのは本気の大技のようだったので、あれが俺に向かって発動していたら、今頃俺は木っ端みじんの藻屑になっていただろう。
「ちょっとお話しているから、レイニーは座っててくれ【スキル:トラウマ】」
虎で馬なぬいぐるみを椅子がわりにさせて、シャックさんと会話フェイズ。
何故レイニーを偽物だと思ったのかと聞くが俺を信用できなのか先に名乗るのが筋だろうと警戒を解いてくれない。
俺は自分の名前と、レイニーの元・婚約者に召喚された異世界転生者であると伝えた。
「僕の知るレイニーはこんな子供みたいに無分別な行動しないはずなんだけど……」
でも本人の威力だし……と、まずは話を聞いてくれる様子。
「国王と昨晩いろいろあったので、今は心が不安定でして」
「君の【スキルカード:ドール】はその時に?」
そうしているうちに口の中の飴を食べ終わったレイニーが蝶々に誘われて走って行ってしまいそうになったので慌てて追いかける。
巨大なカマキリ型の魔物と鉢合わせて即刻レイニーを引きずって逃げ出した。魔物はカマを振り上げ追いかけてくる。
シャックさんの方を見ればこの程度で敵前逃亡……? みたいな顔をしている。
俺は昔から他人のこういう態度には敏感ですぐに呆れた態度に気付いた。
「ドール操れば君も戦えるんじゃない?」
「無理無理無理!! あんな怖いのと戦えるアンタらが凄いの!!」
「【スキル:ひきよせ #超重力__ちょうじゅうりょく__#】」
カマキリの魔物が地面に叩きつけられ、俺たちはなんとか助かったらしい。
さすがレイニーの古い友だちだが、当のレイニーは蝶々を追いかけるのに夢中である。
こうなると自分が魔物に襲われたことより友達のことが心配になってくる。
「そんなに蝶が珍しい柄だったのか」
「ちょうちょいる!」
「ホンイツさんを強力なドラッグで廃人にしたとか言ってたけど、その薬おまえもうっかり吸い込んでたりする?」
シャックに今までのいきさつを説明すると、ホンイツさんの部屋から出た時の彼から甘い香りはしたかと聞かれた。
確かに甘い匂いはしたがホンイツの吸っていた煙草が似たような香りだったので気にしなかった。そういえば今朝ギルドで出会ったレイニーの知り合いも甘い匂いがすると言っていた気がすると答えると頭を抱えるシャックさん。
「焚き薬を本人まで吸い込んで大変なことになってるとしか……」
「あの、シャックさんはレイニーの古い友だちなんですよね」
「まぁ旅の仲間ではあったよ」
「しばらく俺のこと守ってくれ」
「何で僕が?」
「俺が死ねば正気に戻ったレイニーは世界を亡ぼすぞ」
こうして俺はシャックさんと木陰に座ってレイニーを観察することに。
ミサイルの発射スイッチを幼い子供が握ってしまったような現状。
シャックさんは早いところレイニーに解毒剤を与えよう、とため息をついた。薬売りはこの国にもいるのでここまで連れてこいと言う。
「ギルド行ってマスターに【カッテニシンダバッタ】って伝えて」
俺は急いで先ほどのギルドに戻った。
道中で何度も石につまずいて転んだが、シャックから預かった言葉はもちろん覚えている。
メモもとれなかったから何回も声に出して忘れないようにしたからだ。
「カッタサンマバカ!」
『……』
「シャックさんがギルドマスターにこれを言えばいいと」
『病人がいるなら私が診ましょう』
ギルドマスター自身が薬剤師であると言われ、森に薬を待ってる友達がいるのでついてきてほしいと頭を下げる。シャックの合言葉のおかげか、マスターは快く患者のところまで付いて行きましょうと言ってくれた。
レイニー、大人しく待っててくれよ。
たどり着いたら虐殺現場とかマジで勘弁して欲しい。




