35話 4代目異世界転生者
レイニーが注射器を持っていたのでギリギリのタイミングで輸血が間に合った。
「これで国王の命が助からなかったら俺たちの目の前でニカナが亡ぶのか」
「彼の死に顔はともかく、無辜の人々が逃げまどう様子は見たくないですねぇ」
2人でホンイツさんの様子を見ていたのだが、夜になってようやく彼は目を覚ました。
顔色もよくなり、呼吸も安定している。
適当な出店で買ってきた飯を無理やり食わせた。
「おまえ死ぬなら国王を降りても大丈夫になってからにしろよ」
「これ君が作ってくれたの?」
「そこらへんで売ってた総菜とか」
「僕のために買ってきてくれたんだね」
唐突に手を握られたのだが、触り方が何ていうかもにょもにょしていた。
「セクハラする元気があるなら大丈夫でしょうね」
「待って俺いまセクハラされてんの!?」
「助けたのはあなたなので自業自得としか言えません」
気持ち悪いのは確かにそうなのだが、レイニーが過去にされたことに比べれば多分こんなのは悪事のうちに入らないだろう。
一般的に最低ではあるのだが国王様に手を握られた程度でわーぎゃー言うのもガラじゃない。
「触ってていいから飯喰えよガリガリ」
「君のスキルは魔王と戦うためにはなさそうだね」
「おまえ人形使いらしいし、土産にぬいぐるみ置いてってやるよ」
顔がトラで下半身がウマの絶妙に気持ち悪いぬいぐるみをホンイツさんのベッドに置いた。
セクハラに対する嫌がらせである。
そのはずだったのに、動き出す気持ち悪い人形。
スリスリと猫のようにホンイツさんに懐いている。
「君は傍にいてくれるのかい?」
『ガオヒ~~~~ン』
鳴き声がクッソ変。
ホンイツは膝にトラウマぬいぐるみを抱えて撫で始めた。
まるで猫のように眠りはじめたぬいぐるみは、すっかり安心した様子。
落ち着いた雰囲気に騙されているのだろうか。
「君のスキルが育たないことを祈っているよ」
「最初はもっとボロボロだったんだからな!?」
ぬいぐるみの出来の悪さをバカにされたような気がして2体目を作った。
最初なんて綿とか出ていたし、魔物に見えるようにと自立をさせられるようになったのはハクアと戦ったあの時が最初だった。
死ぬような思いでようやく手にした力は確かにみっともなくて鼻で笑われるようなものかもしれない。でも俺にとっては大きな一歩だったのに。
「人形のお礼をあげる。……【スキル:ドール カードクリエイト】」
スキルカードがホンイツさんの手に生成され、俺が受け取ろうとした瞬間にスキルが発動した。
【スキル:共感者 発動条件:心を開かれた者にスキルカードを渡される】
荒れた大地で仲間たちと共に戦っていた、だけど、これは俺自身の記憶じゃない。
身長が4メートルもある巨大な男や小さな女の子。
そして今まで見たどの魔物よりも巨大な、2足歩行の白い化け物がこちらに向かってきているのが見える。
「方法がやっと、やっとわかったのに」
小柄な女性が泣きじゃくっている。
あの巨大な化け物が今まで話に聞いていた魔王であり、これはまだ魔王討伐部隊が結成される前、今からはるか昔の光景だと、何故か直感で分かった。
「……リコは諦めるの?」
「『つらい思いをすればするほどスキルの限界が伸びる』なんて摂理の世界ならアタシはもうこんな世界滅んでいいと思ってる!!」
「もしもこの世界が滅んだら、世界が滅んだ後に来る異世界転生者は荒れた世界にたった一人になってしまう」
「初代はどう思うの?」
身長が4メートルもあるその大男は、妙に安心というか彼に任せておけばどうにかなるとさえ思える不思議な空気をまとっていた。
「未来に希望をつなげましょう」
「転生してきた子が戦えるようになるだけでも1年近くかかるのに?」
「仲間を増やしましょう。もしも大勢で取り囲めれば、魔王の被害も今よりずっと少なくなるはずです」
「でも、あたしたちが転生者を保護したとしても戦えるようには――」
「なら殺さないで心を傷つければいい。その役目は僕が引き受けるよ」
リコからは反対されていたが、10年に一度魔王が復活するたびにまた同じ悲劇が繰り返されていては、いずれこの世界が滅んでしまう。やがて異世界――日本からこの世界にやってきた転生者がただ1人誰もいない世界で生かされ、魔王に殺され続ける最悪のループが完成する。
それでは今よりも悲惨と言えるかもしれない。
「僕は世界中の嫌われ者になる。だから、君たち僕が傷つけた異世界転生者を送り出す先であってほしい」
「ホンイツさんに傷つけられた異世界転生者を我々で育てろというのですか」
「ここでお別れだね、さよなら」




