34話 今の彼
「――で、最後には一緒に飼っていた異世界転生者のノアって子と手に手を取って逃げたよ」
胸糞悪い話ではあったが最終結果にどうも納得いかない。
「国王様を嫌う者が大勢いるのは分かったのですが、何でレイニーはこの国に?」
「うん?」
「そこまで嫌な思い出があるなら、レイニーが旅行するならニカナが近いといった意味も、わざわざホンイツさんと顔を会わせた意味もクソ不明で……」
「僕を殺したくてココへやってきたのなら、僕の身体はあと一か月も持たないから早くしてほしいね」
「余命1か月?」
「さあね。僕は嘘をついているかもしれないよ?」
扉を開けて入ってくるレイニーは酷く険しい顔をしていた。
話を聞く限り遺恨と鬱憤があるのは分かるのでおかしくはない。
「余命1か月って本当ですか?」
「聞こえていたようだね」
「病気ならそういうこともあるよな」
「異世界転生者は基本的に病気では死にません!」
異世界転生者には寿命がなく、何者かに殺されない限りは滅多に死なないらしい。
だからいったい何があって死にかけているのかと詰め寄るレイニー。
ホンイツさんはあっさりと答えた。
「異世界転生者を犯そうとして返り討ちにあった」
「あなたほどの実力で負けたのですか?」
「まさかハクアが裏切るとは思わなかったからね」
何でもハクアとホンイツさんは仲が良かったが、数か月前に裏切られたらしい。
スキルで毒を使われ、自力で立つことすら難しい今の身体にされてしまったと力なく笑う。
ハクアなんてこの世界で一番信じてはいけない男だろうと思うが、ホンイツさんは裏切られて驚いている様子。
「死に逃げなんて私が許しませんよ」
「僕を怨むなら君の手で殺したらいい」
「あなたなら、私を罰してくれると思ったのに……」
罰してくれる。その言葉にレイニーに謎がひとつ解けたような気がした。
ノアの一件はレイニーがそこまで自分人を嫌うほどの出来事だったのだ。
俺のことを頼むとノアが遺していなかったら、引きこもりどころのことではなかっただろう。
「ホンイツが死ぬとどうなるの?」
「ニカナが亡びるでしょうね」
「影武者とか子供とか」
「この国は彼の操る人形が支えていますから」
ニカナという国には、大人も子供もお年寄りも暮らしている。何の罪もない普通の人々だ。
そんな彼らは、国王であるホンイツさんが死ねば生きていけないだろう。国を守る兵士も消え、魔物と戦ってくれる兵士も消え、秩序を失くしたニカナは国としての機能を失ってなすすべもなく混沌に沈む。
「毒って?」
「ドクジャンコレキノコというメジャーなもので作られた毒だよ」
ドクジャンコレキノコ。その名前を聞いて、俺はホンイツの治療しを試してみてもいいかとレイニーに持ちかけた。2人で話し合う。
俺には【ドクジャンコレキノコの毒をうけない】という謎のスキルがある。
スキルを他人に付与するのは難しいことだと聞いていたが、俺には考えがあった。
「ホンイツさん血液型は何?」
「……A」
「異世界転生して血液型が変わることってあるかな?」
「いいえ、血はそのままです」
「俺も同じAだから試してみる価値はあるな」
少し嫌そうな顔をするホンイツさん。
「試すって……何を言い出すんだい」
「俺を信じられるか?」
「じきに終わる身体だから好きにしていいよ」
「俺のスキルを付与した血をアンタに輸血する」
肯定も否定もしなかった。というより、彼にはもうできなかった。
煙草を取り落とし、呼吸は荒くなり、胸のあたりを押さえて苦しそうにうめくホンイツさん。
1か月と言っていた、がまさかもって1か月なのだろうか――。




