30話 ガゴリグ
船長の名前はガゴリグ。聞けば異世界転生者の中でも特殊な境遇らしい。
「特殊?」
「俺は他の転生者には嫌われていることも多い」
「何故?」
「魔王討伐に参加しねぇから」
「力がないなら仕方ないのでは」
「いや、力ならあんだけど……俺の身に何かあったら、この船の連中が野垂れ死んじまうからな」
船員を家族のように定説に思っている。そう言われると、別にこの人を嫌う要素ないなと思った。
俺自身もろくなスキルが使えないんで魔王討伐への参加は無理そうだと伝えるが、それよりもスキルを2つも持ってることについて聞かれた。
「【スキル:ドコドコキノコ】」
キノコを生やして、2つどころかもっといっぱいあることを伝える。
危ない毒キノコなので海に捨てても大丈夫かと聞けば、害虫駆除に使うから欲しいといわれた。快く全部渡した。
もっと他にも見たい言われ、見せられるようなスキルがまだあったか探す。
「【スキル:トラウマ】」
虎で馬なぬいぐるみを召喚して渡した。
引き裂くと消えてしまうので、中の綿を使って再利用とかはできない。
なにより見た目が気持ち悪い。夢に出そう。
「もしかしてそっちのボディーガードも転生者?」
「これは言ってもいいかな?」
そいつまさかハクアとか名乗ってねぇよなとガゴリグは少し嫌そうな顔をした。
自分のことをを嫌っていない転生者というとあいつぐらいしか思いつかないという。
「ソイツから俺を守ってくれた友だちです」
「異世界転生者のなかの誰なのか知らんが、お前らは俺を頼るほど何かが――」
キャーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!
とんでもない大きな叫び声が聞こえた。
船が揺れる。なにやらクラーケンという魔物が出たらしく、部外者はここで掃除でもしてろと俺たちは部屋に置いていかれた。
もともと戦闘には加わるなという話だったし、大人しく掃除機でこのハンモックが2つあるだけの部屋の中を掃除していくことにする。
「……クラーケンですか」
「強いの?」
「この船が沈む恐れがあるぐらいには」
「レイニーなら倒せる?」
「瞬殺です」
甲板に駆け出ると、船は触手一本の直径が1メートルもありクジラぐらい大型のイカに襲われていて、ボロ雑巾のような何かが転がされている。
それが触手に握り潰された人間だと気付いた瞬間、目の前が真っ赤になった。
無我夢中でボロ雑巾のようになった人の元へ駆け寄る。誰かの怒鳴り声が聞こえたような気がしたが、今はとにかく助けることしか頭になかった。
彼はまだ生きていたのだ。
「【スキルカード:治療】」
このままではクラーケンの攻撃をさらに喰らって死んでしまう。
俺は怪我人を背負って船の中へ運ぼうとしたが、クラーケンに完全に取りつかれた船はぐらぐらと酷い揺れを起こし、立っていることもままならない。
「避けろッ!!」
「【スキル:水 飴網】」
その一声でクラーケンが水の檻の中に封じられる。大きな身体がすっぽり入り、触手もすべてキッチリ収まっていたと。
他にも怪我人が数名倒れているのを見つけて、片っ端から治療のスキルカードを使っていく。
船員たちは戦っていたクラーケンが唐突に捕まるという状況を理解できなかったようで反応が少し遅れたが、すぐ救助活動が開始された。
「おっ前!?」
激しい海風にレイニーのローブが煽られ、フードが剥がれ落ちる。そしてレイニーの顔があらわになった。
ガゴリグはレイニーの顔を見るなり抱きあげて頬にキスした。
明らかに嫌そうな顔をするレイニー。
「この人、頬にキスしてくるので名乗りたくなかったのです……」
「意外な理由だった」




