23話 討伐
ギルドの2階に案内してもらうと、ホテルのように部屋がいくつも並んでいた。
俺たちは異世界転生者が泊まる為の専用部屋があるので使ってくれとのこと。
調度品こそ質素だが、ベッドが2つありシャワーもある。
温度の調整はできないがぬるま湯が出るらしい。
「無料で使えるからこれぐらいなら文句ないだろ?」
「野宿の辛さを知ったんで有難いですね」
『ドラレコ様!』
慌てた様子で階段を駆け上がってきたのは、先ほど受付にいた女性だ。
何やら急ぎの用事らしく、転生者である俺たちも一緒にきてほしいとのこと。
俺は役に立たないと説明したが、俺が雇っているボディーガードの力を借りたいらしい。
レイニーと共に詳しい話を聞くために1階の机と椅子が並んでいるスペースの一角に座る。
『皆さん静かに聞いて下さい――【エンガオウ】がジーンズに接近しています』
ギルドがざわつくが、何も知らない俺は当然何のことだか分からない。
レイニーに教えてもらおうとする前に、ドラレコさんが説明してくれた。
エンガオウはとても強い炎の魔物で、人間は近づくだけで火だるまになるほど高温。討伐作戦に〈戦闘で〉参加できる人材は本当に限られているらしい。
討伐ランクはSとして発表されていた。
「スキルカードで炎に相性がいいものと言えば〈土〉だな」
「〈水〉ではなく?」
「家が燃えていたとしてコップ1杯きりの水で火事が消えるか?」
「無理ですね」
「土は燃えないし、水と違って爆発もしないからな。炎系の敵と戦う時は便利だぞ」
先輩からの真っ当なアドバイスを受け、異世界転生者としてワクワクしていた。
しかし俺は戦えるようなスキルは持ってないと伝えると、スキルカードで戦えばいいと言ってくれだ。ろくなスキルが使えない後輩に優しい先輩で本当に良かった。
『エンガオウの討伐に向かう勇気がある方はこちらにサインを』
「カドマツ。サポートにきてくれないか?」
「え?」
「異世界転生者はこっちの世界の市民に比べて頑丈だから、後ろで水入りバケツ運ぶ作業してほしいんだよ」
バケツリレーか。水運びは市民でも出来るが重いし、魔物を恐れて誰もやりたがらないらしい。
宿の恩もあるし、単調な力仕事なら俺にもできる。是非にと参加を決定した。
バケツ1杯でも火事は消えないんじゃないかと思ったが、誰かが燃えた時など冷やすのに使うらしい。そういえば近づくだけで火だるまって説明されてた……。
「甘くても良いなら冷水にできますよ」
「味が変わる理由が全く分からんが、まぁ冷たいほうがいいな」
後方支援と物資の補給を担う部隊に混ざり、軽く名乗りあう。
レイニーが顔の火傷なんて誰でも気にしないからフードはとればいいと言われていたが、もしも本当に火傷の跡を気にしている人なら失礼だからやめろよと嫌な気分になる。
「アタシは火傷のある気持ち悪い顔なんか見たくないんだけどぉ?」
「キャット! お前またそういうことを――」
「いーじゃんバルーン! 脱がないでくれるなら有難いんだしぃ」
目立つギャルがウィンクしてくる。悪口のようで助け舟を出してくれたみたいだ。
ここでスキルを使ってみせていいから、水を冷たくできる理由を説明してほしいとのことで、机の上にかき氷を作ってみせた。
エンガオウは炎系の魔物のくせに驚いたことに寒さにとても弱く動きを鈍らせることができるなら前線部隊に加わったほういいのではと少し騒ぎになった。
「いや前線とか無理だって!! 俺は戦闘ができないんです!!」
ドラレコさんも戦闘経験の浅い俺を戦闘系の部隊に配属させる気はないからと安心させてくれた。
まともな人がいて本当に良かった。
ただし顔は狼でちょっと怖いんだけど、いいひとっぽい。
「私は雇い主である彼の傍を離れるわけにはいきませんね」
「ならば、ボディーガードの力も借りたいしやはり後方で治療の待機や物資を運ぶサポート部隊に参加するのがいいだろうな」
素人の俺まで連れて行くほどに人手不足ですまないとドラレコさんに頭を下げられる。
でもレイニーが何とかしてくれるからと軽く考えていた。
能天気に別にいいですよーと気の抜けた返事をすれば危険なのだからいざとなればすぐに逃げるように厳重に注意された。




