21話 王
「王子の仕事を変わってください」
ウルフは目が点になっていた。
聞き返すべきかどうか、腕を組みしばらく悩んだ末に、理由を教えてくれ、と絞り出した。
付き合いが長いからこそ、レイニーはそんな冗談を言わない男である結論が出たのだ。そして、きっと何か事情があるだろうと。
「俺から説明する」
「スキル絡みで何かあったか?」
「ウルフさんまず待ち人って何のことか分かります?」
「分かる」
これまでのいきさつをかいつまんで説明して、俺は自分がそのノアを助けた人物であると伝えた。
最初は驚いたようだったが、少し考え込んだあとウルフさんは言われてみればという風に納得してくれた。
問題はここからだ。
「まず俺がその〈待ち人〉であり、レイニーさんは俺に何でもすると言いました」
「うん」
「してほしいことが特に思いつかなかった俺は、二人で旅行がしたいと言いました」
「はぁ!?」
国を治める王子が突然旅行に行くなどと言い出したら、兵士や市井の人々も黙っていないだろう。
反乱でも起こされたら申し訳なさが半端ない。
けれどノアが今のタイミングで俺をこの世界に導いたのなら、きっと引きこもり王子を心配してのことだ。だからせめて、城の中からは連れ出しておきたいのだ。
「王子なんて嫌ですよね」
「引き受けよう」
「え」
「この国についてはレイニーから真実を話さないのなら俺は何も言わない」
王子様の代理をあっさりと引き受けたウルフ。
周りにいる人々は一体どういう反応をするのかと俺は耳をそはだてた。
全く動揺している様子がない。それどころか、王が変化しても変わらないよねーと能天気。
「王子様でなくなった今も国のヒミツとか関係あるの?」
「世界を旅行し終わったら話してもいいですよ」
ウルフさんは国のことは自分が引き受ける、だから旅の支度だけはきちんとしていけと言う。
今晩はカミノにある宿屋に泊まり、魔法石やスキルカードだけでなく寝袋などのサバイバルに必要なものをでき得る限りそろえろと旅の先輩としてのアドバイス。
カミノ城下町には旅向けの店が少なく、ウルフさんに描いてもらった地図を見ながら雑貨屋などで必需品を買いそろえていく。
「怪我した時の薬とか、当たり前のもんだと思うんだけど何でそういう店がないの?」
「皆さん頑丈ですから」
「健康なのは何より」
そもそも治癒のスキルカードなんてものがある世界だ。
薬局はなくてもスキルカードは買えたので薬の問題はなかった。しかし俺に巻いた包帯や薬はどこで買ったのかと聞けば包帯は布屋、薬は農家で栽培されたものを直接買っていたらしい。
薬屋がない謎については国に帰った時に分かることだが、この時の俺は疑いもしなかった。
かなりの大荷物になりかけたが、レイニーが何でも入る特殊な鞄を持っていたので手荷物はかなり少なく済ませられた。
「足のはやい食材は買えません」
「旅先で資金稼ぎするなら何がいいかな」
「……隣国であれば魔物の討伐ギルドがありますね」
魔物とか出る世界なんだった。そういえばカミノ王国の周りには壁があって魔物は滅多に入ってこない、城は中心部にあって国境から遠いし兵士も強いから安全だって説明 をはじめに聞いたっけ。(※第4話参照)
旅の荷物をまとめて、今夜は宿屋で二人部屋に泊まる。
旅先では身体を洗うこともゆっくり身体を休めることも難かしいと忠告されたがむしろ冒険はそういうものだろうとわくわくしてきた。
宿屋の部屋につくと、二段ベッドがお出迎え。2つ重なったベッドを見て、この国の人たち仲がいいから二人用ベッドはこういうものなのかと思った。
「珍しいベッドの形ですね」
「この国って皆仲がいいからこれが主流かと思ったけれど違うのか?」
「宿屋そのものが基本的に使われていません」
宿が使われないってことはないだろうと思いつつも荷物をチェックして爆睡した。




